• 検索結果がありません。

音楽科の教材となる地域の人形芝居の基本的特質

, , 。 ,

一般に 都市における歌舞伎や文楽は 日本の伝統芸能と呼ばれている それに対して 地方(以下,地域と記す)における歌舞伎や人形芝居は,郷土芸能と呼ばれている。第三章 では,このような郷土芸能に注目し,音楽科の教材となる地域の人形芝居の価値について 吟味する。

第一節 郷土芸能の文化的価値 第一項 郷土芸能について

全国各地には,さまざまな郷土芸能が存在している。たとえば,獅子舞には,二人立獅 子舞,一人立獅子舞がある。獅子舞の頭には,岩手の「八鹿踊り」のように獅子の頭が鹿 になっているものや,鳥取の「麒麟獅子」のように獅子の頭が麒麟になっているものがあ る 。このように,郷土芸能は,多種多彩な様相を呈している。1)

郷土芸能の分類として,一般に用いられているのは,本田安次による方法である。本田

, ,「 」,「 」,「 」,「 」,「 」 によると 郷土芸能は 神楽 田楽 風流 語り物・祝福芸 渡来芸・舞台芸 という五つに分類されている 2)。「神楽」は,神座を設けて神を勧請して行う鎮魂を目的 として行う芸能である。この「神楽」には,巫女神楽,出雲系神楽,伊勢系神楽,獅子神 楽がある 3)。「田楽」は,五穀豊穣を祈って,耕作に災いをなす悪霊を鎮めることを目的 として行う芸能である。この「田楽」には,田楽踊や田舞,田遊びや田植踊,御田植神事

。「 」 , 。 「 」

がある4) 風流 は 悪霊を退散させることを目的として行う芸能である この 風流 には,念仏踊り,太鼓踊り,小歌踊り,盆踊り,つくりもの風流,おねりの風流,動物仮 装風流がある 5)。「語り物・祝福芸」は 「叙事的内容をもつ長い歌詞を節にのせて語る芸, 能」と 「祝言を行う芸能」である, 6)。前者には説教節や浄瑠璃,後者には千秋萬歳や七せ ん ず 福神や三番叟という 寿 ぎの芸があることほ 7)。「渡来芸・舞台芸」は,大陸から渡来した伎楽や 舞楽,散楽に由来する芸能と,祭礼で地域の人によって演じられる歌舞伎や人形芝居とい う芸能である 8)。前者には四天王寺の舞楽や春日神社の舞楽,後者には酒田の黒森歌舞伎 や長野の黒田人形がある 9)。特に,この歌舞伎や人形芝居は,我が国の伝統音楽の歌舞伎 や文楽と区別をするために,地芝居と呼ばれている。

以上のように,郷土芸能は 「神楽 「田楽 「風流 「語り物・祝福芸 「渡来芸・舞台, 」 」 」 」 芸」という五つに大別される。本研究で注目している地域の人形芝居は 「渡来芸・舞台, 芸」に相当している。

第二項 郷土芸能の特性

郷土芸能は,神社の祭礼や年中行事のなかで,天下泰平や五穀豊穣などを祈願して演じ

。 , , , ,

られている10) 新春には 地域の人々によって 豊作を祈願して田遊びや田植踊 夏には 田植歌や田楽,および,雨乞いや厄除けを祈願して太鼓踊や念仏踊が行われている。秋や

, 。 ,

冬には 収穫を感謝して神社の舞台において歌舞伎や人形芝居が奉納されている さらに この時期には

,

神楽も舞われている11)。このように,郷土芸能は,演じられる日時が決ま っている。

郷土芸能には,宗教的な側面がある。それゆえに,地域の人々は,先祖代代の演じ方を 古来の方法で芸能を演じなかっ そのまま忠実に受け継ごうとする 12)。特に,農漁民は,

た場合には,神のたたりがあって不作不漁になると考え,厳格に型を継承してきた 13)。 したがって,郷土芸能には,洗練して芸術的なものにするという方向性があまりない。

