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L- J Characteristics of OLEDs

V- 292 b. 新奇分子設計指針による分子の水平配向

分子長を長くすると水平配向性が向上することが示されたが、これは同時 に共役系の拡張によるバンドギャップの低減を伴うことを意味する。有機 EL ホスト材料等への応用を考えると、このことは、水平配向性材料の用途を強 く制限する要因となってしまう。つまり、分子長を伸ばすことなく、分子を 水平配向させる手法を開発することが、より好ましい。パーフルオロフェニ ル基とフェニル基は、通常のπ-πスタッキングとは異なり、ドナー・アクセ プター相互作用によって、二枚の芳香環が上下にきれいに重なるという性質 がある 9)。ドナー部位とアクセプター部位を同時に有する分子では、それぞれ の部位が重なってスタッキングすることから、分子が垂直に立つことが困難 になると期待できる(図①-(2B)-1-2-1.4)。あるいは、電荷の偏りから、末端 のカルバゾール部位が基板上に接触した後、反対の電荷をもつアクセプター ユニットが基板に対して接触しようとするため、水平に配向しやすくなるこ とが期待できる。ドナー・アクセプター型分子として、1,4-ビス{4-(N-カルバ ゾリル)フェニル}-2,3,5,6-テトラフルオロベンゼン (CPFP) を新規に合成した。

シリコンウェハー上にCPFPを膜厚が60 nmになる様に蒸着した膜について、

エリプソメトリー測定を行った。解析結果を図①-(2B)-1-2-1.5 に示す。消衰係 数より算出されるS の値は−0.29 であり、分子が薄膜中で高度に水平配向して いることが示された。対象化合物として、CPFP と分子長が全く同一である、

p,p’-ビスカルバゾリルターフェニル(CTP)の水平配向性を評価したところ、S

の値は-0.14 であった(図①-(2B)-1-2-1.6)。このことから、ドナー・アクセプ

ター構造をとらせることが水平配向性に有効に働いていることが示された。

F F

F F

N N

base material base material

CPFP

and/or

図①-(2B)-1-2-1.4 ドナー・アクセプター型分子の水平配向模式図

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0.5 0.7 0.9 1.1 1.3 1.5 1.7 1.9 2.1 2.3

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4

250 350 450 550 650 750

Extinction coefficient k Refractive indexn

l/ nm

図①-(2B)-1-2-1.5 CPFP薄膜のエリプソメトリー解析結果(赤線:nx,kx;青線:nz,kz)

Extinction coefficient k Refractive indexn

l/ nm CBTP

0.5 0.7 0.9 1.1 1.3 1.5 1.7 1.9 2.1 2.3

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4

250 350 450 550 650 750

図①-(2B)-1-2-1.6 CTP薄膜のエリプソメトリー解析結果(赤線:nx,kx;青線:nz,kz)

c. 水平配向性を示すりん光発光性ドーパントの合成と有機EL特性

有機EL の発光層からの発光は、その方向性がランダムであることから、デ バイスを構成する各層と大気との屈折率の違いと電極のプラズモン吸収によ って、わずか20%程度しか外部に取り出すことができない3)。これに対し、発 光分子の遷移双極子モーメントを水平に配向させることで発光の向きを制御 することで、光を取り出す効率(out)を向上させることが可能となる 4)。有機 EL 中の電荷再結合によって生じる励起子は、一重項が 25%、三重項が 75%で あると言われており、重原子効果によって項間交差が促進されるような発光 材料を使用した場合、生成した励起子の 100%を利用することができる。この ことから、りん光発光性金属錯体が発光材料として良く使用されている。白 金(II)錯体は、発光量子収率が一般に低いと認識されており、平面型 4 配位構 造をとるため、会合体を形成しやすく、アニヒレーションを起こしやすいこ とから、有機EL発光材料としてはあまり好まれる化合物系ではない10)。しか

