第3章 IBM 事件に対する連結納税制度(法人税法 132 条の 3)の適 用可能性の検討
第8節 連結納税制度の基本的考え方・目的からの逸脱(濫用)の検証
1. 法人税法132条の3の基本的考え方
平成 12年から平成 13年にかけて、経済の経営環境が急速に変化していた。そのため、
企業の競争力を確保するために、柔軟な組織再編成を可能にするための法整備が進められ た196。その一環として平成 13 年に組織再編税制が創設され、さらに企業グループの一体
193 大淵博義「ZEIKEITSUSHIN ‘14.8 MJS/第56回 租税判例研究会資料1」(2014.10.3)本稿の
Ⅲの2の(1)で大淵教授は、立法における配慮の欠如を法の解釈で補おうというものであり、与する ことができないと述べている。
194 岡村忠生・明石英司・渡邊直人・岩品信明「東京地裁平成26年3月18日判決の検討」『税務弘報』
中央経済社2014.VOL.62/NO/7.JULY 東京指令平成26年3月18日判決の検討(座談会) 26頁 の岡村教授の指摘である。
195 柿原良美「組織再編にかかる行為計算否認規定の解釈・適用を巡る諸問題」税務大学校 6頁参照。
196 税制調査会 前掲注(62) 第一基本的考え方(1)を参照。
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経営の急速な進展や企業組織の柔軟な再編成を可能にするために197、平成 14 年に連結納 税制度が創設された。
企業の組織再編成が行われる際には、組織再編成税制に係る租税法規及び連結納税制度 に係る租税法規を利用することで、租税回避行為が企図されることが懸念された。そのた め、組織再編成税制に係る行為計算否認規定(法人税法132条の2)及び連結納税制度に 係る行為計算否認規定(同法132条の3)が、租税回避防止のために規定された198。
組織再編税制に関する裁判事例はヤフー・IDCF事件があり、最高裁の判決によって「不 当に」の解釈概念や適用要件が明らかになった。これに対して連結納税制度に関する裁判 事例はまだ存在しない。そのため、「不当に」の解釈や適用要件の具体的判断基準が示され ていない。岡村教授は、連結納税制度が組織再編税制と適用要件がパラレルであるとする ならば、連結納税制度の法人税法132条の3の「計算」で否認できる可能性があることを 指摘している199。そのため、本論文では、二つの条文の創設の基本的考え方、規定等を比 較し、類似性が認められるならば、同様の判断基準を用いることが合理的と考えて検討す るものである。
(租税回避行為の防止規定)
平成 13 年税制調査会の答申において、連結納税制度の基本的な考え方が示された。要 約すると、租税回避行為の防止の必要性について以下の通り述べられている200。連結納税 制度は、グループ企業をあたかも一つの法人であるかのように捉えて法人税を課税する仕 組みであり、例えば純粋持株会社に所有される企業グループは、実質的に一つの法人とみ ることができ、個々の法人が単体で納税するよりも、グループを一つの単位として課税す る方が実態に即した課税が実現できる。また連結納税制度は、企業経営の急速な発展及び 組織再編等が行われる中で、結果的に企業の国際競争力を強化し、組織再編を促進する。
しかしながら、企業行動の国際化・複雑化は、各国の税制の差を利用し、取引を複雑に絡 ませることで租税回避行為を図ることが考えられる。そのため、租税回避行為を防止する
197 税制調査会 前掲注(63) 連結納税制度の意義(2)を参照。
198 税制調査会 前掲注(62) 第五 租税回避の防止。「連結納税制度の基本的考え方」第四 租税回 避行為の防止と題して述べられている。
199 岡村忠生 前掲注(175) 本稿の41頁参照。
200 税制調査会 前掲注(63) 法人課税小委員会がまとめたものであり、1.連結納税制度の意義(1)
(2)、2.連結納税制度の基本構造(3)、四 租税回避の防止の文章から、本論文に必要な部分を要 約引用し、一部加筆した。
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ことが必要となり、包括的な租税回避行為の防止規定を設ける必要がある。これを受けて、
連結納税制度の基本的な考え方の「四 租税回避行為の防止」は、以下のように述べられ ている。すなわち、「1、連結グループに加入する法人の加入前に生じた欠損金、含み損益 を利用した租税回避行為等を防止するための措置を講ずる必要がある。2、連結納税制度 に関しては、多様な租税回避行為が想定されることから、包括的な租税回避行為を防止す るための規定を創設すべきである。」として租税回避行為を防止する考えを示している。
