自己調整機能 とは、奔放 な行動 の生起 を抑 え、刹那的な欲求 は満 た され ない ものの長期 的 には よ り有益 な結果 につ なが る行動 を選択 させ た り、 自身 の欲求 には反す るが社会的規 範 に沿 つた道徳 的行動 を導いた りす る機能 である。 この よ うな 自己調整機能 は 自己抑制行 動 と自己主張行動 か らなる。そ して さらに 自己抑制行動 については抑制 され る対象 によつ て運動調整 、認知調整 、対人関係調整 の
3つ
に分かれ る。幼児 の運動調整 は、自己抑制行動 の最 も基本的な要素のひ とつ であるが(柏木,1988)、 言 語 の獲得や認知機 能 の成立 にも重要 な役割 を果 た してい る と考 え られてい る(佐藤,2007)。
運動調整 の検証 には、Maccoby et al.(1965)に よつて考案 され た紙面上の
2点
を線 で結 ばせ る描画課題 が よく用い られ る(e.g"柏木,1988)が 、コの字型 の線描 き課題
(eog"BurtOn&
Dancisak,2000;中 島
,2002;佐
藤,2007)、 ジグザ クの線描 き課題(eog。,中沢・金子,1980)、塗 りつぶ し課題(eog"尾 崎,2000)と い った変法 も考案 されてい る。 この よ うな描画運動 に おいて、幼児 は指定 された速度で描 くとい う効率性 と誤反応 な しに正確 に描 くとい う正確 性 を両立 させ ることが困難 であ り、
4歳
以下の幼児 では、 しば しば効率性 に関す る調整 が 優位 に現れ 、正確性 が両立 しない場合 が多い。 しか し、描画 させ る図形 の属性 によつて若 干 の違 いはあるものの、4歳
頃か ら5、6歳
にかけて、正確性 に関す る調整が追随 して くる こ とが知 られ てい る(eog"佐藤,2007)。 発 達 心理 学 的 に運 動 調 整 を検 討 す る場 合 には Maccoby et al。 (1965)を参考 に柏木(1988)が作成 した線テス トが使用 され ることが多い(尾崎,2008)。 柏木(1988)は、幼児 に
10セ
ンチ離れ た点 と点 をゆつ くりと丁寧 な一本の線で 結ぶ ことを要求す る。幼児 は線 を描 くときに 「ゆつ く り」 とい う教示が与 え られ、幼児 が 実験者 の教示す る速度 を守れ るか否 かが測定 され る。 この課題 では、点 と点 を結ぶ ことが 要求 され る。しか しなが ら、最近 の研 究の流れ としては、溝 の中をなぞ る課題 の方が多 く、その よ うな課題 を使用す ることによつて手の運動調整 にお ける誤反応 を正確 に測定できる のである。
ところで、認知調整 については、Kagan et al。 (1964)の開発 した
MFFテ
ス ト(Matching the Famihar Figures Test)が 幅広 く使用 され てい る。MFFテ
ス トは、一種 の見本合 わせ 課題 であ り、類 同 し易い複数 の比較刺激 の中か ら、見本刺激 と同一の刺激 をで きるだ け早 く探 し出す ことが求 め られ る。 この課題 は、正確性 と効率性 が両立 しに くいため、反応潜時 と誤答数 の
2指
標 を用いた二重折半法 によ り、対象児 を、反応潜時が長 く誤答数 の少 な い熟慮型 と、反応潜時は短いが誤答数 の多い衝動型 に分類す ることが可能 である。 これ ら の2つ
の類型 は、対象児 の認知的な水準での 自己調整機能の違いを反映 してい る と考 え ら れ てい る(eog。,Globerson&ZelntteL 1989;Kogan,1983;Mサ akaWa,1981;山
崎,1990。また、
Salkind&Wright(1977)は MFFテ
ス トにお ける反応潜時 と誤答数 の標準得点(z得 点)を合成 して、衝動性得J点と非効率性得′点を算出す る方法 を考案 してい る。衝動性得″点と は、熟慮性‐衝動性 の次元上 に個人 を位置づ ける認知的な傾 向を表す測度であ り、非効率性 得点 とは、効率性 ‐非効率性 の次元上 に個人 を位置づ ける課題遂行能力の測度 である と考 え られ てい る。現在 、MFFテ
ス トの採点法 としては、この方法が多い(eog"一 谷・一谷,1987;Loper&Hallahan,1980;Mサ akawa,1981;宮