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しながら、水平配向性を示す発光材料の開発という観点においては、平面4配 位型という白金(II)錯体の構造的特徴は有効であると期待できる。一般的な白 金(II)錯体の一つである、フェニルピリジンとアセチルアセトンを配位子とし た白金(II)錯体を母骨格として、フェニルピリジン配位子の共役系を直線状に 拡張した配位子を合成し、錯体としたもの(図①-(2B)-1-2-1.7)について、水平 配向性を検討し、有機ELデバイスを作製し、特性を評価した。

図①-(2B)-1-2-1.7 水平配向するように分子設計した配位子と錯体の構造式

[アセチルアセトナト-κO2,κO4][1-[{4-(4-tert-ブチルフェニル)フェニル}-2-ピ リジル-κN]フェニル-κC2]白金(II) (e1Pt)は、光励起によってPL = 50%で550 nm にピークトップを持つ黄色のりん光発光を示し、CBP、mCP 中で水平に配向 することを明らかにした。錯体e1Ptを発光材料として、有機ELデバイスを作 製したところ、外部量子効率EQEが最大で 15.8%であった。デバイスの構造と 特性を図①-(2B)-1-2-1.8 に示す。有機 EL デバイスのEQEは、次式で定義され る。

EQE = OUT ×  × ST × PL

ここで、OUT は光の取り出し効率、はキャリアの再結合率、ST は励起子 の生成効率、PL は発光量子効率である。白金(II)錯体はりん光発光分子であ り、励起子の生成効率rは、重原子効果による項間交差の促進を加味して、1 とみなすことができる。キャリアバランスを 1 と仮定したとき、OUTは少な くとも 32%以上であると算出され、従来限界値とされてきたOUTと比較して 60%、値を向上することに成功した11)

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10-1 10-0 101 102 電圧(V)

10-6 100 104

電流密度( mA/cm2)

10-3 103

電流密度(mA/cm2) 10-2

100 102

10-1 101 102

10-2 10-4

1.0E-02 1.0E-01 1.0E+00 1.0E+01 1.0E+02

1.0E-03 1.0E-01 1.0E+01 1.0E+03

External quantum efficiency (%)

Currentdensity (mA/cm2) 1.0E-06

1.0E-05 1.0E-04 1.0E-03 1.0E-02 1.0E-01 1.0E+00 1.0E+01 1.0E+02 1.0E+03 1.0E+04

1.0E-01 1.0E+00 1.0E+01 1.0E+02

Currentdensity (mA/cm2)

Voltage (V)

外部量子効率(%)

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2

400 500 600 700

1mA/cm2

400 500 600 700

l/nm

Intensity (Arb. unit)

(a) (b)

(c)

Glass Sustrate ITO NPD (40 nm) mCP (10 nm) 6wt%-1/ mCP (20 nm)

BCP (10 nm) Alq3(40 nm) Mg/Ag (100 nm)

Ag (20 nm)

(d)

図①-(2B)-1-2-1.8 有機ELデバイスの (a) J-Vプロット、(b) Ex-Jプロット、(c) ELス ペクトル、(d) デバイス構造.

(2B)-1-2-2 ブロック共重合体によるナノ構造形成についての要素研究

要素研究として、代表的な有機半導体であるオリゴチオフェンを側鎖に導入し た液晶性有機半導体ブロックコポリマー (BCP) を合成し、物性及びミクロ相分 離挙動の評価と、デバイス化について検討を行った。その結果を基に、ナノポア 構造の構築を目的として、エッチング耐性を有する POSSユニットを持つBCPを 合成し、ミクロ相分離構造形成の検討を行った。

a. 液晶性有機半導体ブロックコポリマーの合成とポーラス構造体形成

図①-(2B)-1-2-2.1 のスキームに従い液晶性の発現が期待される新規液晶性有

機半導体モノマー(4T, 5T, 6T)の合成を行った。また、UV 開裂型の開始剤 (UVPEO)は、図①-(2B)-1-2-2.2に示す手法で合成した。

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図①-(2B)-1-2-2.1 液晶性有機半導体モノマーの合成スキーム

図①-(2B)-1-2-2.2 光開裂型開始剤の合成スキーム (n = 17, 50, 125)

