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漢語「優秀」の定着と語彙形成

表王6 「優秀!の栓体窯体〕の語旬の推移

圭895 1901 1909 1917 1925

一般名 もの 人,薪3,人,個人,・

w人

人2,人々,者3,もの R,1司渡

欄人名 虜ξ熈帝

ゥ身

安保清種少將

人間

代名

戟E親

ー名

職位・

ョ性名

帝自身 侯,生徒,愚心 活動者,教育春,隙飾,

Z術家と経螢家我國

E工,職工,海幽銑1二,

カ徒2,卒業生,総代,

ナ醸人民,猫逸人,濁 嵂ッ族,國i晃,i驚族3,

  術 と諏螢心であらねばならぬ。(1917年2号f大学程度の   工業教育」大河内正敏PO73Al})

上の例の通り,主体自体(「教育制度」)に備わる性質(「程度の 高い」)について言う場合は「すぐれる」,主体(「技術家と経営 家」)の生み出す技芸(「工*.」)についていう場合は「優秀」と いうような使い分けを行っているものと見ることができる。

 さらに1925年になると,2語の使い分けの基準はより微妙で 繊紐になり,言わば意味の深層において無意識に使い分けられて いると見られるものに変容している。

  難平△基ム種一として如何に優秀であっても努力なくしては獄   米人と匹敵して,事業を纒参することは鐵來ない。〔中略〕

  鑓僅か五六十年の内に巧みに彼等の工業の外形を模倣し   得・る生けの優れた素質を有するのであるから(}925年7号   噛業経営上より比較したる黄白両人種の優劣」藤原銀次郎   POIgBO8〜正4)

この例は,「日本人」およびそれを言い換えた一々」を全体主 体とする単一の文脈で用いられているものであるが,日本人を

「人種として」見る場合は「優秀」が,「素質」に着眼する場合は

「すぐれる」が用いられている。f人種」とは他の人種と比較した 序列の上で外側から日本人を見るものであろうが,f素質」とは

日本人自体の内側に備わる性質を見るものである。

  放送盤線醗 叡旨無tl・筋劃一を買ふに就て,注意すべき事   は二つある。その一つは感度の極めて鋭敏なるべきこと,次   に選響町の優れたることである。其他廉償を要求することは   云ふまでもない。薙に云ふ選弾性と云ふ醤葉は初心者に取つ   て,あまり聞き馴れないものに相違ないが,愛野機は軍に感   度がよいばかりでは未だ完全とは申せないのである。毬厘運   優秀となればなるほど,他より聖業妨害を潜くる度も多くな   る。そこでこの選母性が最も重大問題となって來る。(1895   年2号「放送無線電話の発達とその聴き方(二)」安藤博   PO81A18 一21)

この例でも,「(放送無線電話聴取用無線)受信機」について述べ る一つの文脈のなかで,「すぐれる」と「優秀」とが使われてい る。fすぐれる」は撰澤性」を部分主体とし,優秀」は「感度」

を部分主体とするという違いがあるが,「選澤性」とは本文に説 明があるように梅郷妨害を防ぐ受儒機に備わる性能のことであ

り,憾度」とは外からの音を受け取る受信機の機能である。こ れも,内に備わる性質か外に向かう技芸かという違いによって,

138  £第2藩  活用] 王言吾彙

漢語f優秀」の定着と語彙形成

「すぐれる」と「優秀」とを使い分けている例にほかならない。

 上の二つの記事いずれにおいても,4で見た「すぐれる」と

「優秀葺との意味的な対立点で使い分けが行われている。こうし て,三925年には,「すぐれる」と「優秀」との意味的な対立関係 は十分に形成されていると見ることができる。

鑓まとめ

 本論文では,漢語優秀」の定着を,〈優秀〉語彙の形成過程 をたどることを通して記述した。漢語「優秀」は,主体の外側に 現れる技芸などのく擾秀〉さを表す語として,主体の内部に備わ る性質などのく優秀〉さを表す和語「すぐれる」との間に,意味 的な対語関係を形成していきながら,臼本語の語彙に定着を進め ていった。漢語「優秀」は,和語「すぐれる」との問に意味的な 使い分けの関係をもったことで,語彙の基本的な部分に深く浸透 したものと考えられる。この2語以外の類義の語彙については,

文章語などとして周辺的な位置にとどまり,語彙の基本的な部分 に深く入り込むものではなかった。定着していく新漢語について は,こうした意味的な関係から見た語彙形成や,定着の深度など の観点を加えて記述していくことで,定着過程を具体的にとらえ ていくことができるのではないだろうか(灘G)。

 本論文の記述は,『太陽コーパスsから得られる用例を,共起 する語の形式や内容を整理する方法を徹底することと,「太陽コ ーパスsから得られる,使用率,使用者,使用ジャンル,使用文 体などの情報を組み合わせて分析することによって,可能になっ たものである。いずれの分析も,コーパスがなければ実践が困難 なものであると考えられる。こうした方法をとることで,コーパ スを用いた語彙研究として,従来の研究では達することができな かった新しい研究領域がひらけていくのではないだろうか。

