4.1 はじめに
4.2 遮熱試験の方法 4.2.1 遮熱試験の概要 4.2.2 遮熱試験装置
4.3 遮熱試験①(単層試験片)
4.3.1 遮熱試験①の結果
4.3.2 遮熱性と熱的物性および溶射パラメーターとの関係
4.4 遮熱試験②(金属複合試験片)
4.4.1 遮熱試験②の結果
4.4.2 遮熱試験①,②の結果の考察
4.5 クールテック塗布試験片による遮熱・放熱試験
4.5.1 クールテックのガソリンへの耐性
4.5.2 クールテック塗布試験片の遮熱・放熱試験の結果
4.5.3 遮熱・放熱試験後の試験片の状態 4.6 本章のまとめ
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4.1 はじめに
第 1 章で述べたように,内燃機関は燃料の内部エネルギーの約 30%を駆動力 に変換しており,残りの70%の内,30%を冷却損失している1),2).この冷却損失 の熱エネルギーを減少し,内燃機関のエネルギー変換効率を向上させる技術の 一つに壁温スイング遮熱法3)~7)がある.
壁温スイング遮熱法は,エンジン稼動サイクル中の燃焼室の壁の温度が燃焼 ガスの温度の変化に追従するように上昇・下降することによって,燃焼室の壁 と燃焼ガスとの温度差を小さくし,熱損失を低減させる技術である.燃焼の際,
最も熱量の加わるピストン頭部に熱伝導率と体積比熱が低い遮熱皮膜を施すこ とによって,高いスイング幅が得られ,熱損失の低減効果は高くなるとシミュ レーション予測がされている.
本章では,数種の遮熱溶射皮膜について,まず遮熱性についての評価を行っ た.一般にピストンの遮熱性能試験は,実際のエンジンのピストン頭部に燐光 体を塗布して,エンジン稼働中のピストン頭部の温度変化を測定するレーザ誘 起燐光法が用いられている.しかし,この方法で測定されるのは燐光体の温度 であり,厳密にはピストン頭部の温度が測定されているとはいえない.本研究 では有効的かつより簡易な評価方法として,ヒーター(ホットプレート)を用 い,遮熱性能を比較する試験方法を採用した.4.2 の節では遮熱試験の方法を,
4.3の節では単層の試験片を対象とした試験の結果を,4.4の節では金属材料を1
~4 層まで積層させた試験片の遮熱性の評価を,4.5の節ではそれまでの試験で 高い遮熱性が確認できた皮膜に放熱塗料であるクールテックを塗布して遮熱・
放熱試験を行った結果を,4.6の節には本章のまとめを記載した.
4.2 遮熱試験の方法
本節では遮熱溶射皮膜の遮熱性を評価した試験方法について説明する.4.2.1 の項で評価方法の概要を,4.2.2の項で熱サイクル試験装置の詳細を記載する.
4.2.1 遮熱試験の概要
本項目では,溶射皮膜の遮熱性の評価方法について述べる.Fig.4.2.1-1に実験 方法の概要を示す.実際のガソリンエンジンのピストンは,シリンダー内で燃 料を燃焼する際に400℃程の熱が加わる2).本実験ではFig.4.2.1-1のように,円 盤状の試験片を,トップコートを下にしてヒーターの上に設置し,トップコー ト側の温度:Ttopが400℃より高い500℃になるように加熱し,加熱開始から1800 秒後,温度が平衡状態になった時のTtopと基材側の温度:Tbaseとの温度差である
ΔTconstを測定し,遮熱性として評価した.
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メーカー:アズワン 型番:CHP-170AN
外寸法:195×285×105mm 本体重量:2.5kg
トッププレート
:セラミック(170×170mm)
電源:AC100V 50/60Hz
4.2.2 遮熱試験装置
Fig.4.2.2-1に実験に使用したヒーターを示す.皮膜の温度:Ttopと基材の温度:
TbaseをK型熱電対で測定し,データロガー(2.2.3(1)参照)によってデータと して保存した.