開始剤UVPEOに汎用性モノマーであるMMA、tBMAを用いて、ATRP法に

よる重合をおこなうことで、狭い分子量分布を有する BCP の重合処方を確立

出来た(図①-(2B)-1-2-2.3)。モノマー4T を使用した場合、重合が初期段階で停

止 し て し ま う こ と が 明 ら か に な っ た の で 、ATRP 法 に よ り 重 合 し た

tert-PBMA-b-UVPEOtert-ブチル基を脱保護し、末端に有機半導体モノマー

4T-OH を縮合させることで、液晶性と有機半導体特性を有する BCP の合成に

成功した(図①-(2B)-1-2-2.4)。ポリマー溶液に各種時間 UV 光を照射した時の

GPC測定結果を表①-(2B)-1-2-2.1 及び図①-(2B)-1-2-2.5 に示す。UV照射-アル コールでの選択的除去を行いポーラス構造体の作製が可能であることが分か った。

図①-(2B)-1-2-2.3 ATRP法によるBCPの合成スキーム

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図①-(2B)-1-2-2.4 縮合による有機半導体BCPの合成スキーム

表①-(2B)-1-2-2.1 BCPの分子量及び熱特性

Sample X : Y Mn (GPC) PDI 反応率(%) Thermal property (℃)

P4T 0:13 8080 1.20 48 (13量体) C 133 Sm 250 I

BCP1 50:18 14600 1.18 72 (18量体) C 154 Sm 208 I

BCP2 125:21 22000 1.22 58 (21量体) C 79 Sm 152 I

図①-(2B)-1-2-2.5 各種時間UVを照射した時のGPC測定

合成したBCP2の薄膜について、ソルベントアニール処理を行うことで、フ

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ィルム全面にミクロ相分離構造による、約200 nmの径を有するポアを形成す ることに成功した。307 nmのバンドパスフィルターを使用してUV照射を照射 し、メタノールによるリンス処理を行うことで、PEO 部位のみを選択的に除 去し、ポーラス膜の SEM 観察像のコントラストの向上と、孔の高さの増加が 確認できた(図①-(2B)-1-2-2.6)。

図①-(2B)-1-2-2.6 ベンゼンによるソルベントアニール処理をしたBCP2薄膜のSEM像

(左)とUV照射後リンス処理をした薄膜(右).

b. BCPへの耐エッチング性ユニット導入とポーラス構造の微細化

さらなる微細構造の作製を目指し、耐エッチング性を有するポリヘドラル オリゴメリックシルセスキオキサン(POSS)ユニットとメチルメタクリレート (MMA)ユニットからなるBCPを、図①-(2B)-1-2-2.7に従い合成した12)

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図①-(2B)-1-2-2.7 PMMA-b-PMAPOSSの合成スキーム

合成した PMMA-b-PMAPOSS の薄膜を二硫化炭素でソルベントアニールす

ることで、ポアサイズ径30 nmのシリンダ構造体が作製できた。リアクティブ イオンエッチング装置を用いて、出力100 Wで10秒間、酸素プラズマエッチ ング処理を行うことで、ミクロ相分離により形成されたシリンダ構造体の PMMA 部分のみが選択的にエッチングされ、ポア径約 20 nm程度の孔の形成 が確認された。図①-(2B)-1-2-2.8 にプラズマ処理後の AFM 観察結果を示す。

この孔径は熱電変換デバイスに応用するにあたり要求される構造条件を満た しておりデバイスへの応用の詳細は、中項目(2B)-2で記載する。

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図①-(2B)-1-2-2.8 酸素プラズマエッチング処理後の AFM 像(a) 膜厚 15 nm, (b) 膜厚 50 nm, (c) 断面プロファイル.

