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野宿者に関する体系的な調査へ、新たなる階層分化の現実

ドキュメント内 二つの公共性と官、そして民 (ページ 72-86)

― 調査の第一段階(実態の把握、要因の把握、ニーズの把握)から第二段階(プログラム、施設 展開)へ 

 

1 野宿者をカウントする 

(1)野宿者の急増 

 野宿・ホームレス問題の深刻化を迎えて、問題の現状をつかみ動向を探るための調査が行われるよ うになった。まず可能な限り正確な数を数えることが基本である。しかし、このことについて、政府 が取り組みはじめたのは、1999年に至ってからである。それも基本的には、自治体への照会調査 に過ぎず、本格的な実数把握の取り組みは、ホームレス自立支援特別措置法制定(2002年7月)

以後の2003年からといってよい。 

 

(2)行政による調査の開始:東京都および大都市自治体から国へ 

 東京23区の場合は、1996年から着手した。しかし、当初のカウントは、管理各部局の把握す る数の合計であり、都、区、事業者ごとに、道路、公園、鉄道駅敷地内などの数を合計したに過ぎず、

管理者の取り組みによりばらつきのある数値の寄せ集めであった。調査開始当初、野宿者(東京都は

「路上生活者」と表現している)対策について、必ずしも積極的でなかった東京都は、野宿者(路上 生活者)が多いとか、増加しているという現実を歓迎していなかったからだ。大阪市は1998年に、

大々的な実数把握調査を実施し、その実数を発表した。それ以後は、このときのような正確な調査は 実施されていない。 

 

表5−1  日本における野宿者数の推移<行政による把握の次元での統計> 

 1999年集計 2001年集計 2001 年 集 計 の調査時期

2003年全国調査時 点での数※3 

全国 20451 24090  25296 

東京23区 5800 5600 2001.8 5927  大阪市  8660 8660※2 1998.8 6603  名古屋市  1019 1318  2001.5 1788  横浜市  794 602  2001.8 470  川崎市  901 901※2 2001.7 829  京都市  300 492  2000.6 624  神戸市  335 341  2001.8 323  福岡市  269 341  2001.8 607  北九州市  166 197  2001.8 421  広島市  115 207  2001.2 156 

札幌市 43 68 200.12 83 

仙台市  111 131  2001.8 203  千葉市  113 123  2001.8 126  中核市及び県庁所在地の

市 

706 1684(30市)   1476(30市) 

その他の市町村※1  1119 3425(347市町村)   5221(581市町村)

出典:厚生労働省ホームページ「全国のホームレスの状況について」(概数調査結果)2001年12月5日。全 国調査については、厚生労働省2003年3月発表。 

※1 報告する自治対数の増加は、野宿者の広がりを意味すると同時に、野宿者の存在を事実認識するこ

とを自治体が自覚するようになったことを意味している。 

※2 大阪市と川崎市は、2001年の調査を実施していないため、過去の調査結果の数値が記載されてい る。 

※3 2003年発表では、名古屋市、京都市、福岡市、北九州市の伸びが注目された。自立支援対策の動向 と関係していると思われる。また、大阪府堺市280人、埼玉県さいたま市220人の多さが注目された。 

 

野宿者の数について政府・厚生労働省は、1999年から全国の自治体に照会を求めて、その集計 結果を概数調査として発表している。東京都は1996年から、年に1回から2回の概数調査を実施 している。この調査は目視調査という表面観察によるもので、昼間に実施されるということで、信頼 性に欠けるという批判もなされている。大阪市は1999年に詳細調査を実施した。大阪市の詳細調 査で、市内だけで約1万人を数えた。しかし、その後2002年の時点で詳細調査は実施されていな い。厚生労働省の発表では、2001年の集計で2万4千人を数え、2003年の発表では2万5千 人となった。その後の調査はないが、以後も伸びていると推測される。実数はこの数値の1.5倍か ら2倍に及ぶであるという推測も指摘されている。全国的な広がりの状況をみると、政令指定都市、

地方中核都市での深刻化が指摘されている。 

大都市における野宿者数の推移をみると、東京や大阪などでは1999年がピークであり、その後 は、幾分減少ぎみである。大都市自治体が一定の支援策を実施した効果がある程度表れているとみら れる。というのは、野宿者人口は、常に新しい流入者を迎えており、これに対して社会が何の対策も 講じなければ、増える一方である。何からの必要な対策を講じているからこそ均衡し、対策の積極性 や有効性が増せば、減少傾向に向かうのである。 

 

2 ホームレスの定義 

(1)ホームレス【ホームレスの定義】 

ホームレス問題を検討し対策を打ち出すためには、ホームレスの定義について検討することは不 可欠である。ホームレス自立支援法が用いているホームレス=野宿者(路上生活者)という定義は、

