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1. 目的

本章におけるこれまでの研究により,サルカケミカンに含まれる aculeatin (ACU)とtoddaculin (TOD)がRAW264細胞に対してNO産生抑制作用を示すこ とが明らかとなった。これらの化合物について,抗炎症作用を有する薬剤とし ての開発を推進するために,より詳細な作用機構の解明が必要である。サルカ ケミカンからは,これまでに様々なクマリン化合物が報告されており,抗菌活 性30,抗マラリア活性29,抗腫瘍活性31,32,抗糖尿病活性33など多岐にわたる活 性が知られている。一方WatanabeらはACUとTODについて,in vitroの試験系 においてACUが脂肪細胞の分化促進作用37,TODが骨代謝改善作用38を有する ことを明らかにしている。ACUとTODはプレニル側鎖のエポキシドの有無によ り,異なる作用機構を持つことが示唆されており,構造活性相関の観点からも, これら 2 つの化合物の作用機構の違いについて詳細に解析することでクマリン の活性発現機構に関する新たな知見が得られると考えられた。そこで本節では,

これらの抗炎症作用に着目し,活性発現機構の違いについて詳細に解析するこ とを目的とした。

今回ACU と TODの抗炎症作用機序解析に用いるマウスマクロファージ様細 胞株RAW264細胞は,グラム陰性菌の細胞壁成分であるlipopolysaccharide (LPS) の刺激により活性化されることが知られている(Fig. 2-26)39,40。その際,LPSが 細胞膜上のToll-like receptor 4(TLR4)により認識され,Myd88, TRAF6といった アダプタータンパクの活性化を経由して p38, JNK, ERK1/2 などの MAPK や,

IκBαなどがリン酸化される。IκBαのリン酸化に伴い核移行し,プロモーター領 域に結合した転写因子NFκBや,MAPKにより活性化された転写因子AP-1によ って,iNos, Il1a, Il1b, Mcp1などの炎症性メディエータの産生が誘導される。本 節では,まずACUとTODがLPS刺激により誘導されるであろう炎症性メディ エータのmRNA産生を抑制するかをDNAマイクロアレイにより広範に調べた。

その結果,顕著な抑制効果が認められたmRNAについて,リアルタイム定量PCR を用いて検証した。さらにこれらの経路について,ACUおよびTODがどのよう に作用するのかを明らかにするため,タンパク質を定量する手法であるウエス タンブロット法や,転写因子の活性を調べる手法であるレポーターアッセイ法

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を用いて調べることとした。

Fig. 2-26. TLR4 signal transduction pathway.

2. 結果と考察

サルカケミカンより単離した2種のクマリン(Fig. 2-27A),ACU およびTOD の抗炎症メカニズムに焦点を当てて研究を行った。第3節のなかで,ACUおよ

びTODが LPS刺激 RAW264 細胞におけるNO 産生量を抑制することを明らか

にした。そこで,作用機序解明に用いるACUとTODの濃度域を確認するため, 細胞毒性を評価したところ,150 μMまでの濃度においてACUおよびTODが細 胞生存率に影響しないことを確認したため (Fig. 2-27B),以降100 μMにて作用 機構をより詳細に調べることとした。

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Fig. 2-27. Chemical structures of aculeatin and toddaculin (A). Effects of aculeatin and toddaculin on cell viability (B) in LPS-stimulated RAW264 cells. Cells were treated with compounds and LPS (100 ng/mL) for 24 h and cell viability was measured by WST-8 assay (B). Data shown are mean ± SD (n = 3).

RAW264細胞はLPSの刺激によりTNF-αやIL-6といった炎症性サイトカイン

を産生することが知られている。そこで,本濃度域において,ACUおよびTOD は,LPS刺激により誘導されるTNF-αとIL-6のタンパク産生を抑制するかを調 べたところ,その産生を濃度依存的に抑制した(Fig. 2-28)

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0 10 20 30

TNF- production (ng/mL)

LPS - + + + + + + + ACU (M) 25 50 100 TOD (M) - - - - - 25 50 100

a

b c

d e

f g

h

0 50 100 150

LPS - + + + + + + + ACU (M) 25 50 100 TOD (M) - - - - - 25 50 100

a

b b

c c

d d

IL-6 production (ng/mL) d

Fig. 2-28. Effects of ACU and TOD on LPS-induced TNF-α and IL-6 production in RAW264 cells. Cells were treated with compounds and LPS (100 ng/mL) for 24 h.

