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第 5 章 レーザフラッシュ法による

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5.1 はじめに

内燃機関のピストンは,燃焼室から熱量を大きく吸収し,下部にその熱量を 逃がしてしまっている.その熱損失を低減するには,壁温スイング遮熱法 1)~5) を代表とするピストン頭部に遮熱性を有した皮膜を施す手法が必要となる.そ の遮熱性は継続してピストン下部への熱損失を低減させ,時間を関数としない 長期的なものと,燃料燃焼の際にピストンそのものに熱を伝えにくくし,時間 を関数の一部とする瞬間的なものが必要である.

第 4 章では数種の溶射皮膜がその遮熱性を有しているかの評価を行ったが,

それは試験片をヒーターにて加熱し,平衡状態の温度差を計測した長期的な遮 熱性能を評価する方法なので,瞬間的な遮熱性を評価できているとはいえない.

本章ではレーザフラッシュ法によって熱伝導率測定を行うことで,瞬間的な遮 熱性の評価を行った.

5.2 レーザフラッシュ法による熱伝導率測定の方法

本節では瞬間的な遮熱性を評価したレーザフラッシュ法について説明する.

Table.5.2-1 に測定装置である LFA447 の仕様を示し,5.2.1 の項ではレーザフ

ラッシュ法の概要を,5.2.2の項ではレーザフラッシュ法の測定結果から多層材 料の各層の熱伝導率の算出方法を記載する.

5.2.1 レーザフラッシュ法の概要

レーザフラッシュ法は,レーザやランプからのパルス光で試験片表面を加熱 したときの試験片裏面の温度変化から,熱拡散率:αを得る方法である6).光源 の種類によって,レーザフラッシュ法やXe フラッシュ法などとも呼ばれる.均 質な自立するセラミックスに対しては,JIS R 16117)やISO 187558)において,「試 験片の内接円及び外接円の直径が4 mm ~ 15 mm の円板又は凸多角形の平板

で,0.5 mm 以上5 mm 以下の範囲でハーフタイムがパルス幅の5 倍以上になる

厚さ」の試験片の厚さ方向の熱拡散率を,室温から1700 K までの温度範囲で測 定する手順が規定されている.Fig.5.2.1-1 は,フラッシュ法の原理図である.断 熱真空下に置かれた厚さd の平板状試験片の表面に,時刻0 でパルス光が照射 されると,パルス光が吸収されて試験片表面は加熱され,その熱が時間ととも に厚さ方向に拡散して,時刻τに試験片の温度が一様になる.この現象を試験片 裏面温度の時間変化として観測したものが,温度上昇曲線と呼ばれる.理想的 な条件下では,試験片裏面温度が最大値の 1/2 まで上昇するために要した時間

(ハーフタイムt1/2)と熱拡散率の関係を,式 5.2.1-1で近似することができる.

このフラッシュ法の理想条件下における近似式を用いて熱拡散率を算出する方 法を,ハーフタイム法と呼ぶ9).このハーフタイム法によって算出した熱拡散率 を用いて,式5.2.1-2のように熱伝導率を得ることができる.

- 86 - Specification

Temperture Range Ambient to 300 [℃]

Thermal Diffusivity Range 0.01 to 1000 [mm2/sec]

Thermal Conductivity 0.1 to 2000 [W/(m·K)]

Flash Source Xenon Flash Lamp, wavelength: 150 to 2000 [nm]

Pulse Energy: up to ≈10 [J] (selectable by voltage and pulse length) Sensor Type IR Detector (InSb) with integrated dewar

Duration A few hundreds a few thousands [msec]

= 𝑑

2

𝜏 ≒ 0.1388× 𝑑

2

𝑡

1

2

= λ・ 𝐶

𝑝

・ 𝜌

Fig.5.2.1-1 Theory of the laser flash method

式5.2.1-1

式5.2.1-2

α:熱拡散率[m2/sec],d:試験片の厚さ[m]

