1)奈
良国立文化財研究所『 平城京左京三条二坊』1975,奈 良市教育委員会『奈良市埋蔵文化財調査 報告書
昭和54年度』1980,p.1など。
2)十
四坪 の西半,東
南隅の1/16町宅地では,敷
地 内を南北に二つに分けて使用 してお り,SB 1545Z″イ
は実質的には1/32町宅地に建 っているの と同じで ある。 また
,同
坪西半 の西南の宅地は1/16町と推 定 されるが,掘 立柱塀が検出されていないだけで1/32町宅地 とはいい きれない。
4 年輪年代測定法 に よる出土木製 品の年代
遺跡の発掘調査で出土す る各種木製品のなかで,年輪数が潜 よそ 100以 上あるヒノキ材のも のであれば年輪年代測定法に よる年代測定が可能である。 ヒノキは年代を
1年
単位で割 り出す ことのできる物差 し (これを暦年標準パターンと呼ぶ)は ,B.C.206年
か らA.D。 1986年 まで が完成 している。現在,
これを使 って多 くの遺跡出土木材の年輪年代を明 らかに し考古学上の 成果を得ている。今回の平城京右京八条一坊十三・十四坪の発掘調査では
,年
輪年代測定法に適用できるヒノ キ材の木製品 として井戸枠材や井戸枠内の堆積土か ら出土 した曲物容器類がある。 これ らのな かか ら樹皮付 きの井戸枠材1点
,曲物容器類3点 ,
この他にスギ材で作 った大型の折敷断片1 点の総数5点
について年代測定を行なった。 これ らの年輪年代が判切す る と井戸の築造年代や 廃絶年代を推定す る手がか りが得 られる。 また,
ヒノキの暦年標準パターンがスギにも適用で きるか どうか明 らかになれば,
ヒノキの暦年標準パターンを使 った年代測定が より幅広い木製 品に適用できるよ うになる。 ちなみに 現生木の ヒノキ とスギの 年輪変動パターンのあいだに1)
は
,距
離が近い と高い相関関係にあることが判明している。今回は
,
ヒノキの暦年標準パターンを用いて上記5点
の木製品の年輪年代を測定 し,井
戸の 築造年代や廃絶年代についてある程度の知見が得 られた ことと,
ヒノキの暦年標準′くターンを 使 った年代測定がスギ材の木製品にも適用できる見通 しが得 られた ことについて報告す る。A 試料 と方法
年 代測定 を行 な った試料 は
,
ヒノキ材 と判 朔 した ものの 中か らSE 1365の
井戸枠 板 の なかか ら樹皮 が一部 に 残存 してい る板 を1枚 ,SE 1335の
堆積土 か ら出土 した 曲物容器 の底板1点 (PL.47‑38),SE 1867出
土 曲物容器 の底板1点 (PL.47‑43),SE 2020の
枠 内か ら出上 した 柄 杓1点 (PL.47‑36),
この他 にSE 1870の枠材 に 再利用 され て いた スギ材 の折敷断片1点
(PL.48‑55)を
加 えた総数5点
で あ る。 これ らは,すべ て柾 目板 に木取 りした ものばか りであ る。年輪幅の計測 は,木
製 品 の柾 目面 か ら年輪 幅読取器 を使 って10ミ ク ロンまで読み取 った。読 み取 った年輪 幅 デ ータは
,直
ちに コン ピュータに入 力 し,試
料1点
ご との年輪変動 パ ター ングラフの作成 を行 な った。年輪変動 パ ターンの照合 にあた っては,暦
年 標 準 パ ター ンを構 成 す る年輪幅デ ータか ら求めた年 輸指標値 を 自然対数値 に変換 した もの と,
これ と同様 に して求 めた試料1点
ご との 自然対数変換値 とを使 って,さ
きの 自然対数変 換値 を基 本 に し,試
料1点
ご との 自然対数変換値 を1層
ず つず らしなが らその度 ごとの相関係数rを
求 め,つぎにt検
定 を行 なって,t≧3.5に
な る箇所 を すべて検 出 し,そのなかで も最大 のt値
に着 目す る方法 をとった。最終決定 は
,
コンピュータで検 出 した箇所 を もとに,
日視 で もって双方 の年輸変動 パ ター ングラフを透視台上 に重ね あわせて,年輪変動 パ ター ン全体 を詳細 に検討 す る とともに, 暦年標準パ ターンのなかの指標年輪 の位置 で試料 の年輪変動 パ ター ンが一致す るか ど うかを確1)光
