事例 2、3 では、認知症の高齢者が上手く自分の思いや訴えを伝えることができないため、
虐待に発展してしまった事例といえます。認知症について正しく理解し、その人に合った適 切な対応ができれば、養護者のストレスは軽減し、虐待の予防につながります。
支援者として、認知症の高齢者を介護する家族や地域住民が抱く誤解や偏見を理解へと変 えていくために、認知症についての基本的な理解をしておく必要があります。
(1)認知症について
認知症とは、老化と密接な関連がありますが、老化ではなく病気が原因で起こります。色々 な原因で脳の細胞が死んでしまったり、働きが悪くなったために、様々な症状が起こり、生 活する上で支障が出ている状態(およそ 6 か月以上継続)を指します。つまり、認知機能の 障害が現れるいくつかの病気の総称です。高血圧、糖尿病と同様に早期発見・治療すべき疾 患です。
◆加齢によるもの忘れと認知症によるもの忘れの違い もの忘れがあると年のせいだからと思いがち
ですが、加齢によるもの忘れと認知症によるも の忘れは全く異なります。
加齢によるもの忘れ 認知症によるもの忘れ 体験の一部分のもの忘れ 体験全体のもの忘れ もの忘れの自覚がある もの忘れの自覚が乏しい 日常生活に支障はない 日常生活に支障が起こる 記憶の連続性:あり
(例)夕食に何を食べた かは忘れたが、夕食をと ったことは覚えている
記憶の連続性:なし
(例)夕食をとったこと 自体を忘れてしまう 認知症によるもの忘れは、ある期間の出来事
全体が抜け落ち、思い出すことがありません。
自分がどういう行動をして生きてきたのか、つ じつまの合う物語にならず、自信喪失、不安、
焦りをきたしたり、周りとのトラブルになった りして、周辺(行動・心理)症状(P47 参照)
のきっかけになります。
◆軽度認知障害( Mild Cognitive Impairment = MCI )
軽度認知障害とは、正常と認知症の中間に位置する状態をいいます。認知症に関する診断 技術が進歩する中で使われるようになった言葉です。
定義としては、次の 1~3 であり、2 と 3 が認知症の定義との違いです。
1.本人または家族が訴える記憶障害(年齢相応では説明できないと気づき悩む)
2.記憶障害以外の他の認知機能は概ね正常 3.日常生活は自立
MCIと診断された人の約 10%は 3 年後に認知症に進行するというデータがありますが、
正常に戻る人もいますので、必ずしも悲観的になる必要がないことを伝える必要があります。
(2)認知症の原因疾患
認知症には元になる原因疾患があります。アルツハイマー型認知症あるいはアルツハイマ ー病と呼ばれる疾患は、全体の約 50%を占めています。次に多いのは脳血管性認知症で約 20%
です。日本では、1985 年ごろまでは、アルツハイマー型認知症よりも脳血管性認知症の方が 多くみられましたが、1995 年以降はアルツハイマー型認知症の方が多いという報告がされて います。近年では、鑑別診断が進み、レビー小体型認知症が多いということが明らかになっ てきました。
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◆アルツハイマー型認知症
脳の神経細胞が通常の老化よりも急速に、いわば病的に減ってしまうこと(変性)により、
正常な働きを徐々に失い認知症になる病気です。
◆脳血管性認知症
脳梗塞、脳出血、脳動脈硬化等のために、神経の細胞に栄養や酸素が行き渡らなくなり、
その結果その部分の神経細胞が死んでしまったり、神経のネットワークが壊れてしまうこと による認知症です。
◆レビー小体型認知症
アルツハイマー病と同様に脳の変性が起こりますが、記憶障害より先に幻視(実際には存 在していないものが存在するものとして生々しく見える)等の症状が先に出現することが多 く、近年では第 3 の認知症として注目されている病気です。
疾患の特徴
ア ルツハイマ―型認知症 脳血管性認知症 レビー小体型認知症
好発年齢 70歳前後 初老期50歳代より 初老期・老年期・ときにより若年
性別 女性に多い 男性に多い 男性に多い
・全般性の認知症で高度 ・まだら認知症で、度合いは軽度 ・比較的軽度
・初期に記銘・記憶障害が目立つ ・初期に頭痛・めまい・しびれ ・初期に幻視やパーキンソニズ ム(筋固縮・動作緩慢・振戦)
が出現する、初期診断が困難