Fig.4.2.1-1 Scheme of the thermal barrier test
Fig.4.2.2-1 Equipment of the thermal barrier test
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Material Thickness
[μm]
Porosity
[%] Material Thickness
[μm]
Porosity [%]
①Al2O3 Al2O3 80%Ni-20%Cr
②ZrO2 ZrO2 + 8%Y2O3 CoNiCr AIY
③SUS316 SUS316
④Al Al
⑤Cu Cu Specimen
Top coating Bond coating
5 100 5
300
20 and 5
4.3 遮熱試験①(単層試験片)
遮熱溶射皮膜は熱サイクル試験,引張型ピンテストと同様に半導体製造装置 への遮熱コーティングとして用いられている①Al2O3,耐熱性・耐食性を向上さ せるために発電所やエンジンなどのガスタービンのブレードに用いられている
②ZrO2,①Al2O3,②ZrO2と同等の低熱伝導率を有しながらも,基材に近い線膨 張係数を有している③SUS316を用いた.また,遮熱性と熱物性値の関係を明ら かにするために④Al,⑤Cuの試験片を追加し,遮熱試験を行った.④Al,⑤Cu の試験片のリストをTable4.3-1に溶射条件と断面ミクロ組織をそれぞれ
Table4.3-2,Fig.4.3-1に示す.
④Al ⑤Cu Top coating Top coating
Powder Al Cu
Powder size
[μm] ~150 ~150
Plasma current
[A] 700 500~600
Voltage
[V] 38 37~69
Spray distance
[mm] 110 110
Powder feet rate
[g/min] No data No data
Plasma gas Argon
Table4.3-1 List of test pieces of the thermal barrier test
Table4.3-2 Spraying conditions of APS
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Fig.4.3-1 Micro structure of the thermal sprayed coatings
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4.3.1 遮熱試験①の結果
本項目では遮熱試験の結果を記載する.遮熱試験は各試験片で3回ずつ行い,
平均の値をとった.Fig4.1-1に測定したΔTconstの平均値を縦軸に,熱伝導率を横 軸にとったグラフを示す.
まず③SUS316,④Al,⑤Cuの結果を気孔率別で見ると,ΔTconstの変化は小さ かった.このことから溶射皮膜の一般的な気孔率の下限5%と上限20%では,遮 熱性能に大きく影響しないことがわかった.
また,③SUS316,④Al,⑤Cuは熱伝導率に大きな差があるのに対し,ΔTconst
の差は小さかった.①Al2O3,②ZrO2を見ると他に比べてΔTconstの値が大きかっ た. このことについては次項で詳細を記載する.
Fig.4.3.1-1 Result of the thermal barrier test①
(Relationship between the thermal conductivity and the thermal barrier property)
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4.3.2 遮熱性と熱的物性および溶射パラメーターとの関係
本実験の遮熱性ΔTconstを高温側から低温側に熱流速が一直線で進むと仮定す る一次元の近似式で表すと式4.3.2-1のようになる.
∆𝑇
𝑐𝑜𝑛𝑠𝑡= 𝑞 ・ ∑(𝐿
𝑖/𝑘
𝑖) 𝑞 = 𝑊 𝐴 ⁄ ≒ 22400
式4.3.2-1で導き出した遮熱性を仮にΔTconst-thとし,その計算結果をグラフに
表すとFig.4.3.2-1のようになる.実験結果であるFig.4.3.1-1と比較すると,傾向
こそ近いものがあるが,実験結果に対して計算結果の各々の差が小さくなった.
これは式4.3.2-1が近似的なものであり,考慮されていない項目があるからであ
る.その項目の1つ数式では表せない特性や気孔の存在など構造的な値である.
しかしこの構造的な値は実験結果Fig.4.3.1-1から影響が小さいと考えた.構造的 な値の他に“界面熱抵抗”が考えられる.