τ:熱拡散時間[sec],λ:熱伝導率[W/(m・K)]

Cp:比熱[J/(kg・K)],ρ:密度[kg/m3] Fig.5.2-1 Specification of LFA447

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5.2.2 多層材料の各層の熱伝導率の算出方法

フラッシュ法は,ち密で均質な固体材料を評価することが前提である.非接 触かつ短時間測定であり,広い温度範囲で使用することができることから広く 普及しており,現実的には,ち密で均質な材料に限らず,異方性がある材料,

マトリックスにフィラーを混入させた複合材料,基材上に膜が形成された多層 材料などの熱拡散率測定にも用いられている.均質ではない材料を測定する場 合には,そのような材料をパルス加熱法で測定した場合を想定したモデルを適 用して温度上昇曲線を解析することで,熱拡散率を求めている.

フラッシュ法による多層材料の測定の解として,幾つかの多層モデルが提案 されている.多層モデルには,多層の試験片をパルス加熱した時の熱伝導方程 式について,実空間で展開して導出した理論式11)13)や,ラプラス空間で解いた

解析式14),15)がある.

そのラプラス空間で多層材料の熱伝導方程式を解いた解析式の一つに,馬場 が提案した式14)がある.面積熱拡散時間A という新しい概念が含まれているこ とが特徴である.以下に,その内容を紹介する.応答関数法による多層モデル では,試験片をパルス加熱して得られる温度上昇曲線のA は,次式で表わされ る.面積熱拡散時間は,図4 に示すように,規格化した温度上昇曲線とそのグ ラフの縦軸= 1 の直線で囲まれる領域の面積である.

なお本紙ではNETZSCH社製のLFA 447 Nanoflashを測定機器として使用し た.

Fig.5.2.2-1 Temperature curve on the back face of the 2layers model

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A = ∫ [1 − 𝑏√𝜏 ・ 𝑇

𝑟

(𝑡)]

0

𝑑𝑡 = lim

𝜁→0

[ 1

𝜁 − 𝑏√𝜏 ・ 𝑇 ̃ (𝜁) ]

𝑟

ここで,τは熱拡散時間,b は熱浸透率,𝑇̃ (𝜁)𝑟 は裏面温度のラプラス変換であ る.N 層の多層材料の場合,ラプラス空間では,第i 層の熱流𝑞̃ (𝜁)𝑖 と裏面温度 𝑇̃(𝜁)𝑖 (i= 1, 2, ..., N)の関係が,次式で表わされる.

[ 𝑞 ̃ (𝜁)

𝑖

𝑇 ̃ (𝜁)] = 𝑆

𝑟 𝑖

𝑆

𝑖−1

・・・ 𝑆

2

𝑆

1

[ 𝑞 ̃(𝜁)

0

𝑇

0

̃(𝜁)]

𝑆

𝑖

= [

𝑐𝑜𝑠ℎ√𝜁𝜏

𝑖

−𝑏

𝑖

√𝜁 ・ 𝑠𝑖𝑛ℎ√𝜁𝜏

𝑖

− 1

𝑏

𝑖

√𝜁𝜏

𝑖

𝑠𝑖𝑛ℎ√𝜁𝜏

𝑖

𝑐𝑜𝑠ℎ√𝜁𝜏

𝑖

]

ここで,𝑞̃(𝜁)0 は外部から第 1 層に与えられる熱流,𝑇̃ (𝜁)0 は第1 層表面の温度 である.また,第i 層の厚さdi,熱伝導率λi,比熱容量Cpi,密度ρi,熱拡散率 αi,熱浸透率bi,熱拡散時間τi である.Fig.5.2.2-1に示す2 層試料において,式

(2)(3)より,ラプラス空間における試験片裏面の温度変化は,

𝑇

2

̃ = 1

√𝜁(𝑏

1

sinh √𝜁𝜏

1

𝑐𝑜𝑠ℎ√𝜁𝜏

2

+ 𝑏

2

cosh √𝜁𝜏

1

𝑠𝑖𝑛ℎ√𝜁𝜏

2

)

