第二章 アメリカの株主代表訴訟制度
第三節 閉鎖会社における株主代表訴訟制度の少数派株主保護機能
I 従来の代表訴訟要求に従っている州
株主に対して代表訴訟方式での訴訟提起を要求している州は、その理由として、商取引 における予測可能性と一1買・性を必要とすることを挙げている465。諸州の主張によれば、会 社法において予測可能性と一貫性を促進することには大きな意義がある、という。
ある裁判所は、ALI方式の採用を否定するに当たって「法人はパートナーシップではな い」と指摘している。かかる裁判所は、「法人を設立するか否かには、様々な手続の選択を 伴う。したがって、商事規則は予測可能なものであるべきである。会社は会社として扱い、
逸脱が妥当であると出資者やその他関係者らが認める場合には、契約により規則を変更で きるようにしておくことが、その目的に最も良い形で資する」と述べている466。
さらに、これらの州では、株主代表訴訟の方が債権者が保護されることにも言及してい る。株主代表訴訟は、裁判所の監督に基づき債権者が優先性を取得することを確保しよう とするものである。株主の直接訴訟にあっては、その保護は得られない。換言すれば、こ れらの州の裁判所は、閉鎖会社に関する場合であっても、会社に損害を与える行為を行っ た取締役、役員又は株主からの損害回復は、当該会社に帰属すべきである、と考えている ことになる。このような方法で、利益は債権者への弁済に充てることが可能となる。そし て、不当な扱いを受けた株主は、取引上の利益、すなわち、保有株式の価値が上がること で間接的に損害を回復することになる467、と考えられている。
一部の裁判所は、閉鎖会社の株主はむしろパートナーに近いという理論に基づき、間接 的損害に関して株主が直接訴訟を行うことを認めるという考えは誤った前提である、と述
464Stee1manv Ma11o町716P−2d1282.1285(Ibid.ah01986);C£lMcCannw McCann,61 P.3a585,590(Ibid.ah02002)and Mlannos v Moss,155P.3d1166,1172(Ibid.ah02007).
465See,e.9.,DurhamvDurham,871A.2d41,46(NH.2005);WessinvArchivesCo㎎.,
592N.W.2d460,466(Mim.1999).
466Bagd−on v BrIbid一.gestone/Firestone,Inc.,916R2d.379,384(7th C辻1990)(app1ying De1aware Iaw).
467 Ibid一.
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べている。パートナーらは、早期解散に関する救済手段を有しうる場合や、事業を清算す ることなく一定期間にわたりパートナーシップ持分の価値相当額を得たり支払ったりする 各条件を設定しうる場合があるものの、閉鎖会社に関してはそうした保護が設けられてい ない、ともかかる裁判所は述べている。その主張によれば、直接訴訟を認めることは、多 数派株主に対し、訴訟の脅しのもとで少数派株主の株式を買い取るよう強制する結果を招 くおそれがある、とする雌8。従って、株主が会社の損害に関して直接訴訟を提起する場合 には、不本意ながら、会社の財産の強制的な清算を招き469、実質的に存続可能な事業を終 了させてしまう可能性もある。そうしたリスクについては、パートナーシップ契約のなか で協議しうるとはいえ、実際には株主間契約の内容には含まれないであろう。そうしたこ とから、これらの裁判所は、直接訴訟を認めることは事業の早期終了を招くことになり、
また、その会社の設立時点で想定されていなかった形で解決策を引き出す強力な力を株主 に与えることになる可能性もある、と考えているのである。実際のところ、事業終了のお それがなくとも、株主への支払を強制するような直接訴訟を認めれば、取締役の裁量権に 対する侵害と解釈される場合もあるようである470。
さらに、直接訴訟は勝訴することで原告となる株主に利益があるが、株主代表訴訟はす べての株主がその所有持分に応じて利益を享受することになる。換言すれば、従来の代表 訴訟要求に従うことは、訴訟当事者だけでなく、全株主を保護することになる。
また、これらの州では、従来の規準がなくなってしまえば、直接訴訟と代表訴訟との区別 は曖昧なものになる、とも考えられている。
1皿 ALIの方式を採用する州
ALI方式の採用に賛成する際の理論的解釈は、通常、株主代表訴訟の起源を振り返ると ころから始まる。これらの訴訟は、そもそも性質的に直接的かつ衡平なものであり、信託 受益者の概念と同等なものとして提起されていた471。閉鎖会社に関して、株主、とりわけ、
多数派株主を相互の受託者として考える州の数は増えてきている472。このことは、理論上、
468Lands倣。mvShaver,561N.W2d1,9・15(S,D.1997),
4691bid.
