(1)市町村の役割と行政権限の行使
高齢者虐待防止法(以下法と記す)では、高齢者虐待の防止、高齢者虐待を受けた高齢者 の迅速かつ適切な保護及び適切な養護者に対する支援について、市町村が主体的に役割を担 うことが規定されています。
また、地域包括支援センターなど高齢者虐待対応協力者のうち適当と認められる機関に以 下の事務の一部又な全部を委託することが可能とされています(法第 17 条)。
委託可能な事務の内容
①相談、指導及び助言(法第6条)
②通報又は届出の受理(法第7条、第9条)
③高齢者の安全の確認、通報又は届出に係る事実確認のための措置(法第9条)
④養護者の負担軽減のための措置(法第14条)
介護保険法において、地域包括支援センターは、主要な業務の一つである権利擁護業務等 の中で、高齢者虐待の防止や虐待を受けた高齢者、養護者等への支援を行うこととなってい ます。地域包括支援センターは、虐待対応の中核機関の一つでありますが、あくまでも高齢 者虐待防止法に規定されている業務の責任主体は市町村であることから、市町村は、地域包 括支援センターに業務を委託した場合も、業務への関与を継続することが基本になります。
業務の委託にあたっては、「立入調査」及び「やむを得ない事由による措置」等については、
市町村の行政権限であることから、直営の地域包括支援センターを除き法第 17 条に規定する 委託事項に含むことはできません。また、行政権限の行使に際しては、迅速かつ適切に連携 を図り協力体制を築くことが必要です。
ア 立入調査権(法第 11 条 )
市町村は、養護者による高齢者虐待により高齢者の生命又は身体に重大な危険が生じてい るおそれがあると認められる場合、高齢者の住所又は居所に立ち入り、必要な調査又は質問 を行うことができます。
(ア)立入調査権の有する権限の範囲
立入調査権の有する権限の範囲は、「世帯の同意なく住居内に立入をしても住居侵入罪等 の犯罪を問われない」「立入を拒否した場合に罰則により罰金が科せられることによる間接 強制ができる」に留まり、自ら鍵をこじ開けたり業者に解錠させることまではできません。
立入調査を実施する際に、目的や理由、確認したい事項を説明します。立入調査を拒ん だ場合は、「刑事罰を科される場合があるほか、警察署長に対する援助要請を行うこともで きる」など説明し、説得します。それでも応じない場合は、職務を執行するために警察署 長に対し援助を求め、警察官職務執行法等により援助を受けることになります。(事前に「高 齢者虐待事案に係る援助依頼書」の提出が必要です)
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(イ)立入調査権の要件の判断
立入調査権を行使できるのは、「養護者による高齢者虐待により高齢者の生命または身体 に重大な危険が生じているおそれがあると認めるとき」だけです。
しかし、現場では、この要件を満たしているかどうかの事実確認をすることなく、とに かく関わりを拒否する孤立した世帯であるというだけで、立入調査を行おうとする傾向が あります。様々な工夫を重ねた上でなければ、立入調査の要件や必要性を満たすとはいえ ません。
(ウ)立入調査権の発動までの準備と手順の確立
立入調査は、強制的な介入になるため、対応を誤ると養護者との関係を悪化させ、事後 の関係調整に膨大な労力を費やすことになってしまいます。そのため、立入調査の発動ま での準備と立入調査をするときの手順を確立し、その後の支援に結びつきやすくする必要 があります。
立入調査が必要と判断される状況の例
・高齢者の姿が長期にわたって確認できず、また養護者が訪問に応じないなど、接近する手がかりを 得ることが困難と判断されたとき。
・高齢者が居所内において物理的、強制的に拘束されていると判断されるような事態があるとき。
何らかの団体や組織、あるいは個人が、高齢者の福祉に反するような状況下で高齢者を生活させた り、管理していると判断されるとき。
・過去に虐待歴や援助の経過があるなど、虐待の蓋然性が高いにもかかわらず、養護者が訪問者に高 齢者を会わせないなど非協力的な態度に終始しているとき。
・高齢者の不自然な姿、けが、栄養不良、うめき声、泣き声などが目撃されたり、確認されているに もかかわらず、養護者が他者の関わりに拒否的で接触そのものができないとき。
・入院や医療的な措置が必要な高齢者を養護者が無理やり連れ帰り、屋内に引きこもっているような とき。
・入所施設などから無理やり引き取られ、養護者による加害や高齢者の安全が懸念されるようなとき。
・養護者の言動や精神状態が不安定で、一緒にいる高齢者の安否が懸念されるような事態にあるとき。
・家族全体が閉鎖的、孤立的な生活状況にあり、高齢者の生活実態の把握が必要と判断されるような とき。
