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ホームレス支援ボランティア論 山谷ボランティア論

ドキュメント内 二つの公共性と官、そして民 (ページ 50-72)

1 VA ネットワーク化、サービス供給主体、行政との連携、オンブズマン 

前章でみたように、戦後の福祉体制の推移や、1980年代以降の大都市の開発状況や、地域社会 における緊張や排除の論理の流れをみる限り、こうした流れと野宿者問題の現れ方とが連動している ことが想像できよう。また、殺人や自殺の事件の数々にみる問題の深刻化と、野宿者の置かれた緊張 状態や孤立状態、そして精神的な不安の状態とが関連をもっている状況も想像できよう。 

こうした中で、新しい福祉の対象としての野宿生活者を支援しようという活動団体が活性化してき たという事実もある。筆者自身、こうした活動にかかわり始めたのが1988年であるから、筆者の 活動への取り組みは時代状況と連動しているといえる。野宿者がかかえる問題をつかみつつ、必要な 福祉ニーズに対応してゆく諸活動が、社会運動として活性化していく。具体的には、社会の緊張を緩 め、野宿者の孤立感を弱め不安から少しでも解放させ、野宿者への差別をなくしエンパワーメントし てゆく、地域社会全体あるいは社会全体を福祉ネットワーク型の社会化、多文化共生型の社会の方向 に導いていこうという活動が活性化していくための運動の数々がその後、沸き起こっていったのであ る。こうした活動をボランティア活動と位置づけるとするならば、それはどのように特徴づけられる であろうか。 

新たな福祉ニーズに対応し社会の緊張状態をほぐしていくという立場に身をおく人びとの活動や、

組織的な運動のもつ社会的意義が高まってきた。ホームレス問題という新しい福祉対象に対して、

様々な活動や運動がが繰り広げられるようになってきたのである。これは、とりわけ1990年代以 後に顕著になった現象である(注1)。 

 

2 ボランティア活動としてのホームレスボランティアの意義と可能性 

(1)ホームレスに関する活動がいかにしてボランティアであるのか:ボランティアの定義   ボランティアを定義するにはいくつかのレベルがあり、どのレベルで定義するかにより、論点は異 なってくる。具体的には、活動に参加する個人にとっての意味づけのレベル、ボランティア団体活動 の内容のレベル、さらにはボランティアを養成しようという施策のレベルなどが挙げられる。それゆ え、活動に加わる個人に焦点を当てるか、団体活動に焦点をあてるか、ボランティア養成という行政 主導の施策に焦点を当てるかどうかによって、論点も異なってくる。 

 昨今の動向として、総じてボランティアの枠組みが多様化し広がりをみせていることがうかがわれ る。これは、一方で、団体活動が量的に拡大し、それと同時に内容が多様化しているということであ り、他方で、個々人の意味づけも多様化しているということである。また、こうした傾向の中で、ボ ランティアを養成しようという行政や福祉団体等の対応も複雑化しているということである。 

 例えば、個人の意味づけのレベルでいえば、活動がもっている社会的波及効果というだけでなく、

ボランティア活動に参加する個人がその活動を通じて自己実現をはかるという点も見逃せなくなって いる。参加する個々人が、社会と結びついているということを自覚したり、あるいは他者に役立って いる自分を体験したりする中で、それと同時に、自分自身の存在の意味を発見するという実存的な意 向が以前よりも高まっているといえる。ボランティア活動の場は、集まった個々人が単に共通の目標 に向かって邁進するということのみならず、個々人がそれぞれの体験をとおして自己を定義し再定義 するという意味づけのプロセスを多様なかたちで包含するようになってきている。 

 阪神大震災直後の、ボランティア活動の高まりのなかで注目されたのは、ボランティア活動に参加

する人びとの多さではなく、一方において、個々人が自分自身の意味づけを行おうとした活動であり、

また他方において、そうした活動が社会を構築していく力としても力を発揮してきたことにある。 

 

(2)ボランティアとボランタリー活動 

 ここでは、主として、団体活動に焦点をあてる。そこで、ボランティア団体活動を構成する要素を 定義すれば、次のようになる。 

 先ず、社会学では、ボランタリー・アソシエーションという定義があり、佐藤慶幸は、この活動団 体の構成要素を、①自由意志、②無報酬、③パートタイム、④限定的関心の4つの要素からなると定 義している(注2)。 

 また、渡戸一郎は、①非営利、②没権力・反権力、③自律性、④目標の限定、⑤組織活動の間欠 性・非形式化、⑥理念的価値の6要素で定義している(注3)。ボランティア論の高まりの中で、最 近の新たな都市問題の噴出などとの関連を考慮して、特定の観点に焦点をあてる傾向もみられる。渡 戸一郎は、都市ボランティアの共通の要件として、①自発性、②文化変容運動、③共生の3要素を重 視している(注4)。 

 以上のいくつかの定義の試みは、構成要素の内容に微妙な違いがあるものの、要するに、このよう に社会学的に定義すれば、自発的結社による活動のすべては、ボランタリーな団体活動に含まれるこ とになろう。 

 ホームレスに関しては、これまで取り組まれてきた様々な活動があるが、これらはみな、ボランタ リー活動に含まれるであろう。具体的には、体制変革運動も、労働運動も、権利保障要求運動も、布 教運動もボランタリー活動である。 

 山谷にはこれまで、それぞれの団体活動において、政治的・社会的問題意識をもった運動家たちが 関わり、組織的な活動を展開してきた。こうした個々人や個々の団体が掲げている主題の意義は、当 然ながら現在も失われていない。ただし現在は、団体活動の目標や課題は、団体ごとにも多様化する とともに、個人レベルでの目標や課題の設定についてはさらに多様化している。 