Then TNF-α and IL-6 content in the culture medium were analyzed using ELISA kit.

Data shown are mean ± SD (n = 3). The different letters were significantly different by Tukey-Kramer test (P < 0.05).

次に, RAW264細胞におけるLPS刺激によってどのような炎症メディエータ

の遺伝子発現が上昇し,さらにACU および TODがどのような遺伝子発現を強 く抑制しているのかを広範に調べるため,DNAマイクロアレイ解析を行った。

その結果,LPS刺激により顕著に発現上昇が認められたmRNAのうち,ACUと

TOD (100 μM)で24時間処理するにことにより,炎症性ケモカイン,サイトカ

イン(Mcp-1, Il6, Il1aおよびIl1b)および炎症性酵素(Cox2およびiNos)の発現が顕 著にダウンレギュレートされた(結果は示していない)。これらの遺伝子発現を リアルタイム qPCR で再検証したところ,これらの遺伝子発現が用量依存的に ACUおよびTODによって同程度に減少することを確認した(Fig. 2-29)。

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0 50 100

150 Mcp1

LPS - + + + + + + + ACU( M) 25 50 100 TOD( M) - - - - - 25 50 100

A

a

b c

e f d e

mRNA (%) f

0 50 100

150 iNos

B

LPS - + + + + + + + ACU( M) 25 50 100 TOD( M) - - - - - 25 50 100

a

b b

c c c c

mRNA (%) c

0 50 100

150 Il6

C

mRNA (%)

LPS - + + + + + + + ACU( M) 25 50 100 TOD( M) - - - - - 25 50 100

a

b b

cd d c d

d

0 50 100

150 Il1a

D

mRNA (%)

LPS - + + + + + + + ACU( M) 25 50 100 TOD( M) - - - - - 25 50 100

a

b

c c

c c c

c

0 50 100

150 Il1b

E

mRNA (%)

LPS - + + + + + + + ACU( M) 25 50 100 TOD( M) - - - - - 25 50 100

a

b bc

c c c c

c 0

50 100

150 Cox2

F

mRNA (%)

LPS - + + + + + + + ACU( M) 25 50 100 TOD( M) - - - - - 25 50 100

a b

a b

c d cd

d

Fig. 2-29. Effects of ACU and TOD on mRNA expression [(A) Mcp1, (B) iNos, (C) Il6, (D) Il1a, (E) Il1b, and (F) Cox2] in RAW264 cells. Cells were treated with compounds and LPS (100 ng/mL) for 24 h, and mRNA levels were measured using qPCR. Data shown are mean ± SD (n = 3). The various letters indicate significant differences in Tukey-Kramer test results (P < 0.05).

以上の結果より, LPS刺激によるマクロファージの活性化によって生じる炎 症性メディエータの産生を,ACUとTODが遺伝子レベルで抑制していることが 示唆された。

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ACUおよびTODの抗炎症活性のさらなる作用機構を明らかにするために, ウ エスタンブロットを用いてMAPKリン酸化に対するこれら2つの化合物の効果 を評価した(Fig. 2-30)。 その結果,TODが 15分でp38 リン酸化を有意に抑制 したが,ACUにはそのような効果はみとめられなかった。 TODは、15分およ

び30分でERK1 / 2リン酸化を有意に抑制したが,ACUは有意な効果を示さな

かった。 一方LPS刺激後15 分でTODによるJNK のリン酸化促進効果が認め られたが,ACUにはそのような効果は認められなかった。

Fig. 2-30. Effects of ACU and TOD on LPS-induced phosphorylation of MAPKs in RAW264 cells. Cells were treated with compounds (100 µM) and LPS (100 ng/mL) for 15 and 30 min. Then, cells were lysed and analyzed by western blotting. Data shown are means ± SD (n = 3–4). *P < 0.05 vs. LPS-stimulated cells in each time by Dunnett’s test.

