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英国の一般的包括否認規定(GAAR)

ドキュメント内 2017 年度テーマ研究論文 (ページ 117-120)

第 4 章 一般的包括否認規定( General anti-abuse rule 、以下 GAAR ) の検討

第2節 英国の一般的包括否認規定(GAAR)

英国は、英米法の国でありながら、法形式を重視する立場にあり、我が国と同様の状 況にある。そのため、英国の租税回避行為の判例の動向は、我が国への示唆に富むもの となる。租税法律主義を重視したウェストミンスター原則から、趣旨・目的解釈を取り 入れたラムゼイ原則を検討し、最終的に一般的包括否認規定(GAAR)の立法に至る過 程を考察する。

1. ウェストミンスター原則

英 国 の 租 税 回 避 行 為 に 大 き な 影 響 を 与 え た 事 件 は 、1936 年 に 下 さ れ た Duke of

Westminster v. Inland Revenue事件貴族院判決である253。本件は、雇用主が被用者の過

去の勤務実績を評価して、雇用継続中に一定の報酬を支払うことを契約した。雇用主は申 告に際して年金として処理したが、課税庁は給与であるとして争いとなった。裁判所は、

租税回避行為が目的であるが、契約が仮装のものではなく、契約に基づく支払であり、雇 用に基づく給与ではないと判示した。この事件は、「ウェストミンスターの原則」として英 国では実質優先の原則は存在しない、ということを確認するものと解されてきた。つまり 文理主義が経済的実質主義よりも優位性を持つことが強調された事件として注目された事 件である。但し、ウェストミンスター原則が否定したのは、経済的実質主義であって、法 的実質主義の適用が否定されたわけではない。

2. ラムゼイ原則以降

ウェストミンスター原則は、文理主義の優位性を確立したが、その後にウェストミンス ター原則の適用範囲の限界が示されるラムゼイ事件(W. T. Ramsay Ltd .v. IRC 1981年

252 矢内一好 前掲注(240) 20頁参照。

253 松田直樹『租税回避行為の解明』(ぎょうせい、平成21年) 118~120頁参照。

117 / 132 貴族院判決)が発生した254

ラムゼイ社は、農地売却益を有していた。同社は、当該売却益を相殺する目的で、他社

(以下C社)を設立しC社に対して金銭を貸し付けた(債権1及び債権2)。債権1は、

低金利に設定して、価値を低下させた上で売却し、売却損失を計上した。債権2は、高金 利に設定し、価値が増加した時点で売却して売却益を計上した。債権1の売却損失は農地 の売却益と相殺されて、債権2の売却益は、1965年財政法シェジュール7第11条第1項 により、金銭債権の譲渡は非課税とされた。これらの取引行為に対して、課税庁は債権 2 の譲渡は、「証券の譲渡」に該当するとして譲渡益に課税処分を下した。最終的には、貴族 院判決(1981年3月12日判決)は、課税庁の主張を認めた255

このラムゼイ事件は、租税回避行為のスキームであり、Wilberfoece 卿は判決にあたり 以下の特徴点を挙げて、見解を述べている。専門業者から購入した既製租税回避スキーム であり、当初から計画された取引をタイムテーブルに従って実行したに過ぎない。取引開 始時と取引終了後では、財政状態に変化が無く、銀行借入金も計画実行に借入し、計画の 終了に伴って返済している。以上を考慮すると、租税回避行為以外の事業目的は有してい ないという特徴が見いだせる。

納税者は、明確な文言に基づいて課税されなければならい。明確な文言とは、一般的な 原則に従い判断され、文脈や関連法規を考慮するべきであり、法規の目的をも解釈の視野 に含めるべきである。複合取引においては、個々の取引過程を個別に考察する必要はない。

特に、計画が予測され、かつそのような実現可能性が認められる場合には、これに該当す る。ラムゼイ事件のように自動解消取引(self cancelling)は、一方で作出された損失と 他方で得た利益に相互関連性があり、両者は密接不可分とされ、損失も利益も生じていな いとみることが正しい見解であるとした256