り││,2001;R6hns&Genser9 1977)。 なぜ な ら、 この計算法 を用い ることによつて、従来見落 とされがちな、迅速かつ正確 な子 どもた ちの存在 を取 り入れ ることが可能 となるか らである。3つ
目の調整 である対人関係調整 では、他者 との相互作用 の中でその行動 を選択 した結 果 、他者 との間にいかな る事態が生 じるのか を予測 し、非社会的な行動 を抑 えることが求 め られ る。対人関係調整 については、幼児 の養育者や保育者 な どを対象 に質問紙 を用いて 測定 した り、幼児 に刺激(紙芝居)を見せ質 問形式 で答 え させ る方法 を用い ることが多い。佐藤 。日良・柏木(1998)や鈴木(2005)は、幼児 に紙芝居 を見せ質問形式 で回答 を求 めてい る。
その結果 、幼稚 園年長児(6歳 児)において対人関係調整 がほぼ完成 してい ることが確認 され た。 ただ し、鈴木(2005)も指摘 してい るが、 これ らの研 究で使用 され てい る課題 はあ くま で も紙芝居 による仮想場面であるため、必ず しも現実の行動 と一致す るとは限 らず、その 点が大 きな問題 で あると考 え られ る。
以上 に述べた よ うに、 自己抑制行動 には
3つ
の調整 があ り、それぞれの調整 において測 定す るための課題 がある。本論文で開発 したのは運動調整 を測定す る図形描画課題 であ り、この課題 の妥 当性 を検討す るために、研 究
1で
は、図形描画課題 の所要時間 と柏木(1988) の線テス トの所要時間 との関係 を検討す る。そ して さらに、運動調整 の発達 と認知調整 の 発達 との関連性 について も検討す る。研究2で
は、運動調整 の発達 と対人関係調整 の発達 との関連性 について検討す る。研究3で
は、図形描画課題 の信頼性 を検討す るために縦断 研 究 と横 断研 究 を行 い、図形描画課題 で測定す る運動調整 が信頼性 の高い もので あることを検討す ると同時 に、運動調整 が発達 に伴 つて どの よ うに変化す るのかを検討す る。以上
3つ
の研究 を行 うことによつて、第2章
では、運動調整 を測定す る図形描画課題 の妥 当性の検討 、信頼性 の検討 、そ して、運動調整 と認知調整、対人関係調整 との関連性 を検討す る。
2‑1
研 究1:
運 動 調 整 を 測 定 す る 図 形 描 画 課 題 の 妥 当 性 の 検 討 と 、 運 動 調 整 と認 知 調 整 との 関 連 性 に つ い て42‑1‑1
目的本研 究では、図形描画課題 の妥 当性 と、運動調整 と認知調整 の関連性 の検討 を 目的 とし て、以下の
5つ
の分析 を実施 した。は じめに、分析1か
ら3までを行 い各課題 の教示 の効 果 を確認 した。分析1で
は線テス トの教示 の効果 を検討 し、分析2で
は図形描画課題 の教 示 の効果 を検討 した。分析3で
は柏木(1988)のMFFテ
ス トについて縦断研 究 を行い、発 達 に伴 う認知調整 の変化 を検討 した。以上3つ
の分析 を終 えてか ら、分析 4と 5を行 つた。分析
4で
は、運動調整 を測定す る図形描画課題 と線テス ト(柏木,1988)の 関係 を検討 し、図 形描画課題 の妥 当性 の検討 を行 つた。 さらに、分析4で
は、幼児 の運動調整 を測定す るた めに、図形描画課題か線テス トのいずれが適切であるかを検討す るために、認知調整 を測 定す る柏木(1988)のMFFテ
ス トと2つ
の課題 との関連性 を検討 した。分析5で
は、図形 描画課題 とMFFテ
ス トの両課題 において衝動性得点 と非効率性得点 を算 出 し、2つ
の課 題 の衝動性得点 と非効率性得点の関連性 を検討 した。次 には、衝動性得点 と非効率性得点 の算出方法 について説明す る。衝動性得点 と非効率性得点はSalkind&Wright(1977)の モデルか ら算 出 され る。彼 らは、
Kaganの
理論 をよ り明確 にす る形で、MFFテ
ス トの2測
度 である反応潜時 と誤答数 の組 み合 わせ で表 され る散布 図上 に、軸 を反時計回 り45度
