第
3章
では、図形描画課題 を使用 した応用研究 として、図形描画課題 で測定す る運動調 整 と日常生活 にお ける自己抑制行動や活動性 との関連性 を検討 した。 その結果 、図形描画 課題 で測定す る手 の運動調整 の高い幼児 は幼稚 園教諭や母親 が短縮版 自己抑制尺度で評価 す る幼児 の 自己抑制行動 も高い ことが明 らか に され た。 また、 日常生活 において活動的 な 幼児 の方が図形描画課題 において逸脱 回数 が少 な く、手の運動調整 が優れ てい ることも明 らかに され た。次 に、社会的スキル と短縮版 自己抑制尺度 と運動調整 の関連性 を検討す る ために、図形描画課題 の衝動性得点で分 けた衝動群 と熟慮群 の社会的スキル尺度 と短縮版 自己抑制尺度 の得点 に関 して比較 した ところ、社会的 スキル尺度 については、両群間の得 点 に有意 な差が認 め られ なかったが、短縮版 自己抑制尺度 の得点 については衝動群 の得点 が低 く、 自己抑制行動 の選択ができない ことが明 らかに された。 さらに、本研 究で使用 し た課題や尺度 の全指標 に関 して相 関分析 を行 つた ところ、主張スキル の得点の高い幼児 は 図形描画課題 において抑制教示 が行われ ない試行 において効率的 に課題 を行 うこ と、また 彼 らは図形描画課題 の非効率性得点が低 く、課題 を行 う際に効率的な方法 を選択す ること も明 らかに され た。 したがって、第3章
の結果 をま とめる と、①図形描画課題 で測定す る 手の運動調整 は幼稚 園教諭や母親 が 日常生活 において幼児 と接す る場合 において評価 され る 自己抑制行動 との関連性 が高 く、その中で も、 日常生活 において遅延行動ができるか否 か とい う点 と最 も関連性 が高い ことと、②万歩計で測定 された 日常生活 にお ける活動性 の 高い幼児 の方が手 の運動調整 の発達 してい ること、③幼児期 の手 の運動調整 と社会的スキ ル との間には青年期 の よ うな強い関連性 の認 め られ ない ことが示 された。 しか しなが ら、社会的 スキル の一側 面 として測定 され た主張スキル は図形描画課題 の所要時間 との間に有 意 な相 関が認 め られ 、主張スキル の得点 の高い幼児 は非効率性得点が低 く、課題 を行 う際 に効率的な方法 を選択す ることが明 らかに された。
次 に、第
4章
では、幼児の手の運動調整 を含む 自己抑制行動 の獲得 に影響 を及 ぼす であ ろ う要因 を検討す るための研 究 を行 つた。幼児 の行動や性格 を規定す る外的な要因 として 最 も代表的な ものは親子 関係 である と考 え られ る。 この中で も親 の しつ け態度 と子 どもの 性 格 や 気 質 、 自己抑 制 行 動 との 関連 性 につ い て は多 くの研 究 で検 討 され て い る(eog"Baumrind,1967;Feldman&Wentzel,1990;Kopp,1982;Lewis,1981;西
野,1990;笹野,1982)。
Feldman&Wentzel(1990)は
、敵意 のある親子間の相互作用や親 の不適切 な統制によつて、子 どもの教室内での行動が制限のない もとになることを示 し、単な る親 の統制 ではな く、「適切 な」統制 の必要性 を指摘 した。Si市
erman&Ragusa(1990)は
、2歳
児 の 衝動的行動 の統制 とその先行要因 としての親 の しつ け態度 との関連性 を検討 した。その結 果 、 自分でや るよ うに励 ます母親 の子 どもは、見通 しが可能で、遅延行動 を選択できるこ とが示 され た。つ ま り、母親 が子 どもに対 して、過剰 に干渉す るのではな く、 自立 を促 し 励 ます ことに よって、子 どもは将来への予測 とそれ による自立が可能 となることが明 らかに され た。 また、柏木(1988)は、母親 の しつ け態度 と、幼稚 園教諭 に よる幼児 の 自己抑制 行動 の評価 との関連性 を検討 した。その結果、母親 による介入・過保護 が高い子 どもは 自 己抑制行動全般 の低い ことが明 らかに された。 これ らの先行研究の結果 をま とめると、母 親 の子 どもに対す る過剰 な統制や干渉 は、子 どもの 自己抑制行動 の獲得 を妨 げる可能性 の あることが分か る。そ こで、研究
