3.7 地下の酸化還元状態と微生物の関連性検討
3.7.5 今後の課題と展開
構造比を図3.7-2に示す。G. L. -5.1mにおいて最 も多く30種、以下-5.5mで18種、-11.6mで16 種、-24.1mで26種、-40.1mで23種、-60.0mで 13種、-80.1mで14種、-90.1mで14種、-100.2m で8種、-139.2mで20種の微生物の存在が確認 された。深度が進むにつれ種数は減少していく 傾向が見られた。前述したように深部では微生 物量が少なく、微生物活性も低いことが推定さ れていることから、構成する微生物群集構造が 単純になっていくことが考えられる。
深度が深くなるにつれて、鉄還元細菌や硫酸 還元細菌が属する delta-proteobacteria 群が優占 しており、堆積岩のおかれている環境が還元的 であることが推察される。深度が浅くなると土壌 細菌であるFirmicutes群やalpha-proteobacteria群 が多く存在していた。表層の土壌細菌が天水の 侵入に伴って流入した可能性が考えられる。G.
L. -140mではG. L. -100mまでに見られた深度に 依存した微生物群集傾向が見られない。これは
G. L. -140mにおける微生物量の少なさが影響し
ていると考えられる。G. L. -20m付近に塩淡境 界があると推定されるが、G. L. -24.1m以深では 海洋性細菌と近縁なクローンが多数含まれてい た。割れ目および断層が密集したG. L. –80m付 近では従属栄養細菌が多く検出された。割れ目 等に染み入った地下水により活性化した微生物 活動の痕跡であるか、または地下水の流れによ って表層より流入してきた微生物群である可能 性が考えられる。以上のことより、地質状態ま たは形成過程に関連して存在する微生物種が異 なっていることが示された。
今回、PCR増幅が困難であったためにアーキ
ア16S rRNA遺伝子を用いた微生物群集構造解
析は行っていない。定量PCRの結果から、深部 におけるアーキアの存在はほぼ無いと考えられ るが、主にメタン代謝に関わる微生物はアーキ アに属するものが多いことから、アーキアの存 在は重視すべきである。今後、メタン生成活性
の高い試料が出現した場合は、特にアーキアに 関する解析に注力すべきである。
する原位置試験を立坑内において実施する計画 である。
4.おわりに
堆積岩の地質環境特性の調査・評価技術の開 発の一環として、幌延地域において電中研と原 子力機構との共同研究として、地上からの調査 段階の成果と、坑道掘削に伴う調査研究開発の 初期の段階の調査結果について、以下の検討を 実施し以下の成果を得た。
(1)堆積岩の続成作用と急速スレーキン グ(浸水崩壊)に関する検討
続成作用に関する検討では声問層と稚内層 境界にアモルファスに近いシリカ球状体で充填 された珪質岩(一部でオパール質チャートを形 成)が確認された。オパール質チャートの透水係
数は 10-12m/sec で同じ深度の珪藻質泥岩に比べ
て2オーダー小さいことが明らかになった。ま た声問層の珪藻質泥岩は急速スレーキングしな いことが明らかになった。露頭表面の間隙水の 分析から表面にはイオンが濃集しており、黄鉄 鉱の酸化により鉄イオン表面に吸い上げられる とpHが増加することが推察された。
東立坑-140m 付近での EdZ 調査では、北東-南 西方向の割れ目が多いこと、立坑周辺 1.5m に EdZ が広がっていることが明らかになった。
(2)岩石の化学的風化特性に関する検討
声問層珪藻質泥岩の地表からの風化(酸化)・ 変質と地下水水質への影響について、地表露頭 と東立坑で調査を行った結果、黄鉄鉱の酸化や 炭酸塩の溶解、間隙水の置換状況により地表部 から酸化帯、溶解帯、漸移帯、賢岩部に区分さ れた。東立坑付近では浅層部の氷河性堆積物の 角礫層の間隙水は天水置換されており、声問層 の岩盤表層も岩盤表層から約 20m まで天水置 換が徐々に進行していると思われた。酸化の影 響範囲は、地表露頭では岩盤表層から数 10cm、
東立坑では、地表から約 5m と浅層に限られて いた。空洞掘削に伴い珪藻質泥岩の表層は急速 に酸化するが、岩石内部への進行は狭い範囲に 限られ、特に造岩鉱物への短期間での影響は黄 鉄鉱、炭酸塩鉱物に限られると考えられた。
(3)間隙水の抽水方法の検討(窒素環境 下での試料処理)
圧縮抽水による間隙水抽出の前処理として、
窒素雰囲気での試料加工で、SO4 イオン濃度の 変化を確認した結果、試料加工方法による SO4
イオン濃度の違いは小さかった。一方、コア採 取後の保存期が120日を超えるような試料では、