・その他、虐待の蓋然性が高いと判断されたり、高齢者の権利や福祉上問題があると推定されるにも かかわらず、養護者が拒否的で実態の把握や高齢者の保護が困難であるとき。
(出典:厚生労働省マニュアルP52)
イ やむを得ない事由による措置(法第 9 条 2 項)
市町村は虐待防止と高齢者保護のため、生命又は身体に重大な危険が生じているおそれが あると認められる高齢者を一時的に保護しなければならないと規定されており、その保護・
分離の手段の一つとして『老人福祉法に基づく市町村長によるやむを得ない事由による措置』
があります。
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(ア)積極的な措置権限行使が求められる場合
① 「生命または身体に重大な危険の生じるおそれがある」場合に、高齢者の判断能力の 有無にかかわらず、「やむを得ない事由による措置」をとる典型的な場合
② 緊急性はないものの、認知症等で高齢者の判断能力が減退して高齢者の意思が確認で きず、かつ、養護者がサービスの利用の拒否をしている場合
③ 高齢者に判断能力はあるが、経済的虐待などがあって、介護保険制度によるサービス 利用の利用者負担金を支払うことができない場合
④ 高齢者に判断能力はあるが、養護者の虐待をおそれ、あるいは養護者のことをかばい、
また、施設や介護サービスへの無知や偏見等から、虐待を耐えてでもサービス利用を 拒否する場合
(イ)面会制限の検討(法第 13 条)
養護者による高齢者虐待を受けた高齢者についてやむを得ない事由による措置の対応がとら れた場合においては、市町村長又は養介護施設の長は、養護者による高齢者虐待の防止及び高 齢者の保護の観点から、養護者について高齢者との面会を制限することができます。
したがって、面会制限はやむを得ない事由による措置の付随的な処分であることから、面会 制限が予測される場合については、やむを得ない事由による措置を適用させる必要があります。
※面会制限を行うにあたっての注意点
面会制限を行う趣旨を明確に伝えるために、養護者にはその旨を文書で通知するか又は口頭で あったとしても、複数の関係者がいる前で伝えるようにします。事後に、養護者が人権侵害等 を理由に不当な要求を行ってくる場合も考えられますので、危機管理等の意味も含めこのよう な対策を行う必要があります。
市町村として、必要な場面で措置権の行使をしないということは、事後的に市町村の権限不 行使として責任を問われる可能性もあります。市町村は、地域包括支援センターと協力し、
訪問面接、関係者からの情報収集等の事実確認を踏まえ、コアメンバー会議による緊急性の 判断に基づいた適切な対応を図る必要があります。
立入調査、やむを得ない事由による措置の実施は、市町村が判断しない限りできません。
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1 高齢者虐待 Q&A
1-1 通報者が特定されないように、通報者の情報は守られているのですか
1-2 介護保険対象外の 64 歳の方が介護放棄されていますが、市町村が対応する P70 のですか
1-3 妻(63 歳、要介護状態)に対する夫(65 歳)から暴力がある場合には、
DV防止法と高齢者虐待防止法ではどちらが優先されるのですか 1-4
高齢者(認知症等、独居)が自己管理できず、また、本人自身が周りとの 関係を拒絶し、不適切な衣食住の環境に暮らしている時はどのように対
応したらよいですか P71
1-5 被虐待高齢者を対応する市町村は、住所地、居住地どちらが優先になりま すか
1-6 事実確認のための調査において、個人情報保護法を理由に情報を提供して
もらえないことがあるのですが、どうしたらよいですか P72
1-7
家族が医療費の負担を嫌い、高齢者本人に必要な医療を受けさせていませ ん。「やむを得ない事由による措置」のように行政権限により医療を受けさ せる方法はありますか
1-8 措置中の被虐待高齢者を特別養護老人ホームへ優先的に入所させるための P73 法的根拠はありますか
1-9 緊急一時保護をするため、養護老人ホームを利用したい場合、どのような 手続きが必要ですか
1-10 契約による施設入所の場合にも、面会制限を行うことができますか
1-11 P74
介護保険の認定調査を受けていない被虐待高齢者を、特別養護老人ホーム へ措置した場合の費用はどうなりますか。また、介護認定を受けた結果、
非該当となった場合には、その費用はどうなりますか
1-12 身元保証人が立てられないために特別養護老人ホームから入所を拒否され る場合は、どうしたらよいですか
個別ケース会議、その後の支援 コアメンバ―会議の決定に基づく対応
コアメンバ―会議に向けた事実確認