第二章 イギリスの株主代表訴訟制度
第二節 概要
I 従来の株主代表訴訟
イギリスにおける株主代表訴訟は、従来、コモン・ロー上認められていた制度であるが、
これは、1843年のFoss v Harbott1e事件判決171によって確立された、Foss v Harbott1e
171Foss w Harbott1e,2Hara461,671…】ng.Rep.189(Ch.1843).
本件では、議会の個別法に基づいて設立されたThe Victoria Park Companyの2名の株 主が、自己および被告以外のすべての株主のために、取締役、役員および一部の株主に対
して、損害賠償請求をおこなった。The Victoria Park Companyは、被告取締役らが所有 するマンチェスター近くにある180工一カーの土地を購入して、当該土地を開発・販売す
ることを目的とする会社である。原告の主張する請求原因は多岐にわたるが、主要なもの は次の二点の損害賠償請求である。第一に、被告取締役らは、当該180工一カーの土地を 取得し、それを会社に転売することで多大な利益を得た。しかし、それは会社設立時もし
くはその後に詐欺的に協議してなされたものであり、会社の利益を奪うことを目的とする 計画に基づいてなされた。すなわち、The Victoria Park Companyにおいて、当該土地を
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ルールと称される原則によって規律されていた。
当該原則によれば、会社の損害を回復する者は個々の株主ではなく会社自らである、と される。その結果、取締役の責任追及については、会社が提訴を決定するものと捉えられ ることになった。そして、その提訴決定に株主総会の同意がなければ、そもそも訴訟の係 属は認められない、と解釈されたため、実質、提訴決定は、株主総会の多数を制する多数 派株主の意思に委ねられていた。
もっとも、この原則(Foss v Harbott1eルール)の例外として、次の三つの場合には、
個々の株主にも取締役に対する責任追及が認められた。第一に当該違法とされる取引が会 社の目的外の行為である場合か、当該取引が株主総会の特別決議またはそれに準ずるもの によって認可または承認されえない場合である(ただし、1989年会社法改正により、定款 所定の目的に違反する行為は株主総会の特別決議で追認できることとなった)。第二に、違 法とされる行為に少数派株主に対する詐欺が含まれている場合である。第三に、不正行為 者によって会社が支配されていることが判明した場合である172。この例外に相当する場合
に、個々の株主が、訴訟により取締役の責任を追及するには、代表訴訟形式で訴訟を提起 することとされていた。
株主が、上述の、第二および第三の例外に基づく代表訴訟を提起するには、(a)少数派に 対する詐欺(血audontheminority)があること、および(b)不正行為者が会社を支配して、
購入する権限のある取締役に就任した者が、被告取締役らの間で転売された当該土地を法 外な値段で購入する、という計画である。被告らは取締役、監査人に就任し、会社設立許 可の法律が議会を通過する前にその計画を実行した。第二に、会社設立許可の法律(TbeAct ofIncorporation)では認められていない会社の資産を抵当にしてその金銭借入および銀行 から借入を行った。さらには大量の資金があるにもかかわらず、様々な為替手形、約東手 形を振り出した。
副大法官であるJames Wigram卿は、被告取締役らの行為による損害は、原告株主に対 するものではなく会社に対するものであることから、株主は訴訟を提起することが認めら れないため、会社が訴訟を提起すべきである、と判断した。唯一の問題は、本件で主張さ れる事実は、以下の規則(ru1e)に背反することを正当化しうるかということである。すな わちその規則とは、法人は、自己の名前と法人の資格で、または、法がその代表と認める ものの名前で提訴しなければならない、というものである。もっとも、この規則は被告取 締役らに広すぎる形で陳述されていると考えられ、原告株主が採っているような代表訴訟 という形式が適切でありうる場合もある、とする。しかし、その場合には、株主総会の決 議による提訴の同意がなければ、そもそも訴訟の係属は認められないとした。FoSS V Harbott1eルールを詳細に紹介する文献として、山田泰弘「株主代表訴訟の法理」(信山杜、
2000年)40 41頁。
172山田・前掲書注(171)16頁。
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会社が自己の名で訴えを提起することを妨げていることを証明しなければならない。(a)の 詐欺とは、普通法上の詐欺のみならず、衡平法上広い意味で、権限の濫用や誤用(abuseor misuseofpower)を含む。また、(b)の不正行為者による会社支配は、事実上の支配でも足
りる。なお、加害者の会社支配が、明白な過半数支配でない場合には、単にそのことを主 張するのみでは足りず、会社が訴えを提起する意思があるか否かを確認する何らかの手段 をとる必要がある173.
