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固定(常設)層の自立支援へ:隅田川ブルーシート住民への支援

ドキュメント内 二つの公共性と官、そして民 (ページ 122-127)

1 隅田川調査;隅田川ブルーシートアンケート速報 

(1)固定層の特徴・危機的状況  

 ふるさとの会では、夏祭りに並行して、ブルーシート小屋居住者に協力を求めてアンケートを実施 した。この調査は、1996年に開始して以来10年目に入る。1999年の調査項目の中には、結 核に関する質問もある。いま日本で、結核が広がりをみせているが、このこととホームレス問題の深 刻化とは無縁ではない。仕事を通じて、家族や地域を通じて、行政との関係性のなかで、本来最低限 の医療や保健の対策が実施されているはずであるが、野宿者(路上生活者)問題の深刻化は、こうし た接点から離脱せざるをえない層をつくってしまったことにあるといえる。伝染性の病気が、体力の 低下した人びとの間に感染をひろげ、病気をますます蔓延させることになりかねないという事態が進 行している。 

  調査では、過半数の人が「結核検診を受けていない」と回答し、ここ1,2年の間に検診を受けた 人は、3割程度であった。ふるさとの会としては、自分自身のために、そしてまわりの人のために、

検診を受けることを呼びかけ、その結果が当人に正しく伝えられ、しかるべき罹病している場合に医 療が受けられるように、野宿者(路上生活者)への地域医療体制を整備していくように提言し活動し ていく方針をとっている。 

 

表7−1 結核検診受けましたか/隅田川調査※   

最近受けた 前に受けた 受けてない  総計 

(有効回答)

無回答 総計 

54 24 106 184 2 186 

29.3% 13.0% 57.6%  99.9%  

※ふるさと会:「隅田川ブルーシートアンケート調査結果」(1999年)より作成   

隅田川両岸でのブルーシート小屋化の傾向とあわせて、こうした居住者の実態と施策のニーズを把 握するために調査を開始したのである。調査対象をブルーシート居住者にしぼっているために、ごろ 寝タイプの野宿者(路上生活者)は含まれていない。 

生活保護の弾力的運用や、宿泊所の積極活用や就労型の自立支援センターの開所は、野宿者(路上 生活者)の総数に変化を及ぼしているかもしれないが、野宿者(路上生活者)の年齢構造にどのよう に影響を及ぼしているのか、はっきりしない。 

アウトリーチという街頭相談・支援活動の積極化により、相談を受ける立場の者が野宿者の生活の 現場に足を運び、行政による支援サービスの現状を説明すると共に野宿者のニーズを把握することで、

自立支援施策として何が効果的で何が効果的でないかを一層はっきりと把握することができ、以後の 自立支援施策の編成にも有効であろう。 

東京都は、就労自立を支援するために、自立支援センターを当初2箇所、のちに4箇所を開設し、

あらたな自室支援策に乗り出した。しかし、この自立支援センターが就労可能性を入所の判断基準と したために、比較的高年齢の失業層が取り残される結果となった。2002年の隅田川調査からうか がえるのは、自立支援センターの活性化により取り残され層「55歳以上65歳未満」の層が、顕著 に増勢となっている事実である。 

       

図7−1  年齢階層の推移※ 

 

※ふるさと会:「隅田川ブルーシートアンケート調査結果」(1996年―2002年)より作成  14

21 19 13

21 14 13

28 22 20 24

24 27 12

25 21 23

29

30 30 36

21 22

24 23

17 18 28

11 15

13 11

7 11 11

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002

50未満 50− 55− 60− 65以上

 

(2)不安 

不安を訴える人は多い。当初このアンケートでは、対象者にいきなり「不安は?」と聞いて、答え る人がいるだろうかという批判的な意見もあった。しかし実際に調査してみると、とくに最近では、

このストレートな問いにも反応は大きく、不安を表明する人は7割を超えている。 

自由回答をみると不安の種類として、仕事のこと、生活費(お金)のこと、身体の安全のことを挙 げる者が多いが、野宿中の被害などの「トラブル」のことや、ブルーシート小屋を解体することを求 める「小屋の撤去」のことも、騒音などの環境悪化のことを挙げている者もいる。そうしたなかで、

生活全般のことや、精神のことを挙げるというのも目立ってきている。倦怠や厭世だけでなく、自己 否定的な文句も聞かれるようになり、深刻の度合いが増しているのである。 

 

図7−2 隅田川住民の不安の有無※ 

 

61%

76%

76%

73%

39%

24%

24%

27%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

2002年 2001年 2000年 1999年

不安ある 不安ない

不安ない 39% 24% 24% 27%

不安ある 61% 76% 76% 73%

2002年 2001年 2000年 1999年

※ふるさと会:「隅田川ブルーシートアンケート調査結果」(1999年―2002年)より作成 

 

