3.3.1 目的
地下深部の地下水水質の調査では、孔内採水 に比べ比較的簡便に実施できるボーリングコア 試料の間隙水を抽出する技術が開発されている。
これまで、幌延地域の堆積岩について圧縮抽水 による間隙水抽出方法が適用されてきた(木方
ほか、2005、太田ほか、2007)。幌延地域の岩石
の間隙水抽出では、調査の初期の段階で試料採 取後の岩石の酸化による水質変化が問題となり、
特に、硫酸イオンの変化が認められている。こ の原因としては、3.2 章で述べたような化学的 風化作用により岩石中に含まれる黄鉄鉱がボー
リング掘削後の大気環境下で酸化したためと考 えられる。本研究では、この試料採取後の酸化 の影響を極力防ぐために、試料の前処理段階で 試料整形を不活性ガス(窒素)雰囲気で行うため の装置を新たに開発し、前処理に伴う水質変化 を検討した。なお、圧縮抽水の条件による抽出 水の水質変化については別途中田ほか(2007)に 報告した。
3.3.2 窒素ガス環境下での試料加工
試料の整形時に酸素に触れることを防止する ために、窒素ガスを充填したグローブボックス 内で試料を加工し抽水容器に装填できる装置を 開発した(図3.3-1)。ボックス内は窒素ガスをボ ンベから供給し、さらに酸素吸収剤を用いて、
ボックス内部の酸素濃度を 0.1%以下に設定し た。ボックス内には岩石カッターを設置し、カ ッターの岩石屑はボックスの側面に設置した集 塵機にボックス内のガスを循環させて集塵する 仕組みで、堆積岩類の乾式加工が可能である。
試料は、コア採取後に周囲をパラフィンで密 封された状態で実験室に運び、ボックス内で開 封し、直径88mmのコアの中軸部分を円柱(直径
図 3.3-1 窒素ガス環境下での試料加工 酸素吸収剤を用い、酸素濃度、0.1%以下に制御した。
N
2岩石用カッター 抽水容器
試料
グローブボックス
集塵機
50mm、長さ100mm)に整形し、加工後の試料は、
抽水容器にボックス内で装填し、試料の上下に 加圧板を付けて大気に接しない状態で容器をボ ックスから取り出し抽水を行った。圧縮抽水装 置は木方ほか(1999)を用い、300MPaの圧力条件 で抽水を実施した。水質分析は、Na、K、Ca、
Mg、Cl、SO4についてはイオンクロマトグラフ
法により、HCO3、CO3については、赤外線分析 法により行った。δD、δ18Oについては、安定 同位体分析装置により行った。
3.3.3 抽水結果
分析結果を表 3.3-1 に示した。同じ深度のコ ア試料について、上記の窒素雰囲気で加工した ものと、大気雰囲気で加工したものの抽水水質 の比較を行った。抽出水の主要成分および酸素 水素同位体について分析した結果、SO4 と Ca は有意な違いが認められ、その他の成分の違い は小さかった。以下に、SO4とCaの加工条件と 水質の関係について記述する。
抽出水のSO4濃度について、大気雰囲気と窒 素雰囲気での値を図3.3-2に示した。SO4濃度は、
窒素雰囲気で加工した試料は大気中で加工した ものと比較して、濃度はやや小さい値を示す試 料が多く認められた。例外的に、図 3.3-2 で□
印を付けた3個の試料は、窒素雰囲気での加工 試料の濃度が2倍以上と大きい値を示した。こ れらの試料は、各孔の浅部の試料で、かつ、窒 素雰囲気での加工まで保存期間が採取後約 120 日以上と長い試料であった。このため、SO4 濃 度の違いは加工時の雰囲気によるものでなく、
保存期間の影響が大きいと考えられた。2 条件 で保存期間が近い試料のSO4濃度を比べてみる とその変化が小さいことより、保存期間に伴う SO4の減少も考えられる。
Ca濃度の比較結果について図3.3-3に示した。
Ca濃度は、上記のSO4濃度が窒素雰囲気の加工 で2倍以上の大きい値を示した3試料では、Ca 濃度もより大きい値を示すか濃度変化が小さか ったが、その他の試料の多くで、窒素雰囲気の 抽水試料で Ca 濃度の低下が認められた。この Ca濃度の差は、保存期間の長い試料で特に顕著 で、これも、保存期間との関係が示唆された。
