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一般的価値観の違いと新たな解釈の可能性

ドキュメント内 学位授与機関 同志社大学 (ページ 89-92)

第Ⅱ部 職業における「自由」の新たな可能性

4 フリーターおよび正社員の内部構成

4.2 一般的価値観の違いと新たな解釈の可能性

表 5.7および表 5.8の結果から、正社員、フリーターのそれぞれの内部が同質的ではな い可能性はみえた。やはり、正社員やフリーターを一枚岩としてみなすことは難しく、そ れぞれの内部には性質を大きく異にするグループが存在しているとみるほうが妥当だと言 えそうである。

ただ、フリーターの内部でかなりの差異はあるとしても、一方で一般的なフリーターの イメージにかなり近い傾向を示す人びとがいることもまた事実のようである。フリーター のなかでも非地位志向・非定職志向の人びとは、(有意な差ではないが、数値の上では)フ リーターのなかで最も楽観的でありボランティア等に参加することもない。彼らは他のフ リーターたちと同じくらい「社会のことより個人のことの方が大切だ」と考えているが、

彼らの現在志向の強さはフリーターのなかでも群を抜いている。彼らのこうした姿勢は、

まさに「逃避」的であるように見える。

この「非地位志向・非定職志向」のような人びとは、フリーター研究のなかでも特に注 目されており、その扱われ方は基本的にネガティブなものであった。フリーター否定論者 は、彼らの内向きの態度や刹那的な意識を「よくないもの」としてとらえ、それをいかに

「よいもの」に変えるかについて頻繁に議論していた。またフリーター擁護論者も、こう した人びとがフリーターのなかに含まれることは事実であると認めざるを得ず、それを前 提としつつ論を進める場合が少なくなかった。すなわち、これまでのフリーター研究にお いて、このような人びとに対してなされた解釈は、ほとんどが否定的、もしくは消極的な ものでしかなかったのである。

だが筆者は、もう少し積極的な解釈の余地が残されているのではないかと考える。彼ら が示す態度は、一般的な視点から見れば「後向きだ」と判断されるかもしれない。ただ、

そのことは彼らが否定されるべき存在であることを示すものではない。なぜなら彼らはあ くまでも「一般的な視点」からして後向きに見えるだけ、すなわち多くの人びとが考える

「当たり前の世界」に対して後向きであるだけだ、ととらえることもできるからである。

このように考えるならば、彼らを無条件に否定することはあまりにも早計であり、むしろ 彼らの示す態度はより慎重に吟味されなければならないといえるのである。

そこで、別の解釈の可能性を探るため、彼らが有している一般的な価値観についてもみ てみることにしよう。調査のなかでは、[A]「他人との競争に勝つこと」が重要だと思う かどうか、[B]「これからは物質的な豊かさよりも、心の豊かさやゆとりのある生活をも とめるべきだ」[C]「実りある生活を送るためには、都会に住むことが重要だ」について、

そう思うかどうかがそれぞれ5 段階で訊ねられている。これらの回答をもとにそれぞれ5 点満点のスコアを作成し、[A]を競争志向、[B]を反転させたものを物質主義、[C]を 都市生活重視として分析に用いることにする。

表 5.9 従業上の地位別にみた価値観の違い

(素点)

全体平均

(標準得点)

正社員 平均

(標準得点)

