第二章 イギリスの株主代表訴訟制度
第三節 不公正な侵害行為の救済制度と株主代表訴訟制度の関係 I 両制度を制定するに至った背景
イギリスの2006年会社法994条は、会社の業務が、当該会社の構成員の全部または一部 の構成員(少なくとも申立人本人を含む)の利益を不公正に侵害する方法により行われてい るかもしくは行われたこと、または会社の現実の行為もしくは企図された行為あるいは不 作為がかかる構成員の利益を不公正に侵害するか、または侵害するであろうことを理由と して、会社の構成員は、裁判所に対して命令を求める申立をなすことができる、と規定し ている。そして、裁判所は、994条による当該中立が十分な根拠に基づいていると確信した 場合、訴えられた事態を解決するために、996条1項の下、適当と考慮する命令を発するこ
とができる187。
不正あるいは義務違反が、単に構成員の過半数によって承認することができないものであ る。そして、②申し立てられた不正行為者が、会社を指揮しているために、「正当な請求者」
である会社が自ら主張することができないことである。
2007年10月1目より法定の代表訴訟に関する2006年会社法の規定が施行された。
2006年会社法の重要な規定は、以下に述べる260条3項である。「3項:本章に基づく代 表訴訟は、会社の取締役による過失、任務憐怠、義務違反または信託違反を含む現在また は将来の作為または不作為に起因する訴訟原因に関してのみ提起することが可能である。」
取締役とは、影の取締役および前取締役を含むものとして定義される。訴訟原因は、取締 役または他の者に対するもの、あるいは両者に対するものであることが可能である。
したがって、2006年会社法11編は、取締役の過失、任務解怠、義務違反または信託違 反に関し、株主代表訴訟において、当該取締役を訴える制定法上の権利を、株主に初めて 付与するものであり、裁判所に訴訟を進めさせるものである。この法律は、コモン・ロー
の下の既存のものよりも広範な行為を含んでいる。例えば、株主は、たとえ関与している 取締役が過失によって生じた利益を享受していなくても、取締役に対する代表訴訟を提起 することが可能である。これは、旧法からの重要な変更点である(Pav1idesvJensen[1956]
2A11ER518,[195613WLR224参照)。しかしながら、正当な根拠のない申立から取締役 を保護するための防衛手段が導入されており、その主なものとしては、株主らは自らに有 利な主張根拠があることを示し、訴訟を継続することに対する裁判所の同意を得る必要が
ある、という点である。
187Nicho1as Boume on Company Law,(2008)at pp.182−183.
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かかる制度を不公正な侵害行為の救済制度188というが、当初、この救済は、裁判所の判 断によりいっそう柔軟性を与えるために、また、正当かつ衡平法上の根拠に基づいて会社 に解散を命ずる場合の代替救済案として導入された189。
不公正な侵害行為の救済制度の先行規定は、1948年会社法の210条である。これは、少 数派株主が多数派株主による「抑圧」的な行為の犠牲となった場合、当該少数派株主に自
由裁量による救済を与える権限を裁判所に付与するために規定されたものであった。しか し、旧210条は、現実には期待はずれであったことが分かる190。なぜならば、第一に、「抑 圧」の定義が制限的であったからであり、第二に、この規定が非常に狭く解釈された結果、
救済が与えられた事案はわずか2件しかなかったからである。
その後、1980年会社法で新規まき直しが行われた。このとき、1948年会社法210条は 廃止され、後に1985年会社法459条として強化されることとなる、1980年会社法75条に 置き換えられた。「抑圧」行為は「不公正な侵害」行為により代替され、また、いくつかの 他の方法によりこの条文の範囲が拡大された。その結果、この新しい規定に基づく少数派 株主に対する救済が、それまでよりはるかに容易に得られることとなった。
さらなる法改正が1989年になされた。従来、侵害の対象とされたト部の構成員の利益」
という部分が、「構成員の全部または一部の構成員の利益」と改正されたため、侵害の対象 に関して、株主の一部とその他の株主間に差別的効果をもたらしていた状況が改善された
191。
最後に、2006年会社法改正により不公正侵害行為の救済制度は、第30編(994条ない し999条)に規定されたが、実質的に大きな改正点はない192。
不公正な侵害行為の救済制度は、とくに、小規模で閉鎖的な会社に適用する上で、非常 に好評であった193。それは、対象となる侵害行為の範囲および裁判所によって与えられる 救済の融通性が、不満を有する株主にとって、最も魅力的な解決方法となっていたからで 188本稿第・一編イギリス法 第一章不公正な侵害行為の救済制度参照。
189Consu1tation Paper para7,5,
1901bid.,Para.9.1,
191不公正侵害行為の救済制度の詳細については、本稿第一編イギリス法 第一章不公正な 侵害行為の救済制度 第二節概要と沿革を参照。
192なお、2006年会社法260条2項(b)号は、不公正な侵害に対する構成員の保護のため の手続である994条に基づく裁判所の命令に従って、代表訴訟を提起することができる旨 を規定している。従来も不公正侵害救済のもと代表訴訟を提起できると解釈されていたが、
制定法上明示されたことは明らかな変化である。
193Re Astec(BSR)pic[19991BCC59.86・7;J Payne Section459and Pub1ic
Companies (1999)115LQR368;DD Prentice,above n1o;Arad−Reisberg,Derivative Actions ana Co呼。rate Govemance,(2007)at p.278.47
ある。また、かかる制度によって、Foss v Harbo枕1eルールの適用と解散命令の過酷な結 果を回避することができた194。
しかし、かかる救済制度は好評である反面、困難をもたらしていた。
