地域活性化を進めるにあたり、地域における成長産業の創造は必須である。本章では、成長産業として農業を捉え、
地域金融機関が農業向け融資を推進して地域イノベーションに働きかける仕組みを作っている現状、農業と関連産業 がその仕組みのもとで振興されている現状、及びそれらをさらに進めるための条件を論じる。
はじめに農業向け融資を通じた地域イノベーションに関して、その研究意義、研究内容、先行研究を説明する。続 いてケーススタディとして鹿児島銀行が行っている農業向け融資の推進の内容を詳細に検討し、そこで得られた農業 および関連産業振興のプロセスをまとめる。これらをもとに地域内アクター間協力の分析視角をふまえ、地域金融機 関が農業向け融資にかかわる仕組み作りを通じて地域のアクター間協力を促し、地域イノベーションをはかる機能に ついて考察する。またこの機能を促進する条件についても説明する。この機能が十分に発揮されれば、知識のスピル オーバーが地域アクター間に生じ、地域金融機関はリスクを低下させて地域活性化や産業創造に資する役割を果たす 可能性を高めることができるという政策的含意を論じる。最後に本研究の限界と貢献を述べる。
8.1 はじめに
8.1.1 研究意義
農産漁村の所得拡大と地域活性化を目的として、地域の農林水産物を活用した取組みが各所でみられる。主な取組 みには、地産地消運動、農産物の高付加価値化、農商工連携、6次産業化などがある。6次産業化の構想には、6次 産業化ファンドも含まれる。
地域金融機関も農林水産業は成長分野だとみている。地域金融機関も国の主導する6次産業化ファンドに出資し、
独自の6次産業化ファンドを設定する例がみられる。また、地域金融機関が農業分野に融資を拡大する動きも見せて いる。
農業分野は地域金融機関にとってなじみの薄い分野であった。従来は日本政策金融公庫農林水産事業(もとの農林 漁業金融公庫)や農協などの専門金融が主流だった。商工業向け融資と異なり、農業向け金融は専門金融が中心に行
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っていたので、地域金融機関が農業分野に直接融資するのはむしろ例外であった。
今日では地域金融機関も農業向け融資を拡大している。その理由は3つある。1つ目は、農業が成長分野であると 地域金融機関がみていることである。2つ目は、商工業向け融資の減少に対して地域金融機関が代替的融資分野を発 掘する必要があることである。3つ目は、建設業向けの融資を段階的に減少させて融資構造を転換する必要があるこ とである。
今後成長が見込まれる農業分野に地域金融機関が積極的に関与することで、地域金融機関が農業の経済活動を一層 活発化させることが可能であると見込まれる。
農業向け融資を活発化させることで地域金融機関は地域活性化に貢献することができる。その際、地域金融機関に 必要な条件は何かを明らかにしなければならない。本章では、地域金融機関が農業向け融資を活発化させるための条 件を明らかにする。そのことには農業向け融資を通じて地域活性化を図るための社会的意義がある。
8.1.2 研究内容
本研究は、成長産業に対する融資を通じて地域活性化を図るときに必要な地域金融機関の条件を明らかにする。
成長産業の例として農業を取上げる。成長産業はもちろん農業に限るものではない。農業は成長産業のひとつとし て位置づけられるという意味である。
成長産業に対する金融として、農業関連融資を取り上げる。農業関連融資とは幅広い概念である。本章では農業関 連融資を、農産物の生産、加工、販売および地域の農産物を食することに関係する地域観光に焦点を絞る。
8.1.3 研究方法
先に述べたことを明らかにするため、本研究は、はじめに農業向け融資とそれに関連する領域の先行研究をサーベ イして検討すべき論点を明らかにし、それにそくしてケーススタディを行う。
研究方法として採用したものは量的調査及び質的調査である。量的調査では事例の属する産業と地域経済の状況を、
地域経済データ及び農業に関連したデータにそくして記述する。質的調査では、鹿児島県の地方銀行である「鹿児島 銀行」を取り上げ、各種の公表資料によって地域金融機関が地域産業の構造変化と地域活性化に果たす実態を記述す る。
8.2 先行研究
本研究は、地域金融機関が地域の産業構造に変化をもたらし、地域活性化を促すために必要な地域金融機関の条件 をさぐるものである。そのため、これに関連する先行研究の領域を、農業と地域イノベーションの関係、地域産業と 地域社会との関係、農業向け融資と地域金融機関との関係、地域活性化に関わる組織のマネジャーの領域に絞った。
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8.2.1 農業と地域イノベーションの関係
地域活性化を図るには地域におけるイノベーションが必要である。そこで農業も地域イノベーションに関わること が可能なのかが問題となる。この点を岡本(2012)は明快に説いた。すなわち、岡本(2012)は、地域産業が農林水産業 であっても、農林水産業における生産、その生産物の加工、さらには観光産業への波及や転換があれば、その地域は イノベーションを果たしていると指摘する。加えて、製造業、農林水産業、観光業に関わる幅広い人材のストック(「人 的資源集合」)が地域産業の競争力を左右するところ、人的資源集合が実は地域資源そのものであり、それゆえに人 的資源集合に変化が生じることを通じて地域産業の構造変化と地域活性化が図られるとする。
8.2.2 地域産業と地域社会との関係
