5.4.1 溶接速度および入熱量の影響
前節と同様に、Conventional type (Fig.5.1.1(a)参照)について、溶接速度と
0 50 100 150 200
100 150 200 250
v= 250(mm/min) v= 500(mm/min) v=1000(mm/min) v=1500(mm/min)
Cr ac k le ngth (m m)
Heat input Q/h (J/mm
2)
Fig.5.4.1 Effect of welding speed and heat input on the crack length in conventional type Houldcroft test.
入熱量が割れ長さに及ぼす影響について調べた結果を Fig.5.4.1 に示す。こ の結果から、始端側の板幅が大きい Conventional type の場合には、始端側 の板幅が小さい Reverse typeの場合とは逆に、溶接速度が小さく、入熱量が 小さい場合に割れ易くなることが分かる。
以上の結果は、Houldcroft試験における割れは、高温での溶接金属の特性 と溶接金属を拘束する試験片の熱変形の両者で決まり、溶接の始端が試験 片の細い側か太い側かで、拘束の状態が明らかに変化することを示してい る。その結果として、割れ長さに及ぼす入熱量および溶接速度の影響が逆 になったと考えられる。そこで次節では、両者の割れの進展、停止のメカ ニズムについて、材料力学に基づき考察を行う。
5.5 高温割れ進展、停止の材料力学的メカニズム
5.5.1 入熱分布の単純化による割れ先端における曲率の導出
Houldcroft試験において高温割れは、主として入熱部の熱膨張により生じ
る回転変形が原因で発生すると考えることができる。そこで、材料力学的 な観点から考察を行うために、Fig.5.5.1に示すように、入熱領域を高温割れ が発生するときの代表温度である TBTRを用いて均一化して考える。すなわ ち、単位溶接長当たりの入熱量と比例して加熱幅は大きくなると仮定して いる。単純化された入熱量と加熱幅の関係は次式で表される。
Q=2cρdtbhTBTR (5-5-2) ただし、Q:単位溶接長当たりの入熱量、c:比熱、ρd:密度、
t:板厚、bh:加熱幅、TBTR:BTRにおける代表温度
幅 bh、板厚 tの領域が、温度 TBTRの分だけ溶接線方向に熱膨張すること により発生する熱応力は、近似的に Fig.5.5.2 に示すような拘束された棒の モデルの壁に発生する力として考えることができる。つまり、熱膨張力 F は、試験片が線形弾性体と仮定すると、次式で表されると考えられる。
F=
∫
σdA=t bhαETBTR (5-5-3)ただし、α:線膨張係数、E:ヤング率
この膨張力 Fが Fig.5.5.3 に示すように、溶接線上に発生し、割れの先端に 発生する曲率が大きくなったときに割れが進展すると考える。熱膨張力 F により発生する曲げモーメントM は、板幅をBとすると次式で表される。
M h h tbh ETBTR
4 b F B
4 b
B− × = − × α
= (5-5-4)
また、割れ先端における単位長さあたりの開口角度、つまり曲率は次式で 表される。
Fig.5.5.1 Idealized temperature distribution.
Fig.5.5.2 Illustration of fixed bar model.
TBTR
T
b
hy
Q
3
h h BTR
B
b ) b B ( T 3 EI M
1 = = α −
ρ (5-5-5)
ただし、I:半幅の断面 2次モーメント
ここで、曲率 1/ρが割れの進展を決めるパラメータであると仮定する。つ まり、
1/ρ≧1/ρcr (5-5-6)
の時に割れが進展すると考えると、両者の大小関係により割れが進展する か否かについて定性的に検討することができる。
5.5.2 Houldcroft 試験に関する力学的検討
Houldcroft試験法において、溶接中のトーチ周辺の熱的状態および拘束状
態を考えると、トーチの進行と共に、板幅が変化していると考えることが できる。その時の板幅と、理想化された曲率の関係を示した図が Fig.5.5.3 である。図中の 1/ρcrは限界曲率を表している。つまり、Conventional type
Houldcroft試験の場合には、①に示すように板幅が大きい方から小さい方に
溶接を行うと割れが停止し、反対に、Reverse type Houldcroft試験の場合に は、②に示すように、板幅が小さい方から大きい方に溶接を行うことで割
Fig.5.5.3 Idealized temperature distribution.
× ρ
Welding direction
F B/2
れが停止すると考えられる。このような考えから、Reverse type Houldcroft 試験の方が、大きな試験片寸法が必要であると考えられる。また、①と② の勾配を比較すると、②の方が緩やかなことから、②のReverse typeの方が 割れ感受性を精度良く評価できると考えられる。しかし、割れ感受性の高 い材料ほど、つまり1/ρcrが小さいほど、大きな試験片が必要となり、実験 コストが高くなるので、その場合には①の Conventional type を用いるのが 合理的であると考えられる。
次に、入熱量が割れに及ぼす影響について検討を行う。板幅一定で入熱 量を変化させた場合の曲率と入熱の関係は、Fig.5.5.4のようになる。図中の
③に示すように、割れが発生する値から入熱量を小さく変化させると、割 れは発生しなくなることが分かる。このことは、Fig.4.2.4(a)の実験結果およ
び Fig.4.3.4 の解析結果からも確認されている。一方、入熱量を大きくした
場合、すなわち④の場合には割れが発生しなくなることが分かる。このこ
とは、Fig.4.3.4の解析結果において、平均温度上昇Tavが 1000℃以上の領域
において割れが発生しないことに対応している。
以上において、入熱量および板幅と割れ長さの関係を単純な力学モデル により定性的に示すことができたが、高温割れは複雑な複合現象であるの
Fig.5.5.3 Influence of width of plate on curvature of crack tip.
Cu rv at ur e : 1/ρ
Width of plate : B
1/ρ
crCracked
area
Safe area
① ②
①:Conventional type
②:Reverse type Critical
curvature:1/ρ
crで、より精密な検討のためには、ここに示した熱膨張変形の他に、凝固収 縮や凝固潜熱などの影響23)を併せて考える必要がある。