であり,式(4)を式(1)に代入して,

𝐴

𝑁=2

= 𝑏

1

𝜏

13/2

+ 3𝑏

1

𝜏

2

𝜏

11/2

+ 3𝑏

2

𝜏

1

𝜏

21/2

+ 𝑏

2

𝜏

23/2

6(𝑏

1

√𝜏

1

+𝑏

2

√𝜏

2

)

ここで熱浸透率は,

𝑏

𝑖

= √𝜆

𝑖

𝐶

𝑝𝑖

𝜌

𝑖

= √𝛼

𝑖

𝐶

𝑝𝑖

𝜌

𝑖

𝐶

𝑝𝑖

𝜌

𝑖

= 𝐶

𝑝𝑖

𝜌

𝑖

√𝛼

𝑖

= 𝐶

𝑝𝑖

𝜌

𝑖

𝑑

𝑖

√𝜏

𝑖

式5.2.2-(1)

式5.2.2-(2)

式5.2.2-(3)

式5.2.2-(4)

式5.2.2-(5)

式5.2.2-(6)

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式(6)を式(5)に代入し,式を整理すると

𝐴

𝑁=2

= (𝐶

𝑝1

𝜌

1

𝑑

1

+ 3𝐶

𝑝2

𝜌

2

𝑑

2

)𝜏

1

+ (3𝐶

𝑝1

𝜌

1

𝑑

1

+ 𝐶

𝑝2

𝜌

2

𝑑

2

)𝜏

2

6 ∑ 𝐶

𝑝𝑖

𝜌

𝑖

𝑑

𝑖

と表される.既知である第1 層(基材)の熱拡散率からτ1が求められ,第1 層 及び第2 層の比熱容量,密度,厚さも既知であるとすると,これらを式(7)に 代入して,τ2 が得られることで第2 層の熱拡散率を求められ,そこから第2層 の熱伝導率を算出,推定することができる.

この多層モデルの式を実際に使用する際は,次の2 通りの方式で,面積熱拡散 時間を求めて用いることができる.

① 表計算ソフトウエアなどで温度上昇曲線の生データを積算して求める方式

② 多層試験片を均質な単層試験片と仮定して求めた見かけの熱拡散率から 後述の式(8)で求める方式

現実的に,フラッシュ法の測定では,放射による熱損失や試料ホルダ等への 固体伝導による熱損失があり,その他にも不均一なパルス加熱の影響なども懸 念される.そのため,温度上昇曲線には,歪みが生じることが考えられる.方 式①では,温度上昇曲線のデータの和として面積を求めるため,温度上昇曲線 の歪みに敏感であるので,本紙では方式②を用いた.

A = 𝜏

6 = 𝑑

2

6𝛼

式5.2.2-(7)

式5.2.2-(8)

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5.3 レーザフラッシュ法による熱伝導率測定の結果

5.3.1 基材を含めた熱伝導率測定の結果

レーザフラッシュ法によって熱伝導率を測定した結果をFig.5.3.1-1に示す.

基材と比較すると全ての皮膜で熱伝導率を低化させることができ,中でも② ZrO2は優秀な値を有しており,膜厚を大きくすることでその傾向が顕著になっ た.レーザフラッシュ法による熱伝導率測定ではアルマイトの測定も行った.

そのアルマイトの結果と比べても,②ZrO2の値は非常に優秀であった.

Fig.5.3.1-1 Measurement result of the thermal conductivity including the substrate by the laser flash method

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5.3.2 皮膜のみの熱伝導率算出の結果

レーザフラッシュによって熱伝導率を測定した結果から,各皮膜の熱伝導率 を算出した結果をFig.5.3.2-1に示す.皮膜のみの熱伝導率でも,やはり②ZrO2

は優秀な値を有していたが,アルマイトの皮膜のみの熱伝導率はそれを大きく 上回るものであった.

