これまでの論旨をもとに本章では地域活性化における地域金融機関の役割を論じる。また、地域イノベーションを 進めるために地域金融機関を活用することに関する政策提言を行う。
9.1 地域活性化における地域金融機関の役割
9.1.1 制度の変化と地域金融機関の機能の変化の関係
1 地域内での資金循環
地域内アクターに対する円滑な資金供給が地域金融機関に求められてきた。地域内アクターに対する円滑な資金供 給のためには、地域の資金黒字主体から地域の資金赤字主体への資金循環が前提となる。このことは、地域の資金黒 字主体から地域外への資金赤字主体への資産変換をできるだけ生じさせないようにすることを意味する。地元の預金 を国債投資に振り向け、中央資本の企業に貸し付け、インターバンク市場に資金を放出するなどの活動を地域金融機 関は行うことがあるが、地域内資金循環の観点からはこの活動は小さいほうが望ましい。このことを過去の実績を踏 まえて議論したい。そこで、地域金融機関は地域で調達した預金等の資金を地域の事業者に対する貸出金などの形で 運用する資産変換機能を有しているという理論が、現実にどのようなものであるかを概観する。このことを金融機関 の預貸率と預証率の推移を通じてみてみよう。
第9章 地域活性化における地域金融機関の役割と政策提言
183
図9-1 業態別預貸率推移 (出所:各種公表資料をもとに筆者作成)
図9-2 業態別預証率推移 (出所:各種公表資料をもとに筆者作成)
2003年3月から2013年3月にかけての預貸率推移と預証率推移をみると、大手銀行の動きが特徴的である。地域 金融機関のうち地方銀行と第二地方銀行は、預貸率が上がれば預証率は下がり、預貸率が下がれば預証率が上がる関 係を見ることができる。信用金庫や信用組合はおおむね預貸率が下がり続ける傾向にあり、一方預証率は上がり続け る傾向にある。このことは、地域金融機関が地域で調達した資金を地域の資産に必ずしも十分に変換していない可能 性を示している。特に信用金庫と信用組合ではその可能性が高いと推察される。
したがって地域金融機関が資産変換機能を十分に果たし、結果的に貸出資産の伸びによって自らの収益力を高める 点からも、地域金融機関が地域で貸出を伸ばすようなインセンティブをもつことのできる施策の具体化が重要である。
50.0%
55.0%
60.0%
65.0%
70.0%
75.0%
80.0%
85.0%
90.0%
預貸率推移
大手銀行 地方銀行 第二地方銀行 信用金庫 信用組合
10.0%
20.0%
30.0%
40.0%
50.0%
60.0%
預証率推移
大手銀行 地方銀行 第二地方銀行 信用金庫 信用組合
第9章 地域活性化における地域金融機関の役割と政策提言
184
そのためには、地域における産業創造が必要であり、地域金融機関は産業創造を図るためにも機能しなければならな いという必要性を改めて確認することができる。
2 経営改善機能強化への変化
もしも地域金融機関が自由に業務を行うことができたとするならば、地域で集めた預金を貸出や有価証券以外の形 式で運用することができ、その結果、地域の経済活動を活発化させることができたのかもしれない。例えば、地域の 消費を多様化させて経済活動を活発化させるため、地域金融機関が預金を原資にして百貨店を経営することができた かもしれない。しかし、「銀行が百貨店を経営するとかゴルフ場を経営することは・・・認められない」(小山(2004)、
p.117)。銀行を規制する制度の問題として不可能なのである。見方によっては、銀行の業務の多様性を阻害している
から、銀行は経済活動を活発化させることができなかったのではないかとの見解もありえたかもしれない。
それではなぜ銀行には業務の規制があるのかが問題となる。本研究は地域金融機関に関するものであるところ、銀 行の規制という問題の立て方は地域金融機関に適用できるという意味において有効であることから、このまま論を進 める(信用金庫及び信用組合を規制する法規は銀行法を準用している)。
その理由は3つある。1つ目は、銀行は固有業務(預金等の受入れ、貸付、為替取引)と付随業務(固有業務に密 接に関連していて、その程度が固有業務を超えない営業。例えば投資目的での有価証券の運用)のみに専念すること で、「与信、受信の両面において社会的意義と経済的機能を発揮する」(小山(2004)、p.119)ことである。2つ目は、
銀行に固有業務または付随業務以外の業務を許すと固有業務や付随業務が影響を受け、「預金者等の資産や取引者の 安全を害する」(小山(2004)、p.119)可能性を生じることである。3つ目は、他の会社の発行する株式を5%以上保有 するならば、「金融の産業支配」(木下(1999)、p.27)の可能性が生じることである。