(1)見通しのよい概観として,宮島(1967),池上(1984)な  どがある。

(2)進藤(}981),惣山・飛田(1986),森岡(}991),浅野  (1998),田島(}998)など研究書は多い。

(3)柴田他(1976一王982),森田(1989),国広(1997)など

[第2部 活用]至語彙 139

が代表的な研究であり,いずれも用例を多く収集して実例に即  した分析を行っているが,用例は分析者の内省を助ける働きを  しているものと,見ることができる。

(4)大野(1966),阪倉(1978),宮地(1979)をはじめ研究  は多いが,用例の解釈を積み重ねて語の意味を記述する方法を

基本にしているため,研究者によって解釈が分かれることも少  なくない。古典語の意味研究においては現代語の場合以上に,

用例から帰納する方法が期待されよう。

(5)国立国語研究所(1972a>(1972b)は,現代語の語彙に ついて用例から帰納して意味用法を記述する方式を徹底した研  究であり,コーパスから得られる大量の用例を用いて語の意味 用法を研究する際に,参照価値のきわめて高い先行研究である。

 なお,古典語について解釈によらずに語の意味を導き出す方法  を,田申(2000)では「統語的方法」と呼んで提起したが,

 本論文もこの問題意識に続くものである。

(6)本論文で用いる駄陽コーパス2は,2004qi 3月段階のも  のである。

(7)頻魔0というのは,帰納的な分析に堪えうる最低限の用例  数として仮に設定したものである。

(8)童体のほかに,程度や情態,比較対象など,〈優秀〉を意味  する述語と統語的に関連つく共起語はあるが,主体に比べると  表現されることは少ない。意味分析の材料としてもっとも重視  すべきものは主体であると考えられる。

(9)D「間接的な位置」にある語句の場合,その語旬が直接関  与する劉の述語の影響を強く受けやすいことが想定されるた  め,〈優秀〉語彙の意味分析の直接的な材料からは除外した。

(IO)田中(2005)では,やはり『太陽コーパス2によって定  着過程がとらえられる新漢語徽感」について,意味的な語彙  形成の観点から記述した。

参考文献

浅野敏彦(1998)『国語史のなかの漢語s(和泉書院)

池上禎造G984)「漢語研究の構想』(岩波書店)

大野晋(1966)『日本語の年輪g(新潮文民)

国広哲哉(1997>『理想の国語辞典』(大修館書店)

国立国語研究所(1972a>『動詞の意味用法の記述的研究』(国  立国語研究所報告43,秀英出版〉

国立国語研究所(1972b)「形容詞の意味用法の記述的研究哩

140  [第2音1  活JaJ] 1言吾彙

漢語「優秀」の定着と語彙形成

 (国立国語研究所報告44,秀英出版〉

阪禽篤義(1978)『日本語の語源』(講談社現代新書)

柴田武他編(1976−1982)『ことばの意味1・2・33(平凡社

 選書)

進藤咲子(1981)『明治時代語の研究一語彙と文章一s(明治書

 院)

惣郷正明・飛田良文(1986)『明治のことば辞典s(東京璽出版〉

田島優(1998>「近代漢字表言己語の研究』(和泉書院〉

田中牧郎(2000)「統語的方法に基づく語の意味研究一万葉  集・八代集のカナシの分析を例として一」(『1灘本語学』19−U,

 46−56頁,明治書院)

田中牧郎〈2005印劉響・り「『敏感』の誕生と定着一『太陽コーパ  ス』を用いて一」(舶本近代語研究s4,ひつじ書房〉

森岡健二(1991)「改訂近代語の成立諮彙編』(明治書院)

森鴎良行(1989>了基礎E体語辞典』(角川書店)

宮地敦子(1979>「身心語彙の史的研究s(明治書院)

宮島達夫(}967)ヂ現代語いの形成」(『国立国語嚢}1究所論集こ  とばの研究』3,L50頁,秀英出版)

[第2音i≦ 7舌ノ:圏] 1韮吾套選  141

[男2til 白寿]隔十

字順の相反す

一「掠奪一奪掠」

る二字漢語

「拙一出珊について一 g川明日、香

圏はじめ1こ

 明治期の二字漢語の中には,「掠奪一念揃,「現出一出現」な どのように字順が逆になって使われている語が目につく。こうし た字面の相反する二字漢語の組は,鈴木(1986)・田鼠(1998

a,b)に多く取り上げられている。この二つの先行研究で指摘 された組み合わせのうち,『太陽コーパス』に両方の語が使われ ているものは,565組という数になる(注正)。それらのなかに

は,

 ・ 個王一王国」ギ社会一会社」などのように,字順が逆にな    ると,互いの意味が全く異なるもの。

 ・ 艇生一生誕J「多数一数多」などのように,字順が逆にな    ると,読みが異なるもの。

も見られるが,これらを除外し,字順が逆になっても読みが変化 せず,意味もほぼ同一である二字漢語の中から,用例数が合計で 20例以上ある組について,用例数の推移のパターンを観察した。

その結果,次の二つのパターンが匿立った。

  A.年代がすすむにつれ用例数が片方に偏っていく組。

  B.年代がすすんでも両方の語が使われ続ける組。

 表1・表2は,各パターンから代表的な組を挙げ,年別頻度の 推移を表にしたものである。

表1 パターンAの年瑚頻度

掠奪 蓉掠 容姿 姿容 忠誠 誠忠 苦労 労苦 往来 来往

1895 17 7 6 3 17 11 36 王9 王74 翌6

1901 玉4 5 6 1 7 20 5 78 4

1909 5 0 7 0 7 1

46

i3 100 7

19王7 9 0 0 10 2 53 7 57 5

1925 6 1 5 0 24 1 67 5

48

0

合計 5圭 玉4

24

4 65 16

222 49 457 32

[第2部 活贋] 夏語彙  143

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