Foss v Harbo杭1eルールの例外の中で、上述の第二・第三の例外は、株主代表訴訟が、
少数派株主の救済手段として機能するケースであり、実際の訴訟においても、かかる例外 に該当するか否かが争われている。
なお、これらの例外は、判例の集積によって形成されたものであるため、必ずしも統一 的な原理に基づくものでもないし、判例の総てが共通の理解にしたがって解釈を展開して いるともいえない174。そのため、Foss w亘arbott1eルールの例外に対しては、学説からの 強い批判が存在した。
一方、2003年に、少数派株主が不公正侵害行為の救済制度における裁判所の命令により、
株主代表訴訟を提起することを許容した判例175が現れた。かかる判例によって、株主代表 訴訟は、コモン・ロー上認められると同時に、1985年会社法459条の不公正な侵害行為の 救済制度に基づき、461条の裁判所の命令により提起することもできることが確認された。
■ 2006年制定株主代表訴訟
イギリスでは、会社法の大規模改正を目指して、通商産業省により、1992年以来、会社 法の様々な領域について見直し作業が進められてきた。こうした中、Foss v Harbott1eル ールについても見直しが行われ、大法官と通商産業省から要請を受けて、法律委員会(Law Commission)は、株主の救済に関する法律の再検討と改正作業を完了し、1996年に株主 の救済に関する諮問書(Consu1tation Paper)176.1997年10月に株主の救済に関する報 告書177を公表した。
1997年の報告書において、株主代表訴訟については、株主が代表訴訟を提起できるか否 かについて、「より近代的で、柔軟かつ利用しやすい基準」をもった、新たな代表訴訟制度 173吉本健一「イギリス会社法における株主代表訴訟一Fossv Harbo枕1eのルールの形成と 展開一」比較会社法研究(奥島孝康先生還暦記念論文集第一巻)(成分室、1999年)40頁。
174川島・前掲論文江(8)3頁。
175Bhu11arvBhuuar[20031EWCACiv424;C1arkvCut1anH20031EWCACiv810,
176Law Commission一,Shareho1d−er Remed−ies:AConsu1tation Paper(Law Commission Consu1tationPaperNo,142,Stationery0箇。e,1996).以下「Consu1tationPaper」と略
する。
177Law Commission,Shareho1d−erRemed−ies(Law CommissionRepo此No.246,Cm3769 Stationery0曲。e,1997).以下「Report」と略する。
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を設けるべきこと、そして、代表訴訟を提起する権利の基本を明文化し、会社法に定める べきこと等が勧告された178。
すなわち、コモン・ロー上の代表訴訟においては、既述のように、個々の株主に提訴権 が認められるケースが三つの類型に限定されていたが、この三つの類型が具体的にいかな る内容を有するかが不明確であり、このことが、個々の株主による提訴を妨げる主な原因 となっていた。かかる原因を除去するために、法律委員会は、Foss v Harbott1eルールの 例外である三つの提訴許容類型を破棄し、これに代えて、次の二つの場合に個々の株主に 提訴を認め、株主代表訴訟提起権を制定法上の権利とすべきである、と勧告した179。
第一は、取締役による経営上の過失(neg1igence)、任務解怠(de血u1t)、義務違反(breach ofduty)、または信託違反(breachoftmst)の作為不作為の結果として、会社に損害が発 生している場合である。第二は、取締役が、自ら利益相反する立場でなした作為不作為に
よって、会社に損害が発生している場合である180。
通商産業省は、法律委員会の提案を全体として支持するとしながらも、少数派株主が、
会社の利益を無視して提訴する危険を考慮して、それとは異なったアプローチで、①少数 派株主の提訴と会社の不提訴決定との関係についての検討と、②注意義務違反の責任を株 主が追及することの可否を検討した上で、株主代表訴訟提起権を制定法上の権利とする具 体的な立法作業を行った181。
結局、Foss v Harbott1eルールの例外である三つの提訴許容類型を破棄し、これに代え て、二つの訴訟原因が生じた場合に個々の株主に提訴権を認める法律委員会の勧告に関し、
上述、第一の訴訟原因については2006年会社法において採用されたが、第二の訴訟原因に ついては明示的に言及されなかった182。
1997年の法律委員会の提案の内容が会社法の規定として結実するのに10年の歳月を要 することになったが、2006年会社法は、コモン・ロー上の株主代表訴訟に代えて、株主代
表訴訟に関する新たな制定法規定を第11編に置いた。同法11編は、2007年10月1目か
ら施行されている183。
まず、2006年会社法第11編第1章冒頭において、株主代表訴訟とは、会社の構成員に よって提起された、当該会社の訴訟原因に関する訴訟手続であって、当該会社のために救 済を求める手続である、と規定している(260条1項)。そして、代表訴訟の提起は、第11 編第1章の260条ないし264条に規定される代表訴訟の規定の範囲内において、および、
178川島・前掲論文江(163)5頁。
179山囲・前掲書注(171)20頁。
180山岡・前掲書注(171)20頁。
181山田・前掲書注(171)21頁。
182川島・前掲論文江(163)6頁。
183川島・前掲論文江(163)7頁。