3.7 地下の酸化還元状態と微生物の関連性検討
3.7.3 結果と考察
硫酸還元活性の有無の判定は、硫酸還元反応 により生成する黒色沈殿(硫化鉄)の有無を経時 的に確認することにより行った。メタン生成活 性に関しては、バイアルのヘッドスペースガス をガスクロマトグラフ(TCD 検出器、CP-4500、
Varian製)により、メタンガス濃度を測定するこ
とにより行った。なお、培養期間は、硫酸還元 活性およびメタン生成活性ともに最長3ヶ月と した。
(5)微生物群集解析(ランダムクローニ ング)
3)目 的 断 片 の 増 幅 が 確 認 さ れ た PCR 産 物 は RECOCHIP (Takara Bio)により回収、精製した。
精製されたPCR増幅断片を制限酵素HincIIで切 断し、末端を脱リン酸化処理したpUC19ベクタ ー に DNA ligation kit (TA-Blunt ligation kit,
Nippongene)を用いて連結した。連結した DNA
を 大 腸 菌 コ ン ピ テ ン ト セ ル(ECOS DH5α,
Nippongene)に形質転換することでクローンラ
イブラリーを構築した。
クローンライブラリーの大腸菌コロニーから 菌体を採取しこれをテンプレートとして、M13 universal primer; M4およびRVをプライマーに、
ExTaq (Takara Bio)を用いてPCR増幅を行った。
反応終了後 PCR産物2lを0.8%または2.0%ア ガロースゲル電気泳動に供し目的断片の増幅、
サ イ ズ ( ク ロ ー ニ ン グ に 用 い た 断 片 サ イ ズ
+123bp)を確認した。増幅された断片はMinElute
PCR purification kit (QIAGEN)を用いて精製した。
精製された増幅断片をテンプレートとして、
dye terminator 法による塩基配列決定を行った。
BigDye termonator kit v3.1を用いてDNAシーケ ンス反応を行い、DNA シーケンサーに供した。
解読されたDNA配列はDNA data bank of Japan
3) ランダムクローニング:多種多様な微生物群から構 成される検体試料から得られたクローンをランダムか つ多数解析することにより、検体試料中の微生物群の 種類と割合を解析する方法。
(DDBJ)の FASTA プログラムを利用して相同性
検索を行った。
図 3.7-1 岩石サンプルからの DNA 収量
図 3.7-2 ランダムクローニングによる門レベルでの微生物群集解析 抽出DNA量(g / g-rock)
0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5
QuickTimeý Dz TIFFÅiîÒà èkÅj êLí£ÉvÉçÉOÉâÉÄ Ç™Ç±ÇÃÉsÉNÉ`ÉÉǾå©ÇÈǞǽDžÇÕïKóvÇ-Ç ÅB
-140 -130 -120 -110 -100 -90 -80 -70 -60 -50 -40 -30 -20 -10 0
G. L. (m)
東立坑柱状展開図
割れ目 密集部 断層
断層→
断層→
Deinococcus-Thermus Chloroflexi
Acidobacteria
Verrucomicrobia Cyanobacteria Actinobacteria
Chlamydiae Firmicutes Bacteroidetes Nitrospirae
-proteobacteria
-proteobacteria
-proteobacteria
-proteobacteria 微生物分類門
Deinococcus-Thermus Chloroflexi
Acidobacteria
Verrucomicrobia Cyanobacteria Actinobacteria
Chlamydiae Firmicutes Bacteroidetes Nitrospirae
-proteobacteria
-proteobacteria
-proteobacteria
-proteobacteria 微生物分類門
-140 -130 -120 -110 -100 -90 -80 -70 -60 -50 -40 -30 -20 -10 0
G. L. (m)
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100%
140B 100B 90B 80B 60B 40B 11B 5Bw 5B
24B
-140 -130 -120 -110 -100 -90 -80 -70 -60 -50 -40 -30 -20 -10 0
G. L. (m)
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100%
140B 100B 90B 80B 60B 40B 11B 5Bw 5B
24B
(2)微生物活性の測定と関連遺伝子の検 出
還元環境の指標として、嫌気的還元反応であ る微生物による硫酸還元活性とメタン生成活性 の観察を行った(表3.7-6)。活性が認められたの はいずれも表層付近(G. L. -5m)であった。深部 で活性が認められないのは微生物の量が非常に 少ないため(前節参照)であることが考えられる。
一般的に、硫酸還元を行う微生物は主にバクテ リアに属し、メタン生成を行う微生物はアーキ アに属する。バクテリア量が多いG. L. -5.5mで 硫酸還元活性が、また、アーキア量が多いG. L.