フリーター 平均

競争志向 2.683 0.023 -0.057 -0.498

物質主義 2.300 -0.068 0.167 1.473

都市生活重視 2.524 -0.073 0.180 1.570

N 189 134 55

** p<0.01 *p<0.05 † p<0.10 t

表 5.10 類型別にみた価値観の違い

【同調】地位・定職 0.523 0.069 -0.112 0.415 0.336 0.222

【革新】地位・非定職 0.590 -0.064 0.644 0.426 0.215 0.644

【儀礼】非地位・定職 -0.480 -0.073 -0.331 -0.649 0.332 -0.022

【逃避】非地位・非定職 -0.475 -0.262 -0.087 -0.747 -0.839 -0.626

合計 0.023 -0.068 -0.073 -0.057 0.167 0.180

F 14.679** 0.565 4.344** 7.446** 2.255 2.979*

** p<0.01 *p<0.05 p<0.10

正社員 フリーター

競争志向 物質主義 都市生活

重視 競争志向 物質主義 都市生活 重視

表 5.9は従業上の地位別に価値観の違いをみたもの、表 5.10は正社員、フリーターのそ れぞれで類型ごとの平均値の差を確認したものである。このうち表 5.9では、正社員とフ リーターの間で3つの価値観の値に差がないことが示されている。全体でみる限り、フリ ーターと正社員が有している価値観にそれほど大きな違いはないようである。しかし表 5.10では、正社員、フリーターのいずれも内部の各類型でかなり大きな違いのあることが 示されている。

正社員では、競争志向、都市生活重視に関して類型間の違いがみられる。競争志向につ いては、同調、革新といった地位志向の強い類型は値が高く、儀礼、逃避といった地位志 向の弱い類型は値が低い、という傾向がある。都市生活重視に関しては、値が最も高いの は革新であり、最も低いのは儀礼である。正社員においては、逃避に目立った特徴はない。

一方フリーターでは、3 つの価値観すべてにおいて類型間の違いがみられる。競争志向 については、正社員と同様に同調、革新の値が高く、儀礼、逃避の値が低い。ただし、逃

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避の値(-0.747)は儀礼の値(-0.649)をさらに下回っており、4 類型のなかで最も低いも のとなっている。物質主義、都市生活重視においては、逃避と他類型の差がさらに顕著に あらわれている。逃避以外の類型が平均程度かそれ以上の値をとっているのに対し、逃避 のみが平均を下回っている(それぞれ-0.839、-0.626)。すなわち、フリーターのなかでも 逃避にあたる人びとは、他の人びとよりも競争に勝つことや物質的な豊かさ、都市での生 活を重視しないという傾向を示しているといえる。

物質的な豊かさや都市における生活を目指さず、競争に勝つことも重視しないというフ リーター逃避類型の態度は、やはり消極的であるように見えるかもしれない。だが、マー トンのアノミー論のなかに次のような考えもあったことをふまえると、また別の解釈の可 能性が浮かびあがる。マートンが提起した適応類型には同調(Conformity)、革新(Innovation)、 儀礼(Ritualism)、逃避(Retreatism)という4 つに加え、反抗(Rebellion)という第5 の 類型も含まれていた。この第5の類型は、文化的目標、制度的手段のいずれについても「一 般におこなわれている価値の拒否と新しい価値の代替」を志向するもの、すなわち現存の 社会的文化的構造の範囲内で適応しようとするのではなく、それを根底から変革しようと いう志向性をもつものと考えられていた。さらにマートンは反抗を含む5つの適応様式が いずれも不変のものではなく、社会生活を送るなかで一方から他方へと移行する可能性も 認めており、反抗に関して言えば、人びとがその状態にいたる前提には「社会において支 配的な目標や標準からの疎外」があるとしていた(Merton 1957=1961)。

この論を先の結果にあてはめれば、次のような解釈も成り立つ。フリーターのうち逃避 にあたる人びとが示す態度は、確かに現代の労働世界においては適合的なものに見えない。

だが、そうした態度をとるのは彼らが無気力で消極的だからではない。彼らはむしろ根本 的な価値観、すなわち地位や定職、物質的豊かさや都市的生活、およびそれらを目指すた めの競争といったいわば産業社会的目標・価値観に対しても否定的なスタンスをとるので ある。しかも、このようなスタンスをとるのは逃避にあたる人びとのなかでもフリーター として働く彼らのみであり、正社員の者はこうしたスタンスをとっていない、という点が 重要なポイントとなる。つまり、かようなスタンスをとっているのは現代社会において最 も疎外状態に追い込まれやすい人びとなのであり、この点にマートンが示唆した「反抗」

へとつながる道の端緒をみることができる。すなわち彼らは、産業社会的価値観に代替し うるオルタナティヴな価値観を志向しているがゆえに、現代社会では非適合的(に見える)

態度を示している、と考えることもできるのである。

ドキュメント内 学位授与機関 同志社大学 (ページ 89-92)