第 3 章 の参考文献
4.3 新たな配電線雷サージ解析モデルの提案
4.3.2 電柱のモデル
電柱のモデルは,基本部分を従来の単相の無損失分布定数線路モデルとしており,
これに本節で述べる新たな回路が付加されている。なお,提案モデルA,Bにおける 無損失分布定数線路モデルのサージインピーダンスZpa,Zpbは,各々,架空地線がな い配電線および架空地線がある配電線のサージ実験より得られる電柱のサージイン ピーダンス値とする。
4.3.2.1 電柱の電位上昇の表現
電柱頂部の電位は,時間の経過に伴って緩やかに上昇する。この特性を近似的に表 現するため,キャパシタンスCpを電柱頂部に並列接続する [4-1]。Cpの値は,架空地 線がない配電線にステップ電流を注入したときの柱頂電位の測定波形から決定する。
縮小モデル実験を例にとり,Cpの決定方法について述べる。架空地線がない配電線に ステップ電流を注入したときの柱頂電位の測定波形をFig. 4-4に示す。ここで,注入 電流を (4-1) 式とするとき,無損失分布定数線路モデルとキャパシタンス Cp の組み 合わせでモデリングされた電柱の柱頂電位 v(t) は,次式で与えられる(付録 B を参 照)。
( ) 0 1 i exp a exp
i a i i a a
t t
v t v τ τ
τ τ τ τ τ τ
⎧ ⎛− ⎞ ⎛− ⎞⎫
⎪ ⎪
= ⎨ − ⎜ ⎟+ ⎜ ⎟⎬
− −
⎪ ⎝ ⎠ ⎝ ⎠⎪
⎩ ⎭ (4-2)
ただし,v0:v(t) の収束値,τa:モデルの時定数
lightning current
Rp Rf
lightning channel impedance
(phase wires) Vi1
Lp
Vi2 Vi3
distributed-parameter line model l Zpa
Cp lightning current
Rp Rf
lightning channel impedance
(phase wires) Vi1
Lp
Vi2 Vi3
distributed-parameter line model l Zpa
Cp
(a) Model A (without a ground wire)
Cp
Vp1
+ –
G(s) G(s)
Cg
+ –
+ –
e1 lightning current
(ground wire)
Rp Rf
distributed-parameter line model lightning channel
impedance
(phase wires) Vi1
e2
Lp
e3
Vp2 Vi2
G(s)
Vp3 Vi3
distributed-parameter line model l Zpb
Cp
Vp1
+ – + –
G(s)
G(s) GG(s)(s)
Cg
+ – + –
+ – + –
e1 lightning current
(ground wire)
Rp Rf
distributed-parameter line model lightning channel
impedance
(phase wires) Vi1
e2
Lp
e3
Vp2 Vi2
G(s) G(s)
Vp3 Vi3
distributed-parameter line model l Zpb
(b) Model B (with a ground wire)
Fig. 4-3. Proposed EMTP models of a distribution line.
注入したステップ電流波形を (4-1) 式で最小二乗近似すると,τi = 1.3 nsと求まる。τi を用いて,Fig. 4-4 の柱頂電位ピーク値までの立ち上がり部分を (4-2) 式で最小二乗 近似すると,τa = 3.6 nsが得られる。なお,v0の値は架空地線がない配電線の実験に て得られた電柱のサージインピーダンスZpa(= 267 Ω)[2-3] としている(本章では,
全ての波形を注入電流収束値1 A当たりに規格化しているため,サージインピーダン ス値がそのまま電位上昇値になる)。Fig. 4-4には,この近似結果も合わせて示す。最 終的に,Cpは次式で決定できる。
13 pF
a p
pa
C Z
= τ = (4-3)
さて,このような電位上昇波形の変歪を模擬する方法はこれまでにもいくつか検討 されている。例えば,文献 [4-6] では,周波数特性をもたせた線路により表現する周 波数依存鉄塔モデルが提案されている。このモデルは数値ラプラス変換と最小二乗法 による近似を駆使した手法であり,モデルパラメータの決定過程が非常に煩雑となる。
一方,提案モデルは単純なRC並列回路により表現する手法であるが,Fig. 4-4に示す ように波頭部の変歪を十分に精度良く再現している。また,モデルパラメータについ ても測定波形から直接的に決定できる。よって,提案モデルは周波数依存鉄塔モデル よりも実用的に有用であるといえる。
4.3.2.2 接地インピーダンスの表現
電柱に注入されたサージ電流が大地面で反射するとき,見かけ上高い接地抵抗値を 示す。提案モデルでは,この現象を模擬する手法として,送電鉄塔の塔脚接地インピ ーダンスを模擬するために考案された手法 [2-12][2-13] を用いる。定常接地抵抗を表
0 5 10 15 20 25
-100 0 100 200 300
time [ns]
voltage [V/A] measured
equation (4-2)
Fig. 4-4. Approximation of the pole-top voltage waveform by equation (4-2) (without a ground wire).
