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類型別に見た諸意識の違い

ドキュメント内 学位授与機関 同志社大学 (ページ 68-75)

第Ⅱ部 職業における「自由」の新たな可能性

3 類型別に見た諸意識の違い

これまでのフリーター研究では、フリーターに特有の就労意識について言及されること が多かった。そこでは、フリーターはその他の者に比べ、職業をとおして成長したいとい う意識が低いこと、安定的な職業への志向が弱いことなどが指摘されている(長須 2003)。 同様のことは大学生についても言われており、職業をとおして成長したいという意識が低 い者ほど卒業後の進路が未決定になりやすいことが明らかにされている(三宅 2005)。こ うした傾向をふまえ、「フリーターたちの就労意識は未成熟である」といった指摘がしばし ばなされている。

しかしながら、こうした指摘が的確なものだとはいいきれない。既に述べたように、フ リーターになってもよいとする者や正社員になりたい者のそれぞれの内部が同質的だとは 考えにくい。それゆえ、就労意識も前述の類型ごとに異なっていることが予想されるから である。まず、こうした就労意識について検討しよう。

就労意識として、ここでは安定職業志向(安定的な職業を求めるかどうか)、やりがい志 向(やりがいのある仕事がしたいと思うかどうか)、成長志向(仕事を通して成長したいと 思うかどうか)、多様性志向(いろいろな仕事がしたいと思うかどうか)という4つをとり あげる。これらに関わる項目として、調査では自分自身が仕事をするにあたって(A)「安 定した仕事につけること」、(B)「安定した収入が得られること」、(C)「目標をもって仕事 ができること」、(D)「充実感が得られること」、(E)「仕事を通して成長できること」、(F)

「いろいろな仕事ができること」がどれくらい重要であるかが、それぞれ5段階で訊ねら れている。これらをもとに、(A)(B)は安定職業志向、(C)(D)はやりがい志向、(E)

は成長志向、(F)は多様性志向をあらわす変数として設定し、分析に用いる8

就労意識の4変数について、類型間での平均の差の比較をおこなった結果が表 4.5およ び図 4.2である。表 4.5は類型ごとの平均値を示したもの、図 4.2は違いをより明確にす るために得点を標準化しグラフ化したものである。図表から読み取れる傾向を、変数ごと に述べておこう。

8このとき、「重要である」に5点…「重要ではない」に1点というかたちでそれぞれの項目をスコア化(5 満点)する。ただし、安定職業志向とやりがい志向については2項目から構成されるため、それぞれの項目を 足して2で割り、5点満点になるよう調整する。

- 58 -

表 4.5 各類型の就労意識(平均値の差)

安定職業 志向

やりがい

志向 成長志向 多様性 志向

全体 4.336 4.616 4.587 3.457

【同調】地位・定職 4.649 4.722 4.711 3.649

【儀礼】非地位・定職 4.387 4.693 4.640 3.160

【革新】地位・フリ許容 4.280 4.650 4.600 3.700

【逃避】非地位・フリ許容 3.894 4.366 4.352 3.338

p 0.000 0.000 0.009 0.006

図 4.2 各類型の就労意識(標準得点)

-0.800 -0.600 -0.400 -0.200 0.000 0.200 0.400 0.600

安定志向 やりがい志向 成長志向 多様性志向

【同調】

地位・定職

【儀礼】

非地位・定職

【革新】

地位・フリ許容

【逃避】

非地位・フリ許容

まず安定職業志向について。全体の平均を見れば多くの者が安定した職業を志向してい ると考えられるが、類型ごとの平均は一様ではない。安定職業志向が最も高いのは地位志 向・定職志向、最も低いのは非地位志向・フリーター許容であり、両者の開きはかなり大 きいものとなっている。非地位志向・定職志向と地位志向・フリーター許容の値はこれら の間に位置し、これら2つの差はほとんどない。このことから、フリーターになってもよ いとする者がみな安定した職業を拒否しているわけではないことがわかる。

やりがい志向と成長志向の2つは、似たような傾向を示している。非地位志向・フリー ター許容は、やりがい志向と成長志向の値が極端に低い。一方、残りの3類型の間にはわ ずかな差しか見られず、ほぼ同じ値をとっているとみなすことができる。フリーターにな ってもよいとする人びとのなかでも「やる気のある」者は、正社員を志向する人びとと同 じくらいやりがいや成長を重視しているようである。

多様性志向の結果は、さらに興味深い。高い値を示しているのは地位志向・定職志向と

地位志向・フリーター許容であり、これらの2者の違いはほとんどない。反対に値が最も 低いのは非地位志向・定職志向であり、非地位志向・フリーター許容の値はそれよりも少 し高く、どちらかといえば平均に近い。正社員を志向する人びとのうち「やる気のある」

者はいろいろな仕事をしてみたいと考えるようであるが、正社員を志向する人びとでも「や る気のない」者はそのような意識が最も低いようである。このように、正社員を志向する 2類型の間に顕著な差があらわれているという点は注目に値しよう。

以上より、「フリーターになってもよい」とする者の就労意識が低いとは言い切れないこ とが分かる。さらに正社員を志向する者が示す傾向もまた一様ではないため、4 類型はそ れぞれ独自の傾向を示すと考える方が妥当であるように思われる。

3.2 将来観の違い

フリーター研究においては、就労意識だけでなく将来観についても言及されることが多 い。例えば、冒頭で紹介したようにフリーターたちの現在志向が強いことは頻繁に指摘さ れている(小杉 2000; 長須 2001)。「将来のことを考えるよりも、現在の生活を楽しみた い」という意識が、フリーターという不安定な立場にいることを可能ならしめている、と 考えられているのである。次に、こうした「将来をどのようにみているか」という意識に ついて検討してみよう。

