7.1緒言
近年の世界的な動向の一つである政策への住民参加の普及により、公共サービスを提供 する側の説明責任の浸透と、それを受ける側である住民の受益者負担に対する意識の向上 に伴う、公共サービスを提供する側と受ける側との合意を形成することが今目大きな流れ となっている。
つまり、離島航路においては航路事業者は効率的に航路を経営しているかどうかの説明 責任、住民はそれに基づく運賃負担の合意、地方自治体はシビルミニマムを確保するため の支援と運航サービスに対する事業者と利用者である住民との調整により運航サービスレ ベルの合意を支援していくことである。
そごで、本章では利用者が負担する運賃の算定基準、現状の航路運賃の分析、航路事業 者の運航コストの算定及び国と地方自治体の支援の状況を明らかにする。そして、これま での各分野で実際に行われた合意形成プロセスから運航サービスの合意形成に必要な要点 についてまとめ、近接離島航路における運航サービスの改善事例のモデルケースに本研究 の成果を適用し、合意形成のプロセスに役立っことを明らかにする。
第2節で、運航サービスとコストの関係として、運賃の算定基準を明らかにし利用者の 運賃負担の実態を分析する。また、航路事業者の運航コストの管理を明らかにし、離島航 路に対する国・地方自治体の航路維持の支援、船舶建造に対する支援、港湾に対する支援 の現状を分析する。
第3節で、運航サービスの合意形成にっいて、まず社会的な合意形成の概念を明らかに し、運航サービスにおける合意形成のプロセスとコンフリクトにっいて言及し、合意形成 に必要な運航サービスとコストの指標化を試みる。
第4節で、本章のまとめを述べる。
7.2運航サービスとコスト 7.2.1利用者の運賃負担
(1)運賃の算定基準
離島航路の運賃は、海上運送法第八条により規定されており、表7−1に示すとおりで ある。海上運送法は、2000年10月1日に需給調整規制が廃止され、免許制から許可制に 改正され、それに伴い運賃はそれまでの認可制運賃から原則的に届出制に改正された。
しかしながら、近接離島の生活航路は全て第八条3項に示してある指定区問となってい る。指定区間とは、船舶以外には交通機関が無い区問又は船舶以外の交通機関によること が著しく不便である区問であって、当該区間に係る離島その他の地域の住民が日常生活又 は社会生活を営むために必要な船舶による輸送が確保されるべき区間として、関係都道府 県知事の意見を聞いて国土交通大臣が指定するものであると定義されている。指定区問の 運賃については、上限の額について認可を受けることになっており、運賃の算定について は能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものを超えないものと規定
されている。
近接離島のほとんどの生活航路は一事業社:が独占して航路の経営を行っており、複数の 事業者が競合しているのは、兵庫県家島航路と岡山県北木島航路のみである。一般的に企 業独占は提供するサービスレベルを適当に制限することによって、大きな独占利潤を享受 できる可能性があり、そこに成立する運賃は決して自由な運賃ではなく、市場における強 者と弱者の力関係を反映するとされている(1)。
そのため、従来の認可制運賃と同様に法改正後にっいても指定区間の運賃は上限の額に ついて認可を受けることになっている。しかしながら、表7−2に示すように指定区間に 設定されているサービス基準(運航便数、終始発時刻、輸送能力)の具体的な数値として
は終始発時刻は示されていない。
運航便数と各運航ごとの最低輸送能力は示されているものの、その基準は統一的ではな く、法改正以前の事業者がその航路に就航する船舶及びその運航便数を決定する上での判 断材料である当該航路の性質、例えば通勤・通学需要、あるいは当該離島が第1次産業中 心か、第3次産業中心か、及び将来的予測を含めた利用者数などを基に、事業者自身の任 意の意志が反映されたものである(2)。
改正以後もそれまでの認可運賃を上限としており、改正以前からの航路事業者が想定す る輸送需要度に基づき決定された運賃であり、競争下にない事業者による独善的な運賃で
ある可能性が高いと考えられる(3〉。
そのため、運賃の上限は規制されているものの運航サービスはこれまで通りの利潤を最 大化又は経費を最小化するためのレ尺ルであると考えることができ、利用者の利便性を考 慮しているかの判断は疑問が残る。
