1.1 高齢者、障害者等に配慮した建築物整備の考え方
(1)すべての人に使いやすい建築物とは
すべての建築物は可能な限りあらゆる市民の利用を想定しておくことが望まれる。本設計標準 の目的はすべての人に使いやすい建築物整備にあたり、建築主、設計者に適切な設計情報を提供 すること、高齢者や障害者等の設計配慮に対して具体的な考え方及びその手法を示すことにある。
さらに建築物を維持管理する人々、建築物を利用する人々に対しても必要な情報を提供するもの である。以下に使いやすい建築物を目指した考え方を述べる。
・すべての人に使いやすい建築物とは、地域で生活し、あるいは地域を移動するすべての人 の利用を目標として整備された建築物のことである。建築物の範囲は、公共施設、民間施 設を問わず、また、働く場であるか、遊ぶ場であるか、学ぶ場であるかを問わず地域に存 在する大半の建築物のことである。
・建築物の整備において、すべての人の公平な利用に供することは決して容易なことではな いが、市民、事業者、行政などさまざまな人々が、それぞれの立場で協力し合い、支え合 い、高齢者や障害者等の円滑な利用に配慮した物理的環境整備を図ることが求められる。
・すべての人に公平に使いやすい建築物を計画するためには、さまざまな利用者の利用特性 を十分検討する必要がある。そのためには、建築主や設計者は、必要に応じて市民,利用 者の意見を聞き、参画を求め、利用者のニーズを理解し、可能な限りすべての人に使いや すい建築物を実現するよう努める必要がある。
・建築物のバリアフリー化を図る際には、建築物内部の対応はもちろんのこと、道路や敷地 内通路から所要諸室(利用居室)まで連続的かつ安全に移動・利用できるよう物的整備・
人的配置等を総合的に計画する必要がある。
・バリアフリー法において、高齢者、障害者等とは、「高齢者又は障害者で日常生活又は社会 生活に身体の機能上の制限を受けるもの、その他日常生活又は社会生活に身体の機能上の 制限を受ける者をいう。」とされており、妊産婦、けが人など一時的に制限を受ける人々や、
身体の機能上の制限を受ける知的障害者、精神障害者及び発達障害者もすべてバリアフリ ー法に基づく施策の対象とされている。またこのような法的解釈の上に立って、すべての 市民の利用を考えることになる。
・移動と利用が円滑な建築物は、ハード的な整備だけでは達成されるものではない。整備さ れた建築物が適切に管理され、維持されることが重要である。使用開始後は利用者の意見 を聞き、運営上、設備上改善の必要あれば、順次改善していくことも考えなければならな い。設計者や施設管理者はこうした利用後の意見を蓄積して、よりよい建築物、生活環境 の整備に努める必要がある。
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(2)高齢者、障害者等の対応の考え方
すべての利用者のうち,高齢者、障害者、児童・乳幼児等、そして外国人については、特にそ の利用特性を把握する必要がある。例えば,車いすを使用する人の場合、下肢、上肢、あるいは 体幹の障害部位、車いすを移動する推進力等によって車いすを利用する特性は異なる。視覚障害 者であれば,受障年齢、視覚障害の内容、見え方、受障後の生活訓練体験,就労経験、外出頻度、
単独での外出者であるか等によって建築物の利用に係るニーズが異なることもある。聴覚障害者 の場合は、文字情報伝達手段の必要性は共通であるが、ろう者と中途聴覚障害者では手話などコ ミュニケーション手段に相違が見られるので、これらの相違についても学習する必要がある。
知的障害者や発達障害者は、コミュニケーションや情報の発信、情報の入手が不得手な人が多 い。静かな環境などを確保するなど、物理的環境や周囲の人間関係からの不安を生じさせないこ とが重要である。精神障害者の場合も同様に、環境不安を生じさせない分かりやすい空間計画、
施設運営に努める必要がある。
また、乳幼児などが主として利用する保育所などの施設にあっては、乳幼児の行動特性を十分 に観察し、移動や利用の安全性の確保に努めることが必要である。
上記の考え方を踏まえ、建築物を計画していく上で、特に留意すべき点を以下に示す。
・本設計標準は建築物のバリアフリー化に共通的な考え方と目標を示したものであるが,利 用者の特性や施設用途,あるいは工事費や立地環境等により整備方法が異なる場合があり、
建築主や設計者の工夫が求められる。利用や用途の特性を十分に検討し、設計標準を画一 的に適用することがないよう努める。
・基本的には、法に基づく建築空間や設備等によるバリアフリー化を第一に考えなければな らないが、福祉用具や職員配置(介護、手話通訳、誘導案内等)による支援もあわせて検 討する。例えば、児童や知的障害者等の利用を想定した場合は、物理的な環境整備を進め るだけではなく、利用を支援する職員配置にも留意する。
・高齢者、障害者等は火災や地震などの非常災害の際に特に避難上の制約を受けやすいので、
安全な避難動線の確保、避難場所の整備、非常通報の設備等について十分留意する。特に 専ら高齢者、障害者等が利用する建築物の計画に際しては特に留意しなければならない。
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(3)ソフトとハードの相互補完と対応について
高齢者、障害者等の社会参加を進めるためには、建築物の利用に際してソフトとハードの両面 からのサポートが必要である。このため、以下の点について留意する。
・建築的な対応によってバリアフリー対応を行うことを基本とするが、施設の運営、管理、
人的対応等のソフトによって、より利用しやすいように工夫する。
・施設は使用開始後に利用者のニーズが増加し、多様化することが考えられるので、建設後 の改修についても柔軟に対応できるように維持管理、運営面での配慮が求められる。
・優先課題と思われる非常時の安全対策には、施設、設備的な配慮に加えて、人的サポート も包含した総合的なバリアフリーの観点からの防災システムの構築が必要である。
・盲導犬、聴導犬、介助犬等補助犬を利用している方々の施設利用については十分に配慮す る。
(4)使いやすい建築物整備に向けた情報の蓄積
すべての人が使いやすい建築物の設計を行うためには様々な設計経験、施工経験、運営経験の 蓄積が重要となる。利用者個人の情報提供も重要な設計情報である。建築主、設計者、施設管理 者、行政は設計や施設運営に必要となる情報の収集と情報の公開に努め、それらの経験を次の設 計、改修事例につなげていくことが求められる。こうした作業を繰り返すこと(スパイラルアッ プ)によって、利用者のニーズに対応したきめの細かい建築物の設計や施設管理が達成される。
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