(2B)-1-2-3 長鎖アルキル基を導入した共役系におけるナノ秩序構造の形成の要

素研究

要素研究として、有機薄膜太陽電池のドナーユニットとなりうるオリゴチオフ ェンをモチーフにして、分子末端に分岐アルキル鎖を導入することにより、有機 溶媒への高い溶解性を付与した新規オリゴチオフェン誘導体を設計・合成し、太 陽電池デバイスを湿式プロセスで作製した。

a. 溶解度を向上させたオリゴチオフェン類の合成

新規可溶性オリゴチオフェン (DDO-6T) は、図①-(2B)-1-2-3.1に示すスキー ムに基づいて合成した。まず、Friedel-Crafts アシル化反応を用いて、2-へキシ ルデカノイル基をチオフェン環2位に導入し、化合物1を得た。次いで、2-ト リブチルスタニルチオフェンとの Stille カップリング反応により、チオフェン 環を伸長した化合物 2 を合成した。さらに、N-ブロモスクシンイミド (NBS) により末端部位のブロモ化を行い、化合物3を得た。最後に、化合物3とジス タニルビチオフェン 4 との Stilleカップリング反応により、DDO-6T を合成し た。精製後、DDO-6Tは赤色粉末として収率92%で得られた。

(a) (b)

)

(c)

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図①-(2B)-1-2-3.1 可溶性オリゴチオフェン誘導体の合成スキーム.

b. 新規可溶性オリゴチオフェンを使用した湿式プロセスによる太陽電池の作製

DDO-6T (ドナー):PCBM (アクセプター) 混合スピンコート膜を活性層とし

て用いた太陽電池を作製した。素子構造とエネルギーダイアグラムを図①

-(2B)-1-2-3.2 に示す。材料混合比 6:4 の場合に良好な特性を示し、光電変換効

率は 0.74%、Voc は 0.9 V であった。カルボニル基の電子求引効果のため、

DDO-6Tは深いHOMOエネルギー準位を有し、高いVOCが得られた。X線回折

パターンと AFM 像から、DDO-6T:PCBM を太陽電池に用いた場合には、ナノ 秩 序 構 造 を 保 持 し た 活 性 層 を 形 成 し て い る こ と が 示 唆 さ れ た(図 ① -(2B)-1-2-3.3)。

DDO-6T PEDOT:PSS

LiF/Al

ITO

3.5

4.2

5.0 5.1

6.0 5.6

4.3

PCBM

LUMO

HOMO

ITO LiF/Al

Glass PEDOT:PSS DDO-6T:PCBM

blend layer

図①-(2B)-1-2-3.2 太陽電池の素子構造とエネルギーダイアグラム

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0 500 1000 1500 2000 2500 0

5 10 15

Height (nm)

Distance (nm)

RMS = 1.87 nm

0 0

5.0(m) (m)5.0

17.33(nm)

8.67(nm)

0(nm)

図①-(2B)-1-2-3.3 DDO-6T薄膜のX線回折パターン(左)とAFM像(右)

(2B)-1-2-4 中間成果のまとめ

分子配向による高次構造の構築を目的として、種々の有機 EL 材料について、

VASE によって配向性を評価し、オーダーパラメータを導出することによって配 向性の度合いを数値化して、分子構造と水平配向性の相関を明らかにした。分子 長が長いほど、分子は有機薄膜を形成した時に水平配向性を示す傾向があった。

水平配向性を示す分子の設計指針として、分子の長さを長くすることが有効であ るということを提示できた。

同一の分子長である CTPと新規に合成した CPFPにおいて、ドナー・アクセプ ター構造を有する CPFP がより強く水平配向性を示すことを明らかにした。水平 配向性分子を得るにあたり、分子長を伸ばすという分子の物理的特徴における分 子設計指針とはまったく異なる、ドナー・アクセプター型構造の形成という分子 設計指針が有効であるということを提示した。

従来ランダム配向であると思われてきた、有機アモルファス薄膜中における分 子が、形状によっては水平配向することを明らかにし、分子設計指針に基づいて 合成した分子を水平配向させることに成功した。

共役系を直線状に拡張したフェニルピリジン配位子を有する白金(II)錯体である e1Ptが、有機ELホスト材料が形成する薄膜中に共蒸着法によってドープした時、

水平に配向することを明らかにした。錯体 e1Pt を、有機 EL デバイスの発光材料 として用いたとき、外部量子効率EQE = 15.8%、光取り出し効率 > 32%であった。

通常の有機ELデバイスの光取り出し効率は20%程度であることが言われており、