3 高齢者の基盤化スタイル
3.4 考察
3.4.3 高齢者の承認の特徴
ると、個別 ack の価値は高いと言えるだろう。
汎用 ack、個別 ack、ack init の3つを証拠性の価値から眺めてみよう。少なくとも、
汎用 ack は低く、他の2つはそれよりも高いとは言えるだろう。
ここで、「3.3.3 承認の内訳」の結果に戻ってみたい。高齢者には、汎用 ack が多く、
個別 ack と ack init が少なかった。ack init は特に少なかった。この結果をこれまで の議論に照らし合わせて考えてみると、高齢者は、証拠として価値の低い承認を多用 していた、ということになる。
このような高齢者の傾向が、「高齢者は話をちゃんと理解しているかどうかわからな い」などという否定的な印象につながっているのかもしれない。しかし、高齢者の対 話の基盤化率が、若年成人の対話に比べて際だって低い、ということはなかったので ある(「3.2.4 談話ユニット」参照)。高齢者のどの ack も、開始された基盤化過程を
「現在の目的に対して十分な程度、共通基盤の部分として確立する」ための機能を果 たしていた。21 そうであるならば、証拠として価値の低い ack を多用するからといっ て、「理解していないのではないか」と安易に解釈することはできないのではないだろ うか。
3.4.4 2つの基盤化スタイル
この節では、これまでに得られた結果を別の角度から眺め直してみたい。
まず今までに、どのような比較によって分析を行ってきたのかを振り返っておく。
対話データは、年齢および対象者の住む場所の違いによって3グループに分けられた。
厳密な統制条件の下でとられたものではないため、まず暫定的に3つのグループに分 けで比較を行った。その結果、地域による差はほとんどなく、年齢による差だけが有 意であったので、年齢に着目して発展分析を行い、考察を進めてきた。その結果、以 上の4点が高齢者の基盤化過程の特徴として浮かび上がってきた。
(1)高齢者対話の提示部分には、「init+cont」型が多かった。
(2)高齢者対話の承認部分には、複 ack 型が多かった。
(3)高齢者対話には、ack init が少なかった。
(4)高齢者対話には、汎用 ack が多かった。
つまりこれら 4 つの特徴は、暫定的な比較の結果、得られたものである。そこで、
この節では、これらの特徴を個別のペアに当てはめて分析を行う。
(1)~(4)の特徴を持つ基盤化スタイルをスタイル A、逆の特徴を持つスタイ ルをスタイル B としよう。スタイル A は、すべての高齢者ペアにあてはまるのであろ
21 Clark, 1996, p.221
うか。スタイル B はすべての若年成人ペアの特徴となっているのか。このことを調べ るために、13 すべての対話について順位を付け、順位検定を行った。22 表 3.12 が その結果である。網掛けの付いているセルは、それが高齢者ペアによる対話であった ことを示す。また、左側へ行くほどスタイル A の特徴が強く、右へ行くほどスタイル B の特徴が強く表れるようにしている。「ack init の割合」については、左側が行くほ ど割合が低く、右側へ行くほど割合が高くなっている。その他の項目については、左 側へ行くほど多く、右側へ行くほど少なくなっている。
表 3.12 4つの特徴による 13 対話の順位付けの結果
項目 \ 順位 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13
OR4 OU3 OU2 OR3 OR2 OR1 OU1 OR5
2.5 2.0 1.8 1.8 1.7 1.7 1.5 1.4
YR4 YR1 YR5 YR2 YR3
提示部分 UU 数
(init または cont 数)
1.7 1.6 1.5 1.4 1.4
OU2 OR2 OR4 OR3 OR5 OR1 OU3 OU1
1.6 1.6 1.4 1.3 1.3 1.3 1.2 1.2
YR5 YR4 YR1 YR3 YR2
承認部分 ack 数
1.3 1.2 1.2 1.2 1.1
OR1 OR4 OR3 OR2 OR5 OU3 OU2 OU1
4.0 5.3 5.5 7.3 8.0 9.7 10.3 11.8
YR4 YR1 YR5 YR2 YR3
ack init の割合
(%)
11.2 12.4 15.0 32.5 33.5
OU1 OR5 OR1 OU3 OR3 OR4 OR2 OU2
67.7 64.2 60.7 59.2 56.3 56.0 49.6 44.8
YR1 YR2 YR3 YR5 YR4
汎用 ack の割合
(%)
51.4 36.6 33.5 33.3 25.2
どの項目も、左から 4 列目まではすべて高齢者ペアで占められた。逆に右型の2列 には高齢者ペアは存在しない。順位 5~11 には高齢者ペア、若年成人ペアが入り交 じっているが、どちらかというと高齢者はスタイル A 側に、若者はスタイル B 側に分 布していると言える。また検定の結果は、(1)U (8,5)=8, p=0.10;(2)U (8,5)=5, 0.02<p≦0.05;(3)U (8,5)=1, p<0.01;(4)U (8,5)=2, p=0.01 であり、(1)提 示部分の UU 数は 10%水準で有意傾向、それ以外は 5%水準で有意差があった。
この結果より、高齢者ペアの基盤化スタイルは A 型、若年成人ペアの基盤化スタイ ルは B 型であると言うことができる。しかし表 3.12 によると、スタイル B 側に位置 する高齢者ペア、スタイル A 側に位置する若年成人ペアも存在している。若者のよう に話す高齢者、高齢者のように話す若者が存在することを考えると、このような例外 は自然なことであろう。
年齢グループによって違いのあった提示部分、承認部分、ack init、汎用 ack の4 つの特徴に基づき、個別ペアで順位検定を行ったところ、年齢によって大まかに分け られる2つの基盤化スタイルの存在が確かめられた。
22 マン・ホイットニーの U による。
しかしこの観察は厳密に条件を統制して行ったものではない。条件を統制してここ で得られた仮説を確かめることは重要なことであろう。