以上のように,郷土芸能には,宗教的な側面があり,祭礼の一環として,天下泰平や五 穀豊穣などを祈願して演じられている。本研究で注目している地域の人形芝居も,このよ うな祭礼の場において,演じられている 14)。そこで次節では,地域の人形芝居に注目す る。

第二節 地域の人形芝居の文化的価値と音楽科教育における教育的価値 第一項 地域の人形芝居について

全国各地には,さまざまな人形芝居がある。新潟県佐渡には,文弥人形,説教人形,の ろま人形がある15)。これらは,太夫が一人で三味線を弾きながら語り,一体の人形を一人 で遣う形態の人形芝居である16)。義太夫節が成立する以前の様式,すなわち,古浄瑠璃系 の人形芝居とされている17)。現在では,このような様式の人形芝居が演じられている地域 は,少ない。佐渡の他には,石川県東二口の文弥人形,宮崎県山之口の文弥人形,鹿児島 県斧淵の文弥人形だけである18)。それに対して,語り手の太夫と三味線弾きが別々で,一 体の人形を三人で遣う形態の人形芝居,特に,義太夫節という浄瑠璃を地にした(義太夫 系の人形芝居)三人遣いの様式の人形芝居は,多く現存している 19)。兵庫県の淡路人形浄 瑠璃 徳島県の阿波人形浄瑠璃 神奈川県の相模人形芝居 岐阜県の真桑文楽 三重県の安乗, , , ま く わあ の り 人形芝居,長野県の今田人形や黒田人形,古田人形,早稲田人形,大分県の北原人形芝居きたばる

。 などがある20)

これら地域の人形芝居は,江戸時代に,三都(京,大坂,江戸)に拠点をおいて興行して いた座の地方巡業を通して,人々の生活の中に浸透していった21)。地域の人々,特に,農 民は,祭礼において,専業者が語る浄瑠璃を聴き,人形芝居に親しんでいた。そして,自 らも,祭礼において,人形を舞わすようになっていった。

兵庫県の淡路(現在の淡路島)は,特に,人形芝居がさかんな地域であり,享保の頃から 島内にとどまらず他国(県)において,人形を舞わしていた22)。つまり,淡路では,江戸時 代中期から,上村源之丞座や市村六之丞座,中村久太夫座らは,淡路を拠点としながら,

同国の阿波をはじめとする四国地方,中国地方,中部地方,九州地方にまで興行に出かけ ていた23)。それによって,人形芝居が広がっていった。当時,阿波では,県南の山間僻地 にまで広がっていた24)。長野でも,伊那峡谷(上・下伊那郡)にまで広がっていた25)。この ように,地域の人形芝居は,専業者らによる地方巡業の影響を受けて,普及していった。

第二項 祭礼の場における人形芝居 ( )「式三番」1

「式三番」は,神聖なものとして,祭礼において,必ず最初に演じられる人形芝居であ る。この「式三番」は,能楽を「模倣移入」したものである 26)。つまり 「式三番」は,, 能楽の《翁》を,謡(地歌)も楽器もそのままのかたちで人形芝居に移し入れたものであ り,千歳,翁,三番叟の三体の人形の神格による式舞になっている27)

この「式三番」は,特に,農村において天下泰平や国土安穏,五穀豊穣を祈念して演じ られている 28)。上演に際し,演者は斎戒する。つまり,農民は 「式三番」を演ずる前に, 心身を清め,楽屋に御幣を祭って聖なる場をつくり,洗米と神酒を供える29)。そして,心 身を「清浄」された農民によって,神社の本殿において 「式三番」が奉納される。その, 後,本殿と向かいあうように建てられている舞台(農村舞台)においても 「式三番」が演, じられている。

舞台における「式三番」では,下手から一番叟の千歳,二番叟の翁,三番叟の順に登場 し,拝礼をする。千歳だけを残して,翁と三番叟は退場する。笛の音楽から始まり,千歳 によって 「とうとうたらりたらりあ」という呪文的な詞章が謡われる, 30)。続いて,千歳 は 「所千代までおわします 「我ら千秋さむろう 「鶴と亀とが齢にて 「幸い心にまか, 」 」 」 祝言の謡いを謡う。その後 鳴るは滝の水日 せたり」という今様神歌四句をとりいれた ,