38 0

50 100 150

LPS - + + + + + + + ACU( M ) 25 50 100 TOD( M) - - - - - 25 50 100

* *

NF -  B a c ti v it y ( % )

Fig. 2-31. Effects of ACU and TOD on LPS-induced NF-κB activation. Luciferase reporter assay was performed as described in the experimental section . Data shown are means ± SD (n = 3).*P < 0.05 vs. LPS-stimulated cells by Dunnett’s test.

次に,炎症性メディエータの遺伝子発現を制御している転写因子であるNF-κB に対するACUおよびTODの効果を調べるために, NF-κBルシフェラーゼレポー ターアッセイを行った(Fig. 2-31)。 LPS処理により,NFκBの活性は10倍以上 上昇した。 LPSのみを添加したコントロールに対し,TODは 50 µM以上の濃 度においてNFκB活性を有意に抑制したが,ACUには有意な抑制効果は認めら れなかった。

これらの結果から、TODの抗炎症作用は,p38,ERK1 / 2およびNFκB経路の 抑制作用を介した経路で発現していると考えられたが,ACUは異なるメカニズ ムで抗炎症作用を示す可能性が示唆された。NFκB経路は破骨細胞分化にも関与 していることが知られており41,この経路を抑える天然物が破骨細胞分化を抑制 することが報告されている 42。過去の研究より,TOD が破骨細胞に対する分化 抑制効果を有することが明らかとなっている38。今回の結果は, TODが破骨細 胞分化抑制効果を示すことを支持する結果であると考えられた。ACUとTODの 構造の違いは,プレニル側鎖のエポキシ基の有無であるが,その部分の違いの

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みによりこのような作用機構に違いが認められることは興味深い。

ACUとTODの作用機序の違いの理由をさらに詳しく評価する目的で,これら の化合物の細胞への取り込み量を検討した(Fig. 2-32)。 TODは,4時間後(129 pmol / 1.0×10 6細胞)および24時間後(177 pmol / 1.0×10 6細胞)のRAW264細胞で 検出されたが,ACUの取り込み量は,いずれのインキュベーション時間におい ても20 pmol / 1.0×10 6細胞未満であった。

0 50 100 150 200 250

ACU TOD ACU TOD

4 h 24 h

pmol ACU or TOD/106 cells

N.D. N.D.

Fig. 2-32. Uptake levels of ACU and TOD in RAW264 cells. Cells were incubated with each compound for 4 or 24 h and then extracted and analyzed by HPLC. Data were expressed as mean ± SD (n = 3). N. D. = Not detectable.

TODおよびACU のlogP 値がそれぞれ3.17および 1.91であることから(CS Chem Draw Ultra 6.0, Cambridge Soft Corporation, MA, USA), プレニル基のエポ キシ化により疎水性が低下すると考えられる。

フラボノイド類などは,プレニル化を受けることで細胞への浸透性が増加す るとともに,動物試験においては血中における存在時間の延長や組織への蓄積 量の増加が認められることが知られている 4345。ACU より疎水性の高い TOD は細胞膜を透過し,p38MAPK やERK1/2のリン酸化を抑制し,NFκBの転写活 性を抑制することにより抗炎症作用を発現すると予想された(Fig. 2-33)。しかし,

ACUはTODと同様に抗炎症作用を示すものの,その作用機構はTODとは別の

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経路を介したものである可能性が示唆された。

Fig. 2-33. Expected action mechanisms of ACU and TOD in this study.

ACUは,マウス由来3T3-L1細胞において,細胞表面のβアドレナリンレセプ ターに作用し,脂肪分解促進効果を発現する可能性が示唆されている46。また,

緑茶などに含まれるepigallocatechin gallate (EGCG)が,細胞表面の67kD ラミ ニンレセプターに結合し抗炎症作用を示すことが報告されている47,48。細胞内へ の浸透量が少ないと考えられるACUは,このように細胞膜表面のタンパク質と の相互作用によって抗炎症作用を示している可能性も考えられる。今後ACUの さらなる作用機序解明が望まれる。

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