8で
は、母親 の しつ け態度 と幼児 の運動調整 を含む 自己 抑制行動 について、 どの よ うな関連性 が認 め られ るのかを検討す るために研究 を行 うこととした。
4‑1
研 究8:
親 子 関 係 検 査 で 測 定 す る 母 親 の しつ け態 度 と幼 児 の 自 己 抑 制 行 動 と の 関 連 性 の 検 討4‑1‑1
目的多 くの先行研 究 に よつて、親 の統制的または干渉的な養 育態度 と子 どもの 自己抑制行動 の発達 との関連性 が指摘 され てい る
(Feldman&Wentzel,1990;柏
木,1988;庄
司,1996;Si市
erman&Ragusa,1990)。
そ こで、本研 究では、母親 の しつ け態度 と実験場面 において測定 された幼児 の 自己抑制 行動 との関連性 を明 らかにす るために
3つ
の 目的 を設 けた。1つ
目は、TK式
幼児用親子 関係検査 を用いて、男児 と女児 で母親 の しつ け態度 に差が あるのか否 か を検討 した。2つ
日は、運動調整 を測定す る図形描画課題 の無教示試行 の所要時間 と逸脱回数 よ り算 出 され る衝動性得点(式 1;29頁参照)を使用 して得点の高い衝動群 と、得点の低い熟慮群 の母親 の しつ け態度が異 なるか否か を検討 した。
3つ
日は、認知調整 を測定す るMFFテ
ス トの反 応潜 時 と誤答数 よ り算 出 され る衝動性得点 を使用 して得点の高い衝動群 と、得点の低い熟 慮群 の母親 の しつ け態度が異 なるか否 かを検討 した。4‑1‑2 方法
(1)対象児 および調査対象者
対象児 は、兵庫県宝塚市 と岡山県美作市 にある
2つ
の私立幼稚園に在籍す る88名
の幼 児(男児45名
、女児43名
)であつた。調査対象者 は幼児 の母親 であつた。その うち、TK
式幼児用親子 関係検査が回収できたのは
54名
分であつた。質問紙 の回収率 は、61。4%で
あつた。分析対象デー タは、54名(男児23名、女児 31名)で、平均年齢 は4。
86歳
(SD=。23) であつた。対象児 の平均年齢 は、1回
目のMFFテ
ス ト実施時 と線テス ト実施時は 5。4歳
(SD=。 30)、2回目の
MFFテ
ス ト実施時 と図形描画課題実施時は6。1歳(SD=。 25)であつた。1回 目の
MFFテ
ス トと線テス ト実施時においては、対象児は年 中児 クラスに在籍 し、2回
目のMFFテ
ス ト実施時 と図形描画課題実施時においては、対象児 は年長児 クラスに在籍 していた。 なお、実験 に先立 ち、保護者 に実験 内容 を説 明 し、参加 の同意 を得ていた。(2)材料
TK式
幼児用親子 関係検査本研究では、 田研 出版株式会社 の
TK式
幼児用親子関係検査(品川・品川,1992)を 使用 した。 この検査 は、 田研 出版株式会社 によつて信頼性 と妥 当性 が 検証 され 、市販 され てい る検査 である。主に教育相談、研 究調査、家庭教育な どの参考資 料 として多用 され てい る(eog"井 上,2005;だ ヽ林,2007)。 本検査 は
2部
構成 で、第I部は「親 の良 くない態度」 を 自己診断す るための検査で、第 Ⅱ部は 「親 の態度の良い点」をチェ ッ クす るための検査であった。本研究では第I部を使用 したため、 ここでは第 I部のみ を説 明す る。第 I部は、10の
領域 にわたって 「ほ とん どあてはま る(1点)」 か ら 「ほ とん どあ てはま らない(4点)」 の4件
法 で回答す る。10の領域 とは、5態
度10型
に分類 され る(Table4‐1‐1;116頁参照)。 それぞれ の型 について
8問
あ り、その問いの合計得点 を各型 で算 出す る。そ して、その得点 についてパーセ ンタイル換算表 を使用 して各合計得点が何パーセ ン タイル にな るかを調べ、その得点 を各型 の得点 とす る。この得点 においては、50パ
ーセ ン タイル以上は問題性 の少 ない「内ゾー ン」、20か
ら50パ
ーセ ンタイル はやや 問題性 のある「中間ゾー ン」、
