本論文では、包括的否認規定(法人税法132条の3)の適用可能性を検証し、最終的に 一般的包括否認規定(GAAR)の導入を提言するものであるが、一般的包括否認規定(GAAR)
の規定には、不確定概念が用いられることが予測される。
現行法の包括的否認規定(法人税法132条、同法132条の2、同法132条の3等)には、
「不当に減少」等の不確定概念が文言に用いられている。不確定概念は、具体的な内容が 不明確であるため、それが条文の適用要件とされる場合には、租税法律主義の具体的内容 である課税要件明確主義に反するのではないかという疑問が一般的に生じる。そのため、
不確定概念が租税法律主義の課税要件明確主義に反しないことを論証する。
92 松田直樹「税務大学校」55号 144頁の脚注における指摘を参照。
93 第一法規法情報総合データベース(判例ID 28110320)平成18年1月24日/最高裁判所第二小法廷
/判決平成12年(行ヒ)133号 理由4(3)において述べられている。
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次に、不確定概念に用いられる「不当に減少」の判定には、本論文では濫用基準を用い る立場であるが、その判断基準の一つに、租税法規の立法趣旨・目的から逸脱するか否か という基準があり、租税法規の趣旨解釈がなされることになる。租税法律主義の下では、
法解釈のあり方としては文理解釈が最も優れた解釈とされるが、専ら租税回避行為のため に文理解釈を利用した場合には、例え形式的に課税要件を充足していても、租税法規の趣 旨・目的から逸脱した行為であれば、否認されるべき行き過ぎた租税回避行為と判断され るべきと考える。租税法律主義の下における法解釈のあり方としての趣旨・目的解釈の重 要性を検討する。
5. 租税法律主義の意義及び機能
(意義)
我が国は、民主主義制度を採用している国家である。民主主義制度の下では、国民は、
選挙で選任した代表者を通じて国家運営のための国費を負担する。そして国会での承認を 得た租税法律に基づいて納税の義務を負う。納税の義務は、憲法30条94に規定されている。
従って、国民は、法律の規定が無ければ納税の義務は発生しない。このような原則を租税 法律主義という95。租税法律主義とは、「租税は、公共サービスの資金を調達するために、
国民の富の一部を国家の手に移すものであるから、その賦課・徴収は必ず法律の根拠に基づ いて行われなければならない。換言すれば、法律の根拠に基づくことなしには、国家租税 を賦課・徴収することはできず、国民は、租税の納付を要求されることはない。」と定義さ れる96。
(財産の保障)
憲法は、国民に納税の義務を課す一方で、国民の財産保障の観点から、国家が国民に課 税する場合には、法に基づかなければならないことが日本国憲法第 7 章財政の中の第 84 条に規定されている。憲法第84条は、「あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更する には、法律又は法律の定める条件によることを必要とする」と定めている。このように、
国家が国民に課税する場合には、課税要件を明確にし、徴税手続きを法律に基づいて行う
94 日本国憲法第30条 国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負う。
95 増田英敏『租税憲法学(第2版)』(成文堂、2004年) 83頁参照。
96 金子宏 前掲注(1) 73頁に記載された定義を引用。
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ことが要求される。租税法律主義は、国家による恣意的な課税から国民の財産を保護する 重要な機能を有するため、国民の財産権に大きな影響力を持ち、租税法の基本原則とされ る97。
(予測可能性及び法的安定性の確保)
租税法律主義のもう一つ機能は、納税者の予測可能性及び法的安定性の確保である。国 民が経済活動を行う際には、租税負担という納税義務を考慮することなしには行えない。
合理的経済人であれば、経済的意思決定に租税負担を組み込むはずである。そうであれば、
どの様な経済行為から納税義務が発生するか等は法律で明確に規定されている必要がある。
法律による明確な規定は、将来の納税金額の予測も適格に行うことができ、円滑な経済活 動に資する。そのため今日の複雑な経済活動にとっては、納税者の予測可能性と法的安定 性の確保は重要な機能である98。
6. 租税法における不確定概念の憲法適合性
租税法律主義は、納税者の財産保護、予測可能性及び法的安定性を確保する観点から、
