第 5 章 結論
B.1 実験の目的
B.2.1 実験概要
この実験では、モチベーションと心的負担の変化に伴う、知的生産性変動のデータを 取得することを目指した。知的生産性の変動は、PC上で実施するタスクの成績の変化 により測定した。モチベーションと心的負担は直接制御することが不可能なため、図 B.1のような実験の構成で、間接的な制御を行った。まず、報酬などに関する条件を変 化させることで、モチベーションを制御した。次に、タスク難易度に関する条件を変 化させることで、心的負担を制御した。モチベーションと心的負担が実際に変化して いることは、それぞれマグニチュード推定法とNASA-TLXを用いて確認した。また、
モチベーションと心的負担以外の知的生産性への影響を排除するために、室内環境は 実験期間中一定であるように統制した。
B.2.2 実施タスク
実験に用いるタスクは、以下のような条件を満たす必要がある。
外的要因 外的要因 外的要因 外的要因
内的要因 内的要因 内的要因 内的要因 心的負担
心的負担心的負担 心的負担
モチベーション モチベーション モチベーション モチベーション
情報処理 情報処理情報処理 情報処理 システム システム システム システム
の の の の挙動挙動挙動挙動 タスクタスク
タスクタスク難易度難易度難易度難易度
報酬 報酬 報酬 報酬
知的生産性 知的生産性 知的生産性 知的生産性 作業環境
作業環境作業環境 作業環境
NASA-TLX
マグニチュード マグニチュード マグニチュード マグニチュード
推定法 推定法 推定法 推定法
タスク タスクタスク タスク成績成績成績成績 一定値
一定値 一定値 一定値にににに統制統制統制統制
条件制御条件制御 条件制御条件制御
測定 測定 測定 測定 測定測定 測定測定
測定 測定 測定 測定
図 B.1: 実験概要 1. 知識処理の階層に属するタスクである。
2. 時間的制約がないタスクである。
3. 各問題の難易度がほぼ一定である
4. 同一タスク内で難易度の差を設けることが容易である
1は3.1.1項で述べたように、本研究ではモデル化の対象として、知識処理の階層に
属する知的作業に重点を置いているためである。2はオフィスでの業務形態を考えた場 合、数秒から数分単位での細かい時間的制約は少なく、ある程度作業者の自由な時間 配分で作業を進められることが多いと考えられるためである。3は3.1.2項でも用いた 1問毎の解答時間に着目した分析を行う際に、難易度による解答時間のばらつきが発生 することを防ぐためである。4は心的負担の知的生産性への影響を調べるために、タス クの処理過程を大きく変えずに、難易度を調整できることが好ましいためである。
上記の条件を満たすタスクとして、独自に考案した暗算加算タスクを用いた。これ はPCを用いて実施するタスクで、図B.2に示すような画面からなる。まず画面中央 に表示される被加算数を記憶してエンターキーを押す。次に画面中央に表示された加 算数との加算を行い、テンキーによる解答入力を開始する。解答の入力を終えたらエ ンターキーを押すことで、次の問題の被加算数が表示される。被験者の解答と、エン ターキーやテンキーを押したタイミングが記録される。
2010/1/21
1
Step1 Step2 Step3
123
Enter押す Enter押す
+ 456 =
Step1 :画面上に出た数字を記憶する
Step2 :記憶した数字と次に画面上に出た数字を足す
Step3 :計算結果を入力する
Enter 押す
次の問題へ
※タスクはPC 画面上で行い、
数字、Enterはテンキーで入力する
図 B.2: 暗算加算タスクの作業画面イメージ
B.2.3 報酬条件と難易度条件
モチベーションを変化させるために報酬に関する条件を、心的負担を変化させるた めに問題の難易度を、各2段階で設けた。
(1)報酬条件:
モチベーションを間接的に変化させるために、報酬などに関して、表B.1に示す2種 類の条件を設けた。
条件間の最大の相違点は、追加報酬の有無である。被験者には実験に参加してもらっ たことに対する謝金も支払っているが、これに加えて、「報酬あり」の試行の成績を総 合的に判断して、作業成績が事前に設定した基準を超えていた場合に、金銭的な報酬 が支払われると、実験開始時に説明している。また、金銭的な報酬以外にも、複数の条 件を変化させている。試行を行う直前の被験者への説明を通して、「報酬あり」の試行
表 B.1: モチベーションを制御するための報酬条件
報酬なし 報酬あり
作業成績に応じた謝金 なし あり
提示する試行の意味 参考データ 重要な試行 作業速度 指示なし できる限り速く
監視 カメラを伏せる カメラによる手元の撮影
(実際には撮影しない)
が実験において重要なものであると認識させ、作業速度を高めるように教示している。
また、「報酬あり」の試行では、机の上に設置した小型のwebカメラを通して、被験者 の手元が監視されていることを意識させ、「報酬なし」の試行ではwebカメラを机に伏 せることで監視をしていないことを強調している。これらの条件は、いずれも「報酬 あり」の試行で、被験者のモチベーションが高まることを期待したものである。
(2)難易度条件:
心的負担を変化させるために、問題の難易度に関して、以下の2種類の条件を設けた。
• 難易度低:3桁同士の加算、繰り上がりなし
• 難易度高:4桁同士の加算、繰り上がりあり(下3桁の中に1ヶ所)
難易度高の条件では、桁数が増加することで記憶すべき数が多くなる他、各桁の数 を足しあわせる処理の回数が増加している。更に、繰り上がりの処理も必要である。こ のため、タスクを細かいに認知ステップに分解した場合のステップ数が多くなり、作 業の負荷が大きいといえる。処理の過程と処理に用いる知的能力が同じ課題では、作 業の負荷が大きい方が心的負担が大きくなると期待される。
このタスクでは、予備実験の結果を通して、問題の難易度が低いと明らかになった 問題を除去している。除去した問題の1つ目は加算数、被加算数のいずれかに「104」
「4092」など「0」が含まれる問題である。これらの問題では、計算が不要な桁が存在 するため、難易度が低下している。除去した問題の2つ目は、解答中に「888」「2999」
など3桁以上連続して同じ数を含む問題である。これらの問題は、計算途中の数の記 憶が容易であり、解答の入力も素早く行えるため、難易度が低下している。解答中に
度の低下が小さく、除去した場合に解答のバリエーションが著しく少なくなることか ら、除去していない。