6.2 HXI CdTe 両面ストリップ検出器動作実験
6.2.2 スペクトル性能
バイアス電圧とノイズレベルの関係
HXI CdTe両面ストリップ検出器を動作させる上で、高いバイアス電圧を印加した際に
正常に信号を読み出し可能であるか、また、何らかの問題が見られた場合に実用的に印 加可能なバイアス電圧がいくらであるかを調べるために、バイアス電圧とノイズレベル の関係について調べた。実際にはノイズレベルはリーク電流に依存するが、リーク電流 はバイアス電圧に依存するため、ここではHXIでの動作温度として予定している−20◦C でのバイアス電圧とノイズレベルの関係を調べた。ここでノイズレベルはペデスタルの FWHMで定義した。単位はADCチャンネルである。ノイズレベル測定の際は、線源は 照射せずに、強制的にトリガーをかけてデータを取得した。図6.3に−20◦C、バイアス 電圧0 V、100 V、200 V、250 V、300 V、400 V、500 Vを印加したときのPt面、Al面 それぞれのノイズレベルの分布を示す。また、各バイアス電圧でのノイズレベルの最頻 値を図6.4に示す。Pt面、Al面ともにバイアス電圧が300 Vから400 Vの間でノイズレ
図6.3: 温度−20◦C、バイアス電圧0 V∼500 V印加時のHXI CdTe検出器の各チャンネ ルのノイズレベル(ペデスタルのFWHM [ADCチャンネル])の分布。左:Pt面。右:Al 面。1 ADCチャンネル は約0.2∼0.3 keVに相等する。
ベルの最頻値が大きくなり始めることが分かる。このようにノイズレベルの最頻値が大 きくなりだすのは300 V∼ 400 Vであるが、図6.3の Pt側のFWHMの値の分布の最頻 値より低い部分に注目すると、実際にはそれよりも低いバイアス電圧で分布の形が変わ り初めていることが分かる。
そこで、各バイアスにおいて(i)ノイズレベルが最頻値にあるチャンネル数、(ii)ノイ ズレベルが最頻値より低いチャンネル数、(iii)ノイズレベルが最頻値より高いチャンネ ル数がいくつ有るかを調べた。図6.5にその結果を示す。Pt側においてバイアス電圧が
200∼250 Vの間でノイズレベルが最頻値より低いチャンネルが減り、逆に最頻値より高
いチャンネルが増え始めている。一方、Al側においては、500 Vのバイアス電圧におい て、FWHMが最頻値よりも低いチャンネルが増加する結果が得られた。図6.6に、バイ アス500 Vにおいて最頻値よりも低いFWHM値を示したAl側のチャンネル214につい て、 バイアス0 Vと500 Vでのペデスタルのヒストグラムを示す。0 V印加時はガウス 分布を示したペデスタル分布が、500 V印加時はより狭い分布となっており、FWHMが 約3分の1になっている。この様に信号の出力が極端に小さくなる現象はASICのCSA がサチュレーションを起こしたときにみられるものであり、リーク電流の増加によって CSAがサチュレーションを起こしたものと考えられる。低いノイズレベルを示した他の
図6.4: 温度−20◦Cでの各バイアス電圧におけるノイズレベルの最頻値[ADCチャンネ ル]。青:Pt面。赤:Al面。
チャンネルについても同様の結果が得られた。
スペクトル
上記の結果から、250 V以上ではノイズが原因でスペクトルが劣化すること、および、
ASICのCSAがサチュレーションをおこすチャンネルが増加することが予想されたため、
温度−20◦Cの条件で、50 V、100 V、150 V、200 V、250 Vのバイアス電圧CP6641を 用いてAl側に印加し、Pt側の信号でトリガーを生成してスペクトルの取得を行った。結 果、ノイズレベルが高いストリップや信号が出力されないストリップなどの不良ストリッ プがAl側で11チャンネル 、Pt側で2チャンネル見られたが、それ以外のチャンネル ではスペクトルを取得することに成功した。この時の241Amスペクトルを図6.7に示す。
このスペクトルでは、Al側で1 HitかつPt側でも1 Hitというイベントを抽出し、先ほ ど挙げたノイズレベルの高いストリップ及び信号の出力がないストリップを除いて、Al 側、Pt側それぞれ全てのストリップのスペクトルを足し合わせている。1 Hitイベントは Al側では 5 keV以上、Pt側では3 keVの信号を検出したストリップが1つしかないイ ベントとして定義している。エネルギー較正は250 Vのバイアスで取得したデータで得 られた結果を全てのバイアス電圧の測定データに対して適用している。較正には表6.2 に示した放射線源を用いた。121.78 keV以上は80.989 keVと121.78 keVを結ぶ直線を
200 keVまで挿入して補間している。
