2 コミュニケーションスタイルの研究
2.2 基盤化モデル
2.2.4 基盤化アクトモデルにおけるタグ付与の信頼性
本研究では、当事者の視点によらず、シグナルベースで外からの詳細な基盤化過程 を観察することが可能である点を最大の理由とし、さらに機能が付与しやすく、検証 も容易であるという理由から、Traum の基盤化アクトモデルを元に基盤化スタイルを 分析した。このモデルには、Traum 自らが指摘しているように、基盤化の程度が扱え ないこと、基盤化アクトが発話ユニットの大きさに強く依存すること、実行された時 点では基盤化アクトが決められないこと、コストの異なるメディアを扱えないこと、
といった不足点がある(Traum, 1999)。したがって本研究においても、基盤化の程 度や発話開始時点での基盤化スタイルなどは扱えない。ただし、発話ユニットに関し ては、機械的に 100 ミリ秒以上の休止を区切りとし、基準をそろえることとした。
信頼性について Krippendorff(1980)は、安定性、再現可能性、正確性という3 つのタイプがあるとしている。安定性はもっとも強度が弱く、これは例えば同じ一人 の人が時間をおいて同じデータにタグ付けをするなどして確かめられる。再現可能性 の強度がその次で、これは複数の人が独立して、互いに相談することなく、同じデー タに対してタグ付けすることによって得られる信頼性である。正確性は基準が確定さ れている場合にはもっとも強い信頼性の指標となる。しかし発話やテキストなどに対 してタグ付けをする場合は、基準そのものを確定することが難しいので、言語データ に対するタグ付けは、少なくとも再現可能であるべきとしている。
Carletta らの研究では、談話の分割、口頭指示とマニュアル指示によるタグ付け、
他の領域の談話におけるタグ付けなどについての信頼性を検証している(Carletta, Isard, Isard, Kowtko, Doherty-Sneddon and Anderson, 1997)。信頼性を多方面から 検証することは重要なことであるが、本研究では、発話ユニットについては機械的な 基準を設けることで信頼性が得られるとし、その他、研究の根幹に関わるものとして タグ付けの信頼性を取り上げ、高齢者と若年成人の対話をデータとして、マニュアル に基づくタグ付けの信頼性を検証した。
検証実験にあたって、まずタグ付けマニュアルを作成した。マニュアルには、基盤 化アクトモデルの基本概念、7つの基盤化アクトの定義、発話例に基づく基本的な基 盤化アクトの付け方、フィラーがあったときや同時発話が起こったとき、また1つの 発話ユニットが2つの機能を持つときなど、基盤化アクトを付ける際に特に注意を要
する場合について記載した。12 このマニュアルに基づき、3人にタグ付けを依頼し た。検証データには2箇所の対話を用いた。それぞれ 2.5 分ずつの対話で、1対話は 高齢者の対話から、もう1対話は若年成人の対話からとった。この検証用対話は、収 集した対話データの一部分であるが、本研究での分析対象とは異なる部分とした。マ ニュアルを、分析対象データを基礎に作成したため、これとは異なる部分にもタグ付 けが適用できるかを検証するためである。
3人にまずタグ付けマニュアルを読むよう指示を行い、およそ 40 発話分の対話に ついてタグ付けの練習を行ってもらった。タグ付け基準について疑問がある場合は、
積極的に質問を行うように指示した。実際のタグ付けは、書きおこされたテキストと 音声に基づいて行われた。
3人の被験者間の評価者間信頼性は、高齢者の対話については一致率 84%(K=.77, 発話ユニット数=203, 評価者数=3, カテゴリ=9)、若年成人の対話については一致率 75%( K=.68, 発 話 ユ ニ ッ ト 数 =114, 評 価 者 数 =3, カ テ ゴ リ =9) で あ っ た 。 Fliess
(1981)は K=.75 以上を非常によい、K=.40-.75 をよいとしているので、これらの 値は非常によい~よい範囲にあると言える。13
したがって本研究で行ったタグ付けは、基盤化スタイル研究の基礎として用いるの に十分なものであると判断できた。14
12 タグ付けマニュアルについては付録 A を参照。このマニュアルは作成当初のものである。
13 K 値とは Cohen’s Kappa 値のことで、2人の判断の一致率についての統計量である。K=(判断 の一致率―偶然の一致率)/(1-偶然の一致率)で算出する。3人以上の一致率を見るように も拡張がなされており、本文に記載した K 値は、これで算出している。表中の値は2人用の計算 式で算出している。
14 さらに評価者間のタグ付けを詳細に見て、現マニュアルの問題点を洗い出したが、この結果は付 録 B に報告する。