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Blocking と長期休息

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P2( BF )確率的に遷移

3.2.2 Blocking と長期休息

作業状態と非作業状態の2状態を仮定した作業-非作業状態間遷移モデルでは、計算 機シミュレーションによる実験結果の再現が不十分であった。実験結果の1問当りの 解答時間のヒストグラムの例を図3.12に示す。図3.12を見ると、非作業状態が原因と なる解答時間の増加は少なくとも2種類あると考えられる。

0 60 120 180 240

0.49 0.82 1.4 2.3 3.8 6.3 11 18 30

(sec.)

1問の解答時間(sec.) ※logスケール

解答時間の小さな変動

長い解答時間

図 3.12: 2種類の解答時間増加

作業-非作業状態間遷移モデルは図3.12のような2種類の解答時間の増加を非作業状 態という1状態で再現しようとしたため、その再現が上手くいかなかったと考えられ る。そこで金[3]は、非作業状態が2種類存在すると考え、それぞれの非作業状態を以 下のように考えた。

Blocking: 解答時間の小さな変動の原因。作業に集中できずに休息し、作業処理が停

止している状態。

長期休息: 知的生産性に大きく影響する長い解答時間の原因。作業に集中せずに休息 し、作業処理が停止している状態。作業状態に復帰しにくい。

BlockingはBills[18]が提唱した、脳の疲労によって起こる短い意識の中断を、また長

期休息は、自覚可能で、よりモチベーションの影響を受けやすい意識的な休息を想定 している。

図3.13に、上記2状態に作業状態を加えた場合の状態遷移の概念図を示す。長期休 息中は作業が停止しているためBlockingが発生せず、またBlockingは無意識の作業の 中断であるため意識的な休息は生じないものとする。

3.2.3 対数正規分布モデルの問題点

対数正規分布モデル[3]では、図3.14に示すように、実験結果の解答時間のヒストグ

作業

長期 休息

Blocking

図 3.13: 長期休息、作業状態、Blocking間の状態遷移の概念図

て解答時間のヒストグラムの再現を試みた。具体的には、実験結果の1問当りの解答 時間tのヒストグラムを以下の式(3.1)により再現し、数式の係数をモデルパラメータ とした。

f(t) = 1

2πσ1texp[−(ln(t)−µ1)2

12 ]·α1·t+ 1

2πσ2texp[−(ln(t)−µ2)2

22 ]·α2·t. (3.1)

0 50 100 150 200

0.49 0.82 1.4 2.3 3.8 6.3 11 18 30

該当問題数

1問の解答時間(sec.) ※logスケール

←正規分布に近い

図 3.14: 解答時間ヒストグラムの例

図3.15に示すように、式(3.1)において、パラメータµ1、µ2は平均解答時間に、σ1σ2は解答時間の標準偏差に、α1、α2は分布の頻度の高さに対応している。対数正規分 布モデルが解答時間のヒストグラムに着目した理由は、解答時間のヒストグラムの一 致が即ち知的生産性の一致を意味し、また、解答時間の小さな変動や長い解答時間と いった解答時間の分布の一致を意味するからである。

解答時間のヒストグラムが対数正規分布に似た形状を持つ明確な理由は不明であるが、

人間の振る舞いの中に対数正規分布が見られる例は他にもある。図3.16に、HEP(Human

時間占有度(sec.)

1問の解答時間(sec.) ※logスケール

μ

1

μ

2

σ

1

σ

2

∝ α

1

∝ α

2

図 3.15: 対数正規分布モデルにおける各パラメータ

Error Probability)の確率分布の一例を示す。HEPの確率分布が対数正規分布に従うこ

とは、経験則によってよく知られている[28]。数学的根拠は未だ無いものの、実際の事 例によく適合することから、人間信頼性工学の分野では一般的に、人間がエラーを起 こす確率の分布として対数正規分布を用いる[28]

また、作業と休息という単純な2状態を持つマルコフモデルの確率分布は、図3.17 に示すように対数正規分布による近似が可能である。作業状態とBlockingの状態間遷 移で1つの対数正規分布、作業状態と長期休息の状態間遷移で1つの対数正規分布が 解答時間のヒストグラムに生じるとすれば、解答時間のヒストグラムを2つの対数正 規分布の和で再現することの一応の説明はできる。