特に、補助航路においては、たとえどのような財攻困難に陥ろうとつねに救済措置を受 けられるという意識を事業者に植え付けることによって、能率的な経営に対するインセン
ティブが働きにくいとされている(4)。っまり、認可されている運賃が能率的な経営に基づ き算出されている保証はないことを意味する。
このように、近接離島の生活航路においては独占的な事業者の意志が運航サービスレベ ルと運賃の決定に強く反映され、航路毎にかなりのバラツキが見られると考えられる。そ
こで、現在の運賃について各航路の現状を明らかにし分析を行うことにする。
表7−1 海上運送法第8条
一般旅客定期航路事業を営む者(以下r一般旅客定期航路事業者」という)は、旅客、
手荷物及び小荷物の運賃及び料金並びに自動車航送する一般旅客定期航路事業者にあって は当該自動車航送に係る運賃及び料金を定め、国土交通大臣に届け出なければならない。
これを変更しようとするときも同様である。
2 国土交通大臣は、前項の運賃又は料金が次の各号のいずれかに該当すると認められる ときは、当該一般旅客定期航路事業者に対し、期限を定めてその運賃又は料金を変更すべ きことを命ずることができる。
一 特定の利用者に対し不当な差別的取扱いをするものであるとき。
二 社会的経済的事情に照らして著しく不適切であり、利用者の利益を阻害するおそれ があるものであるとき。
三 他の一般旅客定期航路事業者との問に不当な競争を引きおこすこととなるおそれが あるものであるとき。
3 一般旅客定期航路事業者は、旅客の運賃、国土交通省令で定める手荷物の運賃及び自 動車航送する一般旅客定期航路事業者にあっては当該自動車航走に係る運賃であって指定
区間に係わるものについて当該運賃の上限を定め、国土交通省令の定める手続きにより、
国土交通大臣の認可を受けなければならない。これを変更しようとするときも同様である。
4 国土交通大臣は、前項の認可をしようとするときは、能率的な経営の下における適正 な原価に適正な利潤を加えたものを超えないものであるかどうかを審査して、これをしな
・ければならない。
5 第三項の運賃についての第一項及び第二項の規定の適用にっいては、第一項中「定め」
とあるのは「第三項の認可を受けた運賃の上限の範囲内で定め」と、第二項第二号中「社 会的経済的事情に照らして著しく不適切であり、利用者の利益を阻害するおそれ」とある のは「当該事業の継続に著しい支障を来すおそれ」とする。
表7−2指定区間のサービス基準の例
指定区間 サービス基準
始終発 各運航ごとの
名 称 区 間 運航日程 運航便数
時 刻 最低輸送能力
家島 姫路 家島港〜姫路港 毎日 1日8往復 設定なし 設定なし
旅客160人か 男木港又は男木漁港〜高松港 毎日 1日4往復 設定なし
っ自動車8台
男木女木 旅客160人か
女木港〜高松港 毎目 1日4往復 設定なし
高松 っ自動車8台
旅客160人か 男木港又は男木漁港〜女木港 毎日 1日4往復 設定なし
っ自動車8台 旅客205人か
本島港〜丸亀港 毎日 1目4往復 設定なし
っ自動車13台 本島 丸亀
里浦港〜丸亀港 毎日 1日2往復 設定なし 旅客55人
里浦港〜本島港 毎日 1目2往復 設定なし 旅客55人
毎目 (日曜・
小豊島 土庄 小豊島港〜土庄港 1日2往復 設定なし 旅客30人
祝臼を除く)
鰍崎港白水地区又は垂水地区
白水 竹原 毎目 1日17往復 設定なし 設定なし
〜竹原港
出所)神戸運輸管理部、四国運輸局、中国運輸局資料より著者が抜粋し作成。
(2)航路別旅客・自動車航走運賃
近接離島の生活航路から『フェリー・旅客船ガイド(2000年秋季号)』(5)により、国庫 補助航路72航路並びに非補助航路79航路、計151航路を対象として、一般旅客船、高速 船、カーフェリー別の運賃(2等旅客運賃、自動車航走運賃)について集計したものを表
7−3に示す。
単独航路と複数航路の運賃を比較すると、需要の確保や拡大により複数の離島港湾を経 由するため航路距離・所要時間の長さから複数離島航路の運賃の方が高くなっており、複 数航路の方が利用者の運賃負担は高いことを示している。
補助航路と非補助航路の運賃を比較すると、一般旅客船・高速船・フェリーの旅客運賃・
フェリーの単独航路の自動車航走運賃では補助・非補助に係わらず航路距離・所要時間の 長い航路の運賃の方が高くなっており、両者の運賃格差にっいては特に見られない。しか し、複数航路のフェリーの自動車航走運賃は、補助航路においては航路距離・航海時問は 短くても運賃は非補助航路よりも高くなっており、両者の運賃格差があることを示してい
る。