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地域イノベーションを検討する際に、地域のアクターがどのような組織を有しているのかに関する検討も重要であ る。組織においてイノベーションが生じるためには条件が必要である。イノベーションは外部からもたらされる知識 を組織内で共有し、定着させ、さらに発展させることによって生じやすくなる。組織内で知識共有を可能にする仕組 みは、組織の吸収能力(absorptive capacity)の問題として取り扱われてきた(Abreu(2011))。Abreu(2011)は、吸収能力と は、企業に勤める従業員の人的資本と教育研修、知識の共有と伝播を可能にする組織内部門のありかた、人事異動や 知識共有に関する経営者のスキル、企業におけるイノベーションをもたらすネットワークへのアクセスという点から みることができるとする。さらに、知識の多様性を高め、相互の機能を促進するような組織内部門のありかたが組織 全体の吸収能力を高めることにつながることと指摘している。
吸収能力に関する観点からみても、地域イノベーションの促進に際して、組織内部門のありかたを検討することは 重要である。そこで本章では、地域再生を進めるに際して地域金融機関において債務者の経営改善支援を企画立案し ている「審査部門」が経営改善支援を通じてどのように地域イノベーション創造に機能しているか、地域イノベーシ ョンを進めるに際して地域金融機関の審査部門の組織にはどのような条件が必要か、審査部門と営業部門(推進部門、
営業店)との関係はどのようなものであるかを検討する。
はじめに地域金融機関の審査部門という組織に関して、その研究意義、研究手法、先行研究を説明する。続いてケ ーススタディとして「きらやか銀行」の審査部門の組織を詳細に検討し、そこで得られた地域金融機関の組織機能の 条件をまとめる。これらをもとに、地域内アクター間協力の分析視角をふまえ、地域金融機関の審査部門と営業店の 組織間で協力が促され、地域イノベーションをすすめていく機能について考察する。またこの機能を促進する条件に ついても論じる。最後に本研究の貢献と限界を述べる。
第6章 地域金融機関の経営改善支援による地域再生-審査部門の組織機能の条件-
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6.1 はじめに
6.1.1 研究意義
地域金融機関は地域の中小企業者に対して経営改善支援を行っている22。それが地域再生や地域活性化に貢献す ると期待されている。問題はそのような貢献をすることができる地域金融機関の条件は何かということである。地域 金融機関は地域経済という営業基盤の上に成り立っている。地域経済が衰退する側面では同じように地域金融機関も 衰退してしまうリスクを抱えている。そのリスクを克服する方法は、地域経済を再生、活性化させることにある。
地域金融機関が地域経済を再生させる方法の一つが取引先の経営改善支援である。地域金融機関にはそうした貢献 をするための人材や情報がある。しかしそれらが十分に活用されていないがために取引先の経営改善支援がうまくい かないこともある。地域金融機関に賦存する人材や情報といった資源を活用することに制約があるのならば、その制 約が何であるかを明示し、その制約を克服する方策を提示する必要がある。
地域金融機関は地域再生、地域活性化や地域イノベーションに触媒として機能しうる(穂刈(2012)、p.103)。一方、
地域金融機関が地域再生、地域活性化の触媒として、あるいはRegional Innovation Organizerとして機能するべきだと 自ら判断するためには、経営改善支援を行っている「審査部門」という組織にどのような条件が備わっていればよい のかは、明らかではない。経営改善指導を企画し、統括している地域金融機関の審査部門にどのような条件が備わっ ていればよいのかを明らかにすることは、地域の中小企業者を再生させて地域再生を図り、また地域活性化を図る際 に重要である。地域金融機関の経営改善支援を活発化させて地域再生や地域活性化を図るためにも、本研究には社会 的意義があると考えられる。
6.1.2 研究内容
