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3.1 はじめに

3.2 引張型ピンテストの方法 3.2.1 引張型ピンテストの概要 3.2.2 引張型ピンテスト装置 3.2.3 試験片の詳細

3.3 引張型ピンテストの結果 3.3.1 密着強度測定結果

3.3.2 試験後の試験片の断面ミクロ観察結果

3.4 材料の違いによる密着強度の差について

3.5 膜厚の違いによる密着強度の差について

3.6 本章のまとめ

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Gas pressure Resultant

force

Intake Compression Expansion Exhaust

Inertial force

Crank angle [°]

Lord [×1000kgf]

3.1 はじめに

本章では第 2 章と同様の遮熱溶射皮膜を対象にして,皮膜の密着強度の評価 として行った引張型ピンテストの方法,結果および結果からの考察を説明する.

稼働中のエンジン内のピストンは,第2章で述べたような温度変化だけでな く,大きな荷重も加えられている.Fig.3.1-11)はガソリンエンジン内のピストン に加わる荷重を示したグラフである.グラフのように稼働中のエンジン内のピ ストンはガス圧力と慣性力が加えられる.吸気・圧縮・膨張・排気の4サイク ル中に加わる力は主にガス圧力による圧縮だが,吸気行程・排気行程では慣性 力による引張の力が加えられる.ガス圧力はガソリンエンジン,ディーゼルエ ンジンで大きく異なる2),3)が,慣性力は両者とも近い値となっている.また圧縮 は皮膜に破壊を生じさせ,その破壊から皮膜がはく離することがあるが,圧縮 が皮膜のはく離の直接的な原因にはならず,はく離の直接的な原因になるのは 引張の力である.よって本研究では慣性力によって生じる引張の力に対して,

皮膜が十分な密着強度を有しているかを評価した.評価の方法としては3.2にあ る引張型ピンテストを採用した.

Fig.3.1-1 Resultant force applied to piston

Rotating speed :200[rpm]

Diameter of cylinder :86[mm]

Stroke :86[mm]

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3.2 引張型ピンテストの方法

本項目では遮熱溶射皮膜の密着強度を評価した方法である引張型ピンテスト について説明する.3.2.1の項で評価方法の概要を,3.2.2の項で引張型ピンテ スト装置の仕様などの詳細を,3.2.3の項では評価対象となる試験片の詳細を記 載する.

3.2.1 引張型ピンテストの概要

一般的な溶射皮膜の界面強度評価方法は JISH8402 で規格化されているが,

この手法では以下の欠点が存在する.

(1)皮膜と冶具の接合に接着剤を使用するため,接着剤が皮膜に浸透してしまう.

(2)近年,プラズマ溶射や高速フレーム溶射などの密着強度の強い溶射法が開発 されため,皮膜の密着強度が接着剤の接着力を上回ってしまい,正確な密着強 度の測定が行えない.

これらの課題を解決するため提案された界面強度評価方法の一つが引張り型 ピンテスト4)である.

引張り型ピンテストは,ディスク,ピンと呼称される試験片に溶射皮膜を施 し,Fig.3.2.1-1のように荷重を加え,ピン-溶射皮膜間の密着強度を測定する方 法である5).溶射皮膜の形成は,試験前にピンとディスクをロックナットで固定 して行った.引張試験時はロックナットを外し,引張試験用の冶具を装着した.

Fig.3.2.1-2に溶射中のピンの固定方法および引張試験方法を示す.冶具は両端

にユニバーサルロックジョイントを用いて引張試験機に固定した.

Fig.3.2.1-1 Scheme of test piece of the tensile pin test

Fig.3.2.1-2 Scheme of method of the tensile pin test

- 47 - Material Thickness

[μm]

Porosity

[%] Material Thickness [μm]

Porosity [%]

①Al2O3 Al2O3 80%Ni-20%Cr

ZrO2 ZrO2 + 8%Y2O3 CoNiCr AIY

SUS316 SUS316 Specimen

300 and 100

5

Top coating Bond coating

5 100

3.2.2 引張型ピンテスト装置

試験にはFig.3.2.2-1にある油圧式万能型引張り試験機を用いた.Fig.3.2.1-2 に示すように試験片に治具を装着し,それにフレキシブル継手やロードセルを 取り付け,引張試験機に固定した.クロスヘッド変位速度は引張ピンテストな ど密着強度を測定する試験では一般的な0.01mm/minとした.

