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9‐2‐4 国家の脆弱性を巡る論点

ドキュメント内 kihon-j (ページ 45-49)

9−2−3に挙げた諸点における問題意識は、

人々の安全を保障できない、あるいは安全を損なう ような途上国のガバナンスの根本的な要因として、

国家の脆弱性を見据えようという方向性を示すとも いえる。特に、冷戦終結後に増大してきた途上国の 紛争や治安悪化の問題は、2001年の9.11事件以降、

国際社会においてさらにグローバルな問題として認 識され、国家機能の脆弱な国家への援助に目を向け Box9−5 世界銀行の新社会開発戦略(ドラフト)

世銀の新社会開発戦略は、包摂的で統合された社会が説明責任を果たしうる制度のもとで発展していくことを原則に おく。包摂的な社会に向けて、特に、力のない人々や集団を制約しているインフォーマル、フォーマルなルールを変化 させ、開発活動への参加を促進していくため、機会への平等なアクセスを改善するとしている。分断された社会の統合 に向けて、共通のニーズの追求や問題の克服を協働して行い、多様な利益の違いを平和的方法で解決していけるよう、

信頼関係を増進し、紛争予防、復興支援を行うとしている。また、透明性があり、公共の利益に効果的、効率的にかつ 公正にこたえうるアカウンタブルな社会的制度や機構の構築を目指して、技術支援を強化するとしている。これらの支 援の前提として、政策対話や政策ベースの融資を強化し、世銀の融資事業すべてにおいて社会開発原則を反映するとと もに、社会分析を強化し、社会自体のキャパシティ・ディベロップメントを進めることが謳われている。

出所: World Bank(2004a)

27 新社会開発戦略については、補論資料6に簡潔な紹介がある。エンパワメントについては、9−3−1の脚注49を参照。

World Bank(2004)。

28 1980年代に導入されたアフリカの構造調整融資は、コンディショナリティに基づく財政緊縮政策と経済危機のインパク トとがあいまって、優秀な人材をさらに政府部門から流出させ、低賃金にあえぐ公務員の汚職を増幅し、国家の能力を さらに損なったとの批判がある(Brautigam(2000))。世銀のワーキング・ペーパーでは、インドを事例にとり、情報 のギャップや、社会的な多極分断、信頼しうる政治家候補の欠如などの政治市場の不完全さのなかでは、選挙制度や地 方分権化制度の導入は、必ずしも、所期の成果を生まないことを指摘している。なかでも、多様な利害が分かれるなか で、特定の対象に支援が偏ることは、社会的分断をさらに助長しかねないとしている(Keefer  and  Khemani(2003))。 DFIDによると、国家機能の脆弱な国(次節9−2−4を参照)であるほど、援助の活用能力が低く、開発のパフォー マンスも悪いため、各ドナーは、それぞれの視点から援助を停止したり、再開するといった変動が大きいとする。また、

これらの国の政策改善能力には大きな制約があるにもかかわらず、世銀自身の分析によれば、国家機能の脆弱な国に対 する1998年から2003年までの構造調整融資条件は、パフォーマンスのよい国のそれらよりも、2倍近い改革項目を求め ていたという(DFID(2005))。

29 German  Development  Institute(GDI)の評価調査では、ドイツの援助をレビューし、援助の方針の不整合により、ガ バナンスの不適切な国に対する武器輸出が継続したり、援助に伴う強制移住によって、民族集団間の格差が増幅したこ と、特定の援助事業の実施はパトロン・クライアント構造を支える結果となったことなど、エルサルバドル、エチオピ ア、マリ、ケニア、ルワンダ、スリランカの例から説明している。(Klingebiel(1999)、Keefer and Khemani(2003))。

第Ⅲ部 貧困削減と人間の安全保障に関する論点整理 第9章 ガバナンスと人間の安全保障に関する主要な論点

させることとなった。これは、援助効率のみを重視 して援助吸収能力の低い貧困国を援助から取り残す べきではなく、国際社会が援助の方法や対象領域を 適切に選択して、安定的な支援を行っていくべきと の議論に結びついている。すなわち、「無視するこ とのコスト」を考えた選択的援助(セレクティビテ ィ)の議論でもある3

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(1)脆弱な国家に対する援助の考え方 二国間ドナーの協調の場であるOECD開発援助委 員会(DAC)では、「困難なパートナーシップ」ま た 、 世 銀 は 、 LICUS( Low-Income  Countries Under  Stress)という用語で、政策、制度、ガバナ ンスが弱体で、政治的に不安定であったり、紛争に 陥りやすい貧困国の問題を取り上げ、より絞り込ん Box9−6 政策、制度、ガバナンスの弱い国に対する支援のあり方

「困難なパートナーシップ国」(DAC):貧困削減に資する政策やその実施へのしかるべきコミットメントが欠如して おり、紛争、深刻な汚職、透明性の欠如、主に少数派に対する深刻な人権侵害などガバナンスに問題のある国を指す。

