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農作物への放射性核種の移行の起こり方

第3章 環境の放射能汚染

3.3. 農業環境

3.3.4. 長期間に渡る農業への影響

3.3.4.4. 農作物への放射性核種の移行の起こり方

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訳注36:農水省のホームページ(訳注21)に出ているのは重量移行係数であるのに対し、この報告 書では使われているのは面移行係数なので、混同されないように。

訳注37:競合イオンは競合元素と同じく、放射性核種と化学的性質が似ていて、汚染の際に一方が 増えればもう一方が減る関係にあるもの。

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図3.24.: 穀類やジャガイモに取り込まれた137Cs濃度の15年間の推移。縦軸の単位は濃度(Bq/kg)。

測定は放射能汚染地域であるロシア、ブリャンスク州(Bryansk)。[文献 3.55より引用]【ブリャン スク市は原発の北東約400 kmに当たる。】

図3.25.: 土壌から穀類への137Csの面移行係数Tagの推移。【18年間の測定データに、破線に対応する 事故前のデータを18年目・20年目の予測値として加えた。縦軸の単位は10-3 m2/kg。】2つの曲線は 土壌(測定地、いずれもロシア)の違い。曲線1(実線)はブリャンスク州(Bryansk)の砂質土壌 ならびにローム砂質土壌。曲線2(破線)はトゥーラ州(Tula)とオリョール州(Orel)の大陸型黒 土(chernozem soil)。[文献 3.56より引用]

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図3.26.: 土壌から雑草への137Csの面移行係数Tag(干し草換算)の17年間の推移。【縦軸の単位は10-3 m2/kg。】2つの曲線は土壌(測定地、いずれもロシア)の違い。曲線1【実線】はブリャンスク州

(Bryansk)の砂質土壌ならびにローム砂質土壌。曲線2【破線】はトゥーラ州(Tula)とオリョー

ル州(Orel)の大陸型黒土(chernozem)。[文献 3.56より引用]

図3.27.: 土壌から雑草への90Srの面移行係数Tag【干し草換算】の17年間の推移。測定土壌はチェル

ノブイリ30km圏立入禁止区域(CEZ)のポドゾル風の土壌(soddy podzolic soil)。[文献 3.39より引 用] 【縦軸の単位は 10-3 m2/kg。】

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なお、(A)と特に(B)を一般化するのは危険である。というのも、初めの4~6年間を超えると137Cs をほとんど取り込んでいないデータも存在し、観測の期間中では土壌からの取り込みが減らないこ とを示しているからである。さらに、観測期間を超えるような半減期を予想することは非常に不確 実性が高い。一方、事故後長年に渡って実施された放射能対策で、農作物中の放射セシウムの濃度 が減り生物学的半減期を変化させる可能性がある。

植物への90Srの取り込みの効率【移行係数】は、放射性セシウムほどには急に減少していない。

チェルノブイリ原発に近い地域では、燃料粒子が【土壌の酸化効果で】徐々に分解し、内部の90Sr が土壌に出て行って次第に取り込みし易くなった。それに伴い、植物による90Srの取り込みも年々 増えている(図3.27参照)[3.39]。

原発から数百キロ離れた地域では、90Srは凝縮した形で沈着し、燃料粒子起源の90Srは量としては 少ない。それゆえ、この地域での植物による90Srの取り込みの効率【移行係数】は、放射性セシウ ムの移行係数と同様に長期減衰を見せたが、それでも、その減衰速度は全く違う(図3.28参照)。こ の違いは、土壌内での、これらの2つの元素の移動メカニズムの違いから来ていると思われる。ス トロンチウムと土壌との結合は、セシウムと土壌との結合ほどには土壌の粘土含有量に左右されな い(表3.5参照)。そればかりでなく、より一般的に、土壌から植物への90Srの移行係数は、放射性セ シウムの移行係数ほどには土壌の特性に依存しないとまで言える[3.37]。植物への90Srの移行係数が 時間と共にどう減って行ったか図3.28に例示する[3.56]。

図3.28.: 土壌から雑草(曲線1)や牛乳(曲線2と3)への90Srの面移行係数Tag【干し草換算】の17 年間の推移。曲線1と2はロシア、ブリャンスク州(Bryansk)の砂質土壌ならびにローム砂質土壌。

曲線3はロシア、トゥーラ州(Tula)とオリョール州(Orel)の大陸型黒土(chernozem)。[文献 3.56 より引用] 【縦軸の単位は10-3 m2/kg。】

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訳注38:落葉層には無機カリウムが少ないので、取り込み量だけでなく取り込みの効率(移行係数)

も高くなる。

訳注39:自成土とは土壌形成の際に関わってくる水分の殆どが降水によるもので、半水成土とは、

土壌形成の際に関わってくる水分が降水だけでなく地下水表層水からも供給されるもの。後者の 典型的な例が三角州土壌。

訳注40:ここで出されている大陸型黒土(chernozem soil)は、冷帯地方の肥沃な中性腐植土のこと で、日本の黒土と違うものの、肥沃という点では変わらない。

訳注41:事故後のデータから得た面移行係数の減衰曲線を20年目付近にまで延ばすと、事故前の値 と同じ水準になっているので、このような立て替えが可能。

訳注42:既に述べられているように、カリウムのような競合元素の増減や、燃料粒子の腐食に伴う 放射性核種の土壌への移動、放射性核種と土壌分子との化学結合・イオン結合の変化など。