上記の見解は、「ラムゼイ原則」と称されて、ウェストミンスター原則を修正する見解 とさ れ、その後の 判決に大き な影響を与え た257。ラム ゼイ事件後の 同年末に 発生し た

Burmah Oil事件(1982年貴族院判決)はラムゼイ原則を踏襲する判決となりラムゼイ原

則の有効性を確認した。その後の Dawson 事件(1984 年貴族院判決)でさらに加速され

254 松田直樹 前掲注(252) 121頁参照。

255 矢内一好 前掲注(240) 85~86頁参照。

256 矢内一好 前掲注(240) 86~87頁参照。Wilberfoece卿が挙げた特徴点から見解について、参照 した。

257 松田直樹 前掲注(252) 123頁参照。

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た。しかし、Craven 事件でラムゼイ原則の適用に関して、計画通りに実行されない可能 性があるためラムゼイ原則の適用に限界が示された。そのため、ラムゼイ原則は、厳格な 文理解釈から目的解釈論の妥当性を示したが、ウェストミンスター原則を凌駕したとまで は言えないものであった258

租税法律主義の下で文理解釈を重視したウェストミンスター原則から趣旨・目的解釈を 重視したラムゼイ原則に修正され、その後の変遷を経て、最終的に一般的包括否認規定

(GAAR)の法制化に至った。

3. 財政法第5編206条から215条

英国の財政法第5編の206条~215条において、GENERAL ANTI-ABUSE RUTEと して以下の様に法制化されている259260

206条:一般的な濫用に対する否認のルール

207条:タックス・アレンジメント及び濫用的の意義 208条:租税上の利益の意義

209条:租税上の利益に対する対抗措置(counteracting)

210条:事後的な緩和調整

211条:裁判所又は審判所における訴訟前の事前手続き 212条:GAARと優先的ルールの関係

213条:事後的な調整 214条:第5編の解釈 215条:施行及び移行規定

206 条で、一般的包括否認規定(GAAR)のルールが示され、適用税目が規定されてい る。207 条ではタックス・アレンジメントと濫用の意味が定義され、英国における一般的 包括否認規定(GAAR)の重要概念とされる。207 条については、第 1章の英国の濫用の 節においてまとめている。208 条で、租税上の便益が定義され、209 条では租税上の便益 が濫用である場合における対抗措置が示され、210条では前条の調整が示されている。211 条では、訴訟前の事前手続きが規定され、212 条では一般的包括否認規定(GAAR)と優

258 松田直樹 前掲注(252) 130頁参照。

259 Finance Act 2013(c.29)Part5-General anti-abuse rule 206条~215条参照。

260 岡直樹 前掲注(56) 136~139頁 訳について一部参照した。

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先的ルールとの関係性が規定される。213条で関係規定の修正、214条では第5編の解釈、

215条では適用時期と移行について規定されている。

4. 一般的包括否認規定(GAAR)に対する保護政策

英国が採用した一般的包括否認規定(GAAR)に対する納税者の保護政策は261、歳入関 税庁(HMRC)から独立したGAAR諮問委員会(GAAR Advisory Panel)の設置によっ てなされている。歳入関税庁は、諮問委員会の委員を任命するが、歳入関税庁の職員はメ ンバーに含まれないことしている。

諮問委員会の機能は、歳入関税庁によるガイダンスの承認及び歳入関税庁の付議に対し て意見を述べることができ、裁判所は納税者が行うタックス・アレンジメントを検討する 際に、諮問委員会の意見を聞かなければならないこととしている。

また、一般的包括否認規定(GAAR)に対する立証責任は、納税者ではなく、歳入関税 庁が負う。さらに歳入関税庁がガイダンスを公表する際には、諮問委員会の承認を得て公 表し、裁判所はガイダンスを考慮しなければならないとされる。

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