470A11anB.Coope巧KimR.Greenba1gh,&MeranieSta11ingsWiniams,supranote(391),
atp.6,
471Bert S.Pmn城The Sharebo1d−er s Dehvative Suit:Notes on its Derivation,32N工U.
L.REV980,994(1957);TamarFranke1&WayneM.Barsky TbePowerStmgg1e
Between Shareho1d.ers and.Directors:The Demand−Requirement in Derivative Suits,12 HOFSTRAL.REV39,47(1983);A11an B.Coope巧Kim R.Greenha1gh,&M1eranie Sta11i㎎sWi11iams,supranote(391),atp.7,
472JohnA.Gebaue耳Action in Own Name by Shareho1d−er ofC1ose1y He1d−Co叩。ration,
10A.L.R.6th293,§§6・10(2006);AI1an B.Coope巧Kim R.Greenba1gh,&1M[eranie Sta■ingsWi11iams,supranote(391),atp.7.
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直接的な請求権によって行使できる直接的な義務を示唆するものである。ある裁判所は、
r株主の損害と区別する会社の損害という概念は、一握りの株主しか存在しない会社の場 合、誤った捉え方である」と指摘している473。
さらに、実際問題として、ALIの見解の支持者は、従来の株主代表訴訟要件を不十分で あると考えている。例えば、閉鎖会社における取締役会は、利害関係なき取締役で構成さ れる可能性は低い474。従って、それらの状況下において、株主代表訴訟に係る制定法の要 求要件は、行使しても無意味となる可能性が高い。最悪の場合、取締役会は、少数派株主
と反目する株主だけで構成されることも考えられる。閉鎖会社に関する訴訟は、ALIの見 解の支持者の主張によれば、競合する株主派閥間の紛争により生じたものである可能性が 高い、とされている。結果として、株主の議決権行使は、会社利益の客観的評価によって ではなく、確立された派閥に影響を受けることになる475。とりわけ、取締役会が株主代表 訴訟を引き受け、会社が訴えの取下げを申し立てることを認めている州にあっては476、不 満を有する株主にとっては中身のない救済手段となる。この場合、取締役会は、多数派株 主によって支配されていることから、不満を有する株主から訴訟を引き継いで、単に取下 げることができる477のである。
株主代表訴訟を提起する場合であっても、不正行為者が多数派株主であるならば、損害 回復を受けるのは正にその不正行為者たる株主となる。このような事態は、株主による直
473AuroraCre砒Sews.,Inc.vLibe村yWDev,Inc.,970P.2d1273.1280・81(Utah 1998)(citingPrincip1es ofCo叩.Govemance:Ana1ysis and Recommend−ations,A.L.I.§
7.01(d.),comment.e(1994));A11an B.Cooper,Kim R.Greenha1gh,&1Meranie Sta11ings Wiuiams,supranote(391),atp.7,
474Princip1es ofCo叩.Govemance:Ana1ysis and−R㏄ommend.ations,A.L.I.§7.01(d.),
cmt.e(1998);Durhamv Durham,871A.2d−41,46(N.H.2005);A皿an B.Coop恥Kim R.