この対数正規分布モデルは、実験結果の1問当りの解答時間のヒストグラムを精度 良く再現した。図3.18に対数正規分布モデルによる実験結果の再現例を示す。しかし、

対数正規分布モデルは最短解答時間の長さについて全く言及していない。

3.2.4 新モデルの要求仕様

本研究ではこれまでのモデルの問題点を解決する新たな知的生産性変動モデルを作 成する。新たに作成するモデルに対する要求仕様を以下で述べる。

I: 最短解答時間を説明できること

作業-非作業状態間遷移モデルは、実験結果の1問当りの解答時間の中で最短解答時 間を基準として、作業時間が最短解答時間に達した時点で1問の解答が終了すると考 えるモデルであり、その最短解答時間がどのように決定されるのかを全く説明できな い。対数正規分布モデルは最短解答時間に全く言及していない。よって、新たに作成

図 3.16: HEPの確率分布

休息 作業

0.9

0.9

0.1

0.1

0 30 60 90

1.05 1.25 1.49 1.78 2.13 2.55 3.05 3.64

該当問題数

1問の解答時間(sec.) ※logスケール

マルコフモデル 対数正規分布

図 3.17: 2状態マルコフモデルの確率分布と対数正規分布

0 60 120 180

0.52 0.64 0.78 0.96 1.2 1.5 1.8 2.2 2.7 3.3 4.0 5.0 6.1 7.5

時間占有度(sec.)

1問の解答時間(sec.) ※logスケール

実験データ

0 60 120 180

0.52 0.64 0.78 0.96 1.2 1.5 1.8 2.2 2.7 3.3 4.0 5.0 6.1 7.5

時間占有度(sec.)

1問の解答時間(sec.) ※logスケール

2つの対数正規分布の和

図 3.18: ヒストグラム再現の例

1問の最短解答時間を説明できれば、1問当りの解答時間は最短解答時間に非作業時 間が加わったものとして説明できるようになる。また、ある作業をこなすのに最低限 必要な時間が把握できるため、その作業における知的生産性の限界を把握することが できるようになる。

II: 2種類の非作業時間を再現できること

作業-非作業状態間遷移モデルに基づいた計算機シミュレーションでは、実験結果の うち、Blockingが原因である解答時間の小さな変動を再現できたが、長期休息が原因 である長い解答時間は再現できなかった。一方、対数正規分布モデルでは解答時間の 小さな変動と長い解答時間の両方を再現できた。

モデルに基づいた計算機シミュレーションと実験結果の知的生産性を一致させるた めには、2種類の解答時間の増加を両方とも再現する必要がある。特に長い解答時間 は、占有時間が長いため知的生産性に大きく影響する。したがって新たに作成するモ デルでは、Blockingが原因である解答時間の小さな変動と、長期休息が原因である長 い解答時間の双方を再現できるようにする。

III: 知的生産性の経時変化を再現できること

これまでの知的生産性変動モデルは被験者実験の結果のうち1問当りの解答時間の

分布に着目し、実験結果とシミュレーション結果の解答時間の分布を一致させること による知的生産性の再現を目指してきた。しかしより詳細に知的生産性変動のメカニ ズムを説明するためには、図3.19のような知的生産性の経時変化も再現することが求 められる。

0 10 20 30 40 50

0 5 10 15 20 25 30

1問の解答時間(sec.)

経過時間(min.)

0 40 80 120

0~10 10~20 20~30

(/10min.)

経過時間(min.)

図 3.19: 知的生産性の経時変化の例

例えば、同じような解答時間の分布を持つ2つの実験結果があった場合でも、一方 は作業全体の前半に知的生産性が高く、後半に知的生産性が低くなっていて、他方は 作業全体を通して知的生産性が高い箇所と低い箇所が散在している、といった違いが 考えられる。解答時間の分布のみに着目した従来のモデルでは、そのような違いまで は再現できない。

従来のモデルのうち、作業-非作業状態間遷移モデルは時間変化する内部パラメータ BF を持つため知的生産性の経時変化も再現できる可能性があるが、長い解答時間を 再現できないため再現が十分でないことが懸念される。対数正規分布モデルは解答時 間の分布のみに着目したモデルであるため、知的生産性の経時変化の再現は不可能で ある。

したがって、新たに作成するモデルでは、解答時間の分布のみでなく、知的生産性 の経時変化も再現・説明することを目指す。

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