谷拓実「わが国における年輪年代研究法の現状 と展望」『考古学 と自然科学』20,1988。′7J
樹 種 出土遺構 年輪数
衛宅最終年輪
t値
考 12 3 4 5
井戸枠材 曲物 (底板)
曲物 (底板)
柄杓 (身)
折敷 (断片)
ヒ ノキ ヒ ノ キ ヒ ノ キ ヒ ノ キ ス
ギ
SE1365 SE1335 SE1867 SE2020 SE1870
275 261 204 186 179
737 740 730 716 638
10.2
未 加 工 (樹皮 有)9.6
外 周 を加工 10.4 〃 11.0 ″6.1
″めた後
,暦
年標 準 パ ター ンの暦年 を試料 の年輪変動 パ ター ンにあてて,試
料 の残存最外年輸年 代 を求 め る こ ととした。B 結果 と考察
試料
5点
の計測年輪数 と年輸変動パターンの照合を行 なった結果,それぞれの年輪年代を明 らかにできた。判明 した試料の残存最外年輪測定年代お よびt値
については, Tab.28に
示 し た とお りである。表中のt値
は,
このt値
が高いほど双方の年輪変動パターンが酷似 している ことを示す。 これをみると, 5点
の数値が,一
応の基本 とした t≧ 3.5よ りもはるかに高い数 値を示 してお り,
これ らの年輪変動パターンが暦年標準パターンとよく重複 していることを示している。以下
, 5点
の年輪年代について若千の考察をす る。l SE 1365の
築 造 年 代 に つ い てSE1365の井戸枠材に使われていた板は一部に樹皮を とどめていた。 これの最外年輪測定年 代は
737年
であった。 さらに737年
に形成 された年輪を顕微鏡下で観察す ると,春
材につづ く 夏材はほ とん ど形成 されていない と判断できたので,
この原材は737年
の夏か ら秋に伐採 され た可能性が極めて高い (もし,夏
材が完全に形成 されておれば,
この原材の伐採年は737年
の 秋か ら、738年
4月 頃までの2年
に またがる時期を 想定 し なければ な らない)。 つぎに,
井戸 SE 1365の 築造年代についてであるが,こ
の板材の伐採年を もって即,井
戸の築造年代 とみな す ことはで きない。た とえば,
この板が転用材であるとす ると井戸の築造年代 より古い年代を 示す ことも考 え られ るが,
この板材を見るかぎ り,以前何かに使われていた ことを示す痕跡は 全 く認め られない。 とす ると,こ
の板材は当初か らこの井戸枠用材 として使われた とみて よか ろ う。残 るは,
この板材がSE1365の
井戸枠材 として伐採後,す
ぐ使われた ものであれば問題 はないが,伐
採後,何
年間か寝かせてか ら使用 したものであれば,伐採年 と築造年代 とのあい だに 時間的ズンを 生 じる。したがって
,
この板材が 何年間寝か されていたかは 不明であるか ら,SE 1365の
築造年代を正確に求めることはできない。したがって
,
この場合は,少な くと も伐採後数年以内に築造 した ことが推定 される。2 SE 1335,SE 1867,SE 2020の
廃 絶 年 代 に つ い てSE1335,SE1867,SE2020か
ら出土 した曲物 (底板)2点
と柄杓 (身)1点
はそれぞれ井戸 内の埋土か ら出上 したものであるか ら,
これの年輪年代が判粥すれば,井
戸廃絶 の年代の手が′7σ
備
Tab.28
年代測定結果か りが得 られ る。 これ ら
3点
の形状 をみてみ る と,原材 の中心部分 を使 って作 った ものかある いは樹皮 に近 い部分 を使 って作 った ものか不 明であ る。 その上,曲物 製 品 として仕 上げ た とき に周辺 を どの程度削 って加工 した ものか も推定 しがたい。 したが って,
これ ら3点
の残存最外年輪測定年 代 は,原材 の伐 採年 よ り古 い年 代値 を示 して い る。 しか し
,
この遺跡 は8世
紀末 を 下 限 とす る点 を考 え る と,
これ らの年代値 はいずれ も8世
紀代を示 した ことか ら,か
な り原材 の外周に近 い部分 で木取 りしてい る ことが推定 で きる。 しか し,