2. 法人税法132条の2と同法132条の3の不当性概念
(共通点)
以上の連結納税制度の基本的考え方を参考にすると、連結納税制度の創設の基本的考え 方は、租税回避行為の防止である。これらは、第2章の「組織再編成税制の趣旨」におい て検討した組織再編税制の趣旨と同様である。両条文とも租税回避行為の否認のための包 括的否認規定であり、不確定概念の「不当に」という文言が用いられている。この「不当 に」に対する判断基準は、同法132条の3に関する判例はまだ存在しない。そのため、ヤ フー・IDCF 事件の最高裁判決において濫用基準が採用されたことに鑑みれば、法人税法 132条の2と同じ租税回避行為の防止規定の趣旨で規定された同法132条の3においても 濫用基準が採用されることが合理的と考えられる。そうであれば、「不当に」の判断基準は、
取引行為の異常性・不自然さ、租税回避行為以外の事業目的の有無、そして連結納税制度 の趣旨・目的からの逸脱の有無、と解される。
但し、連結納税制度は、組織再編税制と異なる点がある。
(相違点1)
組織再編税制の基本的考え方には、組織再編成に係る法人税制の検討の中心は、移転資 産の譲渡損益の取り扱いであり、その譲渡損益の認識の有無は「移転資産に対する支配の 継続」という概念によって判断することが示されている201。この移転資産に対する支配の 継続という概念は、譲渡損益の認識に特有の判断基準ではなく、ヤフー・IDCF 事件の一 審判決において、特定役員引継ぎの判断基準にも適用されている202。そのため、組織再編
201 税制調査会 前掲注(62) 第一基本的考え方(3)において述べられている。
202 東京地方裁判所判決 前掲注(120)
東京地裁判決文の、施行令112条7項5号の趣旨イの特定役員引継ぎ要件に関する説明で述べられて いる。被合併法人の特定役員が合併法人の役員に就任するのであれば、移転資産に対する支配が合併
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税制又は組織再編に係る個別規定の趣旨・目的に反するか否かを判断する際には、「移転資 産に対する支配の継続」という概念が組織再編成税制における根幹にある概念であると考 えることができる。
ヤフー・IDCF 事件では、特定役員をヤフーから IDCSに送り込みが行われた。送り込 まれた役員は、合併の準備作業を行うのみであり、IDCS に固有の業務であるデータセン ター事業を担わなかった。しかもIDCSに従来から従事していた役員はヤフーへの合併の 際にはヤフーに就任しておらず、ヤフーから送り込まれた役員のみがヤフーに帰る形で就 任している。この様な事実の下では、IDCS の資産等に対する支配の継続がヤフーに移転 しているとは認められないという判断が下された。
このような組織再編税制に存在する「移転資産に対する支配の継続」に相当する概念が、
連結納税制度には明示されていない。連結納税制度にない以上は、単に租税回避の防止と いうだけでは趣旨・目的に反する行為の判断を行うことは困難である。
しかしながら、連結納税制度は、企業グループが実質的に一体となって経営しているこ とから、単体での課税よりも、企業グループ全体を単一の課税単位として課税するほうが 実態に即しているとの考え方に基づいている203。そのため、連結納税制度の趣旨に逸脱す るか否かの判断は、「実質的に一つの課税単位」を基準にして判断することも合理的と考え られる。本論文では、実質的に一つの課税単位を判断基準とする。
(相違点2)
組織再編成税制は、組織再編成に関する「行為」に対する規定であるが、連結納税制度 は、行為をする者としての「連結法人」に対する規定である204。組織再編成税制の条文の 標題は、組織再編成に係る行為又は計算の否認と表示されている。従って、組織再編成税 制は組織再編成に係る行為に焦点が当てられている。そうすると、ヤフー・IDCF 事件と 全く同じような濫用基準が IBM 事件に適用されることが合理的であるとは限らない。例 えば、租税回避行為以外の事業目的の必要性の有無に関しては、ヤフー・IDCF 事件より も判断の程度が異なっても問題ないのではないかと考えられる。
これに関して、租税回避行為以外の事業目的の有無について、IBM事件における高裁判
の前後を通じて継続していると判断できると判示している。
203 税制調査会 前掲注(63) 法人課税小委員会の連結納税制度の意義(2)を要約したものである。
204 足立好幸「132条の2から見えてくる連結法人に係る行為又は計算の否認規定(132条の3)」『税務 弘報』(中央経済社)2016VOL.64/NO.1/JANUARY 61頁参照。