表 3.3-1 抽出水の化学分析結果
孔名 深度 抽出圧力 Na+ K+ Ca2+ Mg2+ Cl- SO42+ HCO3- CO32- NO3- F- δD δ18O
m MPa mg/l mg/l mg/l mg/l mg/l mg/l mg/l mg/l mg/l mg/l ‰ ‰
HDB-9 226.59 300.00 4700 51 89 70 4100 1700 910 31 0.7 3.0 -35 0.5
HDB-9 267.48 300.00 5400 45 22 77 6300 4 2400 110 0.7 2.8 -26 1.8
HDB-9 460.15 300.00 5400 48 41 47 6500 16 2200 74 0.9 3.9 -24 2.3
HDB-10 340.40 300.00 1300 44 13 7.2 850 45 1700 58 0.6 3.0 -69 -8.5
HDB-10 454.40 300.00 5100 100 44 130 5900 19 1200 41 0.9 2.6 -42 -2.0
HDB-10 502.00 300.00 4400 88 32 80 5500 16 1600 54 1.0 5.2 -45 -2.7
HDB-11 70.74 0-50 2200 120 47 32 2100 30 2100 70 <0.2 <0.1 -64 -6.7
HDB-11 70.74 50-300 2100 100 45 30 2300 28 2200 100 <0.2 <0.1 -64 -6.7
HDB-11 289.00 0-50 6400 240 82 170 8300 5 2200 72 0.2 1 -25 2.5
HDB-11 289.00 50-300 6200 200 51 180 7900 11 2000 68 1.2 <0.1 -24 2.5
HDB-11 560.00 300.00 6300 100 54 160 8100 3 1600 54 1.0 2.6 -25 2.2
HDB-11 761.00 300.00 5300 52 41 140 6800 15 1300 44 1.3 4.0 -22 2.7
HDB-11 856.00 300.00 5800 63 130 100 7500 35 1100 38 0.9 4.7 -26 2.2
HDB-11 957.00 300.00 6400 74 83 100 8300 48 1200 39 1.2 5.0 -25 3.0
孔名 深度 抽出圧力 Na+ K+ Ca2+ Mg2+ Cl- SO42+ HCO3- CO32- NO3- F- δD δ18O
m MPa mg/l mg/l mg/l mg/l mg/l mg/l mg/l mg/l mg/l mg/l ‰ ‰
HDB-9 226.59 300.00 4700 51 89 70 4100 1700 910 31 0.7 3.0 -35 0.5
HDB-9 267.48 300.00 5400 45 22 77 6300 4 2400 110 0.7 2.8 -26 1.8
HDB-9 460.15 300.00 5400 48 41 47 6500 16 2200 74 0.9 3.9 -24 2.3
HDB-10 340.40 300.00 1300 44 13 7.2 850 45 1700 58 0.6 3.0 -69 -8.5
HDB-10 454.40 300.00 5100 100 44 130 5900 19 1200 41 0.9 2.6 -42 -2.0
HDB-10 502.00 300.00 4400 88 32 80 5500 16 1600 54 1.0 5.2 -45 -2.7
HDB-11 70.74 0-50 2200 120 47 32 2100 30 2100 70 <0.2 <0.1 -64 -6.7
HDB-11 70.74 50-300 2100 100 45 30 2300 28 2200 100 <0.2 <0.1 -64 -6.7