Greenha1gh,&Meranie Sta1h㎎sWi1hams,supranote(391),atp.7,
475Frank1in A.Gevurtz,W五〇Represents the Co叩。ration?In Search of a Be杭er Method一此rDeterminingthe Co叩。rate Interest inDerivative Suits,46U.lPITT.L.REV 265,318・19(1985)(citations omi航ed);A11an B.Coope巧Kim R.Greenha1gh,&Meranie Sta1hngsWi11iams,supranote(391),atp.7,
476Barth v Barth,659N.E.2d.559,562(Ind.1995);G1enn G.Morris,Shareho1der Derivative Suits:Louisiana LaW56LA.L.REV583,624(1996);James L.Rud.o1ph&
Gustavo A.de1Puerto,The Sp㏄ia1Litigation Committee:0rigin,Deve1opment,and−
Ad.option und−er Massachusetts Law,831MASS.L.REV47,47・48(1998);Durham w Durham,871A.2d.41,46(N.H.2005);A皿an B.Coope氏Kim R.Greenha1gh,&Meranie Sta11ingsWi11iams,supranote(391),atp.7,
477株主代表訴訟の提起に際し、会社は、訴状が必要な記載を欠いていること、原告の適切 代表性や行為時株主の原則から原告適格を欠いていることなどを理由として却下の申立も できる。高橋均「株主代表訴訟の理論と制度改正の課題」(同文館出版、2009年)140頁。
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接訴訟を認め、不正行為に起因する損害を立証する当事者にのみ損害回復を認めることで 回避される、とALI勧告の支持者は主張する。
ALIの勧告を採用する州では、株主代表訴訟を規定する法目的上の理由は、閉鎖会社の 場合には存在していない場合が多い、と指摘している。例えば、関係する株主がほとんど いない場合には、実質的に訴訟が重複する可能性は少ない。ALIの指針において、裁判所 は、その裁量により、訴訟の重複の可能性がない場合について直接訴訟を許可し、又は重 複の可能性が存在する場合について直接訴訟を認めないことができるものとなっている。
さらに、ALIの支持者は、企業内での紛争解決を促進するという目標は、必ずしも代表 訴訟の手続を要求することで促進する必要はない、と指摘している。閉鎖会社の株主が、
内部で問題を解決することができる場合にあっては、訴訟の必要はないであろう。閉鎖会 社の本質、すなわち、株主間の関係及び所有権と経営権の一体性などからすると、内部で の紛争解決の可能性はあまりない478。また、「重大な不正行為を是正するための訴訟は、事 業の適切な経営を阻害するものとは見なし難い」479。従来の株主代表訴訟要求により企業 内での紛争を解決するという目的は、閉鎖会社の訴訟に適用しても促進される可能性はあ まりない、とする。
ALIは、「代表訴訟において、反訴は禁止されていることが一般原則であることから考え ると、被告が原告に対して反訴しようとする場合など、直接訴訟を特徴づける一部の状況 は、被告にとってより公正なものとなる」と指摘している480。なかには、直接訴訟を認め るALI規則の適用は、害意にかかわる紛争にのみ妥当とし、経営上の不一致には適用しな い、と指摘する者もある481。こうした側面によって、会社荒し訴訟のおそれは減少し、株 主代表訴訟に基づく場合と同等の保護も提供されるはずである、とされる。
ALIの支持者は、伝統的な株主代表訴訟要求を支持する者によって引用される、予測可 能性と先例遵守の必要性について、閉鎖会社の場合にはそれらの重要性は劣る、と主張し
478James R,Burkhard,May a Mlemberofan LLC or a Limited.Pa肘nerBringa Breach ofFIbid一.uciary Duty C1aimAgainst Those Contro■ing the LLC orPartnership as a
DiversityAction?,23REV OF LITIG.239,251(2004);Durhamv Durham,871A.2d−41,
46(N.H.2005);刈1anB.Cooper,蛆mR.Greenha1gh,&Meranie Sta11ingsWiniams,
supra note(391),at p.7,
4791bid一.,at252(危。tnote omitted);Durham v Durham,871A.2d41,46(N.H.2005);
A11anB.Coop叫識㎜R.Greenba1gb,&MeranieSta11ingsW11iams,supramte(391),at
P.7,
480A.L.I,supra note(420)§7.01(d一),(cmt.e),at p.22,
481Danie1S.KLeinberger&ImantaBergma㎡s,Direct vs.Derivative,or What s a 1awsuit Between Friend−s in an Inco叩。rated.Partnership? ,22WM1.lMITCHELL L.
REV1203.1269(1996);A11an B.Cooper,KimR.Greenha1gh,&Merade Stauings Wi1hams,supranote(391),atp.7.
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