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第 2 章 除染の特徴と意義

2.1 放射能汚染と除染の特徴

2.1.1 放射能汚染の特徴

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文部科学省が平成23年6月及び平成24年1月に行った土壌調査の結果、プルトニウム238、

239、240は、1箇所で検出されたプルトニウム238の沈着量(事故前に観測されたプルトニウ

ムの最大値の1.4倍程度)を除き、事故前の平成11~21年度までに全国で観測された大気圏内 核実験の影響による範囲内であった。ストロンチウム90についても、過去の大気圏内核実験の 影響による範囲内であった28。沈着量の最高値が検出された各箇所における50年間積算実行線 量は、セシウム134や137に比べて、プルトニウムや放射性ストロンチウムは非常に小さい値 となっている29

さらに、半減期がヨウ素131は約8日、キセノン133は約5日、テルル132は約3日と短い ことから、中長期的な被ばく影響は少なく、放射性物質汚染対処特別措置法の成立時点(平成 23年8月26日)では例えばヨウ素131の存在比は事故発生直後の0.0001%以下となり、検出 されることはなかった。

これらのことから、福島第一原発事故に起因する、人の被ばくを考える上で重要な沈着核種 はセシウム134(半減期約2.1年)とセシウム137(半減期約30.2年)の2つであった。

(3) 事故の規模と社会的背景

原子力発電所等の事故・トラブルの程度を表す国際的な指標であるINES(国際原子力・放射 線事象尺度)評価では、福島第一原発事故は、チェルノブイリ原発事故と同じレベル7(深刻 な事故)である。なお、大気への放射性物質の放出量を比べると、福島第一原発事故はチェル ノブイリ原発事故の約1割程度と見込まれている。その他の大きな事故では、スリーマイル島 原子力発電所事故がレベル5(広範囲な影響を伴う事故)、東海村JCO臨界事故がレベル4(局 所的な影響を伴う事故)である28

チェルノブイリ原発事故や南ウラル核施設事故など、旧ソ連において発生した事故では、情 報規制により、事故の発生や政府の対応等の情報開示が十分に行われなかった。また、旧ソ連 という広大な面積を持つ国で発生し、移住が前提として事故対策が行われた。一方、福島第一 原発事故は、狭い日本の国土で発生し、多くの地域で住民が居住している状況、もしくは帰還 することを前提で事故の対応が求められた。また、政府発表や報道により、事故当初から多く の情報が開示されたほか、インターネット等により様々な情報が飛び交う一方、放射線の健康 影響とリスクに関して専門家と国民との間で適切な知識・情報の共有がなされなかった30中で、

放射能汚染への対処を進めていくこととなった。

29 文部科学省「文部科学省による、プルトニウム、ストロンチウムの核種分析の結果について」(平成239 30日)

30 首相官邸ホームページ「放射線の健康リスクに関する科学教育の強化―日本学術会議提言―」

(http://www.kantei.go.jp/saigai/senmonka_g72.html)

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表2-1 チェルノブイリと福島第一原発の代表的な放射性核種の推定放出量の比較 放射性核種 半減期 環境への放出量 PBq(1015Bq) 福島第一原発/

チェルノブイリ チェルノブイリ 福島第一原発

キセノン(Xe)133 約5日 6500 11000 1.69 ヨウ素(I)131 約8日 ~1760 160 0.09 セシウム(Cs)134 約2年 ~47 18 0.38 セシウム(Cs)137 約30年 ~85 15 0.18 ストロンチウム(Sr)90 約29年 ~10 0.14 0.01 プルトニウム(Pu)238 約88年 1.5×10-2 1.9×10-5 0.0012 プルトニウム(Pu)239 約24100年 1.3×10-2 3.2×10-6 0.00024 プルトニウム(Pu)240 約6540年 1.8×10-2 3.2×10-6 0.00018 出典:環境省・放射線医学研究所「放射線による健康影響等に関する統一的な基礎資料 平成28年度版」

(4) 日本・福島県の固有の背景、特徴

日本は国土の約66%が森林で占められ、農地は約12%、宅地は約5%に留まり、可住地の人 口密度が高い傾向にある31。福島第一原発事故の影響を最も強く受けた福島県をみると、震災前 の総人口は約200万人、総面積は約1万4千km2と広大であるが、森林が約71%、農地が約11%、

水面・河川・水路などが約 3%、道路約4%、宅地(工業用地等を含む)約4%、その他(公 園緑地、リゾート・レクレーション施設、耕作放棄地等)約7%である32。また、東側を太平洋 に、西側を山々に囲まれるため、四季は東西で状況がかなり異なり、中通り地区などは雪が多 く、福島市では平成17年から26年までの10年間の雪日数の平均は年間74日と全国でも降雪 日数の多い土地柄である33。(図2-2)

さらに、事故を起こした福島第一原発は東京電力の施設であり、福島県民のためではなく首 都圏の住民のための電力を供給するための施設で事故が生じたことは、重要な点である。

図2-2 福島県の気象の状況(過去10年間の平均)

出典:気象庁アメダス 福島観測所、小名浜観測所 平成17~26年の10年間における観測結果

福島県は、東北圏(新潟県含む)、首都圏の6県と接し、面積は北海道、岩手県に次ぐ全国第

31 第五次国土利用計画(全国計画)概要

32 福島県「平成28年度 福島県勢要覧」(https://www.pref.fukushima.lg.jp/sec/11045b/28youran.html)

0 5 10 15 20 25 30

0 5 10 15 20 25 30

1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月10月11月12月

福 島(中通り) 降水量降雪日数

気温

(×10mm) (℃)

(日)

0 5 10 15 20 25 30

0 5 10 15 20 25 30

1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月11月12月 小名浜(浜通り) 降水量

降雪日数 気温

(日) (℃)

(×10mm)

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3位であり、「浜通り」、「中通り」、「会津」の3つに区分される。南北方向3本の縦軸、東西方 向3本の横軸の6本の連携軸の結節上に特色ある「七つの生活圏」を形成し、それぞれの軸に 都市が分散した「多極分散型」の県土構造となっている。

東京から約200km圏で首都圏に隣接し、東北圏と首都圏の結節点に位置する。東北圏と首都 圏を結ぶ東北自動車道、常磐自動車道、東北・山形新幹線、太平洋側と日本海側を結ぶ磐越自 動車道、福島空港、小名浜港、相馬港等により、人やモノの交流拠点となり、企業立地、交流 人口の拡大を図る上で有利な地理的条件にある。

震災前は、我が国最大の発電県であり、首都圏のうち東京を中心とする1都3県に対し、そ の消費電力の約3分の1を供給していた。また、平成22年度時は、製造品出荷額等は約5.1兆 円(全国 20位、東北圏(新潟県含む)で1位)であり、農業産出額は約2,330億円(全国11 位)と多彩な農産物の総合力は全国トップクラスであった。

猪苗代湖や磐梯山、尾瀬などの豊かな自然環境にも恵まれ、グリーン・ツーリズムや二地域 居住の場として好適であり、温泉、ゴルフ場、スキー場などの観光レクリエーション施設も豊 富である。また、鶴ヶ城、白水阿弥陀堂などの文化財も多く、歴史と伝統に彩られた地である34