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銅ニッケル合金の水素による硬化および

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 129-154)

延性低下挙動に及ぼす合金組成および析出強化の影響

6.1 緒言

ここまでは,100 Ni,55 Niおよび0 Niを対象に,変形・破壊挙動に及ぼす水素の影 響を調査してきた.その結果,100 Niと55 Niにおいて水素による流動応力の上昇(硬 化)および強度・延性の低下が確認された.水素による硬化の要因として,水素による 転位組織発達の助長および固溶強化を指摘したが,水素による転位組織発達の助長は

100 Niにおいてのみ確認される現象であった.一方,破壊挙動に及ぼす水素の影響につ

いては,水素助長粒界破壊が強度低下の要因となることは100 Niと55 Niで共通してい たものの,粒界破壊を生じるために動的な水素の移動を要するかという点について,100

Niと55 Niで異なっていた.これらの結果は,銅―ニッケル二元合金において,ニッケ

ル量の変化とともに水素による硬化および強度・延性低下をもたらす主要因が遷移する ことを示唆している.

水素による強度・延性低下挙動がニッケル量とともに変化した要因として,平衡状態 での結晶粒界における局所水素濃度および水素による結晶粒界の強度低下挙動がニッ ケル量に依存することが考えられる.局所平衡による結晶粒界への水素の集積量は,結 晶粒界上もしくは近傍におけるトラップサイト密度,それらトラップサイトの結合エネ ルギーおよび格子間水素の濃度により決定される.これらの現象は複雑であり,個々を 分離するのは困難であるが,結晶粒界に集積した水素量は昇温脱離分析(thermal

desorption analysis: TDA)プロファイルから推定できることを第5章で報告した.TDA

プロファイルを分析すると,55 Niよりも100 Niの方が結晶粒界への水素の集積量が大 きいようである.一方,Troianoによると [1],水素による粒界結合力の低下量は3d電 子軌道の充足度により決定されるとされている.銅―ニッケル二元合金においては,ニ ッケルの比率が上昇するにつれて3d 電子軌道の充足度は低下するため,ニッケル量が 増えるほど水素による粒界結合力の低下量が大きくなることが予測される.粒界結合力 自体を実験的に直接測定することは困難であるが,粒界き裂が生じることで試験片剛性 が低下し真応力が低下した点を最大真応力(maximum true stress: MTS)として測定する ことで,粒界強度にある程度対応する物理量を得ることが可能である.100 Niと55 Ni のMTSを比較すると,確かに55 Niの方が高いMTSを示した.このことから,ニッケ ル量の増加にともない結晶粒界の水素感受性が高まると考えられる.

ここまで100 Niおよび55 Niを対象に行ってきた実験により,銅―ニッケル二元合金

の水素脆化を支配する因子として,結晶粒界への水素の集積と水素による粒界強度の低 下が重要であることを示したが,それぞれの現象に対するニッケル量の影響を解明する

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ためには,より細かなニッケル量について調査する必要がある.そこで本章では,水素 脆化特性に及ぼす合金成分の影響を調査することを目的に,100,55,0 Niに加えて30,

70 Niおよび析出強化合金K-500の変形・破壊挙動に及ぼす水素の影響を,低ひずみ速

度引張(slow strain rate tensile: SSRT)試験により調査した.

6.2 実験方法

6.2.1 供試材

供試材は,100,70,55,30,0 Niおよびモネル合金K-500とした.析出強化による 効果を調査するため,K-500 は溶体化処理(solution treatment: ST)材および時効処理

(precipitation hardening: PH)材の2種類を用意した.K-500 PH材は,時効処理により

内部に γ’ (Ni3(Ti, Al)) 相を分散させることで強度を高めている [2,3].供試材について

は第2章で詳説したため,本章では組成や熱処理条件などの説明を割愛する.

6.2.2 昇温脱離分析

第5章では,100 Niの水素助長粒界破壊において結晶粒界にトラップされた水素が重

要な役割を果たしていることを指摘した.一方で,第2章で示したTDAプロファイル

(図2-4)を確認すると,100 Niで見られたような明らかな水素のトラップはNi量70%

以下の場合には存在しないようである.ただし,本研究で使用した材料の拡散係数は比 較的小さく,水素は拡散過程に律速されて放出される傾向にある.試験片からの水素の 放出が拡散律速となった場合にはトラップサイトに対応するピーク幅が広がり,ピーク を判別するのが困難となる.第2章で用いた厚さ5 mmの試験片からの水素の放出は明 らかに拡散律速であり,トラップサイトの存在を議論するには十分でない.そこで,本 章ではトラップサイトからの水素の脱離挙動を詳細に調査するため,より薄い試験片を 用いてTDAプロファイルを取得した.試験片を薄くすることで水素放出挙動が脱離律 速に近づき,トラップサイトに起因するピークの検出が容易になることが期待される.