20パ
ーセ ンタイル以下は問題性 の多い 「外 ゾー ン」 とされてい る。次 に、各態度各型 について説 明す る。「1.拒否的態度」 とは、親 が子 どもに対 して、愛情 の乏 しい場合、また愛情があって も子 どもが愛情 を拒否 され た と勘違い しやすい態度 であ る。 ここには、「①不満型」 と 「②非難型」の項 目が含 まれ る。「2.支配的態度」 とは、親 の考 え方 を子 どもに押 し付 け、強い統制力 と権力で子 どもを支配 しよ うとす る態度で、「③ 厳格型」 と「④期待型」の項 目が含 まれ る。「3.保護 的態度」 とは、子 どもに対 して世話 を や きす ぎた り、心配 しす ぎた りして、年齢以下の幼 い扱 いをす る親 の態度である。過保護 といわれ る親 は ここに該 当す ると考え られ る。 ここには、「⑤干渉型」 と「⑥心配型」の項 目が含 まれ る。「4。服従的態度」とは、支配的態度が大人本位 であるの と逆 に子 ども本位 で、
親 は子 どもの要求 に従い、子 どもに奉仕 し、 しつ けな どがで きな くなつて しま う親 の態度 で、「⑦溺愛型」 と 「③盲従型」の項 目が含 まれ る。「5。矛盾 的態度」 とは、親 の態度 が気 ま ぐれ で一貫性 がなかった り、また、父親 と母親 の扱 いや態度 にひ どく違 いがある とい う 親 の態度で、「⑨矛盾型」 と「⑩不一致型」の項 目が含 まれ る。なお各型 の詳細 については
Table 4‐1‐1に示 した。検査 の項 目は、例 えば 「子 どもに 口や かま しいほ うですか」 とか、
「子 どもの言い分 をよく通 してや るほ うですか」な どがある。本質問紙は
10の
型、各 8項 目で、合計
80項
目で構成 されていた。Table 40101。
TK式
幼児用親子 関係検査(品川・ 品川,1992)の5つ
の態度 と10の型.1。拒 否 的態度
①不満型
②非難型
子どもとしっくりいかない、子 どもに対して不満がある。ムシが好 かない、他 の兄弟と比べてかわいくない、無 関心、他のことにと らわれ て放つておく、相手にならないなどの親の態度である。
子どもをおどかしたり、悪くいつたり、体罰 やその他 の罰を与えた り、どなりつけたりするなどの親の子どもに対する荒つぱい非難 の態度である。
2.支 配 的 態度
③厳格型
④期待型
子 どもの気 持ちにかまわ ず 、一方的 に親 の考えている枠に押 し 込もうとし、それ から逃 げることを許さない。常に子どもを監督下 におき、厳 しい命 令と禁止でしばってしまう親 の態 度である。
子 どもに対して高い期待をかけ、子どもの能 力 や気持ちにかま わず親 の 希望する方 向へ引 つ張つていく親 の態度である。
3.保 護的態度
⑤干渉型
⑥心配型
子どもに失敗させないようにと、日うるさく指 図したり、すぐに手 を 貸 してやつた りして、こまごまと世話をやき、子 どもに責任をもた せて見 守つていることのできない親 の態度である。
子 どもの健 康、安 全、成績 、交友 関係などに、無意 味と思 われる ほど心配 をし、そのため 、むやみ と手をかけ保 護する親 の態度で ある。
4.服 従 的態度
⑦溺愛型
③盲従型
俗にいう、「ね こかわいがり」で見さかいなく甘やかす親の態度で ある。子どもを手放すことができなくて、子どもをそばに置き相 手 をすることにこの上ない喜 びを感じる。
子どものいいなりになり、召使のようにサービスする親の態度で ある。
⑨矛盾型 親 が感 情 の 自己統制 ができていないため、子 どもの 同じ行 動 に 対 して、ある時はひどく叱つたり禁止 したり、また、ある時は 見逃 したり奨 励したりす る親 の態 度である。
父親と母親 の子 どもに対する考 え方や態度 に大きな差が あり、
子 どもは矛 盾する両 者の扱いに混 乱する場 合。たいていは、子 どもの立場 を考えて混乱や戸 惑いの 生じないように両親 が話 し 合つて調 整するが 、このタイプの親 はそれが できない。両 親 間に 不和や 対立のある場合が多 い。
5.矛 盾的態度
⑩不一致型
図形描画課題
赤尾(2008)の図形描画課題 を実施 した。課題 の手続 き、指標 、測定方法 は、
研 究 1と 同様 であつた。
柏木(1988)の