このようにして地域金融機関は地域で集めた資金を地域の貸出で運用できなければ、その余資を有価証券で運用す ることが多くなる。このような制度設計のゆえに、地域での貸出の低下は有価証券の運用増加に結びつく。したがっ てこのような制度を前提とするならば、地域での貸出を増やすことが調達した預金の運用には必要であり、そのため にも地域での産業創造や地域活性化の活動は地域金融機関にとって重要な問題である。
なお、銀行が固有業務以外の営業ができるか、できるとすればどのような範囲でできるのかは、国によって異なる。
例えば銀行業務と証券業務については、米国のように厳しく分離されていたケースも、ドイツのように併営が認めら れていたケースもみられた。さらに固有業務の中でもさらに専門的な金融に特化することに特色があったケースもみ られた(全国銀行協会金融調査部(2007))。今日ではこれらの境界はかつてほど明確ではなくなってきている。
また、銀行の設立と営業が特定の地域に限定されるかどうかの制度設計は国によって異なる。
このように長いあいだ銀行は固有業務を中心にした業務に専念するように制度設計されてきたが、一方で経済活性 化のためには資金の取り手と資金の出し手の両方の関係において対応が必要であるとの認識が広まってきた。このこ とは産業の活性化と産業金融の機能強化の両面での対応として議論されてきた。
第9章 地域活性化における地域金融機関の役割と政策提言
185
国の政策としてこのことが明確に表れてきたのは、産業金融機能強化関係閣僚等による会合(2003)、『経済活性化 のための産業金融機能強化策』にみられる。ここにおいては特に地方経済の活性化を意識した表現をみることができ る。資金の取り手の対応として、「産業サイドにおいて、収益力・財務基盤の強化に取り組み、中小企業や地域産業 の活力を増進する施策に万全を尽くす」とされた。それを実現するため、「事業再生・産業再編や企業の活性化の促 進、企業自らの経営・財務状況やリスクの的確な把握、リレーションシップバンキングにおける中小企業に対する経 営支援機能の強化、産業金融を担う(地域金融などの分野における)人材の充実」が掲げられた。資金の出し手の対 応として、「産業金融の担い手、産業金融の手法、リスクへの対応、政策支援対象」の各領域における多様化が方向 づけられた。それを実現するため、「ファンドによる資金仲介機能の拡充、中小企業金融の手法の多様化、中堅企業 への支援の拡充、不動産担保によらない担保制度の整備と人的保証の適正化、リレーションシップバンキングにおけ る新しい中小企業金融への取組み、企業経営者の再起の促進」等が掲げられた。
このような制度の流れからみると、地域金融機関が固有業務等に専念するだけにとどまらず、ファンドを活用し、
経営改善支援業務に注力し、地域の産業構造を再編し、創業支援を活発化させるなど、次第に機能を拡充してきたの は、国の政策にそってここ10年の間に急速に展開してきたものであるということができよう63。地域イノベーショ ンシステムの議論において、国の政策が地域イノベーションシステムに影響を与えていることが指摘されてきた。以 上述べてきたことは、地域イノベーションシステムにおいて議論されてきたことと整合的である。
3 地域イノベーションシステムにおけるサブシステムとしての地域金融機関
地域イノベーションシステムにおいて金融はサブシステムの一つに位置付けられる。地域イノベーションシステム は、企業、大学、研究所、金融機関などの様々なアクターが近接して相互に影響を及ぼしあいながらイノベーション を地域全体で進めていく制度である。個別アクターが独自にイノベーションを進めるよりも、外部性が発現すること によって全体としてみれば収穫逓増現象を起こすものと期待される。また、地域は政策に影響されながら、他の地域 やナショナルなイノベーションシステム、グローバルなイノベーションシステムという外部環境と接する。地域外の システムと接するとき、地域内で不足している経営資源を地域内に搬入することができる。地域イノベーションシス テム論において明らかになったこととは、地域金融機関は地域イノベーションを起こすためのサブシステムとして機 能する可能性があることである。
9.1.2 地域再生と地域活性化の側面における地域金融機関の役割の変化
地域再生と地域活性化の側面において地域金融機関が地域発展に対してどのような役割を有しているかを検討し よう。その要旨は、地域再生と地域活性化の2つの側面において、これらは相互に影響しあっているということであ る。そのことを各側面における変化の点からみてみる。模式図として表すと、下記のとおりとなる。