欧米の研究の動向と照らし合わせれば、あまりに大きな相違なので、このことについて論ずる必要が ある(注 1)。 

 日本の法律が使っている定義は、通常の理解で言えば、次ページの図に示したように、最狭義の ホームレスの定義である。ホームレスとは、ホームのない人のことであり、狭義には、野宿をしてい る人、言い換えれば、野宿者(路上生活者)を指す。つまり、軒のない人びとのことである。しかし ながら、広義には低い水準で居住している人をさす。近代社会の尺度からみて、人間的な最低限度の 家に住んでいないということである。この定義には、家の所有権や賃貸契約による居住権を持たない 人や、一定水準の人間らしい広さや設備さらには衛生や安全性の基準を満たさない住居に住む人が含 まれる。またこの定義では、住み込みや間借り、給与住宅・寮生活者、旅館住まい、さらには病院・

福祉施設・刑務所入所者も含まれる。さらに、イギリスのホームレス法では、28日以内に住居を失 う可能性のある人も含まれる。その一方で、ホームレスとハウスレスとを区別して、一定の家族的人 間関係に包まれずに孤立した居住者をホームレスと定義することもある。 

 先の調査結果の考察からすれば、狭義のホームレスは、広義のホームレスという裾野の大きさと不 可分に結びついている。広義のホームレスへの支援策は、狭義の、それこそ深刻で非人間的な生存状 態を予防するために、重要な施策行使である。そういう意味で、広義のホームレスを問題の対象から はずさないように押さえておく必要がある。まら、狭義のホームレスである野宿者の野宿要因は、広 義のホームレスに含まれる不安定居住層から狭義のホームレスである路上生活への下降への歯止めが 効かなかった要因を検証するためも、両者を関連付けて考察する必要がある。 

 

図5−1 ホームレスの定義   

        居住する場を所有したり、契約したりしていない状態  広義     低質の(狭小、不健康、危険な)居住 

        家賃困窮居住 

狭義     軒のない居住、野宿者(路上生活者) 

 

ホームレスが増えたということの意味は、狭義の意味でのホームレスの増加であり、公園や商店 街、地下道、高速道路下、民有地の空き地などで寝る者、つまり路上生活者(野宿生活者)が増えた ということである。しかしながら、見方をかえれば、人びとは、広義の意味での居住基盤が脆弱であ るために、他の社会経済的要因が加われば、路上生活へと容易に押し出されるのである。 

居住権がなければ、なんらかの理由で住居を追い出されるかもしれない。例えば、ドヤという旅 館(簡易宿所)に居住する者は、建て替えや規則違反などの理由で、宿主の都合によって追い出され やすい。また、そもそもの住居が劣悪であるために、居住継続への意欲がそがれることもある。ある いは、他者と相部屋という居住状態や、薄い壁による騒音被害や他者とのトラブルなどがストレスを 高め、ドヤ居住を中断する要因となりうる。さらには、居住費負担の大きさが彼らの生計維持におけ る脆弱さともあいまって、路上へと追い込まれる大きな要因となることもある。 

 日本では低水準住宅の居住者が多く、その住宅はうさぎ小屋と酷評されてきた。事実、建設省が示 している最低居住水準未満の住宅に居住する世帯が多い。しかしながら他方で、野宿者(路上生活 者)については、終戦直後の一時期を除いて、他の先進諸国と比べて目立って多くはなかった。とこ ろが、1990年代に入ると、バブル経済の崩壊とともに、こうした居住最低辺層が急速に増えだし た。 

一般に国民の平均的生活水準が向上し安定することにより、居住水準も向上し、広義のホームレ スは減少するが、その一方で、狭義のホームレスは必ずしも減少しない。むしろ、増大することすら あり、いまや先進諸国に共通の大きな社会問題となっている。 

 

3 調査と自立支援 

(1)野宿者・ホームレス調査の社会的な意義 

― 調査という方法への批判:コミュニケーションの契機としての調査 

調査に関しては、野宿者支援をしている人たちの間でも、批判的な人たちもいた。しかし、よく 知らない相手の考えやニーズについて、こちらの一方的な思い込みで、決め付けていることがある。

ここから先見的な立論やテーゼ、一方的な連帯の運動が生まれる可能性がある。 

社会調査を実施することの意義は、第一に、社会の実態をよく知ることである。調査により仮説 が検証されるし、新しい発見もある。この意義を自覚できない研究者は調査という方法をとらない であろう。なぜならば、調査をしなくても、あらかじめ決めておいた結論が変わらないからであり、

変える必要を認められないからである。社会調査することの第二の意義は、ニーズを把握すること である。対象者が何を求めているか、多様なアプローチで調査する必要がある。従来の福祉施策や 雇用施策、そして自立支援施策を反省する意味からも、そして新たな施策を立案する意味からも、

ニーズ把握の調査は重要である。そして第三は、その結果をもとに、対策を検討することである。  

通常の社会生活の枠から逃れてあるいは排除されたかちで生活している人びとに対して、調査と いう枠組みでアプローチすることは重要である。しかしながら、戦後この分野の調査が遅れていた のは、ホームレス調査の意義があまりに軽視されてきたからにほかならない。 

   

ドキュメント内 二つの公共性と官、そして民 (ページ 72-86)