これ らは曲物製 品に加工 され てか らどの程度 の期 間使用 した後, 3基
の井戸に投棄 された ものか不 粥であ る。 これ らの点を 考慮 に入れ る と3基
の井 戸 の廃絶年代 は,それぞれ の残存最外年輪 測定年代が示 す年代を上限 とし,
これ よ りか な り後 にな ってか らの ことが 推定 され る。この よ うに
, SE 1365の
場 合 と 違 って,加工 した木製 品の年輪年代 は一つ の時間的定点 を与 える ものの,遺
構 の年 代観 とは直 接結 び付 か ない場 合 が多 い。 したが って,
この よ うな木製 品か ら得 られ る年輸年 代を もとに し て,井戸3基
の廃絶年代 を推定す るにあた っては,
これ らの測定年 代ばか りでな く井戸掘形や 井戸 内の埋 土か ら出土す る土器や瓦 あ るいは木簡等 の年代 を勘案 して総合的 に判断 しなければな らない。
*3 SE 1870出
土 の ス ギ 製 折 敷 の年 代 測 定 に つ い てこの折敷の断片は
,
もとの形状か らするとほぼ中央付近で左右対称に割れてお り,樹
心に近 い方の左半分が井戸枠材に転用 されていた ものである。 ヒノキの暦年標準パターンとこのスギ 材折数の年輪変動 パターンの照合の結果,459年
〜 638年 の ところで最大のt値 (6.1)を
検出 した。この
t値
は,有
意 な相関関係があるか どうかを検定す る時に一応の基準 とした t≧ 3.5Fig.88
ヒノキの暦年標準パケーングラフ (下) と井戸部材 (樹皮つ き)の
年輪変動パターングラフ(上)Fig。
89
ヒノキの暦年標準パケーングラフ(下)と折敷 (スギ材) の年輪変動パターングラフ(上)ハ 八 八 ハ
A
潤 氏 ハ 凡 \Wr γ V四 レ
ゝ
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守 だ 年 勾 掏 亀 A ̲̲̲… … 中
̲r77
よりもかな り高い数値である。 この結果を もとに
,
目視でもって双方の年輪変動パターングラ フを重ね合わせてみて も,両
者はほぼパ ランルな形で変動変化 してお り,正しく重複 している ことを確認 した。Fig。89に
は ヒノキの暦年標準パターングラフ(下)と
スギ材折敷の年輪変動 パターングラフ(上)とを示 した。 ここで ヒノキの暦年標準パターンを構成する試料が主に平城 官跡出上の柱根類であることを考 えると,こ
のスギ材 の産地はこれ らの柱根類が伐採 された産 地 と近 いことが推定 され る。 この結果か ら,地
域的な問題は残 るものの ヒノキの暦年標準パタ ーンを使 った年代測定がスギ材のものにも適用できるとの見通 しを得ることができた。なお,今回の場合
,完
形品でなかった ことと,転
用材であることを考え合わせ ると,原材の伐採年 よ りかな り古い年代を示 していることが考 えられ るため,
この年代値を もってただちに丼戸の築 造年代 とみなす ことはできない。C
今回
,
ヒノキの暦年標準パターンを使 って,井
戸枠材1点
,井戸埋土か ら出土 した由物容器 類3点
の年代測定をお こない,それぞれの年輪年代を求めることができた。その結果,SE1365
については築造年代を,SE1335,SE1867,SE2020に
ついては曲物類を井戸に投棄 した年代の 上限す なわち,廃
絶年代を考察す る上で大変有効 な年代値を提供できた。 また,SE1870の
井 戸枠 に転用 されていたスギ製の折敷 (断片)の
年輪年代を求めることができた ことに より,地
域的 な適用範囲の問題は残 るものの
,
ヒノキの暦年標準パターンを使 った年代測定法がスギ材 の木製品に も応用できる見通 しが得 られた。と め ま
・奈良 川 野 野 森 手 日 野 石 長 長 青 岩 秋 長
木 知 野 良 畿
″ 栃 高 長 奈 近
1)
なお
,最
後に ヒノキ,ス
ギを含めた6樹
種を用いた暦年標準パターンの作成状況をかかげて お く(Tab。29)。採 取 地 試料の年代
ヒ
ノ
キ サ
フ
ラ
ア ス ナ ロ
ヒ ノ キ ア ス ナ ロ