式4.3.2-(1)
ΔTconst:遮熱性[℃ or K],q:熱流速[W/m2]
L:各層の厚さ[m],k:熱伝導率[W/(m・K)]
i:base metal,bond coating,top coating
W:ヒーター出力[W],A:ヒーター天板面積[m2]
Fig.4.3.2-1 Calculation result of the thermal barrier test①
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界面熱抵抗(および接触熱抵抗)とは界面が一様と仮定する公称面積ではな く,真実接触面積を考慮した熱抵抗である.この界面熱抵抗は,結合面の非線 形な弾性接触特性,結合面の表面粗さやうねりなど様々な表面性状,また,加 工方法や機械的付加による圧力分布などの影響を受け,非常に複雑な挙動を示 す8).これまでに多くの研究が行われ,その定式化が試みられている9),10)が,定 式化するには界面の状態を一様と仮定して界面熱抵抗を求めているものがほと んどである.実際には界面熱抵抗を熱特性試験の不確かさと扱うか,基材だけ の試験片,皮膜だけの試験片,界面が存在する試験片の3つの熱特性を測定し,
熱抵抗を算出するかの方法がとられている.
Fig.4.3.2-2は遮熱試験①における界面熱抵抗Rcの概要である.①Al2O3および
②ZrO2は基材と線膨張係数が大きく異なり,それによる加熱中のはく離を防ぐ ためにボンドコートを施してある.よって③SUS316,④Al,⑤Cuと比べると界 面が一つ多くなり,それによって生じる界面熱抵抗が大きくなり,①Al2O3およ び②ZrO2は高い遮熱性を有していたと考えた.
Fig.4.3.2-2 Interfacial thermal resistance in case of the thermal barrier test①
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式4.3.2-1を,界面熱抵抗を考慮した形にすると次式のようになる.
∆𝑇
𝑐𝑜𝑛𝑠𝑡= 𝑞(𝐴 ・ ∑ 𝑅𝑐
𝑛+ ∑(𝐿
𝑖/𝑘
𝑖))
この式中の各層の厚さLは非常に小さい値なので,次のように近似できる.
∑(𝐿
𝑖/𝑘
𝑖) ≪ 1
∆𝑇
𝑐𝑜𝑛𝑠𝑡≒ 𝑞(𝐴 ・ ∑ 𝑅𝑐
𝑛)
式 4.3.2-3 中,q,A は定数なので,遮熱性:ΔTconstは界面熱抵抗:Rc に大き く依存することになる.これを検証するために4.4節で金属材料の溶射皮膜を1
~4層積層し,遮熱試験を行った.
式4.3.2-(2) Rc:界面熱抵抗,n:各界面
式4.3.2-(3)
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4.4 遮熱試験②(金属材料複合層試験片)
4.3の節の結果から,①Al2O3,②ZrO2,両者の遮熱性が優れていたのは界面は く離抑制のためにボンドコートを設けたことによる界面数および界面熱抵抗の 増加に起因していると考え,本項目では金属材料の溶射皮膜を積層し,界面数
-遮熱性の関係を調査した.
本項目で行った遮熱試験②の試験片の概要をFig.4.4-1に示す.溶射材料は低 熱伝導率・高体積比熱を有するSUS316と,高熱伝導率・低体積比熱を有する Alを用いた.その2つの材料を1~4層まで積層した.αはトップコートがSUS316 の試験片,βはトップコートがAlの試験片とした.また,膜厚の影響をなくす ために全ての試験片の膜厚を400μmに統一した.
試験方法は遮熱試験①と同様に,トップコートを下にしてヒーターの上に設 置し,トップコート側を500℃になるように加熱し,温度が平衡状態になった時 の皮膜側の温度:Ttopと基材側の温度:Tbaseを測定し,両者の温度差ΔTconstを遮 熱性として評価した.
Fig.4.4-1 Scheme of specimens of the thermal barrier test②
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4.4.1 遮熱試験②の結果
Fig.4.4.1-1に遮熱試験②の結果を示す.金属溶射皮膜を1~4層まで積層させ
て遮熱試験を行った結果,いずれの積層数,トップコートの材料の試験片でも ほぼ同等の結果となり,界面熱抵抗:Rcと遮熱性:ΔTconstの関係性が低いこと がわかった.
Fig.4.4.1-1 Results of the thermal barrier test②