の回転で抽 出できる熟慮性 ―衝動 性 の次元 を考案 した。そ して、 これ は純粋 に能力 と直行 した次元であると定義 した。それ らの次元上の個人得点は、Salkind(1975)が 提案 したス コア リングの方法 を修正 した計算公 式で算定できる。個人の衝動性得点(Impuls市 批y Score)と 効率性得点(Ettciency Score)は 、 個人のMFFテ
ス トの反応潜時 と誤答数 の標準得点(z得
点)の合成 に よる、式 1(29頁 参照) で算 出 され る。衝動性得点 において、正 の高い得点の人 は衝動的な人、逆 に負の得点の高 い人 は熟慮的な人 とい うことになる。効率性得点 においては、正の得点の高い人 は非効率 的な人、逆 に負 の得点の高い人は効率的な人 とな る。効率性得点 において、得点が高い ほ ど非効率的 となることは直感 的な理解 に反す る(宮川,1999)。 筆者 もこの意見に賛 同す るた め、本論文で もこの得点の名称 を非効率性得点 とした。Salkind(1975)は 、知能検査の遂行 とMFFテ
ス トの遂行 との関連性 を、 この得点法 を適用 し、衝動性得点は知能検査 の遂行4本
研 究 は、赤尾 (2009)を 基 に作成 して い る。誤答数 の
z得
点 誤答数 のz得
点式 1。 衝動性得J点と非効率性得J点の公式
と相 関がないが、非効率性得点は知能検査 の遂行 と有意 な負 の相 関があることを確認 して い る。 なお、本研究では この得点法 を
MFFテ
ス トだけではな く、図形描画課題 において も採用 し、衝動性得点 と非効率性得点 を算 出 した。 図形描画課題 には、無教示試行 、抑制 教示試行 、促進教示試行 の3試
行 があるが、得点の算 出に使用 した試行 は無教示試行 であ つた。 これ は、MFFテ
ス ト実施 の際 に速 さに関す る教示 が与 え られ てお らず無教示 で行 われ てい ることを考慮 したためであった。2‑1…
2
方 法 (1)対象児兵庫県宝塚市 と岡山県美作市 にある
2つ
の私立幼稚園に在籍す る88名
の幼児(男児 45 名 、女児43名
)を対象 とした。対象児の平均年齢 は、1回
目のMFFテ
ス ト実施時 と線テ ス ト実施時は5。4歳
(SD=。31)、2回
目のMFFテ
ス ト実施時 と図形描画課題実施時は6。1 歳(SD=。 30)であつた。1回 目のMFFテ
ス トと線テス ト実施時においては、対象児 は年 中 児 クラスに在籍 し、2回
目のMFFテ
ス ト実施時 と図形描画課題実施時 においては、対象 児 は年長児 クラスに在籍 していた。 なお、実験 に先立 ち、保護者 に実験 内容 を説明 し、参 加 の同意 を得ていた。(2)材料
図形描画課題
筆者が考案 した図形描画課題(Figure 2‐ 1‐
1;30頁
参照)を実施 した。対象児 に、二重線 で描 かれた星型図形 を提示 し、二本の線 の間をはみ出 さず に鉛筆 で一周 させ た。この課題 においては、課題遂行 のための所要時間だけではな く、誤反応(逸脱回数)の測 定 も明確 に行 えるよ う先行研 究で使用 され てい る線テ ス トとは異 な り溝 のある図形 を使用 し た。図形描画課題 では、縦21×横
15cmの
白色用紙 に、一辺 が約4cmで
、溝 の幅が約4mm
の二重線で描 かれた星形図形 が描 かれ た用紙 を使用 した。課題 を行 うために
2Bの
黒色鉛 筆 を使用 した。課題 は、ベー スライ ン測定 のための無教示試行2試
行 、で きるだけ速 く線衝動性得点 非効率性得点
反応潜時の
z得
点 反応潜時のz得
点Figure 2‐1‐ 1。 図形描画課題 の課題図形
を描 くよ うに教示す る促進教示試行
1試
行 、で きるだけゆつ く り線 を描 くよ うに教示す る 抑制教示試行1試
行 、促進教示 か抑制教示かのいずれ かの条件 を対象児 に選択 させ て課題 を行 わせ る自由選択試行1試
行 の計5試
行 よ り構成 され ていた。促進教示試行 では「速 く」、抑制教示試行 では 「ゆつ く り」 とい う言語教示 を、試行 開始か ら終 了まで実験者 が対象児 に対 し、一定間隔で繰 り返 し
(2秒
に1回
)与えた。 自由選択試行実施直前 には、促進教示 か抑制教示かのいずれ を選択す るか、何故そのよ うな選択 をす るのかを尋ねた。自由選択試行 では 「速 く」 ない しは 「ゆつ くり」 とい う言語教示 は与 えなかつた。促進 教示試行 と抑制教示試行 は第 3、 第