試験片を薄くする場合には昇温時に材料から放出される水素量が減少し,放出水素の 検出感度が低下する.そこで,試験片直径を大きくすることで,放出水素量を大きくし た.図6-1に,本章のTDA測定に用いた試験片形状を示す.試験片の厚さz0は5, 3, 1 および0.1 mmとした.z0 = 5, 3, 1 mmの試験片については#600研磨紙仕上げ,z0 = 0.1 mm の試験片については鏡面仕上げとした.以上の方法で準備した試験片を 100 MPa,

543 Kの高圧水素ガスに200時間曝露することで,試験片中に水素を飽和させた.その

後,TDA装置中で試験片を加熱し,放出された水素量を温度の関数として測定した.こ のときの昇温速度は50,100,200 K/h(5,3,1 mm)および50,100 K/h(0.1 mm)と した.

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6.2.3 低ひずみ速度引張試験

SSRT 試験には,図 6-2に示す試験片を用いた.延性・強度低下に及ぼす水素の影響 を調査するため,一部の試験片にはあらかじめ水素チャージを施した.水素チャージは

試験片を543 Kの水素ガスに200時間曝露することにより行い,水素チャージガス圧力

pHは100, 50, 11および0.7 MPaとした.SSRT試験は室温・大気中にて実施し,引張速

度は0.09 mm/min(初期ひずみ速度5×10−5 s−1に対応)とした.延性に対する水素の影

響は絞り(reduction in area: RA)および相対絞り(relative reduction in area: RRA)によ り,水素チャージ材の強度は最大真応力(maximum true stress: MTS)により測定した.

それぞれの値は,第4章での定義に従い求めた.

図6-1 TDAに用いた試験片の形状および寸法(mm).

図6-2 SSRT試験片の形状および寸法(mm).

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6.3 実験結果

6.3.1 TDAプロファイル

図6-3–6-6に,z0 = 5, 3, 1, 0.1 mmの100, 70, 55, 30 NiおよびK-500 PH材において取 得した,TDAプロファイルを示す.いずれの材料・測定条件においても昇温速度の上昇 とともにピーク位置が高温側へシフトした.また,100 Niにおいてはいずれのz0および 昇温速度においても2つのピークが確認されたのに対し,その他の合金では1つのピー クしか確認されなかった.K-500 PH 材においてもトラップサイトに対応するピークは 確認されず,先行研究 [4] とは異なる結果となった.これは,第5章で示した結晶粒界 のトラップエネルギー(20.6 kJ/mol)と比べて,γ’相のトラップエネルギーが10.2 kJ/mol 程度と低く,水素放出がγ’相からの脱離律速となるためにより薄い試験片が必要であっ たためであると考えられる.

6.3.2 応力―ストローク曲線

図6-7に,SSRT試験により取得した,0,30,55,70および100 Niの応力―ストロ ーク曲線を示す.図中の黒線と赤線はそれぞれ未チャージ材と水素チャージ材の結果で ある.いずれの材料においても水素により流動応力が上昇し,延性が低下した.図6-8

に,K-500の溶体化処理(ST)材および析出強化(PH)材の応力―ストローク線図を示

す.K-500のST材は70 Niとほとんど同じ組成を有するにも関わらず,70 Niと比較し

て150 MPa程度高い流動応力を示した.また,70 Niと異なり水素による流動応力の上

昇はほとんど見られなかった.

図6-9および6-10に,同じSSRT試験により得られた真応力―真ひずみ線図および加

工硬化率dσ/dεを示す.本研究では,試験片の直径を随時測定・記録しながら実験を行

い,ネッキング後のdσ/dεも算出している.100,70,55 NiおよびK-500においては水 素チャージによりdσ/dεが上昇したのに対し,30 Niではdσ/dεへの水素の影響は見られ なかった.次節以降では,水素による流動応力の上昇,延性・強度の低下および破面形 態の変化について,詳細に確認していく.

6.3.3 水素による流動応力の上昇

図6-12に,各合金における水素による流動応力の上昇量ΔσH-Fをストロークsの関数 として示す.銅―ニッケル二元合金では,ニッケル量が大きいほどΔσH-Fが大きくなっ た.また,K-500 PH材のΔσH-Fは130 MPa程度と,銅―ニッケル二元合金に比べてかな り大きな値を示した.さらに,100,70,50 NiおよびK-500 PH材においては,変形が 進むにつれてΔσH-Fが上昇する挙動が確認された.これらの挙動を定量的に議論するた め,ΔσH-Fsの関係性を次式によりフィッティングし,定数αおよびβを求めた.

H-F s

  

    (6-1)

図6-13に,フィッティングにより求めたαおよびβを示す.図中には,第3章で行っ

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