3.2.3 試験片の詳細

基材は実際にピストンに用いられているAl-13%Si,遮熱溶射皮膜の材料は① Al2O3,②ZrO2,③SUS316と,2章と同様のものを用いた.溶射条件も2章と 同様である.ただし,熱サイクル試験の試験片には気孔率が20%,5%のものを 用意したが,引張型ピンテストの試験片のピン頭部の小さい面積に気孔率が

20%の均一な膜を生成するのは難しいので,Table3.2.2-1に示すように5%の試

験片のみとした.

Fig.3.2.2-1 Equipment of the tensile pin test

Table3.2.3-1 List of test pieces of the tensile pin test

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3.3 引張型ピンテストの結果

本節では,ピストンへ施す遮熱溶射皮膜の密着強度を評価すべく,引張型ピ ンテストを行った結果を記載する.3.3.1 の項で密着強度の測定結果を,3.3.2 の項は試験後の試験片をカットし,破断面の観察を行った結果を示す.

3.3.1 密着強度測定結果

本 節 で は , 引 張 型 ピ ン テ ス ト に よ っ て 測 定 し た 密 着 強 度 を 記 載 す る . Tabel3.3.1-1に全試験片のリストと密着強度の数値を,Fig.3.3.1-1~3.3.1-6に試 験片のパラメーターごとの試験結果を,

Material Number

Thickness of top coating

[μm]

Adhesion strength [MPa]

No.1 36.59

No.2 21.35

No.3 16.77

No.4 20.58

No.5 20.20

No.6 12.20

No.7 40.40

No.8 74.33

No.9 38.50

No.10 30.87

No.11 47.27

No.12 35.07

No.13 17.15

No.14 38.88

No.15 15.25

No.16 25.16

No.17 10.67

①Al2O3

ZrO2

③SUS316

300

100

300

100

300

100

Table3.3.1-1 List of the tensile pin test’s test piece

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Fig.3.3.1-1 Results of the tensile pin test (①Al2O3 Thickness of the top coating:300μm)

Fig.3.3.1-2 Results of the tensile pin test (①Al2O3 Thickness of the top coating:100μm)

- 50 -

Fig.3.3.1-3 Results of tensile the pin test (②ZrO2 Thickness of the top coating:300μm)

Fig.3.3.1-4 Results of the tensile pin test (②ZrO2 Thickness of the top coating:100μm)

- 51 -

Fig.3.3.1-5 Results of the tensile pin test (③SUS316 Thickness of the top coating:300μm)

Fig.3.3.1-6 Results of the tensile pin test (③SUS316 Thickness of the top coating:100μm)

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Adhesion strength[MPa]

Thickness of top coating [μm]

300

300

300 100

100 100

①Al2O3

②ZrO2

③SUS316

Fig.3.3.1-7に全試験片の密着強度の結果を示す.プロットは平均値を示し,

バーはそれぞれの条件で3つずつある試験片の最小値,最大値を示している.

Fig.3.3.1-7を見ると,全ての試験片で平均15MPa以上の密着強度を有してい

た.また実際のピストンに加わる荷重分布であるFig.3.1-1のグラフを見ると引

張の力は1500kgfであり,シリンダーの直径は86mmなので,ピストンに加わ

る引張応力σは

σ = 𝑃 𝐴⁄ = 1500×9.8 (86×10⁄ −3/2)2𝜋≒2.53×106 [Pa]

と約 2.5MPa となる.これと比較すると,本実験の試験片はピストンへの遮熱

溶射皮膜として十分な密着強度を有していると考えられる.

材料で比較すると,②ZrO2が最も高い密着強度を有し,膜厚で比較すると

300μmの試験片の方が高い密着強度を有していた.これについてはそれぞれ3.4,

3.5の項目で考察を行った.

