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第 2 章 除染の特徴と意義

2.2 除染の意義と目標

(1) 除染とは何か

福島第一原発事故に伴う除染作業は、生活する空間において受ける放射線の量を減らすため に、放射性物質の除去や遮へい等を行ったものであり、以下の3つの方法による35

①取り除く(除去)

放射性物質が付着した表土の削り取り、枝葉や落ち葉の除去、建物表面の洗浄等により、放 射性物質を生活圏から取り除く。

②遮る(遮へい)

放射性物質を土やコンクリートなどで覆うことで、放射線を遮ることができるため、結果と して空間線量や被ばく線量を下げることができる。

③遠ざける

放射線の強さは、放射性物質から離れるほど弱くなる。このため、放射性物質を人から遠ざ ければ、人への被ばく線量を下げることができる。また、放射性物質のそばにいる時間を短く することも「遠ざける」ことになる。

図2-4 環境中の放射性物質による被ばく線量を下げるための方法

(2) 除染の必要性

放射性物質は、時間とともに減少(物理減 衰)し、また風雨などの自然要因による減衰 効果(ウェザリング)もあるため、除染をし なくても放射線量は減っていくが、低減には 長い年月が必要となる。このため、汚染地域 に居住している住民の被ばく線量低減、避難 住民の早期帰還、早期生活再建に向け、少し でも早く放射線量を減らすために、除染が必 要となる。

図2-5 放射線の自然減衰

35 環境省「除染情報サイト」(http://josen.env.go.jp/about/method_necessity/index.html)

2.2.2 放射線防護の考え方と除染の目標 (1) ICRP勧告と放射線防護の基準

ICRP は、放射線防護措置に関する世界的な科学者・専門家から構成される国際機関であり、

ICRPの勧告は、放射線防護に関する国際基準として広く認められている。各国政府は、ICRPの 勧告において示される基本的な考え方、IAEAが作成する放射線防護の指針などを基に、具体的 な防護措置を実施している。

ICRPの2007年勧告(ICRP Publication 103)36では、事故などによって被ばく源が制御でき なくなってしまった場合には、「緊急時被ばく状況」として、年間又は1回の被ばくで20~100mSv の範囲で、状況に応じて適切な参考レベルを設定し、防護対策の計画・実施の目安とすること とされている。その後、回復や復旧の時期(「現存被ばく状況」)では、長期目標は「被ばくを 通常と考えられるレベルに近いか、あるいは同等のレベルまで引き下げること」であることか ら、参考レベルは年間1~20mSvの範囲の下方部分から選択すべきとしている。

(2) 避難指示の基準

福島第一原発電事故の初期防護措置においては、「原子力施設等の防災対策について(昭和 55年6月30日原子力安全委員会)」に規定された防災指針を参照しつつ、避難区域の設定等が 行われたが、防災指針は短期間の避難や屋内退避を想定したものであり、我が国には、長期に わたる防護措置のための指標がなかった。このため、ICRP勧告において緊急時被ばく状況に適 用することとされている参考レベルの範囲20~100mSvの下限であり、最も厳しい値に相当する

20mSv/年が避難を要する参考レベルとして適用された37

(3) 一般公衆の放射線防護

学校の利用については、文部科学省は、平成23年4月19日に「福島県内の学校の校舎・校 庭等の利用判断における暫定的考え方について」を公表し、ICRP勧告の現存被ばく状況の参考 レベルの年間1~20mSv の上限値に合わせ、学校校庭の利用基準を空間線量率で毎時 3.8μSv

(被ばく線量20mSv/年は、16時間の屋内(木造)、8時間の屋外活動という生活パターン、木 造家屋の遮蔽の低減率 0.4 を想定すると、屋外の空間線量率では 3.8μSv/時に相当する。)と する方針とした。その後、より安全側に立った形で、8月26日に「福島県内の学校の校舎・校 庭等の線量低減について」を公表し、「福島県内の児童・生徒が学校で受ける放射線量に関し年 間1mSv以下を目指す」とした。