将来観として、ここでは現在志向(将来よりも現在の生活の方が重要だと思うかどうか)、 やりがい獲得期待(やりがいをもてるものはいずれ見つかると考えるかどうか)、幸福展望

(自分は幸せになれると思うかどうか)の3つをとりあげる。調査の中では、(a)「将来の ことを考えるよりも、今どれだけ楽しく生活するかを考えるほうが重要だ」、(b)「今はな くとも、いずれやりがいをもてるものが見つけられる」(c)「自分は将来、幸せになれる」

について、そう思うかどうかが5段階で訊ねられている。これらをもとに、(a)を現在志 向、(b)をやりがい獲得期待、(c)を幸福展望としてスコア化(5 点満点)し、分析に用 いることにする。

就労意識の際と同じく、将来観についても類型間の平均の差を比較した結果が表 4.6お よび図 4.3である(図 4.3には得点を標準化したグラフを示している)。

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表 4.6 各類型の将来観(平均値の差)

現在志向 やりがい

獲得期待 幸福展望

全体 2.860 3.935 3.639

【同調】地位・定職 2.825 4.124 3.722

【儀礼】非地位・定職 2.520 4.013 3.649

【革新】地位・フリ許容 3.240 3.800 3.816

【逃避】非地位・フリ許容 3.000 3.690 3.394

p 0.001 0.024 0.093

図 4.3 各類型の将来観(標準得点)

-0.800 -0.600 -0.400 -0.200 0.000 0.200 0.400 0.600

現在志向 やりがい

獲得期待

幸福展望

【同調】

地位・定職

【儀礼】

非地位・定職

【革新】

地位・フリ許容

【逃避】

非地位・フリ許容

先の分析と同様、変数ごとに結果をまとめていこう。まず現在志向について。フリータ ー許容の2類型はいずれも平均値より高い値を示しており、先行研究で指摘されているよ うな傾向があるようにも見える。ただそのなかでも若干の差はみられており、地位志向・

フリーター許容の方が現在志向は強く、非地位志向・フリーター許容はどちらかといえば 全体平均に近い値を示している。フリーターになってもよいとする人びとなかでも「やる 気のある」者のほうが、「将来よりも現在の方が大切だ」という意識は強いようである。一 方で、地位志向・定職志向は平均程度であるが、非地位志向・定職志向は4類型のうち最 も値が低くなっている点も見逃せない。

やりがい獲得期待については定職志向の強弱による差が大きく、定職志向の2類型の値 は高く、フリーター許容の2類型の値は低い、という顕著な違いがみられる。正社員を志 向する者は「やりがいはいずれ見つかる」という前向きな意見をもっているのに対し、フ リーターになってもよいとする者は「やりがいをもてるものは見つからないかもしれない」

と考えているようである。また、定職志向の強弱による差ほど大きくはないが、地位志向 の強弱によっても若干の違いがみられている。地位志向が強い者は「やりがいは見つけら れる」という意識がより強いようである。

幸福展望について、定職志向の2類型の値が高いことは常識的にもわかりやすい。これ に対し、フリーター許容の2類型が示す傾向は興味深いものがある。地位志向・フリータ ー許容は、定職志向の2類型よりもさらに上を行き、最も高い値を示している。彼らは将 来のことよりも現在のことを優先しがちであり、やりがいが見つけられるとは思っていな いにもかかわらず、誰よりも「幸せになれる」と考えているのである。これに対し非地位 志向・フリーター許容は4類型のなかで値が最も低く、唯一平均値を下回るものとなって いる。フリーターになってもよいとする人びとのなかでも「やる気のない」者は、誰より も「自分は幸せになれない」と感じているのである。

一般に、正社員を志向する者はポジティヴな将来観をもっており、反対にフリーターに なってもよいとする者はネガティヴな将来観を抱いていると思われがちである9。しかしな がら、ここでの結果を見る限りそうしたイメージは正確なものではなく、将来観について も、フリーター許容、定職志向それぞれの内部での違いは大きいといえる。特に地位志向・

フリーター許容が示す傾向は注目に値しよう。

3.3 価値観の違い

ここまでの分析で、先行研究で指摘されている意識に関して、フリーターを許容する者 や正社員を志向する者のそれぞれ内部で無視できない違いのあることは明らかになってき た。ところで、本章で設定した4類型とマートンの適応類型との対応を鑑みれば、先行研 究で指摘されているような意識だけでなく、より一般的な価値観にも違いのあることが予 想される。そこで次に、一般的な価値観についても検討してみることにしよう。

価値観としてここでとりあげるのは、他者視線懸念(他者の目をどれくらい気にするか)、 平凡志向(波乱のない平凡な生活を望むかどうか)、ルール違反許容意識(状況によっては ルール違反を犯すこともやむなしと思うかどうか)という3つである。調査では、(ア)「行 動を起こすとき、人の目を気にするほうだ」、(イ)「波瀾万丈な人生を送るよりも、平々凡々 と暮らしたい」、(ウ)「成功するためならば、多少のルール違反は許される」について、そ う思うかどうかが5段階で訊ねられている。これらの質問をもとに、(ア)を他者視線懸念、

9山田(2004)は、現在の日本は社会経済的な地位によって希望がもてる人ともてない人の格差が広がる社会 であるとし、この例として若年層におけるフリーター問題をとりあげている。

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