クタンス Lp の並列回路により,電柱の接地インピーダンス特性を模擬する。これに より,電柱の接地抵抗は,反射初期に示す高い接地抵抗値 Zf = Rf + Rp から,時間の 経過に伴ってRf に収束していく。文献 [2-12] では,架空地線を有する送電線の鉄塔 塔頂にステップ電流を注入したときの鉄塔に流入する電流波形より Zf を求める次式 が示されている。
2 1
1 1
p f tw es tw
p tw f tw es
I Z Z Z Z
I Z Z Z Z
− ⎛ − ⎞
= − ⋅ −⎜ ⎟
+ ⎝ + ⎠ (4-4)
ただし,Ip1:大地面からの反射波が到達する前の電流波高値,Ip2:大地面か らの反射波が塔頂で反射した後の電流波高値,Ztw:鉄塔のサージインピーダ ンス,Zes:鉄塔からみた雷道インピーダンスと架空地線のサージインピーダ ンスの等価的な合成インピーダンス
鉄塔を電柱に置き換え,(4-4) 式を配電線に適用する。縮小モデル実験を例にとり,
Zfの値を求める。Fig. 4-5 に,架空地線がある配電線にステップ電流を注入したとき の電柱に流入する電流波形を示す。同図より,Ip1 = 0.45 A,Ip2 = 0.74 Aが得られる(Ip2 の値は,時刻15 ns~17.5 nsの部分と時刻17.5 ns~25 nsの部分を直線にて最小二乗近 似し,その交点より求めた)。Ztw の値は,架空地線がある配電線の実験にて得られた 電柱のサージインピーダンスZpb(= 302 Ω)[2-3] とする。Zes は,電柱からみた雷道 側のインピーダンスZl(= 1040 Ω)と実験より得られた架空地線のサージインピーダ ンスZg(= 495 Ω)[2-3] を用いて次式より求まる。
2 200 2
l g es
l g
Z Z Z
Z Z
= = Ω
+ (4-5)
0 5 10 15 20 25
0 0.5 1.0
time [ns]
current [A] Ip1 Ip2
Fig. 4-5. Waveform of the current flowing into the pole.
最終的に,各値を (4-4) 式に代入すると,Zf = 91 Ω と求まる。縮小モデル実験では,
大地面に抵抗を介さずに直接接続していることから,Rf = 0 Ω である。これより,Rp は次の値となる。
p f f 91
R =Z −R = Ω (4-6)
Lpの値は,係数kと電柱内のサージ伝搬時間 τp = l/c0(l:地上部分の電柱長さ,c0: 光速)を用いて,次式で決定できる。
p p p
L =kτ R (4-7)
k の求め方については,4.3.4節で述べる。なお,地上部分の電柱長さlはτpに含まれ ることから,kはlによらない係数となる。
4.3.2.3 高圧腕金電位の表現
がいし間電圧は,高圧腕金電位(すなわち,高圧腕金の取り付け位置における電柱 の電位)と高圧電線電位の差である。従って,がいし間電圧を正確に再現するために は,高圧腕金電位を正確に模擬する必要がある。電柱頂部よりも低い位置に取り付け られている高圧腕金の電位は,柱頂電位よりも低下する。これは,電柱頂部よりも雷 電流の到来が遅れ,大地面からの反射波の到来が早くなることに加えて,4.2 節で述 べたように,電柱頂部や高圧腕金の電位が電磁界の形成に伴って緩やかに上昇してい くことに起因する。一般的な高圧1回線の配電線では,電柱頂部と高圧腕金の間隔は 1 m 以下であり,柱頂電位と高圧腕金電位の差異は僅かである†。これより,柱頂電 位と高圧腕金電位を等しい値と見なして,Fig. 4-6(a) に示すように電柱を1段の無損 失分布定数線路モデルと電柱の電位上昇の時間特性を表現するキャパシタンス Cp の 組み合わせ(以降,単に「1 段モデル」と呼ぶ)で模擬しても差し支えない。一方,
