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長期動作試験

ドキュメント内 master thesis fukuyama (ページ 43-51)

前節までの結果からSGDの素子や検出器の製造技術に問題がなく、その性能も従来の In/CdTe/Pt Pad検出器に劣ること無く、SGDのミッションの要求(第2章 表2.1)を満た すことが示された。

そこで、次の試験として、オペレーション条件下でのSGD CdTe Pad検出器のシステ ムが長期間安定に動作するか調べることと、ポラリゼーション現象の影響を抑えて観測 を行うための運用方法の検討を目的として、長期動作試験を行った。

4.3.1 高温条件によるポラリゼーションタイムスケールの見積

実験を行うにあたって、オペレーション条件下での長期動作させた際のポラリゼーショ ンの進行度合いを予測する必要があるが、3.4節で述べたように、低温かつ高バイアス電 圧条件下ではポラリゼーションの進行が非常に遅くなるため、そのような条件下でのポ ラリゼーション及びデポラリゼーションのタイムスケールは実験的に求めるのは困難で ある。

0.01 0.1

1000

leakage current

Bias Voltage

図4.7: SGD CdTe Pad素子のI-V特性曲線。赤:20C。緑:5C。青:−15C。

そこで、ポラリゼーションの進行速度が早く、試験が容易な20Cと 15Cの2温度 で、ポラリゼーションのタイムスケールを求め、そこから、SGDのオペレーション温度 でのポラリゼーションのタイムスケールを見積る実験を行った。

15Cと20Cで1000 Vを印加し、57Coを照射して、それぞれ900分と2100分測定 を行った。そのときのピーク位置の変化を図4.8に示す。このピーク位置の変化を一次 関数でフィッティングし、その傾きから、15Cと20Cでのポラリゼーションのタイム スケールの比 τ1520を求めた。各チャンネルで求めた、この比の分布を図4.9に示す。

τ1520の値は2を中心として1.2 ∼2.7に分布している。式(3.4)から、τ1520 =2を解 いてEAを求めると、EA =1.0となり、この値は3.4節で述べた、われわれが最近の研究 でガードリング付き単素子の実験から得た値と一致している。

現在、われわれはSGDのコンプトンカメラの台座を−20Cに制御し、さらに、コン プトンカメラ内の温度勾配を5C以内とするという条件で熱設計を行っている。また、

ASTRO-Hで予定されている典型的な長時間観測は500 ksec∼1 Msecとなる。そのため、

長期動作試験の温度条件を最悪条件である−15C、動作期間を1週間に決定した。

SGD CdTe Pad検出器の各チャンネルの最頻値であるEA = 2.0を用いて、20 Cと

−15Cのタイムスケールの比を求めると、τ2020=806となった。よって−15Cで7 日間試験を行った場合、そのポラリゼーションの進行度合いは20Cの12分程度に相等 し、ピーク位置の変化は102%のオーダーで、殆ど起きないことが予測される。

図4.8: 20Cと15Cにおけるポラリゼーションによる122 keVピーク位置の変化。

図4.9: 15Cと20Cでのポラリゼーションのタイムスケールの比の分布。

0 Vに落とし、再び、1000 Vを印加し、その後1日動作させた。

長期測定時のスペクトルの外観の変化

7日間の測定によるスペクトルの変化と、7日間の測定後に5分間 バイアス電圧を0 V に落とし、バイアス電圧を再印加した直後のスペクトルを、図4.10に示す。図はチャン

ネル21において122 keVのピーク付近に注目したものである。7日間の測定でスペクト

ルの形が大きく崩れるというような問題は見られなかった。詳細に調べると、7日間の 測定の開始時に得られたピークのカウントに対して、7日間の測定でピークより高エネ ルギー側のカウント数が下がり、テールが大きくなっているのがわかる。また、バイア ス電圧再印加後のスペクトルはバイアス電圧を0 Vに落とす直前のスペクトルと比べて テールが小さくなり、回復しているのが分かる。7日間測定開始時と バイアス電圧再印 加直後のスペクトルはテールに関しては 良く一致しているが、ピークより高エネルギー 側 では統計誤差以上の違いが見られる。しかし、57Coの半減期は271.79日であり、7日 間の測定で約2.5 %線源強度が下がるため、この減少分まで考慮すると、ピークより高 エネルギー側においても統計誤差の範囲内で一致する。

ピーク位置の時間変化の評価

ポラリゼーションの進行状況と、バイアス電圧を0 Vに落とすことによる回復を定量 的に見積もるために、長期動作試験中の57Coの122 keVのピーク位置の変化を調べた。

この解析では 1 Hitイベントなどの選別は行っていない。ピークの位置決定は、ヒスト グラムの各点の間を3次のスプラン曲線で補間し、そのスプライン曲線が最大となる位 置を求めて行った。この方法で求めた、チャンネル21のピーク位置の変化を図4.11に 示す。

7日間の測定のにおける、ピーク位置の変化は1ビン以内であり、0.1 %以下の範囲内 で安定している。図中に示したエラーは、

σ=

√∫ 0.5

0.5

x2dx= 1

√12 (4.1)

で求められる、ピーク位置が 1ビンに均一に分布することを仮定した時の標準偏差で、

系統誤差を最大に見積もった場合のエラーである。

ADC ch

204 206 208 210 212 214 216 218 220 222

[counts/sec]

0 0.02 0.04 0.06 0.08 0.1 0.12 0.14

図4.10: SGD CdTe Padにおける7日間測定によるスペクトルの変化と再印加直後のスペ クトル。青:7日間測定開始時。マゼンタ:7日間測定終了直前。緑: バイアス電圧再印 加直後。

