認知症の高齢者は自分の意思や要望を上手く伝えることができないため、支援者が本人の 望む生活・生き方を把握し、自己決定を尊重することは簡単ではありません。また、本人の 思いや訴えを聞いていたはずが、気が付くと、支援者の「このようにした方がいいから」と いう自分の判断を押しつけていたり、逆に「これで本当に良かったのだろうか」と不安に感 じることがあると思います。
認知症の高齢者を支援するためには、パーソン・センタード・ケアの考え方の基本を押さ え、本人とのコミュニケーションやアセスメントを通じて、「その人らしさ」を尊重できるよ うな支援をすることが必要です。
(1)パーソン・センタード・ケアとは
パーソン・センタード・ケアとは、英国のブラッドフォード大学のトム・キットウッド教 授が提唱した概念で、日本では「利用者中心のケア」あるいは「その人らしさを尊重するケ ア」と呼ばれています。
さらに、パーソン・センタード・ケアという言葉には、『その人を取り巻く人々や社会と かかわりをもち、人として受け入れられ、尊重されていると、認知症の本人が実感できるよ うに、共に行っていくケア』という深い意味が込められています。
(2)パーソン・センタード・ケアの考え方を踏まえた支援のながれ
①コミュニケーションのポイントを押さえる(P49)
認知症の高齢者は認知機能の障害のために、自分の感情を上手く言葉で表現することが難し くなっています。支援のどの段階においても、認知症の高齢者とのコミュニケーションのポイ ントを押さえ、本人の思いを引き出せるよう積極的にコミュニケーションを図ることが大切で す。
④本人の心理的ニーズが満たされるような支援を行う(P52)
③心理的ニーズを知る(P51)
認知症の高齢者は様々な認知機 能の障害のために、誰もが持つ心 理的ニーズを自らの力で満たすこ とが難しいです。周囲の人や支援 者は、認知症の高齢者の上手く表 現できない思いや、満たされない ニーズを共に考え、言動や行動の 背景にある思いを知ることが必要 です。
②5 つの視点からアセスメント を行い、本人の状態を判断 する(P50)
認知症の高齢者の症状や行動 には必ず意味があります。本人の 言葉で表現できない感情を 5 つの 視点(①脳の障害②健康状態③生 活歴④性格⑤環境(その人を取り 囲む社会心理)から捉えることで、
本人を理解する手がかりになりま す。
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◆コミュニケーションのポイント
① わかりやすい言葉で簡潔明瞭に話す
一度に多くの情報を伝えると混乱しやすいので、一つずつ区切って話します。
② 多感覚的な手がかりを活用する
言葉だけでなく、身ぶりをつける、わかりやすく文字で書く、写真などを示す、音や味・
香りのする小物を活用し、本人から表現や応答の意欲を引き出します。
③ 選択肢を用いた質問をする
漠然とした質問ではなく、自分で選択することによって、主体性を尊重されていると感 じられます。
④ 最後までしっかり話を聞く
話の途中で間違いがあっても、訂正や否定をせず、最後まで話を聞きます。
中断すると何を話していたのかが分からなくなり、訂正されると失敗をしてしまったと 思い、不安になります。
⑤ 会話を補い、話を促す
会話の中で、内容の要領が得ないものになっている時は、キーワードを差し挟んだり、
欠けている情報を適当な言葉で補い、内容を明確にします。
⑥ 疎外感を与えないようにする
本人の前で家族と話をするときは時々話題を振り、会話に参加してもらいます。
⑦ 昔の話を聞く
昔のことはよく覚えているので、進んで話してもらいます。
昔話には、その人の人生について豊富な情報がたくさんあります。
⑧ 本当に伝えたい気持ちを意識する
言葉の背後にある、本当に伝えたい気持ちや要求を意識し、それに応えるような言葉を 返します。隠れた気持ちを汲み取ることで、安心感を与えることができます。
① コミュニケーションのポイントを押さえる
認知症の高齢者は言語能力が低下しても、誰かと話をしたい、自分の気持ちや考えを伝え たいという思いを私たちと同じように持ち続けています。
コミュニケーションを通じて周囲の人たちとの絆を保ち続けることで、自分はまだみんな の仲間であり、存在する価値があるという感覚を取り戻します。
支援をするためには、積極的にコミュニケーションを図る必要がありますが、認知症の高 齢者はたくさんの音があると気が散りやすく、時に不安を感じてしまうため、できるだけ静 かな環境の中で話しかけるなど、時間や場所などに配慮します。
また、認知症の高齢者は相手の雰囲気を感じ取る直感力が鋭いため、支援者は信頼できる 人、安心できる人と思ってもらえるように、話をする時の姿勢、表情、口調などにも注意し ます。
コミュニケーションのポイントに注意しながら、相手との会話や言葉の内容だけでなく、
行動にも注目し、わずかな変化も見逃さないように心がけます。
参考:小長谷陽子『本人・家族のための若年認知症サポートブック』