配電線が分岐する等の理由により,電柱頂部と高圧腕金の間隔が1 mよりも長くなる 場合,柱頂電位と高圧腕金電位の差異は大きくなる。このため,1 段モデルを用いた がいし間電圧の計算結果は実測結果と一致しなくなる。そこで,Fig. 4-6(b) に示すよ うに無損失分布定数線路モデルを2つに分割し,柱頂電位と高圧腕金電位の差異を表 現する抵抗 Raとインダクタンス Laの並列回路を加えた「2 段モデル」により,電柱 を模擬する。なお,Fig. 4-6中のカッコ内は,提案モデルBに対するパラメータを表 している。提案モデルでは,電柱頂部と高圧腕金の間隔l1 = 1 mを目安として,1段 モデルと2段モデルを使い分けることとする。2段モデルには,モデルの構成要素が 多いというデメリットがあり,加えて,1段モデルよりも時間刻みが細かくなるため,
†2.2 節の縮小モデル実験 [2-3] では,架空地線がない配電線の柱頂電位とがいし間電圧の 差異が僅かであった。架空地線がない配電線では,雷電流による高圧電線電位の上昇はほと
計算時間が増加する。従って,基本形として1段モデルを推奨する。1段モデルで近 似できない場合のみ,2 段モデルを用いる。2 段モデルのパラメータの決定方法を以 下に示す。
提案モデル A における Raの値は,架空地線がない配電線にステップ電流を注入し たときの柱頂電位ピーク値 Vt(= Zpa)とがいし間電圧ピーク値Vi より,次式で決定 する(Vt,Vi は,注入電流収束値1 A当たりに換算した値)。
a t i
R = −V V (4-8)
Laの値は,前節と同様,k とτpを用いて次式で決定できる。なお,本節の RL 並列回 路と前節で述べた接地の RL 並列回路は,いずれも時間の経過に伴って電柱近傍の電 磁界が形成していくことに起因する現象を模擬する回路であることから,同じ時定数 とした。
a p a
L =kτ R (4-9)
2 段の無損失分布定数線路モデルのサージインピーダンス Zp1,Zp2は,次式より求め る。
1
p pa
Z =Z ,Zp2 =Zpa−Ra (4-10)
また,地上部分の電柱長さlと高圧腕金上下部分の電柱長さl1,l2 には,l = l1 + l2 の crossarm
position Cp
Zpa
Lp Rp
Rf
(Zpb) l
=pole top
Cp
Zp2
Lp
Ra La
Zp1
Rp
Rf
(Zp1') (Ra') (La')
(Zp2') l2 l1 pole top
crossarm position crossarm
position Cp
Zpa
Lp Rp
Rf
(Zpb) l
=pole top crossarm position Cp
Zpa
Lp Rp
Rf
(Zpb) l
=pole top
Cp
Zp2
Lp
Ra La
Zp1
Rp
Rf
(Zp1') (Ra') (La')
(Zp2') l2 l1 pole top
crossarm position Cp
Zp2
Lp
Ra La
Zp1
Rp
Rf
(Zp1') (Ra') (La')
(Zp2') l2 l1 pole top
crossarm position
(a) Single story model (b) Two story model Fig. 4-6. Proposed models of a distribution pole.
関係がある。
一方,架空地線がある配電線では,架空地線と高圧電線の結合により高圧電線電位 が上昇することからがいし間電圧≠高圧腕金電位となる。このため,(4-8) 式より提 案モデル B における Ra' の値を求めることができない。そこで,提案モデル A の Ra
と提案モデルA,Bにおける電柱のサージインピーダンス Zpa,Zpbを用いて,次式よ り決定する。
a pb a
pa
R R Z
′ = Z (4-11)
また,提案モデルBにおけるその他のパラメータは,次式より求める。
a p a
L′ =kτ R′,Zp1′ =Zpb,Zp2′ =Zpb−Ra′ (4-12)