第二章 イギリスの株主代表訴訟制度
第四節 小括
コモン・ロー上の株主代表訴訟は、既述のように、個々の株主に提訴権が認められるケ ースが三つの類型に限定されていた。しかし、この三つの類型が、具体的にいかなる内容 を有するかが不明確であったために、このことが、個々の株主による提訴を妨げる主な原 因となっていた。
一方、最近になって、少数派株主が、不公正侵害行為の救済制度に基づく裁判所の命令 により、株主代表訴訟を提起することを許容した判例が現れたことによって、株主代表訴 訟は、コモン・ロー上において認められるとともに、1985年イギリス会社法459条の不公 正な侵害行為の救済制度に基づき、461条の裁判所の命令により提起することも可能である
ことが確認された。
かかる判例の出現により、以前は、コモン・ロー上で株主代表訴訟が提起された状況に おいて、現在は、もっぱら不公正侵害救済に基づいて株主代表訴訟が提起されるようにな
った。
このような実情から、現実的な解決方法として、株主代表訴訟と不公正侵害救済を統一 して単一の規定にすべきである、との見解がみられるようになった。そのため、2006年会 社法の改正に向けて、法律委員会は、両救済制度を統一することについての検討を行った が、次のような理由から、かかる選択を拒否している。
すなわち、法律委員会の見解は、不公正侵害救済の下では、①申立人が、不公正な侵害 行為を証明しなければならず、その際、会社がこの不法行為に関して正当な訴訟原因を有
しているということに加えて、当該会社が不法行為者を追及しなかったことが、不公正な 侵害行為にあたることも証明しなければならない。そして、②申立人は、自己の事件が支 持されるように、おそらく、不公正な侵害行為に関するその他多くの事実を主張するであ ろうと考えられる。そうであるとすれば、訴訟管理の観点からすると、不公正侵害救済に おける争点は、不明確となり、さらには、激増する傾向をもつことになる。不公正侵害救 済制度においては、重畳的に救済を求めることも可能であるため、争点が増えるとすれば、
裁判所は、会社に対する不法行為、すなわち、不公正侵害救済による代表訴訟の提起以外 の検討も行わなければならなくなる。「裁判費用を制限し、裁判時間を経済的に利用する見 224Und.er s1650fthe CompaniesAct1993,
225Ml Berkahn,above n110,90;A.Reisberg,supra note(193),at p.293.
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地からすると、会社に対する不法行為が、実質的な訴えの内容であるならば、争点は、会 社に対する不法行為に限定されることが好ましい。当該訴訟が個別の株主代表訴訟でなさ れるならば、裁判における争点は、会社に対する不法行為に限定されるべきであろう」と いうことである。
不公正侵害救済制度は、従来、裁判時間と費用がかかることが問題となっていた。した がって、不公正侵害救済制度における負担を一部軽減するために、株主代表訴訟を制定法 化したと解される。
一方、株主代表訴訟を、株主によるコーポレート・ガバナンスの一手段として機能する ように設計されることが望まれていたことも、両制度が結局は個別の制度として規定され た要因になっていた。
結局、2006年イギリス会社法は、コモン・ロー上の株主代表訴訟に代えて、株主代表訴
訟に関する新たな制定法規定を第11編に置いた。同法11編は、2007年10月1目から施
行されている226。
まず、2006年イギリス会社法第11編第1章冒頭において、株主代表訴訟とは、会社の 構成員によって提起された、当該会社に帰属する訴訟原因に関する訴訟手続であって、当 該会社のために救済を求める手続である、と規定されている(260条1項)。そして、代表 訴訟の提起は、第11編第1章の260条ないし264条に規定される代表訴訟の規定の範囲内 において、および、1985年会社法459条に存在していた不公正侵害行為救済の規定を承継 する、2006年会社法994条の下における命令に従って提起することができる、とされた(260 条2項)。
そして、制定法上の株主代表訴訟は、Foss v Harbott1eルールの例外である三つの提訴 許容類型を破棄し、これに代えて、取締役による経営上の過失(neg1igenCe)、任務解怠