HDB-11 289.00 0-50 6400 240 82 170 8300 5 2200 72 0.2 1 -25 2.5
HDB-11 289.00 50-300 6200 200 51 180 7900 11 2000 68 1.2 <0.1 -24 2.5
HDB-11 560.00 300.00 6300 100 54 160 8100 3 1600 54 1.0 2.6 -25 2.2
HDB-11 761.00 300.00 5300 52 41 140 6800 15 1300 44 1.3 4.0 -22 2.7
HDB-11 856.00 300.00 5800 63 130 100 7500 35 1100 38 0.9 4.7 -26 2.2
HDB-11 957.00 300.00 6400 74 83 100 8300 48 1200 39 1.2 5.0 -25 3.0
3.3.4 考察
岩石中でのSO4イオンの生成は、①コア掘削 時の循環水や、コア観察時にコア外周部分の酸 化によりコア表面の黄鉄鉱の酸化で発生すると 考えられる。試料採取後、パラフィン塗布によ りコア表面での酸化の進行は止まり、②抽水用 の試料加工時に再度大気に接触して生じる。② の試料加工時の影響は、今回の窒素雰囲気での 加工により防止できたと考えられるが、抽水の 結果は、ややSO4イオン低減が認められたもの のその変化は小さく、②の影響は大きくないと 考えられた。
一方、一部の試料ではSO4イオン濃度が、窒 素雰囲気で加工したにもかかわらず大気中での 加工よりも大きい物が認められた。これは、① によるSO4イオンの影響が岩石内部に及んだこ
とによると考えられる。つまり、コア表面に生 じたSO4イオンが保存期間中にコア内部に拡散 し、コアの保存期間が120日を超えるような条 件では、コアの外周より、整形時に除去した 19mm 以上内部まで SO4イオンが拡散し、抽出 水に影響を与えたと考えられる。特に各孔で浅 部の岩石に顕著であったのは、浅部の岩石は一 般に深部に比較して間隙率が大きくSO4イオン の移動が速かったことが推定される。
また、Caイオン濃度が、多くの試料で低下し た原因については、保存期間中の間隙水の pH 変化等により、溶液から炭酸塩や硫酸塩が固相 として沈殿した可能性が考えられる。保存期間 の長い試料での硫酸イオンの低下は、この影響 が含まれる可能性がある。
HDB‐11 HDB‐9 HDB‐10
SO4(mg/l)
● 窒素雰囲気
■ 大気雰囲気
数字は採取後、抽水までの日数 下線は窒素雰囲気での抽水 K/W
K/W K/W
K/W
K/W
K/W HDB‐11 HDB‐9 HDB‐10 Ca (mg/l)
図3.3-2 各孔でのSO4イオン濃度 K/Wは声問層稚内層の境界位置を示す。
大気雰囲気の試料は、3.6章の地下水年代測定技術で 実施した物である。
図3.3-3 各孔でのCaイオン濃度
3.3.5 まとめ
圧縮抽水による間隙水抽出の前処理として、
窒素雰囲気での試料加工で、SO4イオン濃度の 変化を確認した結果、試料加工に伴う酸化の影 響は小さいと考えられた。一方、コア採取後の 保存期が120日を超えるような試料では、SO4、
Caイオン濃度の変化が認められ、コア表面から の酸化の影響が内部に及ぶことと、間隙水から 炭酸塩などの沈殿の生成が示唆された。保存期 間中の水質変化を少なくするためには、試料採 取後の酸化を少なくし、抽水を速やかに実施す ることが重要である。
3.3.6 今後の課題と展開
間隙水水質の評価を目的とした圧縮抽水技術 に関しては、今回の前処理方法に関する検討に あわせて、岩石種や抽出条件による水質変化に 関する検討など(中田ほか、2007)、汎用的な間 隙水抽出方法の確立に向けての課題の検討が必 要となる。
幌延地域の岩石への抽出技術の適用にあたっ ては、これらの検討結果を踏まえた条件設定を 行い間隙水抽出を行う。