• 検索結果がありません。

課題認識の整理

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 148-151)

第 6 章 市街地更新に伴う課題抽出と新たな社会制度の構築に関する考察

6.6 新たな社会制度設計に向けた考察(その 2)

6.6.1 課題認識の整理

防災上危険な木造密集市街地は、都市防災上の重要な課題の一つとして捉えられ、土地区画整 理事業、街路事業等の公共事業を通じて、その改善を進められているが、その進捗は2009度末 時点で約38%であり、目標達成は厳しい見通しである12。改善が進まない原因は、全国的な課 題である財政問題とともに、即地的な課題として、「①建物:建詰まり、老朽化、空き家、権利 が輻輳」、「②道路:狭隘道路のみ、接道条件に合致せず建替ができない」、「③生活環境:高齢化、

現状志向、まちの活力の衰退」等が指摘されている13

福岡市には、緊急に対策を実施すべき木造密集市街地が17地区約301.7ha存在する14)。これら は、広幅員道路に囲まれた複数の街区から構成されたもので、個々に連担するものではない。そ のため、対策は、東京都区部等の木造密集市街地で実施されている延焼危険性の解消というより もむしろ、街区内での道路閉塞の解消が求められる。このことは、第4章で示した福岡市民への アンケート調査結果(図4‐4)からも改善の必要性が伺える。

* 「4.2.2 (1)④ 大地震の際に心配なこと」の抜粋

『「大地震の際に心配なこと」では、世論調査と同様に「火災の発生」「建物の倒壊」が 高い割合を占めた。しかし、本調査では、「火災の発生」よりも「建物の倒壊」の値が 高く、福岡市の特性と考えられる。』

福岡市での対策は、緊急性の高い地区から街路事業や土地区画整理事業等が実施されているが、

全国的な傾向と同様、福岡市でも、木造密集市街地の解消には至っていない。既存制度による対 策のみでは限界が到達している状況にある。また、第5章で明らかにしたとおり、福岡市の木造 密集市街地の中には、老朽建築物の除却が進み建物更新により震災対策上の改善が進む地区があ

144

る一方で、自然更新がなされず老朽建築物が放置され、道路閉塞等の危険性が更に深刻化してい る地区が存在している。

* 「5.4 要約」の抜粋

福岡市の木造密集市街地は、現況及び改善見通しを勘案すると、老朽建築物が放置され 防災上危険な状態となり低密度化の促進が必要な地区(クラスター1)、更地化や建物の 建替えや堅牢化が進み震災対策上の改善が進む地区(クラスター4)が存在する。また、

今後の宅地需要や経済状況次第で、今後の動向について前記のいずれかを想定しなければ ならい地区(クラスター2、3)が存在する。

以上を整理すると、福岡市の木造密集市街地対策では、個々の防災性の確保、街区内の道路閉 塞の解消のための耐震改修の促進、さらには避難路・避難地等からなる避難ネットワークの形成 のための細街路の拡幅や防災広場・公園等の整備が必要であり、地区の状況や市街地更新からみ た当地区の行政としての政策的な位置づけ、つまり、「撤退する」又は「防災性を確保のうえ機 能更新を進める」等の位置づけに基づき、行政等の公的主体の関与のレベルを高めた新たな社会 制度の導入が必要と考えられる。

これら課題を踏まえ、着眼すべき事項を以下に示す。

(1)行政施策の発想転換

これまでの行政施策は、将来的展望による解決策と短期的課題(喫緊の課題)の解決と間の矛 盾により、双方の施策遂行の障害になる傾向があった。しかし、昨今では、その矛盾を許容する 動きが散見されるようになった。例えば、墨田区では、これまでは、耐震融資には一定レベル以 上の性能への改編を義務付けていたが、建物倒壊による被害の深刻さ及び対策実施の緊急性を踏 まえ、簡易の耐震改修という暫定的な効用を許容し、その取組に対し助成している15

今後の施策の基本的な方向性として、施策を短期・中長期別の目標設定を設けて実施すること が必要と考えられる。そのためには、短期的な効用も許容する姿勢が重要となる。つまり、その 間の矛盾は、効率的運営を阻害しない範囲で許容すべきと考えられる。

2)事業協力者に対するインセンティブの付与

事業促進においては、権利制限等を課すことが想定される。また、事業用地として、行政等の 公的主体による用地取得等を円滑に進める必要もある。そのため、事業協力者に対して、インセ

145 ンティブを検討することが重要である。

福岡市での密集市街地の防災性確保のための喫緊の課題は耐震改修であり、その促進に関連し たインセンティブとして耐震改修に要する費用の助成金交付を検討する。

不動産資産と融資に関する類似の既存制度に、リバース・モーゲージ(Reverse mortgage) がある。リバース・モーゲージとは、自宅を担保とした金融商品の一つであり、自宅を保有する が現金が少ないという高齢者世帯が自宅を手放さずに資金調達を行うための手段とされている。

現在は、主として、個人に対する福祉政策の一環とした融資制度として利活用されている16。 これを、防災施策への協力に対するインセンティブ付与の考え方、つまり、具体的には権利制限 等の受忍に対するインセンティブ付与の考え方に援用し導入する。また、防災施策への協力とい う前提から、融資対象を耐震改修に限定する。

(3)事業促進及び円滑なコモンズ導入のための地域力の活用

考察を進める社会制度は、10~15年にわたる中長期間を想定しているため、個人の防災意識 の醸成や日常的な地域の管理やまちづくり検討等、地域力の活用が重要である。その担い手は、

町内会や自治会組織と考えられることから、その活用を前提とする。また、対象地区又は対象地 区に存する用地の管理へのコモンズ導入に関しても、地域との関連が不可分であることからも、

基礎組織としての自治会組織に着目する。

福岡市の場合は、自治会区をどのように設定するかは地域に委ねられているが、実態はおおむ ね1~2ha程度が1単位となっている17

一方、木造密集市街地はおおむね1ha以上の規模で、骨格道路等を境界とした住宅街区レベル を最小単単位として形成されており、設定された自治会区と同範囲であることが想定される。

6.5では、個々の敷地を対象としたが、ここでは、当初から特定の区域を想定し、行政等の公 的主体が集中的に施策を導入することを想定する。

146

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 148-151)