SO4、Ca イオン濃度の変化が認められ、コア表 面からの酸化の影響が内部に及ぶこと、間隙水 から炭酸塩などの沈殿が示唆された。間隙水抽 水で、試料採取後の水質変化を少なくするため には、試料採取後の酸化を少なくし、抽水を速 やかに実施することが重要である。
(4)岩石の物理特性を考慮した探査技術 の研究(変換解析の適用性検討)
岩石コア試料を用いた室内試験により物理特 性の相関性を解明し、ボーリング孔の現地物理 検層データに変換解析法を適用し、透水係数・
力学強度のプロファイルを算出した。物理検層 データより変換した透水係数は、コア試料によ る室内試験結果とほぼ整合した。また、原位置 透水試験結果とは割れ目のない区間で整合した が、割れ目帯では整合しなかった。物理検層デ ータより変換した一軸圧縮試験は、コア試料に よる試験結果とほぼ整合したが、一部の孔井で は整合しなかった。これは割れ目の影響と考え られた。
(5)コントロールボーリング技術の現地 適用性の検討
平成17年度より、これまでに構築したコント ロールボーリング掘削、調査システムを幌延地 域に分布する大曲断層に適用した。平成17年度 に反射法地震探査によって掘削箇所の選定と掘
削孔跡を決定し、平成18年度より掘削、調査を 行った。平成20年度末までに計画孔跡にほぼ沿 って孔長 800m まで掘削し、ほぼ 100%のコア を採取した。孔内における調査、コア観察およ びコアを用いた各種調査を実施し、①大曲断層 の透水性は、周辺岩盤より1オーダー程度低い が、水質は断層の上・下盤ともに同様であるこ と、②断層下盤を中心に間隙水圧が高いことが 判明した。
(6)地下水年代測定技術の現地適用性検 討
地下水年代測定の指標として、4He、36Clを用 いた手法を幌延サイトに適用した結果、4He を 用いた評価では、稚内層における地下水年代が 100万年~750万年程度と評価され、岩石の堆積 年代と近い値を示した。また、深度 400m 以深 の地下水において、36Cl/Clの値は一定で放射平 衡値を示し、上記深度で地下水年代が180万年 以上である可能性が高い。36Cl と4Heを用いた 地下水年代評価の結果には整合性があり、両者 の結果を併せて考えると、幌延地域の地下水が 流動性に乏しく、堆積時からほぼ滞留している 可能性が高いことが明らかとなった。
(7) 地下の酸化還元状態と微生物の関 連性検討
幌延深地層研究センター東立坑掘削時に採取 したコンタミネーションの極めて少ない堆積岩ブロッ ク試料より微生物DNAを抽出した。DNA抽出量お よび定量 PCR の結果から堆積岩の微小間隙中に 含まれる微生物量は非常に少ないことが示された。
硫酸還元およびメタン生成といった微生物活性は 非常に低く、現時点において堆積岩の微小間隙中 で活発な活動をしている微生物は希少であると考 えられる。しかし、活性の示されない深度において も微生物遺伝子は検出されており、量は少ないも のの間隙中においても微生物は存在していると考 えられる。棲息すると考えられる微生物種は深度別 に異なりそれぞれに特性が伺え、地質状態または
形成過程に関連して存在する微生物種が異なって いることが示唆された。
(8)今後の展開
本報告では電力中央研究所が中心となって 実施してきた研究内容について紹介してきたが、
今後それぞれの機関が取得してきたデータをさ らに詳細に検討し、要素技術としてのこれらの 技術の精度を高めるとともに、地上からの調査 段階のとしての、地表調査とボーリング調査の 成果を、概要調査における調査・評価の体系化 に取り込む。
平成 20 年度からは地下施設の原位置でのボ ーリング調査を開始した。今後、幌延深地層研 究センターの地下施設建設の進捗に合わせて、
また事業の展開を考慮して、地下施設内での地 質環境特性の調査・評価技術の開発・高精度化 を目指す。
謝辞
岩石の鉱物分析、化学分析では、(株)セレス の渡辺雅一氏、橘川貴史氏に、物性試験では谷 口友規氏にお世話になった。岩石の圧縮抽水試 験では、吉沢技研計測(株)の窪寺将氏にお世話 になった。
現地におけるコントロールボーリング掘削に おいては住鉱コンサルタント(株)の薦田靖志氏、
長谷和則氏、コア観察や各種試験においては、
同社の水落幸広氏、田代寿春氏、吉沢技研計測 (株)の戸田暁氏にお世話になった。
住鉱コンサルタント、水落幸広氏、小林浩久 氏、田代寿春氏および、電中研の須永崇之氏、
井ヶ田徳行氏 (在職中)、早川正史氏(在職中) にはコアサンプルを良好な状態で取得するのに ご尽力 いただきました。
これらの方々の協力に対して感謝の意を表し ます。