その第一の原因は、裁判所が不満を有する株主を救済するにあたり、被告の行為の「不 公正」性をこの制度の適用要件としているが、この不公正性の規準は曖昧であり、何が公 正で何が不公正であるかを、個別の状況に応じて判断しなければならないことにあった。
第二に、裁判所は、適切な救済方法を検討するために、関連当事者すべての行為を確認 しなければならない可能性があることから、多くの事件が裁判時間を相当要し、裁判費用 を憂慮するべきレベルにまで押し上げていたのである195。
法律委員会(LawCommission)は、このような懸念に対処するために、裁判の時間と費 用を削減する手続変更の勧告を行い、また、小規模会社内の内部紛争を解決する代替方法 の発見に努めた。なお、当該手続変更の勧告とは、代表訴訟を提起する権利の基本を明文 化して会社法に定めるべきこと、および、手続の詳細については、柔軟性をもちうるよう
に民事手続規貝1」に定めるべきことを意味している。
同委員会は、株主代表訴訟を提起できる状況がこれまでよりも明白にされるならば、不 満を有する株主は、1985年会社法の459条の不公正侵害救済に基づく広範囲にわたる訴訟 よりもむしろ、制定法上の株主代表訴訟を提起するようになり、その結果として、不公正 侵害救済にかかっていた負担の一部が軽減されるであろう、という見解を示した196。
かかる見解は、株主代表訴訟と不公正侵害救済がある部分で機能的に同等であることを 示唆している197と思われる。
1985年会社法459条の不公正侵害救済に基づいて、少数派株主に与えられていた直接的 な申立の権利が、取締役による会社に対する不法行為から会社を救済するためにも利用で きだということは、本来の目的からすると一見奇妙に見える。しかしながら、1985年会社 法459条の文言は、株主の権利だけではなく、利益も保護するように起草されており、裁 判所においてもそのように解釈されてきた198。
実際、1962年に、不公正侵害救済の導入を勧告する報告書を作成したジェンキンス委員
194Consu1tation Paper148,
195たとえば、Re E1gindata Ltd事件において、問題となった株式の価値が25,000ポンド に満たなかったにもかかわらず、審理は43日間行われ、裁判費用は合計で320,000ポンド に及んだ。なお、当該費用には上訴費用は含まれていない。ReE1gindataLtd[1991】BCLC
959,
196Consu1tation Paper148,
197C Ha1e W㌦at s Right with the RuIe in Foss v Harbott1e? [199712CFILR219,221,
198たとえば、S1ad−eJinReBoveyHote1VさnturesLtd。(unreporced一,13Ju1y1981),
ad−opted−by Nourse J in Re RANob1e J Sons(C1othing)Ltd一[19831BCLC273,290.
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会(The Jenkins Com㎞枇ee)は、会社に対してなされた不法行為に対して不公正侵害救 済制度が利用できる、と考えていた199。また、株主代表訴訟に特有の事件において、FOSSV Harbott1eルールの回避を裁判所に可能にすることが、不公正侵害救済制度の目的の1つで あった、との見解さえある200。
以前であれば、コモン・ロー上で株主代表訴訟が提起された状況において、現在は、も っぱら不公正侵害救済に基づいて株主代表訴訟が提起されるようになった。そして、かか る状況は、裁判が長期にわたり、明膜性を欠き、多額の費用を要するといった多数の望ま
しくない結果をもたらしている201ことが指摘されている。
これらの背景から、法律委員会は、株主代表訴訟制度を個別に制定する見解に至ったと 解される。
1皿 両制度を統一する見解
2003年におけるCut1and事件およびBhu11ar事件の2つの判決によって、不公正侵害
救済が実質的に株主代表訴訟に代わりうるという見解が再確認された202.Cut1and事件において、Arden裁判官は、不公正侵害救済の役割を拡大した。
Cut1and事件以前の裁判官の方針としては、不満を有する株主の個人的救済の請求を支 持するために、不法行為が会社に対してなされた場合にも不公正侵害救済の申立を認めて いた203。この方法は、1985年会社法459条の文言において否定されていなかったため、結 果として、制定法の中にArden裁判官の不公正侵害救済の利用方法を妨げる規定は存在し なかったことになる204。
2006年改正金杜法は、996条2項(c)号において、裁判所が発することができる不公正 侵害救済に基づく命令を例示列挙している。少数派株主が、会社のために民事訴訟を提起 することにより、当該会社の救済が裁判所により直接与えられうることを規定している。
会社に対して不法行為がなされ、少数派株主によって会社救済が求められるとともに自己 199Report ofthe Company Law Committee(Cmnd−1749)(1962)para206,
200Re Sau1D Harrison J Sonsp1c[199511BCLC14,18per Ho雌mann LJ(as he then was);A.Reisberg,supra note(193),at p.278,
201Consu1tation Paper172,
202Bhu11arvBhu11ar[20031EWCACiv424;C1arkvCut1an舳20031週WCACiv810;A.
Reisberg,supra note(193),at p.278,
203See,br examp1e,Re Charn1ey Davies Ltd(No2)[19901BCLC760,784perMi11e杭J;
A.Reisberg,supra note(193),at p.279,
204J Payne Shareho1d.ers RemediesReassessed一 (2004)67MLR500,at pp.501 502.
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