第 5 章 引込線および屋内配線の雷サージ解析モデル
5.3 引込線,屋内配線のモデリングの課題
とみなしてモデリングすることが可能と考えられる。線間波モードの伝搬速度につい ては,光速c0(= 300 m/μs)よりも約22~39% と大きく低下している。これは,線間 波モードの進行波が主に比誘電率 εr(概ね 2~3)の絶縁被覆中を伝搬するためであ る(5.6.1 節参照)。一方,大地帰路モードの伝搬速度については,進行波が主に比誘 電率 1 の空気中を伝搬するため,線間波モードの場合と比べて c0 に近い値となって いる。なお,大地帰路モードの伝搬速度はc0 よりも最大で8% 程度低下している。
を考慮する。以下,撚り線の場合と非撚り線の場合に分けて従来の計算手法を示す。
5.3.1 撚り線の場合
撚り線である DV電線と VVR ケーブルについては,完全撚架を仮定した計算を行 う。各導体の自己インダクタンスLs と相互インダクタンスLm は次式で与えられる。
μ0 2 2πln
s
L h
= r , μ0 2
2πln
m
L h
= d (5-2)
ただし,h:電線の地上高,r:導体半径,d:隣り合う2本の導体の中心間距 離,μ0:真空透磁率
完全撚架では線路インピーダンスが平衡しており,第1線間波モードと第2線間波 モードのインダクタンスL(1),L(2) は等しくなる。この線間波モードのインダクタンス L(1)(= L(2))および大地帰路モードのインダクタンスL(0) は次式で与えられる。
(1) s m
L =L −L ,L(0) =Ls +2Lm (5-3)
これより,線間波モードと大地帰路モードの伝搬速度c(1),c(0) を用いて,各モード のサージインピーダンスZ(1),Z(0) は次式より求まる。
(1) (1) (1)
Z =c L ,Z(0)=c L(0) (0) (5-4)
5.3.2 非撚り線の場合
非撚り線の VVF ケーブルについては,線路インピーダンスが不平衡であるため,
固有値解析を適用した計算を行う。各導体の自己インダクタンスLs および導体iと導 体jの相互インダクタンスLij は,次式で与えられる。
μ0 2 2πln
s
L h
= r , μ0 2
2πln
ij
ij
L h
= d (5-5)
ただし,dij:導体iと導体jの中心間距離
水平に配置された導体の片端から導体1,2,3と指定すると,Fig. 5-2(c) に示すよ うに,導体1-導体2および導体2-導体3の中心間距離は等しいが,これらと導体1
-導体3の中心間距離は異なる。これより,L12(= L21 = L23 = L32)とL13(= L31)の 値は異なったものとなり,インダクタンス行列 [L] は次式で与えられる。
[ ]
12 12 131213 12
s s
s
L L L
L L L L
L L L
⎡ ⎤
⎢ ⎥
=⎢ ⎥
⎢ ⎥
⎣ ⎦
(5-6)
この行列に対して固有値解析を適用して対角化することにより,その固有値として第 1線間波モード,第2線間波モード,大地帰路モードのインダクタンスL(1),L(2),L(0),
これより,各モードの伝搬速度c(1),c(2),c(0) を用いて,各モードのサージインピー ダンスZ(1),Z(2),Z(0) は次式より求まる。
(1) (1) (1)
Z =c L ,Z(2) =c L(2) (2),Z(0) =c L(0) (0) (5-7)
5.3.3 実験結果と計算結果の比較
5.3.1,5.3.2 節の計算手法により算出したモード領域のサージインピーダンス値を Table 5-5に示す。また,Table 5-5の計算値をTable 5-3の実測値と比較して両者の差 異(=│[計算値]−[実測値]│/[実測値])を計算した結果をTable 5-6に示す。大地帰路
†電流変換行列は,本来線路直列インピーダンス行列と線路並列アドミタンス行列の積を対 角化することから求められる。しかしながら,引込線や屋内配線の線路並列アドミタンス行 列は,誘電率の異なる複合媒質中の電界を解かなければ,求めることができない。このよう な複合媒質中の電界を解くことは難しく,現状では数値電界計算等の複雑な計算に依らざる を得ない。一方,VVFケーブルは,非撚り線ではあるものの,大地に対して各導体の位置が 殆ど同じと見なせるため,電圧変換行列と電流変換行列がほぼ同じと考えられる。以上より,
本章では,インダクタンス行列から電流変換行列を求めている。
Table 5-5. Calculated results of modal surge impedances.
First aerial mode [Ω]
Second aerial mode [Ω]
Ground return mode [Ω]
DV 3.2 mm 52 52 928
DV 38 mm2 49 49 806
DV 100 mm2 45 45 746
VVR 2.0 mm 48 48 1003
VVF 2.0 mm 79 38 977
Table 5-6. Difference between measured surge impedances and calculated ones.
First aerial
mode [%] Second aerial mode [%]
Ground return mode [%]
DV 3.2 mm 16 21 4.4
DV 38 mm2 23 26 2.7
DV 100 mm2 15 15 0.8
VVR 2.0 mm 30 30 0.8
VVF 2.0 mm 30 23 1.5
モードについては,実測値と計算値の差異が最大4% 程度と小さいが,線間波モード については,いずれも差異が大きく,30% の差異を生じている電線もある。
5.2節の実験結果および本節の検討結果より,引込線,屋内配線のモデリングには,
次に示す①,②の要素を考慮する必要がある。
① 引込線および屋内配線の各線心は金属シースを有しない絶縁電線であるため,
進行波が絶縁被覆と空気という誘電率の異なる複合媒質中を伝搬する。これに より,線間波モードと大地帰路モードの伝搬速度には差異が生じる。
② (5-2),(5-5) 式中の相互インダクタンスを与える式は,導体半径に比べて導体間 距離が十分大きいという仮定の基に導出されている。しかし,引込線および屋 内配線は,隣り合う絶縁電線相互が密着した構造であり,この条件を満足して いない。このため,従来の計算手法では,線間波モードのサージインピーダン スを正確に計算することができない。