5 描画を伴う対話
5.2 分析
まず発話ユニットの数、区分描画の数など、基本的なデータを示す。その後、休止 とオーバーラップについての分析結果を示す。
5.2.1 区分描画数・発話ユニット数など
区分描画は、X によるものが 157、Y の指によるものが4つあった。X による 157 の区分描画のうち、149 は自分の発話中か、または自分の発話に引き続いて始められ た。8 は Y の発話中か、Y の発話の切れ目に始められた。以下では、Y による描画は 分析対象にはしていない。
発話に関する概要は表 5.2 に示す通りである。この表の数の中には Y の指による描 画に関連する発話は含まれていない。
表 5.2 発話ユニット・基盤化アクトの分布・談話ユニット
合計 X Y
UU 1028 587 441
基盤化アクト
init 290 234 56
cont 269 218 51
repair 8 6 2
reqRepair 6 0 6
reqAck 5 5 0
ack 344 70 274
ack init 108 54 52
DU 395 287 108
区分描画の数、談話ユニットの数から、情報は、音声発話によっても、描画によっ ても、X から Y へと流れていることがわかる。
5.2.2 休止
100ms 以上の発話の休止の発生回数は、436 回であった。これを描画中の休止と描 画していないときの休止に分けて数えるとそれぞれ、164 回と 272 回であった。発生 回数について、100ms 単位で発生頻度を調べた。図 5.2 に示す。
0.0%
10.0%
20.0%
100ms以下 501ms- 1001ms- 1501ms- 2001ms以上
描画中でない 描画中
図 5.2 100ms 以上の休止の 100ms 単位での発生頻度
描画中の発話の休止の平均長は 667ms、描画中でない場合は 519ms であった。描 画中の発話休止は、描画していないときよりも長い傾向にあることがわかった。
この結果は、次の2つを示唆する。1つは、描画中は発話をしなくてもよいという ことであり、もう1つは、描画には発話を妨げるなんらかの効果があるということで ある。
5.2.3 オーバーラップ
一般的に、一方が発話による情報提示を行っている間、他方がそこへ割って入って まで情報提示を行うことはあまりない。音声の重なり(オーバーラップ)が明瞭な聞 き取りを妨げるなどの理由が考えられる。描画中はどうであろうか。もしなんらかの 力が働いていれば、発話による情報提示中に相手のオーバーラップ発話による情報提 示が起こらないのと同程度、描画中にも相手のオーバーラップ発話による情報提示が 起こらないはずである。そこでこの節では、音声発話だけで構成された DU(情報提 示)数とその中で相手のオーバーラップ発話による情報提示が起こった比率と、区画
描画数とその中で相手のオーバーラップ発話による情報提示が起こった比率とを比較 した。
表 5.3 は、X の描画中でない DU 数とオーバーラップ数、オーバーラップの割合で ある。表 5.4 は X の区画描画数とオーバーラップ数、オーバーラップの割合である。
表 5.3 DU へのオーバーラップの割合(描画中でない)32 XのDU数(描画中でない) 153 オーバーラップされたDU数 17
割合 11.1%
表 5.4 区分描画へのオーバーラップの割合
Xの区分描画数 149
オーバーラップされた区分描画数 25
割合 16.8%
数だけを見ると、描画中にオーバーラップを起こす割合が高いように見えるが、統 計的に有意差はなかった (Z0=1.42, p=0.16, 両側検定)。
さらに、描画中のデータについて、相手のオーバーラップ発話による提示情報の内 容を詳しく見てみると、いくつかは描画内容への承認ないし修理要求と判断できるも のであった。抜粋 5.2 に一例を示す。
対象データからの抜粋 5.2
基盤化アクト UU# 発話など
init26 41.1 X : こうこっちの方に[水回りがあり]
ack26 init27 42.1 Y : [裏表な]
この発話の前すでに、マンションの一フロアの輪郭を示す2本の縦線と、2軒の家 を区切る横線が描かれている。UU4.1 は、X が下側の家の内部に「水回りな」と言い ながら線を引いているところである。Y はその描画から水回り、つまり流し台が2軒 の家の間にどのように位置しているか気づき、「裏表な」という発話によって、流し台 の位置を確認した。
この発話は、描画の内容に直接向けられた承認として機能している。音声発話だけ を頼りに基盤化アクトを付与すると、このような発話には ack init が付与されること
32 この表の示すオーバーラップの値は、Levinson(1983)が紹介している5%という値に比べる とたいへん高いものに見えるかもしれない。しかし、例えば、榎本・土屋(1999)の日本語地図 課題対話では45%以上のオーバーラップが報告されており、オーバーラップの割合は、設定によ るところが大きいと思われる。本データでは、同じ設定での割合を比べている。
になるが、このように異なる表現形態間にも基盤化機能が働くと考えれば、このよう な発話は実際のところ、ack init とはなり得ない。すなわち、このような発話は、描 画中のオーバーラップ発話による新たな情報提示であるとは考えられない。
表 5.5 は、描画に対する発話による承認や修理要求など、異なる表現形態間での基 盤化機能発話を除いて数えなおした数である。この数に基づいてオーバーラップ率を 比較したところ、区画描画へのオーバーラップ率と描画が絡まない DU へのオーバー ラップ率はほとんど同じになった (Z0=0.44, p=0.66, 両側検定)。この結果より、描画 の相手オーバーラップ発話による情報提示を妨げる力は、DU と同程度であることが わかった。
表 5.5 区分描画へのオーバーラップの割合(再計算)
X の区分描画数 149
オーバーラップされた区分描画数 19
割合 12.8%