ピーク位置の変化に詳細に注目すると時間の経過ともに下降していることが見て取れ る。また、5分間 バイアス電圧を0 Vに落とし、再びバイアス電圧を印加した際にはバ イアス電圧を0 Vに落とす直前よりわずかにピーク位置が高くなり、7日間測定の最初 の値にまで戻っている。バイアス電圧1000 Vを再印加した後の1日間の測定ではピーク 位置の変化は見られなかった。

このように、−15C、1000 Vという条件で、SGD CdTe Pad検出器はピーク位置の変 化と言う観点において、1週間、非常に安定した動作を示すことが確かめられた。

テール構造の時間変化の評価

次に長期動作試験で57Coの122 keVのピークの低エネルギー側のテール構造の変化を 調べた。この解析でも1 Hitイベントなどの選別は行っていない。テール構造を定量的 に表す指標として、ピークの面積とテールの面積の比Rtail/peakを式(4.2)で定義し評価を 行った。 図4.12にピークの面積とテールの面積の計算に用いた領域を示す。

Rtail/peak =

4

i=11

S(peak+i)

+4 j=3

S(peak+ j)

(4.2)

ここでS(k)はADCチャンネルkのカウント数を、peakはピークのADCチャンネルを意 味する。この方法で求めた、チャンネル21のRtail/peakの変化を図4.13に示す。エラーは

図4.11: SGD CdTe Pad検出器の長期動作試験でのピーク位置の時間変化。チャンネル21 の変化を示している。赤:バイアス電圧印加 1度目の7日間。青:バイアス電圧印加2 度目の1日間。1ビンは3時間分のデータ。緑:最初の1日間。赤:バイアス電圧印加2 度目の7日間。青:バイアス電圧印加3度目直後の3時間。7日間の測定の始めの3時 間のピーク位置を1として規格化している。

ピークの面積の統計誤差とテールの面積の統計誤差から誤差の伝播式を用いて計算した。

ピーク位置の変化の場合とは異なり、テールの割合は7日間の測定で有意な変化を示 した。テールの割合は単調増加を示し、7日間で20 – 25 %増加している。また、その 増加率は測定開始時から徐々に下がっていく傾向が見られる。測定開始時の増加率は 7 – 10 %/dayであるが、7日後には3 – 7 %/dayと増加率が半減している。

7日間の測定後、5分間バイアス電圧を0 Vに落とし、再び1000 V印加し行った1日 間の測定では、測定再開直後のテールの割合は回復を示しており、6.5日程度前の割合に まで戻ることが分かる。

1日分のデータ比較によるポラリゼーション回復の評価

前節までは、バイアス再印加直後のピーク位置とテールの割合を見ることで、スペク トルの形の変化やバイアス電圧を落とした後のポラリゼーションからの回復を評価した。

ここではバイアス電圧再印加後1日分のデータを使って、ポラリゼーションからの回復 を評価する。

次に示す方法でポラリゼーションからの回復を評価した。7日間測定の各時間のテー ルの割合と、バイアス電圧再印加後のテールの割合で差を取って、式(4.3)に示すカイ2 乗値を計算し、バイアス電圧再印加後1日間のピークの割合の変化が7日間測定のどの

図4.12: SGD CdTe Pad検出器のスペクトルのテールの割合の計算に用いた領域。赤:ピー ク領域。青:テール領域

Time [hour]

0 20 40 60 80 100 120 140 160 180 200

R_tail/peak

0.3 0.32 0.34 0.36 0.38 0.4

図4.13: SGD CdTe Pad検出器の長期動作試験でのピークに占めるテールの割合の時間変

化。チャンネル21の変化を示している。赤:バイアス印加1度目の7日間。青:バイア ス印加1度目の1日間。1ビンは3時間分のデータ。

Time [hour]

0 10 20 30 40 50 60 70 80

1 2 3 4

図 4.14: カイ2乗値の計算によるSGD CdTe Pad検出器のポラリゼーションからの回復 の対応時刻の調査。横軸が7日間測定開始からの時刻で縦軸が各時刻に置けるバイアス 電圧再印加後1日間のテールの割合から計算したカイ2乗の値。

1日間のテールの割合の変化に最も近いか調べた。

χ2(t)=

8 n=0



 R(t+n)−Rafter(n)

√∆R2(t+n)+ ∆Rafter2(n)





2

(4.3) R(t)は時刻tのスペクトルのピークの割合を表し、Rafter(t)はバイアス電圧再印加から時 刻tのスペクトルのピークの割合を表す。∆R(t)と∆Rafter(t)はそれぞれR(t)とRafter(t)の 誤差を表している。このカイ2乗値の計算では3時間分のデータを1つのデータとして 扱い、バイアス電圧再印加後のデータ8点と、7日間測定のデータの連続する8点と比 較して計算している。この計算ではテールの割合を比較して計算しているので、線源強 度が核子の崩壊により減少することを考慮する必要は無い。計算結果を図4.14に示す。

バイアス電圧再印加後のデータにに対応する7日間測定のデータは 1000 Vを最初に印 加してから10時間以内であるといえる。

図4.15にバイアス電圧再印加直後のスペクトルとカイ2乗値が最小をとっている 7日

間測定の9 – 12時間のスペクトルを重ねたものを示す。二つのスペクトルは57Coの半減

期を考慮すれば統計誤差の範囲で一致している。この結果から、−15C、1000 Vの条件 下では少なくとも約6.5日に5分間バイアス電圧を0 Vにすれば、バイアス電圧を印加 直後の状態にまで戻せる可能性が示された。

ドキュメント内 master thesis fukuyama (ページ 43-51)