・外界に対する注意力が低下する ・外界に対する注意力は保たれる
・多幸・抑うつ・妄想・急性錯乱、
徘徊、独語、無意味な多動・
監集などが認められる
・感情失禁・せん妄が認められる ・幻視、被害妄想が多い 抑うつ、REM睡眠行動異常
経過 緩徐進行性で遅い 急性の発症で階段状に増悪 進行性で比較的早い
症状
参考:認知症介護研究・研修東京センター『認知症介護実践研修テキストシリーズ 3「図表で学ぶ 認知症の基礎知識」』
(3)早期診断、早期治療のメリット
アルツハイマー型認知症では、人により薬で進行を遅らすことが可能であり、早く薬を使 い始めることで自立した生活をより長く保つことができます。
他にも認知症の症状を出現させる病気はいくつかありますが、中でも正常圧水頭症、慢性 硬膜下血腫、脳腫瘍、ビタミン B12 欠乏症、甲状腺機能低下症等は早期に治療することで良 くなり、症状が改善されます。しかし、手遅れになると重い後遺症を残す場合がありますの で、早期に専門の医療機関を受診し、MRIやCTなどの画像診断による鑑別診断を受ける ことが必要です。
また、生活面においては、病気が理解できる時点で受診し、少しずつ理解を深めていくこ とで、必要な公的サービスの利用や日常生活への援助を頼むことができ、その後のトラブル を減らすことにつながります。
症状の軽いうちに診断・治療を受け、自立した生活をできるだけ長く保つようにしつつ、
症状が重くなったときに備えて、後見人を自分で決めておく任意後見制度等(P75 参照)の 準備や手配をすることで、認知症であっても自分らしい生き方を全うすることが可能になり ます。
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(4)認知症の症状の理解と対応
認知症の症状は、中核症状と、周辺(行動・心理)症状に分けられます。
中核症状は脳の神経細胞の死滅に基づく症状であり、経過と共に進行し、記憶障害、見当 識障害、理解・判断力の障害、実行機能障害等の障害が現れます。
周辺症状は、中核症状があるために生ずる心理的ストレスに基づく症状で、必ず発症する ものではなく、周囲の対応や環境に影響を受け、必ずしも疾患の重症度や進行と平行するわ けではありません。
なお、中核症状に対する適切な支援により日常生活を維持することは可能であり、適切な ケアや環境により周辺症状を改善することができます。
中核症状や周辺(行動・心理)症状による行動や言動は、周りの人々に「何を考えている のかわからない」「訳のわからない行動」と映り、地域からの誤解や偏見、家族からの虐待を 受ける原因となりかねません。認知症の高齢者は何もできないわけではなく、本人の行動か ら症状を理解し、その人に合った対応方法を考え、支援へとつなげていく必要があります。
脳の神経細胞死滅
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性格・資質 環境・心理状態
周辺(行動・心理)症状
参考:NPO 法人地域ケア政策ネットワーク 全国キャラバンメイト連絡協議会『キャラバンメイト養成テキスト』
中核症状
記憶障害
(新しいことが覚えられない、覚えていた記 憶が失われていく)
・毎日同じものをスーパーで買ってくる
・鍋を火にかけてあることを忘れる
見当識障害
(時間や季節感が薄れる、方向感覚が薄れる)
・何月何日かと何度も質問する
・季節感のない服を着てしまう
実行機能障害
(計画を立てる、順序立てて行動する等がで きなくなる)
・決まった時間に薬を飲むことができない
・味噌汁を作る手順がわからない
理解・判断力の障害
(考えるスピードが遅くなる、観念的な事柄と 現実的、具体的なことが結びつかなくなる)
・朝起きて何を着れば良いのかわからない その他(失認・失行)
(見たり聞いたりしたものが何かわからない)
・訪問販売に引っかかり多額のローンを
組んで布団を買ってしまう ・衣服の上下がわからず逆さまに着てしまう
・石鹸を食べてしまう
不安・焦燥
・本人が症状に漠然と気づき、
自信を失う
幻覚・妄想
・物を取られたと思い込んだり、
見えないものが見えてしまう
うつ状態
・将来に望みをなくし、
うつ状態になる
徘徊
・実家に帰ると言って、家出 をしてしまう
不潔行為
・便をさわる
興奮・暴力
・突然興奮したり、暴力を振るう