地域産業と地域社会の相互関係が密接であるほど地域活性化の効果が大きいことを実証している研究が Lyson(2012)、Tolbert et al (2002)、Tolbert et al (1998)である。これによれば、所得レベルの高さ、所得不平等・貧困・失 業の低さは、地域経済の活発さと地域の人々による地域参加に関連している。地域経済はグローバル経済と異なり、
資本と生産が社会的にも経済的にも「場所に錨をおろした」(anchored to place)状態であることに特色があることを これらの研究は指摘する。場所とコミュニティに係る強い社会経済関係は、消費が地域社会で行われ、またそれによ って拡大した資本が地域社会に再投資されるメカニズムを通じて一層強化されると説かれる。
このことは、地域産業を持続可能なものとするためには、大消費地を目標とする営業体制を作るだけではなく、地 域社会との結びつきを深める必要があることを含意している。
8.2.3 農業向け融資と地域金融機関との関係
農業向け融資と地域金融機関の関係については、相当以前の見方と最近の見方の2つについて検討する。
まず、相当以前の見方をレビューする。いずれも農業専門金融機関の独自性や存在理由を説いている。
齋藤(1971)は、農業金融組織の独自性を4 点に要約している。それらは、「金融の担い手が政策的・人為的である こと」、「融資条件なり融資対象が政策によって与えられる」こと、「金融機関相互の間の競争関係がほとんど見られ ないこと」、「金融の全体構造の中で独自の閉鎖された領域を画していること」である(齋藤(1971)、p.21)。
加藤(1983)は、農業金融の特質を、「長期性」(農業生産の所要時間が長いので、資金回収期間も長くなる)、「危険 性」(天候などの自然的危険を非農業金融機関は過大に評価するゆえに農業金融機関の存在感が高まる)、「季節的繁 閑」(収穫時期にあわせて資金需要が集中する)、「地域的過不足」(農用地の分布が地理的に決まっているので、資金 需要も地理的に偏在し、または疎になる)、「団体貸付の大きな比重」(農業用の大規模共同利用施設を農家が共用す ることを背景として、大規模な一括投資のための資金需要がある)、「担保としての土地の重要性」(農業動産担保で はなく土地担保が多い)、「個々の零細性」(農家の経営規模は小さいので資金需要も小さい)、「全体としての大量性」
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(農家戸数は多いので農業融資総額は大きくなる)、「消費との結縁」(農業融資が農家の家計用消費資金として使わ れることがある)、「強い低金利に対する要求」(農業投資を活発にするために低金利が求められる)の10点に要約し ている(加藤(1983)、pp.67-78)。
相当以前の見方においては農業専門金融機関の存在理由が語られることがほとんどであり、地域金融機関がこの分 野で活動する余地はあまり語られていない。
次に最近の見方をレビューしたい。農業専門金融機関と地域金融機関の併存の可能性を説くものが多くなってきた。
泉田(2008)は、戦後の農業金融は競争の少ない閉鎖的なものだったとする。高度成長期以降は、「農家部門は全体 として巨大な黒字部門を形成し、その資金は主に農協系統組織を通じて農外に流出するが、他方で農業部門には長期 低利の政策的資金が流されている」(pp.4-5)ことがその背景にあるとする。それゆえに地域金融機関が農業分野にお いて貸出を伸ばす余地が少なかったと含意される。一方で、進行中の農業構造転換の側面にあっては、「小規模家族 経営農家と、相対的に大規模で多様な農業経営体との両方をにらみつつ」(p.16)農業金融を考えなければならない と指摘している。ここでは、小規模家族経営農家に対する金融は従来からの農協金融、相対的に大規模で多様な農業 経営体に対する金融は地域金融機関等というように、対象農業者の企業体としての性質におうじて金融機能が分担さ れる可能性を読み取ることができる。
森(2008)は、地域金融機関が農業融資に進出してきた理由を2点にわたり説明している。1点目は地域の公共工事 が減退し、これに関する資金需要が減少したことの代替策を模索する中で、地域金融機関は農業向け融資に着目して きたというものである。2点目は、農業自体が農業生産だけでなく、農産品の加工、販売にまでそのビジネスのスコ ープを拡大するにつれて、農業経営を一般的な中小企業経営と置き換えて理解することが可能となり、農業向け融資 が中小企業金融の一環として理解できるようになったというものである。
日暮(2008)は、地域金融機関による農業金融には内在的制約があると指摘する。地域金融機関は取引先を主力化し たい傾向があり、農業資金は、経営者としての資質を吟味してはじめて実行される可能性を指摘する。また、農業金 融には専門性が求められるところ、農業経営や農業経済に造詣の深い職員が転勤したり退職したりすると、農業金融 の積極性が失われる可能性を指摘している。特定の個人に農業金融のノウハウが集中するのではなく、地域金融機関 の組織全体で知識を共有することの重要性が含意される。
農業金融に関する先行研究からは、農業金融は独自の領域であり地域金融機関が関与できにくいと思われてきたこ とが、次第に、地域金融機関でも理解しやすい中小企業向け金融として位置づけできる可能性を見出すことができる。
8.2.4 地域活性化に関わる組織におけるマネジャー
地域活性化における人材の重要性は永く主張されてきた。いわゆる内発的発展論においては、地域の内部と外部を つなぎ、地域社会の新たな転換に重要な役割を果たす「キー・パーソン」の存在が指摘される(西川(2004)、p.37)。 一方、地域金融機関という組織による地域活性化を考える際にも、組織を動かして仕事を成し遂げるという意味にお