 ボランティア活動をボランタリー活動と同義とすれば、ボランティア活動の範囲は実に広いものと なる。こうした、様々な論議のなかで、東京ボランティアセンターでは、①自主性・自発性、②社会 性・連帯性、③無報酬性・無給性、④創造性・開拓性・先駆性の4つの要素を掲げている。この定義 も、ボランティア活動を広く定義するものであり、実際、児童・障害者・高齢者を対象とする福祉的 なボランティア活動以外にも、自己研鑽の活動やエコロジー・地球環境をテーマとする活動など多様 な団体がセンターのネットワークに関わっている(注5)。 

 一例を挙げれば、東京ボランティアセンターが、企業人向けの体験ボランティアのプログラムを検 討し実践した事業では、障害者の介助の活動や、高齢者を対象とした活動や、子どもの体験をサポー トする体験とならんで、外国人と日本人との共生を模索する活動や、ホームレスボランティア活動も 含まれている(注6)。 

 「無給性」(=無償性)ということに関しては、NPOという枠組みが提示されているので、ボラ ンティアであるからといって、すべてが無給という訳ではないと考えられる。ボランティアとNPO の違いに注目すれば、ボランティア活動を無給と定義するか、人件費用がかかるが非営利とするかに よって違いがあるということである。東京ボランティアセンターの報告書では、4つの要素の中に、

無給・報酬無しと定義しているが、NPOの枠組みは、支出の内容についてより柔軟であることを示 している。 

 

(3)相対的自己完結性と価値合理性 

 先に述べたように、ホームレスに関する多様な活動のほとんどは、ボランティア活動の定義に含ま れることになる。しかしながら、活動団体自身が自分たちの活動を、ボンランティア団体活動と定義 したかどうかは別である。ボランティアという自己規定をしない団体も多い。 

 合理性に関する議論によれば、活動行為が、目的の実現のための合理性を強調するか、活動行為そ のそのの価値合理性を重視するかによって、異なってきたのだと思われる。これは、私見によれば、

活動そのものの相対的自己完結性という意味づけをもつかどうかによって異なっているのだと思われ る。 

 ボランタリーな活動であったとしても、それ自身が相対的自己完結性をもつか、あるいは、他の目 的を実現するための道具的な活動であるかどうか、の違いと言うことができる。 

  活動のもつ意味が、他の別の目的を実現することのみに下属しないかどうかということ、つまり他 の目的により道具的に規定されないかどうかということである。 

 相対的自己完結性をもつということが、ボランティア活動団体の枠組みを、あまりに拡大化させな いための、一つの要件であろう。 

 たとえば、ホームレスと関わる活動をしている団体の目的が、あまりに直裁的に布教活動というこ とに置かれ、信者を増やすことが最大の眼目とされた時に、活動実践者は、ホームレスとかかわるこ とそのものから、何らかの自己実現を引き出すことが難しくなるであろう。すべては、信者の獲得と いう一線に集約されるからである。同様にして、革命運動を実現するための担い手をうるために活動 をしているのであれば、やはり、ホームレスボランティア活動とは区別されるであろう。ホームレス ボランティアと称して、ホームレスの自発性を骨抜きにすることを目的とする活動があるとすれば、

これもやはり、ボランティア活動とはいえないであろう。もちろん、活動に関わっている個々人に注 目すれば、一個人が、ある部分でホームレスボランティア活動に取り組み、他の部分で布教運動や革 命運動や政治的戦略に取り組むことはあるので、あまり単純化することはできない。 

 活動団体の意味づけと個人の意味づけは異なる。というのも、ボランティア団体には、様々なレベ ルでの個人の関わり方があるからである。団体は団体としての活動の目的をもち、団体独自の意志決 定機構をもちつつも、団体の趣旨におおまかに賛同する多様な個々人を受け入れる場としての広がり をもつようになる。活動の中心部から外縁部への広がりは大きくなり、外縁部になればなるほど団体 所属意識はあいまいとなる。団体活動でありつつも、参加する個々人の自発性は、ある程度、尊重さ れる(注7)。 

 とはいえ、ボランティア団体の活動の目的が、個々人それぞれの意味づけの自由を意義づけること なく、実際の活動をそれとは外縁的な関係に立つ目的に下属させることに眼目を置くならば、相対的 自己完結性を持たない道具的な活動と分類せざるをえない。 

 

(4)福祉ボランティア活動 

 もうひとつ、ホームレスに関する活動について、ボランティアと意味付与するかどうかを決める要 点は、福祉ボランティアというカテゴリーに入るかどうかという点である。つまり、福祉ボランティ アか非福祉ボランティアであるかどうかというところにある。ボランティア活動におけるテーマは多 様化しているが、その中で、ホームレスをテーマとする活動の位置はどこにあるだろうか。 

 ボランティア活動を具体的に分類すれば、①学習するという面の活動や親睦的な相互行為を志向す る活動、具体的には、各種の学習会、趣味の会などの分野があり、また②人間のサポートにかかわる、

福祉活動、教育活動、人権擁護活動、災害救援活動などの活動があり、さらには、③制度にかかわり 新制度を提案する代替活動や、制度枠組み変容をもとめる実践活動、グローバルな環境・自然にかか わるエコロジー運動などの活動が含まれる。 

 社会全体を見渡せば、ボランティアと自己規定する団体活動は、実に多様になってきたが、福祉と の接点の有無は、人間のサポートにかかわるかどうかによるだろう。これは、社会的な視野をもつな かで、対象となる他者の生活の質の向上に関与するという意味を規定するかどうかという点に関わっ てくる。 

 ホームレスに関する福祉ボランティアの中では、山谷でこれまで取り組まれてきた「医療相談活 動」のボランティアも、「炊き出し活動」のボランティアも、「アルコール依存症に関する活動の」

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