しかし,Fig.5.3.1-1を見てわかるようにアルマイトは基材を含めて考えると,

厚肉化することが困難なので基材の値が支配的になってしまう.その欠点が如 実に示された.これに対し,②ZrO2は膜厚の自由度がアルマイトよりも高いの で,より実用性が高いと考えられる.

Fig.5.3.2-1 Measurement result of the thermal conductivity of the coating only by the laser flash method

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5.4 本章のまとめ

本章では内燃機関のピストンへ施す遮熱溶射皮膜として,瞬間的な遮熱性を 有しているかの評価を,レーザフラッシュ法による熱伝導率の測定という形で 行った.その結果,以下の事項が判明した.

1)基材を含めた熱伝導率では,②ZrO2がアルマイトと比較しても優秀な値を有 していた.

2)皮膜のみの熱伝導率を算出すると,アルマイトは②ZrO2を上回る値を有して いていたが,基材を含めて考えるとアルマイトは厚肉化することが困難とい う点から,実用性では②ZrO2に劣る

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第5章の参考文献

1)脇坂佳史,川口暁生:壁温スイング遮熱法によるエンジンの熱損失低減,日 本機械学会誌,第119巻,第1174号,p.43.

2)小坂英雅,脇坂佳史,野村佳洋,堀田義博,小池誠:壁温スイング遮熱法に よるエンジンの熱損失低減(第 1 報),自動車技術会 2012 年春季大会学術講 演会講演予稿集,(2012),pp.5-10.

3)脇坂佳史,稲吉三七二,福井健二,小坂英雅,堀田義博,川口暁生:壁温ス イング遮熱法によるエンジンの熱損失低減(第 2 報),自動車技術会 2015 年 春季大会学術講演会講演予稿集,(2015),pp.154-159.

4)川口暁生,立野学,山下英男,猪熊洋希,山下晃,高田倫行,山下親典,小 山石直人,脇坂佳史:壁温スイング遮熱法によるエンジンの熱損失低減(第3 報),自動車技術会2015年春季大会学術講演会講演予稿集,(2015),pp.160-165. 5)西川直樹,高岸れおな,清水富美男,堀江俊男:壁温スイング遮熱法による

エンジンの熱損失低減(第 4 報),自動車技術会 2015 年春季大会学術講演会 講演予稿集,(2015),pp.166-171.

6)株式会社コベルコ科研:技術ノート「こべるにくす」

http://www.kobelcokaken.co.jp/tech_library/pdf/no27/b.pdf(参照2016/12/1)

7)JIS R 1611 : 2010. ファインセラミックスのフラッシュ法による熱拡散率・比

熱容量・熱伝導率の測定方法(2010).

8)ISO 18755 : 2005. Fine ceramics(advanced ceramics, advanced technical ceramics) -- Determination of thermal diffusivity of monolithic ceramics by laser flash method

(2005).

9)W. J. Parker, R. J. Jenkins, C. P. Butler, G. L. Abbott ; J. Appl. Phys., 32, 1679(1961). 10)阿子島めぐみ:熱特性試験方法―多層モデルを適用したレーザフラッシュ

法によるTBC熱伝導率―,表面技術,第64巻,第5号,(2013),pp.273-279.

11)H. J. Lee, R. E. Taylor ; Thermal conductivity, 14, 423(1976).

12)N. Araki, A. Makino, T. Ishiguro, J. Mihara ; Int. J. Thermophys., 13,515(1992).

13)J. Hartmann, O. Nilsson, J. Fricke ; High-Temp. High-Press., 25, 403(1993). 14)T. Baba ; Jpn. J. Appl. Phys., 48, 05EB04(2009).

15)細野和也, 森山文徳 ; 第 21 回日本熱物性シンポジウム講演論文集, 226

(2000).

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