250 Vのバイアス印可時のスペクトルのエネルギー分解能はAl側、Pt側それぞれFWHM で13.9 keVのガンマ線に対し 1.6 keVと 1.2 keV、59.5 keVのガンマ線に対し1.7 keV と2.1 keVとなった。Al側では10数keV∼60 keVという広いエネルギー帯域において
bias voltage [V]
0 100 200 300 400 500
entry
0 10 20 30 40 50
bias voltage [V]
0 100 200 300 400 500
entry
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 Al
entry of mode
entry which smaller than mode entry which bigger than mode
図6.5: 温度−20◦Cでの各バイアス電圧におけるノイズレベルが最頻値にあるチャンネ ルの数とノイズレベルが最頻値より小さい、及び大きいチャンネルの数。上:Pt面。下:
Al面。ノイズレベルが最頻値にあるチャンネルの数を緑で、ノイズレベルが最頻値より も小さいチャンネルの数を青で、ノイズレベルが最頻値より大きいチャンネルの数を赤 で表している。
表6.2: HXI CdTe両面ストリップ検出器のエネルギー較正に用いた線源とエネルギー。
線源 133Ba 152Eu 241Am 133Ba 152Eu エネルギー[keV] 0 30.85 39.90 59.54 80.98 121.78
ADC Channel
60 65 70 75 80 85 90
0 5000 10000 15000 20000 25000 30000 35000 40000 45000 50000
hist214
図6.6: チャンネル214の0 V印加時と500 V印加時のペデスタル。赤:0 V印加時。緑:
500 V印加時。0 V印加時に対し、500 V印加時はペデスタルのFWHMが約3分の1に なっている。
ほぼ同等のエネルギー分解能が出ているが、Pt側の59.5 keVにおいては13.9 keVより もエネルギー分解能が悪化している。また、低エネルギー側ではAl側がPt側にエネル ギー分解能で劣っているが、高エネルギー側では逆転し、Al側の方が優れているという 結果が得られた。低エネルギー側でAl側がPt側よりエネルギー分解能で劣る理由とし てAl側がASICの極性を反転して使用していることなどからノイズが大きくなっている ことが原因だと考えられる。高エネルギー側でもAl側の方がPt側にノイズという点で は劣っていると考えられるが、高エネルギー側では光子が検出器の内部で反応するイベ ントが増加し、結果としてホールが長い距離を移動するイベントが増え、トラップされ てしまうためにテール構造がPt側で大きくなっているものと考えられる。
Pt側では高エネルギー側でテール構造が大きくなるという問題が見られるが、250 V と200 Vのスペクトルの59.5 keVピークを比較すると、250 Vでは200 Vよりテール構 造の改善が見られ、250 V以上のバイアス電圧を印加することができれば、更なるテー ル構造の改善が期待できる。
また、各バイアス電圧のスペクトルを比較すると、Pt側では全てのバイアス電圧でピー ク位置に変化が無いのに対し、Al側ではバイアス電圧が 高くなるにつれピーク位置も高 くなることが確認できる。これはこの実験ではPt側から線元を照射しており、Pt電極付 近で光子の反応が最も多く起きることが原因であると考えられる。第3章で述べたとお り、ストリップ検出器では電極に近いところでの電荷の動きほど、その電極に与える誘 導電荷の寄与が大きい。Al側からすると遠いところで電荷の移動が始まり、かつバイア ス電圧が低いと電子がAl電極付近に到達する前にトラップされてしまうために、Al側 のスペクトルのピーク位置が低くなってしまうと考えられる。
Pulse Height (energy [keV] @250V)
45 50 55 60 65
0 1000 2000 3000 4000 5000 6000
Pulse Height (energy [keV] @ 250V)
45 50 55 60 65
0 1000 2000 3000 4000 5000 6000
Pt side spectra
図6.7: 異なるバイアス電圧で取得したHXI用CdTe両面ストリップ検出器の241Amスペ クトル。黒:50 V、マゼンタ:100 V、赤:150 V、緑:200 V、青:250 V。上がAl側、下 がPt側のスペクトル。右側は60 keVのピーク付近に注目したもの。スペクトルは不良 チャンネルをAlは11チャンネル、Ptは2チャンネル除いて、Alが側で5 keV以上、Pt
側で3 keV以上の信号を出したチャンネルがどちらも1つずつしか無いイベントを足し
合わせたもの。エネルギー較正はすべてのバイアス電圧のデータに対して250 Vのデー タを用いて行っている。