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◆アセスメントを行うための 5 つの視点
① 脳の障害
脳の障害は、認知症の高齢者の行動にもっとも影響を及ぼします。
認知機能の状態を確認し、不安や不快感をアセスメントします。
② 健康状態
認知症になると、自分の健康状態が悪化しても、適切な言葉で表現することが難しくなりま す。
いつもとは違う突発的な行動の裏には、思わぬ病気や薬の副作用などが隠されていることも 多いので、健康状態や、目や耳の状態などを確認することが大切です。
③ 生活歴
人は今までどのような人生を歩んできたかによって、物事の考え方、捉え方や行動様式が違 います。
今、目の前にいる認知症の高齢者の状態や行動を理解するには、生い立ちや生活歴、とくに 人生の転機となるような過去の出来事を知ることが必要です。
④ 性格
性格は認知症の高齢者の症状の現れ方に影響を及ぼします。
その人の性格を踏まえて、症状を理解し対応するために、元来の性格(気質)を把握するこ とが必要です。
⑤ 環境(その人を取り囲む社会心理)
認知症になっても、感情やプライドは豊かに残っています。
認知症の高齢者を取り巻く対人関係が、本人の行動に与える影響は非常に大きいです。
また、物理的な環境が影響していることもあります。
② 5 つの視点からアセスメントを行い、本人の状態を判断する
認知症の高齢者は、自分の要求や思いを相手に伝えることが難しいため、自分にできる手 段・方法を用いて何かを伝えようとします。
それが周りからは奇異な言動・困った行動と映ります。
その訴えを単なる「困った行動」と片付けるのではなく、何を伝えたいかを考える必要が あります。
認知症の高齢者を 5 つの視点(①脳の障害 ②健康状態 ③生活歴 ④性格 ⑤環境(そ の人を取り囲む社会心理)からアセスメントし、本人の真意を理解した上で、状態を判断す ることが必要です。
・暴力・暴言
・落ち着きなく歩き回る(徘徊)
・人の助けは借りたくない
(介護拒否)
実は…「子供扱いしないで欲しい」という周囲 の関わりへの不満の訴えかもしれません
実は…「お腹の具合が変だけどどうしたらよい だろう」という体調不良のサインかもしれません
実は…「人に迷惑をかけたくない」という性格 の表れかもしれません
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③心理的ニーズを知る
認知症の高齢者の心理的ニーズを大別すると、右の 図のように 5 つのニーズに分けることができます。こ れは、誰もが持つ当たり前のニーズであり、私たちは 意識する、しないに関わらず、そのニーズを満たすた めに行動しています。しかし、認知症の高齢者は様々 な認知機能の障害により、自らの力で満たすことが難 しくなり、また他者に自分自身の思いが気づかれにく く、ニーズを満たしてもらうことが難しくなります。
周りの人や支援者は、認知症の高齢者が上手く表現 できない言動や行動の背景には、どのような潜在的ニ ーズがあるかを知り、どんなニーズを満たしたいと思 っているのかということを考え、本人の心理的ニーズ を満たしていくための支援につなげることが大切です。
心理的ニーズ
(潜在的ニーズ)
◆心理的ニーズを意識する
① くつろぎ
様々な障害によって不安感や不快感を抱きやすく、そこから逃れるために歩き回ったり、
それを止めようとする人に抵抗したりします。それは、ケアへの敵意や反抗ではなく、心 身ともにくつろぎたいと願っているからです。
身体的な苦痛がなく、他者との交流を通して、心からゆったりとリラックスできる安心の 感情を求めています。
② アイデンディティ(自分が自分であること)
過去の記憶が失われ、断片的にしか残らないため、「過去からつながっている自分である」
という感覚が失われやすくなっています。自分が誰かを知っていること、過去との連続性 を感じていられることは、人としてもっとも重要なニーズです。
認知症の本人が忘れてしまっても、周りの人がその人の人生歴を覚えていて、過去と現在 をつなぎ、「自分でありたい」というニーズを満たしてあげることが必要です。
③ 結びつき
記憶障害や見当識障害のため、自分と周りの世界とのつながりが途切れやすくなります。
昔からよく知っている馴染みの人や物とのつながりに頼ることによって、安心を得たいと 感じ、誰か他の人との絆や結びつきを求めています。
④ たずさわること
火の不始末があるから家事をさせない、失敗すると危険だからと仕事や役割を奪われるこ とが多くなります。それでもなお、自らの能力を使って「人々や社会の役に立ち、認めて もらいたい」と思っています。
⑤ 共にあること
認知症になると、人の輪から外され、無視されることがあります。そのため、疎外感を感 じ、「誰かと共にある」ことを求め、社会から排除されず、人や社会とのつながりの中で生 きていることを実感したいと願っています。
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