一般住民等の放射線防護の考え方については、原子力安全委員会が平成23年7月19日に公 表した「今後の避難解除、復興に向けた放射線防護に関する基本的な考え方について」では、

「現存被ばく状況に適用されるバンドの年間1~20mSv の下方の線量を選定することとなる。

その際、状況を漸進的に改善するために中間的な参考レベルを設定することもできるが、長期 的には、年間1mSvを目標とする。」とされた。

36 The 2007 Recommendations of the International Commission on Radiological Protection ICRP Publication

103、邦訳版:社団法人日本アイソトープ協会「国際放射線防護委員会の2007年勧告」(平成218月)

37 原子力災害対策本部「避難指示区域の見直しにおける基準(年間20mSv基準)について」(平成247月)

(4) 放射性物質汚染対処特別措置法の基本方針

「除染推進に向けた基本的考え方(平成23年8月26日、原子力災害対策本部)」において、

推定年間被ばく線量(医療被ばくは除く、以下同。)が20mSv を下回っている地域においても、

市町村、住民の協力を得つつ、効果的な除染を実施し、推定年間被ばく線量が1mSv に近づく ことを目指すなどの方針が示され、放射性物質汚染対処特別措置法に基づく基本方針にも引き 継がれている。

放射性物質汚染対処特別措置法に基づく基本方針においては、除染等の措置についての目標 が示されており、平成23年8月現在の年間追加被ばく線量が20mSv以上の地域を段階的かつ迅 速に縮小すること、20mSv未満の地域では、長期的に年間1mSv以下になることが目標とされた。

この長期目標としての年間追加被ばく線量1mSv は、本来、人の追加被ばく量を対象にして いるものであって、除染のみならず、他の防護策を含めて達成すべき政府全体の目標であるに もかかわらず、本基本方針において、この数値を単純に引用したこと等により、除染のみで達 成する目標であるかのように受け取る意見がみられた。

(5) 汚染状況重点調査地域の指定基準と除染方法

「除染に関する緊急実施基本方針(平成23年8月26日 原子力災害対策本部)」において、

年間 20mSv 以下の地域において追加被ばく線量が年間1mSv 以下となることを長期的な目標と

した。また、除染の進め方として、年間1~20mSv の間の地域の中でも比較的線量の高い地域 においては、面的な除染が必要と考えられるが、比較的線量が低い地域においては、放射性物 質の物理的減衰及び風雨などの自然要因による減衰(ウェザリング効果)などを勘案すると、

基本的に面的な除染は必要なく、側溝や雨樋など局所的に高線量を示す箇所の除染が重要とし た。

これを踏まえ、第2回環境回復検討会(平成23年9月27日)において、汚染状況重点調査 地域の指定の要件を追加被ばく線量が年間1mSv を超える地域とし、実際には空間線量率毎時

0.23μSvを指定要件とした。この換算方法は、文部科学省による「福島県内の学校等の校舎・

校庭等の利用判断における暫定的考え方」(平成23年4月19日、23文科ス第134号)におい

て、年間20 mSvを毎時3.8μSvに換算した際に用いられた方法を参考としている。

当該指定要件については、平成23年11月22日に「平成二十三年三月十一日に発生した東北 地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染へ の対処に関する特別措置法の規定に基づく放射線障害の防止に関する技術的基準の策定につい て(諮問)」において環境大臣が放射線審議会会長に諮問を行い38、同年12月13日に妥当であ るとの答申が同会長より示された39。これを踏まえ、同年12月14日に「汚染廃棄物対策地域の 指定の要件等を定める省令(平成23年環境省令第34号)」が公布された。

基準を検討していた当時は、放射線物質による広域汚染が生じた場合に被ばく線量を空間線 量率から換算するための知見の集積が十分でない中で、安全側に立って算出した数値であるが、

一方で安全側に立って遮へい効果は考慮すべきでないという意見、他方で遮へい効果、滞在時

38 環境省「平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出され た放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法の規定に基づく放射線障害の防止に関する技術的基 準の策定について(諮問)(平成231122日)

39 放射線審議会「平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放 出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法の規定に基づく放射線障害の防止に関する技 術的基準の策定について(答申)(平成231213日)