ここでは、3つの異なる設定で見いだされた基盤化スタイルを考え合わせると、ど のような応用が可能になるかについて考えてみたい。例として、3章・4章の結果を 併せて取り上げる。
4章の研究から、人とシステムのインタラクションには4つの基盤化スタイル変数 のあることがわかった。
(1)init 行動が並列される程度
(2)init 行動に対し ack が期待される程度
(3)init 行動に対する ack 行動の頻度
(4)ack 行動の並列の程度
である。3章の研究から、高齢者同士の対話が若年成人同士の対話に比べて次のよう な特徴を持つことがわかった。
(1)高齢者対話の提示部分には、「init+cont」型が多かった
(2)高齢者対話の承認部分には、複 ack 型が多かった
(3)高齢者対話には、ack init が少なかった
(4)高齢者対話には、汎用 ack が多かった
である。この4つもまた基盤化スタイル変数であると言える。この他にも高齢者同士、
若年成人同士という人同士の対話を人とシステムとのインタラクションと比べてみる と、基盤化が直列で行われるという特徴があったと言えるだろう。
さて、ここでは例として、2つの研究に共通する基盤化スタイル変数である複数 ack
(あるいは並列 ack)の用いられ方について考えてみよう。人とシステムのインタラ クション研究の基盤化スタイル変数(4)と高齢者対話研究の(2)についてである。
以下に図 4.5 を再掲し、図で振り返ってみる。
高齢者同士の対話では、時間的に直列な複数 ack というパターンが比較的よく見ら れた(図 6.1 上)。システムとのインタラクションにおいては、時間的に並列な ack が非常に多かった(図 6.1 下)。
図 6.1 1つの init の後に複数の ack が行われる2つのケース(図 4.5 の再掲)
基盤化スタイルのこのような違いを例にとって、例えば、高齢者にふさわしいユー ザインターフェイスとはどのようなものか、ということについて考えてみよう。今ま でに、高齢者向けの改善としては、色が識別できにくくなったことに対応してはっき りした色づかいをする、高音が聞こえにくくなったことに応じて音の周波数を調整す るなどの変更がなされてきている(共用品推進機構, 1999a)。つまり例えばここでは 高齢者という特定のグループの特性をさぐり、それに応じた使いやすさが、誰もが使 うシステムへ実装されてきていることになる。同じように、基盤化スタイルの違いを 対話型インターフェイスへ実装するという応用も考えられるのではないだろうか。
ここで、どのような観点から考えると、基盤化スタイルが、例えば、色が識別でき にくくなった、あるいは高音が聞こえにくくなったという高齢者の特性に対応するも のとなるのかを明確にしておこう。
基盤化スタイルとは、ある設定において観察される基盤化機能のつながりの例外や 頻度などを指している。例えば、人同士の発話では、基盤化過程が直列的に連なると いう基盤化スタイルがあったが、この奥には、音が重なると聞き取りにくくなるなど という理由があるのだろう。それに対し、人とシステムとのインタラクションにおい ては、基盤化過程の開始や基盤化行動が並列などの基盤化スタイルがあった。こちら には、例えば表示デバイス数が多いなどの理由があるのだろう。つまり、基盤化スタ イルが現すものは、その基盤化スタイルが取られた理由ではなく、なんらかの理由に よって作られた特徴ということになる。先ほど例に出した高齢者の特性、すなわち色 や高音の識別が困難になるという特性も、特にそれが起こる理由を問うものではない。
このような特性に合わせたシステム設計は、そういう特性を所与のものとしているの である。そこで例えば、高齢者が持つ、時間的に直列な ack を多用しがちであるとい う基盤化スタイルも、その背景がどのようなものであれ、所与のものとしてシステム 設計に応用することができるのではないだろうか。
Ack Ack
S Init Ack F
Ack
Ack
S Init
Ack Ack F
これに対しては、次のような反論も考えられる。人はシステムと対話を行うときは、
人同士とは異なった振る舞いをすることがわかってはいるのだから(Brennan, 1991)、
高齢者もシステムと対話をするときは、人同士とは異なった振る舞いをしていること だろう。したがって、高齢者とシステムとの基盤化スタイルを明確にすることが先決 で、人同士の基盤化スタイルは、システム設計に組み込むほどのものではないのでは ないか、という反論である。しかし他方では、高齢者の話し方のスタイルは変わらな いという研究もあるのだから(Kemper, Vandeputte, Rice, Cheung and Gubarchuk, 1995)、振る舞いの変化が若年成人に比べて少ない可能性もある。また、高齢者がシ ステムに合わせているとしても、どの程度合わせているのかは、基盤化スタイル研究 のようなコミュニケーションの質を記述するような研究を通してでなければ、なかな かはっきりとは見えてこないのだから、今までに基盤化スタイル研究がなかった以上、
この点についてなんらかの共通理解が得られているわけではない。これらのことから、
高齢者同士の基盤化スタイルを基準にしてのシステム設計の見直しが示唆されるので はないだろうか。例えば、一度に ack するのではなく、時間的に順を追って ack する ような設計、あるいは、ack を減らすような設計も、使いやすいインタラクションに 寄与する可能性があるだろう。
もう一つ、例を挙げて考えてみたい。4章の研究では、「人はシステムが出す信号を 基盤化に利用している」との前提で行われた。しかし例えばボタンへの点灯などを基 盤化シグナルとして解釈させるためには、「ボタンへの点灯とはボタンが押されたこと を示す承認シグナルである」という社会的な慣習が必要となるのではないだろうか。
ある慣習によると、「ボタンが押し込まれた」ことだけが、承認シグナルであるかもし れないし、また別の慣習によると、「ボタンが押し込まれ、点灯し、『押されました』
と言う音声応答」が承認シグナルとして通用しているかもしれない。もちろん、何度 かその慣習にさらされると、人はそれを学習すると思われるが、ある種の行動はある 種のシグナルとして働くと前提されるだけで、すべての人に必ずしもその前提が通じ るとは限らないだろう。こう考えれば、設計者があるデバイスにはある基盤化機能が あると想定し、その想定に基づいてある基盤化機能を設計に盛り込んだとしても、そ れが必ずしもユーザに伝わるとは限らないことになる。例えば、同じシステムに対し、
高齢者と若年成人とがインタラクションを行い、その基盤化過程を観察したとする。
その結果、基盤化スタイルが異なったものであったとする。違いの背景として思い浮 かぶものに、高齢者(あるいは若年成人)側に備わっている例えば視力の特性という ものがあるだろう。しかしそれだけでなく、高齢者(あるいは若年成人)が持ってい る慣習が若年成人(あるいは高齢者)と異なるため、設計者の意図通りにシグナルを 受け取らなかった、というような可能性も捨てきれない。そこで例えば、高齢者の日 常的なさまざまな対面対話に見られる基盤化スタイルを出発点に、システムとの基盤 化過程を詳細に分析すれば、設計者はどのようなシグナルが有効であるかについての 示唆を得ることができるのではないだろうか。
このように、個別の設定で明らかになった基盤化スタイルは、共通する基盤化スタ イルの変数から総合して考察することができ、より具体的なシステム設計や評価へと つなげることができるだろう。