 不安の状態は、安眠できるかどうかとも関係している。そこで、安眠の可能性と安眠阻害の要因に ついて調べた。夜よく眠れない人の割合は、半数を上回っている。夜の安眠の阻害が不安な状態を いっそう深刻にさせていると思われる。 

 

表7−2 夜よく眠れるかどうか※   

安眠  眠れる 眠れない 合計 

実数 65 38 103

 1997年 

比率 63% 37%

実数 100 100 200  1998年 

比率 50% 50%

実数 73 111 184

 1999年 

比率 40% 60%

実数 75 114 189

 2000年 

比率 40% 60%

実数 64 56 120

 2001年 

比率 53% 47%

実数 51 35 86

 2002年 

比率 59% 41%

※ふるさと会:「隅田川ブルーシートアンケート調査結果」(1997年―2002年)より作成   

2  健康状態:  山谷の人の疾病・障害の状態 

  自立支援のための居住施設を自分たちの手で運営することになってから、以前にも増して、路上生 活経験者の心身の状態について注目するようになった。1999年1月に実施した「越年調査(19 98―99年)」を振り返ってみると、参加した人の健康状態では、約6割の人が、調子が悪いと答 えている。1996、97年頃の調査では、この数値が5割を上回ることはなかったから、6割に達 しているというのは、深刻さが一層増しているということである。高齢化ばかりでなく、疾病化の波 は、山谷では加速度的に進行しているといえる。 

 

表7−3  越年アンケートにみる身体の悪いところ※ 

主訴の部位 人数(複数回答可) 

手足 18人 

胃腸   8人 

肝臓、腎臓、膵臓   7人  腰、体のしびれ   7人  血圧、心臓   6人 

視力   5人 

糖尿   4人 

肺、結核、気管支   4人 

その他 14人 

合計 73人(実数60名の回答) 

※ふるさと会:「隅田川ブルーシートアンケート調査結果」(1999年)より作成   

悪いところを具体的に尋ねると、手足、胃腸、肝臓・腎臓、腰・体のしびれなどが多かった。他方 で、調査の性格上、メンタルな面について聞くことができなかったので、今後は精神の状態をつかむ

必要があると実感した。主訴の部位では、まず手足や腰などが多く、山谷での肉体労働の影響を物 語っている。その一方で、肝臓や胃腸の疾病・障害は、食生活の不安定性や、ストレス、精神不安な どが影響しているとも推測できる。 

いずれにしても、野宿者が入所する中間施設や終の住処型の施設をつくる場合、今後こうした疾 病・障害をもつ人が入所する施設となるので、在宅介護支援やメンタルなケアなど周到な連携が必要 である。 

 

3 社会の分裂状態の進行とソーシャル・インクルージョンへの芽生え 

― 分裂の進行とそれを回避し、地域社会を再構築するNPO   

ニーズと実態の把握/一言<ミニ>アンケート結果(1998年2月以後) 

一言アンケートは、1995年5月からはじめた。ただ単に食事を提供するだけの関係ではなく、

何か一言質問してはどうかと考えた。回答をえることによって、集計結果により全体の動向がつかめ るだけではなく、一人ひとりの回答は、その人の個性を表していたので、個々人を知ることにもつな がるものと期待された。質問そのものの活用や効用については、ボランティアサークルの中で慎重な 意見が出されることもあった。しかし、調査する側としては、インフォームドコンセントを尽くし、

回答は任意であることを尊重したものである。 

 1995年は、国勢調査の年であった。第1章でも述べたように、意外なことに調査員の訪問を受 けていないという人が非常に多かった。回答結果では、半数の人は国際調査という国民の義務の枠組 みから外れ、政府から忘れ去られている人びとなのである。「調査に来なかった」人が半数と非常に 多かった(表1−10参照)。 

結核検診についても同様である。定期健診の枠組みに入っていない野宿者は、検診機会の蚊帳の外 になっている人が依然として多い。こうした危機を打開するために、野宿者への投薬管理システムと してドッツ(DOTS)方式の導入が検討され、その後一部の地域で行われるようになった。こうし た方式の有効性を高め検診率を高めるためには、行政とNPOとの連携が不可欠である。 

 ホームレスが急増した1992年からホームレス自立支援法ができる2002年前後に至るまで、

社会の保護の網の目から抜け落ちる人の数は増え続けた。こうした社会の網の目から抜け落ちた人々 を再び社会の中に受け入れる実践的な取り組みに取り組んできたのは、主としてボランティア団体や ホームレス支援のNPOである。こうした団体の取り組みの中に、路上生活者の自立を支援するための ソーシャルワークの萌芽をみることができるのである。 

                           

ドキュメント内 二つの公共性と官、そして民 (ページ 122-127)