(de血u1t)、義務違反(breachofduty)、または信託違反(breachoftmst)の作為不作為 の結果として、会社に損害が発生している場合に、個々の株主に提訴を認めることとなっ
た。
従来の、Fossv Harbott1eルールの下での株主代表訴訟は、どのような場合に株主代表 訴訟が提起できるのかの規準が曖昧で分かりにくかった。つまり、少数派株主に対する詐 欺とは何か、不正行為者の支配とは何かが曖昧であったために、代表訴訟が提起できるの かどうかさえ曖昧である、という問題点に関しては、制定された株主代表訴訟制度によっ て解決されたといえよう227。
また、Fossv Harbott1eルールの下における株主代表訴訟は、会社に損害を与えた取締 226川島・前掲論文江(163)7頁。
22リ11島・前掲論文江(163)21頁。
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役が多数派株主であったり多数派株主の指示を受けていたりするために、会社が当該取締 役に対して訴えを提起しない場合に、少数派株主が会社に代わって訴えを提起することを 認め、会社の損害を回復することで少数派株主を保護する、という少数派株主保護のため に、例外的に認められる訴訟であった228。
これに対して、2006年イギリス会社法上の株主代表訴訟は、訴訟原因が取締役の注意義 務違反等による行為からも生ずる、とすること等により、その範囲を拡大している。
したがって、2006年イギリス会社法上の株主代表訴訟は、個々の株主に提訴権が認めら れるケースが拡大しただけであって、依然、少数派株主を保護する制度として位置づけら れていることに変わりはない。また、閉鎖的な会社の少数派株主にとっては、既述のとお り、株主代表訴訟における間接的な損害回復も、少数派株主保護機能として大きな意味を 有している229といえよう。
ところで、2006年会社法改正後も、1985年会社法459条に存在していた不公正侵害救 済の規定を承継する、2006年会社法994条の下における命令に従って代表訴訟を提起する ことができるとされた(260条2項)。
株主代表訴訟が別個に規定されたにもかかわらず、不公正侵害救済制度に基づく裁判所 の命令により、株主代表訴訟の提起ができるとされた背景には、次のような要因があると 考えられる。
会社に対して不法行為がなされ、申立人によって会社救済が求められるとともに自己の 救済も求める状況(たとえば、求められる救済が不公正侵害救済に基づく株主代表訴訟と 株式買取)において、争点が明確であるような、裁判時間をさほど要しない事案であれば、
不公正侵害救済の申立に基づき、裁判所の命令によって直接合杜救済と自己の救済が与え られることの方が、制定法上の株主代表訴訟と不公正侵害救済2つの申立を別個に行うよ りも、裁判費用がかからないことは当然ありうる。また、二つの申立になると、訴訟手続 上不便性を伴うことになると考えられる。
以上のことから、イギリス法における不公正侵害救済制度と株主代表訴訟制度は、密接 に関連しており、多数決原則の弊害を修正し、少数派株主を救済する制度として両者は機 能しているといえよう。
なお、不公正侵害救済制度の裁判時間と費用がかかるという欠点については、同制度の 抜本的改正を行うことなく、株主代表訴訟を制定法化することにより、不公正侵害救済制 228川島・前掲論文江(8)21・22頁。
229株主代表訴訟に勝訴することによって確保される少数派株主の株式の価値の上昇が、不 公正侵害救済訴訟に勝訴することによって、裁判所により命令される株式買取の価格査定 に反映されることは、少数派株主にとって大きな意味を有していると解される。本稿 は
じめに参照。
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度の訴訟手続面の負担を一部軽減しようとしたことがうかがえる。
第二編においては、研究対象をアメリカ法に広げて、不公正侵害救済制度と類似した制 度である、アメリカの抑圧救済制度とアメリカの株主代表訴訟について順次考察を行うこ
ととする。
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