-5.1m でメタン生成活性が認められたことから
も、微生物活性は微生物量に依存していること が示唆される。
微生物活性に関連し、硫酸還元細菌が保有す る硫酸還元に関わる遺伝子(dsrAB: dissimilatory (bi)sulfite reductase)およびメタン生成菌が保有 す る メ タ ン 生 成 に 関 わ る 遺 伝 子(mcrA: methyl
coenzyme M reductase)のPCR増幅を試みた。活 性が認められた表層付近では活性に関連した遺 伝子がそれぞれ検出された。微生物活性によっ て各反応が進行することが強く示唆される。活 性が認められなかった深部(-80~-100m)におい ても各遺伝子が検出された。活性を示すには条 件が合わなかった、あるいは活動休止状態(また は死菌)の微生物由来の遺伝子が検出されたと 考えられる。現時点で活性を示さないが、反応 条件によっては活性を示す可能性がある。また、
以前の微生物活動の痕跡である可能性も否定で きない。
(3)微生物群集解析
現時点での活性の有無を問わず、岩石試料中 に存在する微生物種を推定するため、ランダム クローニング法によりバクテリア16S rRNA遺 伝子の一部配列を塩基配列決定し、相同性検索 を行った。深度毎に約50クローンを目安に塩基 配列を解析した。微生物分類門レベルでの群集
表 3.7-6 堆積岩中の微生物活性測定と機能遺伝子検出
Sample Depth
(G. L. m)
硫酸還元 活性a)
dsrABb) メタン生成 活性a)
mcrAb)
5Bw -5.1 + +++ +
5B -5.5 +++ +++
11B -11.6
19B -19.6
24B -24.1 +
40B -40.1
52B -52.7
60B -60.0
69B -69.8
80B -80.1 +
90B -90.1 +++ ++
100B -100.2 ++ ++
110B -110.2 N. T. N. T.
118B -118.2 N. T. N. T.
130B -130.2 N. T. N. T.
140B -139.2 N. T. N. T.
Sample Depth
(G. L. m)
硫酸還元 活性a)
dsrABb) メタン生成 活性a)
mcrAb)
5Bw -5.1 + +++ +
5B -5.5 +++ +++
11B -11.6
19B -19.6
24B -24.1 +
40B -40.1
52B -52.7
60B -60.0
69B -69.8
80B -80.1 +
90B -90.1 +++ ++
100B -100.2 ++ ++
110B -110.2 N. T. N. T.
118B -118.2 N. T. N. T.
130B -130.2 N. T. N. T.
140B -139.2 N. T. N. T.
a) 活性: +++; 顕著な活性が認められる、++; 良好な活性が認められる、+;活性が認められる、
: 活性が認められない。
b) PCR増幅度: +++; 良好に増幅、++; 増幅、+; わずかに増幅、; 検出されず、N.T.; 未実施。
構造比を図3.7-2に示す。G. L. -5.1mにおいて最 も多く30種、以下-5.5mで18種、-11.6mで16 種、-24.1mで26種、-40.1mで23種、-60.0mで 13種、-80.1mで14種、-90.1mで14種、-100.2m で8種、-139.2mで20種の微生物の存在が確認 された。深度が進むにつれ種数は減少していく 傾向が見られた。前述したように深部では微生 物量が少なく、微生物活性も低いことが推定さ れていることから、構成する微生物群集構造が 単純になっていくことが考えられる。
深度が深くなるにつれて、鉄還元細菌や硫酸 還元細菌が属する delta-proteobacteria 群が優占 しており、堆積岩のおかれている環境が還元的 であることが推察される。深度が浅くなると土壌 細菌であるFirmicutes群やalpha-proteobacteria群 が多く存在していた。表層の土壌細菌が天水の 侵入に伴って流入した可能性が考えられる。G.
L. -140mではG. L. -100mまでに見られた深度に 依存した微生物群集傾向が見られない。これは
G. L. -140mにおける微生物量の少なさが影響し
ていると考えられる。G. L. -20m付近に塩淡境 界があると推定されるが、G. L. -24.1m以深では 海洋性細菌と近縁なクローンが多数含まれてい た。割れ目および断層が密集したG. L. –80m付 近では従属栄養細菌が多く検出された。割れ目 等に染み入った地下水により活性化した微生物 活動の痕跡であるか、または地下水の流れによ って表層より流入してきた微生物群である可能 性が考えられる。以上のことより、地質状態ま たは形成過程に関連して存在する微生物種が異 なっていることが示された。
今回、PCR増幅が困難であったためにアーキ
ア16S rRNA遺伝子を用いた微生物群集構造解
析は行っていない。定量PCRの結果から、深部 におけるアーキアの存在はほぼ無いと考えられ るが、主にメタン代謝に関わる微生物はアーキ アに属するものが多いことから、アーキアの存 在は重視すべきである。今後、メタン生成活性
の高い試料が出現した場合は、特にアーキアに 関する解析に注力すべきである。