国民への課税については法律に基づくことを制定している。その具体的内容は、課税法定 主義と課税要件明確主義等99である。
課税要件法定主義は、刑法における罪刑法定主義に基づく原則であり、課税の作用は、
国民の財産権への侵害であるから、課税要件のすべてと租税の賦課・徴収の手続きは国民 代表議会の定める法律によって規定されなければならないことを意味する100。課税要件法 定主義は、憲法73条6号に規定されており、執行命令と委任命令を認めている。命令は、
政令・省令である。全ての決まりごとの詳細を条文に規定することは、複雑になり過ぎ、
納税者の混乱を招く結果となるおそれがある。そのため、詳細な決まりごと・手続的規定 は、政令・省令に規定した方が納税者保護に資する。但し、白紙委任は憲法 41 条に反す るため認められないことは言うまでも無い101。
課税要件明確主義は、法律又はその委任のもとに政令や省令において課税要件および租
97 増田英敏 前掲注(94) 83頁参照。
98 金子宏 前掲注(1)75頁を参照。
99 金子宏 前掲注(1) 82~83頁参照。金子教授の説明を参考にすると、課税要件法定主義と課税要 件明確主義の他には、合法性の原則と手続き保障原則を挙げて説明されている。
100 金子宏 前掲注(1) 76頁掲載の定義を引用。
101 金子宏 前掲注(1)77頁参照。
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税の賦課・徴収の手続に関する定めをなす場合に、その定めはなるべく一義的で明確でな ければならない102。課税要件明確主義は、課税要件は不明瞭であってはならず、納税者に 分かりやすく明瞭でなければならないとする原則である。
しかしながら、租税法には、不確定概念が条文の文言に用いられる。不確定概念は、抽 象的・多義的概念であるため、租税法に用いることは十分に慎重でなければならない103。 具体的条文を示すと、同族法人の行為計算否認規定(法人税法 132 条)、組織再編税制の 行為計算否認規定(同法 132条の2)、連結納税制度の行為計算否認規定(同法 132条の 3)等の文言に規定されている「不当に減少」という文言である。この「不当に減少」と いう意味内容は、具体的内容が不明確であり、納税者の予測可能性を確保できない恐れが ある。そのため、不確定概念は、上記の租税法律主義における課税要件明確主義に反する のではないか104という疑問が生じる。なお行政側においては、裁量権があるかに思えるが、
国税通則法第 15条 1項105に納税義務の成立等が規定されているため、課税要件に関する 自由裁量の余地は排除されている。
不確定概念が課税要件明確主義に反するか否かについは、最高裁判所は反しないと判示 している。法人税法 34 条の「不相当に高額」の不確定概念に関して争いになった事件を 取り上げる。判例要旨から重要部分を引用すると106、「・・・法人税法34条1項所定の「不 相当に高額な部分の金額」の概念は、不明確であって、憲法 84 条に違反する旨の主張に 対して、この概念自体は不確定概念ではあるものの、法の趣旨によりその意義を明確にな しうるものであり、しかも政令に定められた内容によって、その判断基準も客観的に明ら かになっているといえるから、課税要件明確主義に反するものではない・・・」と判示さ れている(太字は筆者によるものである)。この様に最高裁判決では、不確定概念の内容が 不明確であることを認めつつも、政令や法の趣旨によって判断が可能であることを理由と して、課税要件明確主義に反しないと判示している。
102 金子宏 前掲注(1)79頁掲載の定義を引用。
103 金子宏 前掲注(1)79頁参照。
104 北野弘久 前掲注(4) 74頁参照。 北野教授は、不確定概念の法的意味が、税法学的に客観的に 解明されるべきであるが、どうしても解明できない場合には、租税法律主義に違反して違憲無効とさ れることを述べている。
105 国税通則法 第15条1項
国税を納付する義務(源泉徴収による国税については、これを徴収して国に納付する義務。以下「納 税義務」という。)が成立する場合には、その成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が 確定する国税を除き、国税に関する法律の定める手続により、その国税についての納付すべき税額が 確定されるものとする
106 第一法規法情報総合データベース(判例ID 28040465)平成9年3月25日/最高裁判所第三小法廷
/判決/平成7年(行ツ)110号。