地域金融機関は地域の中小企業者に対して経営改善支援を行っている。これは先に定義した金融イノベーションの 一例である。ここで、中小企業者に対する経営改善支援がイノベーションでありうることを今一度説明したい。
今日では金融機関との連携を通じての中小企業に対する経営改善支援の仕組みはほぼ確立されてきているといえ る23。中小企業の再生と金融機関の役割、具体的再生手法や経営改善支援の仕組みの構築、中小企業再生支援協議 会の機能等の分野では相当な研究蓄積がなされてきた。従来では再生と言えば大手銀行による特定大口先への経営改 善支援が研究対象としてみられた(例えば、Hoshi and Kashyap(2001)、平野(2009))。今日では広く中小企業の再生が 対象となっている。
大手銀行が特定大口先を再生支援するだけでなく、地域金融機関が地域の中小企業に広く再生支援活動を行うに至 ったこと自体が大きな進歩であると捉えることができよう。そこで、このように経営改善支援がなぜ地域にまで広く 及んできたのかが問題となる。
ここで考えられる要因は、中小企業者に対する経営改善支援の仕組みが標準化され、外部経営資源の活用がしやす
第6章 地域金融機関の経営改善支援による地域再生-審査部門の組織機能の条件-
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くなったことが大きいと考えられる。このような標準化と外部経営資源の活用には、中小企業支援協議会による統一 的な経営改善支援モジュール、事業再生ファンドを使った財務調整手法、債権放棄に対する弾力的な運用、過剰債務 解消後のリファイナンススキームの共通な適用、類型的なモニタリング手法が地域金融機関に広まったということが できよう。このように経営改善支援手法がいわば使いやすく、かつ、広く知られる活動が継続されてきたことにより、
先に述べた標準化と外部経営資源の活用というイノベーションがもたらされてきたと考えられる。
このようにして中小企業者に対する経営改善支援がイノベーションでありうることをみた上で、なお、地域金融機 関が中小企業者の経営改善支援に取り組むにあたり、地域金融機関におけるどのような組織が経営改善支援を企画し、
統括しているのか、また、その組織がどのような条件を備えているのかを知ることは必要なことであろう。地域金融 機関による経営改善支援の実態は、地域金融機関ごとに濃淡がある。地域金融機関が金融イノベーションを地域の偏 りなく提供できれば、中小企業者は経営改善支援を地域の別なく均等に受けることができる。このためにも経営改善 支援を行う地域金融機関の組織的な条件を知ることには意味がある。
地域金融機関において経営改善支援を企画し、統括する組織は様々な名称で呼ばれている。本来的には「審査部」
と呼ばれる部署であるか、あるいはそこから派生した「経営支援部」などの部署がこれを行っている。本研究では地 域金融機関において経営改善支援を企画し、統括する組織を「審査部門」と呼び、そのうえで地域金融機関の審査部 門にどのような組織機能があればよいのか、また、どのような組織機能が地域活性化に結びつく条件なのかを明らか にする。
6.1.3 研究方法
先に述べた研究内容を調べるため、本研究でははじめに先行研究サーベイによって検討すべき論点を見出し、それ にそくしてケーススタディを行う。
分析にあたり用いる手法は、量的調査及び質的調査である。量的調査では、金融庁の公表データにより、地域金融 機関を取り巻くマクロ経済環境を記述する。
質的調査では、地域金融機関審査部門の業務内容を「金融名鑑」を用いて調べ、地域金融機関の審査業務の実態を 記述する。また、きらやか銀行を事例として取り上げ、各種の公表資料によってその実態を記述する。
6.2 先行研究
本研究は、地域金融機関審査部門とはどのような組織であり、それがどのように経営改善支援という金融イノベー ションを進め、また、何が知識や文化の学習を組織内に浸透させているかを調べるものである。そこで、先行研究を 3つの領域に絞り込んだ。それは、①イノベーションを促進する組織のあり方、②銀行審査部門の機能、③創造的組
織のdriving force(組織の創造性を生み出す規範的秩序)の3領域である。以下ではこれら3つの領域の議論を踏ま
え、先行研究のサーベイを通じて検討すべき論点を明らかにする。