を 。この千歳の謡いと舞は,小鼓と大鼓によ は照るとも」という詞章を謡い,舞 舞う 31)

って囃されている。

次に,笛が奏され,二番叟の翁が,上手から白色尉面を掛けて登場する。翁は,舞台中 の詞章を謡う 両手を大きく横 央で 「あげまきやとんどうや」という催馬楽《角総》, 32)

あげまき

「千早ふる神のひこさの昔より 」という祝言の呪歌を謡う。続いて 「天下泰

に広げて,

~

平国土安穏の御祈祷なり」という詞章を謡う。この詞章は,翁による言祝ぎであることに よって,厳粛に謡われている。つまり,白色尉面を掛けて神の資格を持った翁が,厳粛に

「天下泰平国土安穏」と謡うことによって,この言葉どおりの事象が実現する。そして,

翁は,天下泰平を祈念して,舞う(翁の舞 。この舞は,小鼓と大鼓によって囃されてい) る。翁は 「千秋の喜びの舞なれば一舞舞おうや萬歳楽、萬歳楽、萬歳楽」という詞章を, 謡う。謡い終わると,舞台上で白色尉面をはずし,下手から退場する。

次に,笛の音にあわせて,三番叟が勢いよく登場する。そして,三番叟は,舞を舞う。

ここでの三番叟の舞は 「揉みの段」と「鈴の段」という二つに分けられる。前者では,, 三番叟は,四方固めやからすとびなどの所作をする33)。これらの所作には足拍子がある。

これは,大地が安固し,豊作になることを意味している 34)用いられている楽器は 大鼓

と小鼓である。大鼓と小鼓とが掛け合う形の音楽になっている。後者では,三番叟は,千 歳との狂言風の問答(三番叟の呪歌)をした後,舞台上で黒色尉面を掛けることによって 神格化し,鈴を振りながら,大地を耕す所作,種まきなどの所作をする。これらの所作も 豊作,五穀豊穣になることを意味している35)

この「式三番」では,笛は,千歳や翁,三番叟が登場する前に,奏されている。千歳や 翁,三番叟の舞の部分には,小鼓や大鼓,ツケ,鈴という打楽器による囃子がある36)。こ の囃子のテンポは,千歳から翁,三番叟の舞になるに伴って,速くなっている。そして,

「 」 , , 。

この 式三番 の最後の部分の数小節は ゆっくりした速度になり 静かに終わっている すなわち 「序破急」である。特に 「鈴の段」においては,この打楽器による囃子に,, , 三番叟が振る「シャンシャン」や「シャンコロシャンコロ」という鈴の音が加わることに

, 。「 」 , 。

よって 祝儀的な雰囲気が醸し出されている 式三番 では 打楽器が重視されている 以上のように 「式三番」は,序「千歳,翁,三番叟の登場・祝言の謡 ,破「千歳の, 」 舞,翁の呪歌,翁の舞 ,急「揉み段,三番叟の呪歌,鈴の段」という三部構成になって」 いる。物語がなく,神格化された人形による歌舞の神事芸である。

( )「えびす舞」2

「えびす舞」は,兵庫県西宮から淡路に伝わり,さらに阿波や他の地域に伝わっていっ た人形芝居である 37)。淡路や阿波では,祭礼において 「えびす舞」が現在も演じられて, いる38)。この「えびす舞」は,特に,漁村において,豊漁,招福を祈願して演じられてい る。御神楽に基づく祈豊の仕形舞であり39),七福神の一人であるえびすが鯛を釣るという 仕草の舞に,招福が表わされている40)。徳島県小松島市の和田島漁まつりでは,毎年

4

月 の第一大安の日に,勝浦座によって演じられている。この祭礼では,最初に,事代主神社 の本殿において,えびすが舞わされている。次に,浜において,豊漁,招福を祈願して,

再度,えびすが舞わされている。その後,舞台において,一幕二場で,以下のように演じ られている。

第一場では,舞台の上手から,村長と村人が数人登場する。村人の一人が,村長に「今