Fig.3.3.1-7 All results of the tensile pin test

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3.3.2 試験後の試験片の断面ミクロ観察結果

引張型ピンテストの試験片を試験後にファインカッターを用いてカットし,

断面を観察し破断状況を確認した.観察箇所をFig3.3.2-1に示し,実際にマイ クロスコープで観察した結果をFig.3.3.2-2~Fig.3.3.2-4に示す.また,全試験片 の破断状況を模式的にまとめたものをFig.3.3.2-5に示す.

Fig.3.3.2-1 Watching location of the test pieces after the tensile pin test

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Fig.3.3.2-2 Microstructure of cross-section of the sprayed coatings after the tensile pin test

(Test piece : ①Al2O3)

Thickness of the top coating : 100μm Thickness of the top coating : 300μm

- 55 -

Thickness of the top coating : 300μm

Thickness of the top coating : 100μm

Fig.3.3.2-3 Microstructure of cross-section of the sprayed coatings after the tensile pin test

(Test piece : ②TBC)

- 56 -

Thickness of the top coating : 300μm

Thickness of the top coating : 100μm

Fig.3.3.2-4 Microstructure of cross-section of the sprayed coatings after the tensile pin test

(Test piece : ③SUS316)

- 57 -

Fig.3.3.2-5を見ると,トップコートの厚さが300μmの試験片は界面(①Al2O3

②ZrO2はトップコート-ボンドコート間,③SUS316はトップコート-基材間)

できれいに破断していた.トップコートの厚さが100μmの試験片はピン中央に 皮膜が残る破断形態となっていた.なぜ,このような破断形態となったかを3.5 にて考察し,記載する.

Fig.3.3.2-5 Scheme of fracture morphology of the test pieces after the tensile pin test

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3.4 材料の違いによる密着強度の差について

3.3.1 の項の引張り型ピンテストの結果から,材料で密着強度を比較すると,

トップコートが②ZrO2のものが特に優れた密着強度を示した.3.3.2の項を見る と,②ZrO2の試験片はボンドコート-基材間(ボンドコート内欠損を含む)で 破断していることが確認できる.このことから②ZrO2が高い密着強度を示した のは,ボンドコートが大きく関係していると考えられる.また②ZrO2のボンド コートであるCoNiCrAIYの溶射方法は,TGO 発生によるトップコート-ボン ドコート間のはく離を抑制するためにHVOFとした.HVOFは溶射中の飛行粒 子の速度を,一般的に広く用いられている溶射法であるAPSより大幅に高くし,

強い衝撃力をもって溶射皮膜を形成する.それによってFig.4.3-1のように通常 の溶射と比べて基材に深く入り込み,アンカー効果が強く働き,密着強度が高 くなったのだと考えられる.

Fig.3.4-1 Comparison of the anchor effect HVOF

Normal

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3.5 膜厚の違いによる密着強度の差について

3.3.1の項のピンテストの結果から,膜厚で比較すると,全ての材料で300μm

の方が強い密着強度であった.一般的には成膜されたものは,膜厚が大きいと 残留応力も大きくなり,密着強度が小さくなる6).しかし本実験においての結果 は異なっていた.これはFig.4.4-1に示すように,ピン端部-ディスク間のクリ アランス部の皮膜において,膜厚が小さい方がより変形し,ピン端部の応力集 中が大きくなったためだと推察している.また一般的に溶射皮膜にはどの材料 でも積層方向に亀裂状欠陥が内包されている.セラミックの溶射皮膜はその積 層方向の亀裂だけでなく,垂直方向にも亀裂が存在する7).本実験においては試 験時の変形による応力集中が垂直方向の亀裂に働き,残留応力よりも支配的に なったのだと思われる.

また100μmの試験片が300μmのものと破断形態がことなったことも,その

応力集中が垂直方向の亀裂に生じたことによってFig.4.4-2のようき裂が伝播し たためではないかと推察できる.

Fig.3.5-1 Mechanism of stress concentration during the tensile pin test

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