①市民社会やメディア、専門職組織、シンクタンクなどへの支援を通じた政策変更への勧奨、②NGOや地方政府、業 界団体などを通じた貧困対策や女性の識字教育などプロジェクト型支援活動の継続、③ドナー間の援助協調と広域の視 点の導入、ドナーの各種政策の整合性の確保を進める30

Low-Income  Countries  Under  Stress(LICUS)(世銀):「LICUS的傾向」は連続的なもので、明確な区分はないと するが、政府の能力が欠けているか、貧困削減に向けて資金を有効に使う姿勢に欠けた貧困国で、往々にして表現の自 由や参加が制限された国。紛争終結国、国家が機能していない国、ガバナンスの悪い強権国家も含まれ、多様性に富む。

なお、国別政策・制度アセスメント指標(CPIA)による5区分のうちボトム2/5にある国から26ヵ国を2004年モニタリ ング国に選定した。国家やNGOのキャパシティが低く、貧困削減が達成できない国や、紛争やHIV/AIDS、環境問題 などを抱え、周辺諸国や国際社会に対し負の外部効果のある国を指す。国内の多様なアクターとの対話促進や資源管理 面での透明性向上などの絞り込んだ制度改善のためのキャパシティ・ビルディングと、基礎的なサービス提供の拡充の 2つを行う。LICUSの75%は紛争国。政治的危機が長引いている国、復興・改革途上の脆弱な国、ガバナンスが弱く発 展が進まない国、ガバナンスが悪化しつつある国など、タイプに分けて支援を考えようとしている31

Fragile  States  Strategy(USAID):発展軌道に乗っていない国を、破綻しつつある国家(failing)、破綻した国家

(failed)、復興国(recovering states)と区別して呼び、治安や基本サービスの提供を保障できない脆弱な国家(failing and  recovering  states)と、紛争のリスクの高い危機状態にある国家(failed  states)とに分けて、取り組みを考える。

国家の脆弱さは、ガバナンスの非効率と正当性の欠如にあるとして、現象面での問題(飢餓やその他の人道的な危機)

への対処のみならず、脆弱さの原因に焦点を当てて、国家の安定や治安、ガバナンス改革、制度的能力の向上に優先度 をおくべきであるとする。具体的には、国家機能の有効性(治安維持や社会サービス提供を確実に行いうる政府の能力)、 正当性の有無(権力行使が公正であるかどうか、国家全体の利益に応えているかどうか)を、治安、政治、経済、社会 の4つの側面から分析する「脆弱性分析枠組み」を提起している。危機に脆い国家への支援は、脆弱さの原因が国家の 有効性にある場合は、国家の基本的な保健教育サービス・システムの強化や雇用機会や市場の拡大、法制度の改善などに 幅広く取り組むことを提案する。一方で、正当性が問題である場合は、NGOや民間部門を通じた援助が望ましいとす る。危機状態にある国家に対しては、紛争を伴う場合は、人道援助や、迅速な雇用促進や所得向上、子どもの教育支援 などに絞ることを提案している32

「脆弱な国家に対する有効な援助」(DFID):大多数の国民にとり不可欠な機能を果たす能力が不足、あるいは果たす 意思に欠ける国々を脆弱な国家ととらえる。いわゆる紛争国のみならず、貧困削減のために必要な内外の資源を有効に 活用できない国を含めている。こうした国家への支援は、国家の能力の不足、貧困削減に向けた政治的意思の欠如の2 つの側面を分けて、能力的には弱いが政治的意思のある国、能力的には強いが政治的意思の欠如する国、能力も意思も ない国を区分して考えることを提案する。ここで言う最も重要な国家能力とは、国境管理、警察権力の適切な行使によ る人々の安全と安全の保障、公共資源の管理などの基本的な経済管理、基本サービス提供、最貧困層の人々が生活を維 持していくための保護と支援の方策が提供できることである。政治的意思とは、貧困削減政策へのコミットメントであ り、特定の社会集団が開発の恩恵から取り残されないように包摂的なアプローチをとることをいう。より一層の援助協 調のもとで、この国家機能の有効性を回復させるための治安機能の改善、武装解除・武器回収、基本行政サービス、社 会的保護、公共財政管理への取り組み、が重要だとしている。特に、ガバナンス改革は課題を最低限に絞り込んで、短 期に成果の見える項目を選択すべきだとする33

30 DAC,  OECD(2001)。2005年4月には、Learning  and  Advisory  on  Difficult  Partnership(LAP)会合において、政治 状況を踏まえた分析、対応から予防、国づくりを中心におく、ローカルなニーズやシステムとの調和など10の注意原則 をまとめている(DAC, OECD(2005))。

31 World Bank(2002b)(2003)(2004b)(2004c)

32 USAID(2005)

33 Torres and Anderson(2004)、DFID(2005)

34 DAC, OECD(2004)

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